デアリングハート(Daring Heart)とは、2002年生まれの日本の競走馬。栃栗毛の牝馬。
変則二冠馬ラインクラフトの前に3戦続けて涙を呑み、夭折したライバルへの餞のように重賞3勝を挙げた2005年クラシック世代牝馬戦線の名バイプレイヤーにして、孫世代で同期ライバルの血も継いだ無敗の三冠牝馬を送り出した名牝。
主な勝ち鞍
2006年:クイーンステークス(GⅢ)、府中牝馬ステークス(GⅢ)
2007年:府中牝馬ステークス(GⅢ)
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この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するキャラクターについては 「デアリングハート(ウマ娘)」を参照してください。 |
父*サンデーサイレンス、母*デアリングダンジグ、母父Danzigという血統。
父は説明不要、母父ダンジグも自身は重賞未出走ながらNorthern Dancer産駒でトップクラスの成功を収めた世界的大種牡馬。
母は自身こそ未出走だが、半姉にアメリカのGI3勝馬Banker's Ladyがいるなかなかの良血であり、輸入前の産駒(デアリングハートの半兄)としてアメリカのGI馬Ecton Parkを送り出していた。
SS×Danzigの配合は短距離の名牝ビリーヴや未完の大器タガノテイオー、重賞3勝のミレニアムバイオなどが出ており、総じてなかなかの良血馬と言える。ちなみに母がNearcticの3×3持ちというのはビリーヴと一緒。
2002年3月9日、千歳市の社台ファームで誕生。そのまま一口馬主クラブの社台レースホースの所有となり、1口85万円×40口(=3400万円)で募集された。
馬体重は現役生活を通してほぼ420kg前後という小柄な馬であった。
社台サラブレッドクラブのページによると、馬名の由来は「「勇敢な心」の意。母の名前の一部をとって命名。厳しいレースに立ち向かうには、なにものをも恐れない勇敢さが必要だ。」とのこと。
栗東・藤原英昭厩舎に入厩したデアリングハートは、2004年10月9日、雨の京都競馬場、芝1400mの新馬戦で武幸四郎を鞍上にデビュー。この新馬戦は2着に敗れたが、続く10月30日、芝1600mの未勝利戦にて先行抜け出しで2馬身半差の快勝を飾る。
続いて向かったのは2歳女王決定戦、阪神ジュベナイルフィリーズ(GⅠ)。と言ってもこの時点では単なる1勝馬のデアリングハートは特に注目されておらず、36.6倍の11番人気だった。このとき単勝1.5倍の圧倒的1番人気に支持されていたのは、ファンタジーSを4馬身差で圧勝してきたラインクラフトである。
外の7枠14番だったデアリングハートは、内の2枠3番だったラインクラフトを外からマークするように中団のほぼ同じ位置でレースを進め、直線でも大外を回してラインクラフトを追いかけたが、ショウナンパントル・アンブロワーズ・ラインクラフトの3頭横並びの接戦には届かず5着(ラインクラフトは3着)。
明けて3歳、引き続き武幸四郎と桜花賞を目指すデアリングハートだが、紅梅S(OP)は3着、エルフィンS(OP)は後の秋華賞馬エアメサイアの6着と敗れる。
優先出走権を目指してフィリーズレビュー(GⅡ)に乗りこんだが、ここで再びラインクラフトと顔合わせ。さらに前走敗れたエアメサイアと、白梅賞でそのエアメサイアに勝っているディアデラノビアという強力なメンバーが顔を揃えており、オッズは完全にこの3頭の三強対決。デアリングハートは28.4倍の7番人気だった。
だが、好位先行でレースを進めたデアリングハートは直線抜け出し、そのまま押し切りを図る。後ろのエアメサイアとディアデラノビアの追撃を振り切り――と思いきや、大外から猛然と追い込んできたラインクラフトにアタマ差かわされ惜しくも2着。
ともあれ優先出走権を確保したので桜花賞(GⅠ)へ。1番人気は3連勝でフラワーCを圧勝してきたシーザリオ。ラインクラフト、エアメサイアがそれに続き、阪神JF2着のアンブロワーズ、チューリップ賞勝ち馬エイシンテンダーあたりも人気を集める中、ミルコ・デムーロに乗り替わったデアリングハートは前走2着もそれほど評価はされず、20倍ジャストの10番人気だった。
