アーメンブレイク(Amen Break)とは『Amen, Brother』の曲中におけるドラムソロの通称である。
また、それを元にしたブレイクビーツの通称でもある。
概要
アーメンブレイクはおそらく世界で最も有名であり、最も多くの曲にサンプリングされたドラムソロである。元になったのはThe Winstonsというバンドが1969年に出した『Color Him Father』というレコード。そのB面に収録された『Amen, Brother』という曲である。(B面なのにAmenとは一体)同曲のブレイク部分(演奏がいったん止まる部分のこと)のドラムソロなので、アーメンブレイクと呼ばれる。
ドラムを叩いているのはグレゴリー・C・コールマン(Gregory C. Coleman)で、約6~7秒ほどのたった4小節のリズムフレーズである。1小節目の1拍目にはホーンやベースの音が入っているため、実際には2小節目以降がサンプリングされている。
原曲自体はファンク・ソウルに分類されるが、後述するようにジャンルを問わず様々な曲にサンプリングされ親しまれている。
歴史
このドラムソロがサンプリングとして使われるようになったのは、1980年代にヒップホップの楽曲でされたことがきっかけである。このときはドラムパターンをそのまま、再生速度を変えたりして使われていた。ヒップホップは基本的に原曲よりもテンポが遅く、再生速度を落としたものがほとんどである。
1990年代に入り、サンプリングしたドラムパターンを細かいフレーズに分解し再構成する、「ブレイクビーツ」と呼ばれる音楽技法が確立されることによってさらに広まることになる。ジャングル、ドラムンベースといった音楽はこのブレイクビーツによって育まれ、音楽シーンの盛り上がりと同時にアーメンブレイクも広まっていくこととなった。この年代は高速なテンポの楽曲が多く、80年代とは対照的に再生速度を上げて使われることが主流だったが、フィルターなどで音が大きく加工されるようになったのもこの年代以降の特徴である。
1990年代後半以降に盛り上がりを見せる「ハードコア」という音楽にもアーメンブレイクは取り込まれ、ブレイクコアというジャンルを生み出した。このようにアーメンブレイクは様々なジャンルに重宝されながら、これらの音楽を育ててきたと言っても過言ではないだろう。
その他にもこれらに限らず様々なジャンルの曲にサンプリングされたりしてるので、アーメンブレイクという名前は知らなくても、ドラムの音に聴き覚えがあるという方も多いのではないだろうか。
音楽制作の場においては、VSTプラグインやサンプルパックなどにアーメンブレイクが含まれていたりして原曲が直接サンプリングされる機会は減ったが、今日も世界のどこかでアーメンブレイクが使用された楽曲が制作されているだろう。
著作権問題
世界的に有名なこのフレーズ、実は原曲の制作者に無断でサンプリングが行われていたが、特に問題とはならなかった。当時、まだ著作権という概念が世に浸透していなかったためである。仮に当時が今くらい敏感な社会だったとしたら、今のように世界的に有名にはなることはなかったかもしれない。
なおバンドのサックス奏者であり、この曲の作曲者であるリチャード・L・スペンサー(Richard Lewis Spencer)はロイヤリティを一切受け取っていない。著作権に関する法律が整備される以前にサンプリングされた曲が多く提訴の期限も過ぎていたため、「アーメンブレイク」の存在を知った1996年には泣き寝入りせざるを得なかった。彼はこうした事実に対し明確な憤りを露わにしている。
またこの伝説的なドラムブレイクを叩いた張本人であり2006年に逝去したグレゴリー・C・コールマンもロイヤリティを受け取っておらず、晩年は極度の貧困によりホームレス状態であったという。
こうした事実を知ったイギリスのとあるDJがクラウドファンディングを指導し、リチャード・L・スペンサーへの寄付を呼びかけ、2万4千ポンドもの小切手が無事届けられた。
アーメンブレイクの代表曲
- "I Desire" / Salt-N-Pepa (1986年、ヒップホップ)
- "Straight Outta Compton" / N.W.A (1988年、ヒップホップ)
- "Casualties Of War" / Eric B. & Rakim (1992年、ヒップホップ)
- "Atlantis (I Need You)" / LTJ Bukem (1993年、ジャングル・ドラムンベース)
- "Super Sharp Shooter" / DJ Zinc (1995年、ジャングル・ドラムンベース)
- "Mindfields" / The Prodigy (1997年、テクノ・ビッグビート)
- "Whitelabel Unity" / Shitmat (2009年、ブレイクコア)
「アーメンブレイク」タグについて
前述のようにオリジナルのドラムソロを使用したものがアーメンブレイクと呼ばれるものだが、ニコニコ動画においてはそれを使わない動画にも「アーメンブレイク」タグが付与されることがある。
アーメンブレイクのドラムパターンがあまりにも有名なため、同じパターンを別の楽器で演奏した場合でも、精通したものであればそれをアーメンブレイクと認識できるのである。具体的な例については関連動画を参照されたい。
その他
音楽ゲームであるBEMANIシリーズに「KHAMEN BREAK」という楽曲が収録されたが、曲名はアーメンブレイクをもじったものと思われる。ただし当該楽曲ではアーメンブレイク自体は使われていない。
関連動画
この記事を読むより実際に聴いた方が早いと思う
アーメンブレイクの解説(英語)
アーメンブレイクを用いた楽曲
ヒップホップ
ジャングル・ドラムンベース
ブレイクコア
ニコニコ動画におけるアーメンブレイク
関連項目
関連リンク
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