レースはスタートから押し気味に前に出て、逃げるモンローブロンドとテイエムチュラサンを離れた3番手という絶好のポジションで追走。テイエムチュラサンが先に力尽きるとそれをかわし、直線残り300mを過ぎたところで逃げるモンローブロンドを捕まえ先頭へ。だが、そこへ襲いかかってきたのが、デアリングハートの後ろにぴったりついてきていたラインクラフト! 残り200mで並ばれ、2頭での必死の追い比べとなり、さらに後ろから猛然とシーザリオが追い込んできて、最後はラインクラフトに競り負け、シーザリオにもかわされて無念の3着。
続いて距離を鑑みてか、オークスではなくNHKマイルカップ(GⅠ)へ向かったデアリングハート。鞍上は新たに後藤浩輝を迎えたが、やっぱり36.6倍の10番人気という低評価だった。そしてここにもヤツがいた。そう、またしてもラインクラフトである。実は桜花賞出走馬が次走でNHKマイルカップに向かったのはこの2頭が史上初であった。
隣同士の枠から並んでスタートしたデアリングハートとラインクラフト。今回はラインクラフトが4番手の前目につけ、デアリングハートがそれを外でマークする位置でレースを進める。
道が分かれたのは4コーナー。福永祐一ラインクラフトは最内へと突っ込み、その外を走っていた後藤浩輝デアリングハートは先行集団をかわすべく外に持ち出す。そして直線、前の3頭を内ラチ沿いから一気に抜き去るラインクラフトと、外からかわすデアリングハート。先に抜け出したラインクラフトを、デアリングハートは猛然と追いかける。追いかけるが――どれだけ追っても差が縮まらない。
結局そのまま、1と3/4馬身差という着差以上の決定的な完敗で2着。3戦続けてラインクラフトの前に涙を呑むことになり、"最強の1勝馬"というありがたくない異名を奉られることとなった。
さらに、ここからデアリングハートは苦戦が続く。1番人気に支持されたクイーンS(GⅢ)を4着に敗れると、秋華賞(GⅠ)ではラインクラフトとエアメサイアに次ぐ3番人気に支持されたが、ラインクラフト1.8倍、エアメサイア2.5倍に対してなんと20.6倍。桜花賞と変わらんやんけ! そしてレースでは2強の激闘のはるか後ろで12着撃沈。
やっぱり2000mは長かったか、と1400mのスワンS(GⅡ)に向かったが、松永幹夫が騎乗したここも重馬場に脚を取られて見せ場なく15着。半年休んで明けて4歳、4月の阪神牝馬S(GⅡ)でデムーロを鞍上に復帰するも、またも12着と大敗する。
1400mだと短いこともはっきりしたデアリングハートは、この年から新設されたヴィクトリアマイル(GⅠ)へ向かった。鞍上には新たに藤田伸二を迎え(以降は引退まで藤田が主戦となる)、82.9倍の11番人気とやっぱり低評価。まあこの凡走ぶりではしょうがない。
外目の枠から抜群の好スタートを切り、ハナを譲って好位の4番手でレースを進め、直線でもいい手応えで前に迫ったが、同じ社台RHのダンスインザムードにあっさり置いて行かれてしまい6着。ここまでの凡走ぶりからすると充分好走と言ってよく、9着に沈んだラインクラフトに7度目の対決で初めて先着したが……これがライバルとの最後の戦いとなってしまった。
ともあれ、続くエプソムC(GⅢ)も4着と復調気配を見せたデアリングハートは、8月13日、昨年敗れたクイーンS(GⅢ)へと乗りこんだ。3番人気に支持されたデアリングハートと藤田伸二のコンビは、1コーナーで先行集団がごった返す中で落ち着いて好位を確保。縦長の展開で外に出すと、持ったままで4コーナーで先頭に立ち、余裕の手応えのままヤマニンシュクルを完封、嬉しい重賞初制覇を飾った。4歳以上の1勝馬が重賞を勝ったのは90年以降ではアズマサンダース、シックスセンスに次いで3頭目だったとか。
北海道を知り尽くした藤田の好騎乗で復活を果たしたデアリングハート。秋の目標は距離を鑑みてエリザベス女王杯ではなくマイルCSに定め、おそらく出てくるであろうラインクラフトに今度こそ正面からのリベンジを誓った。
……だが。
その6日後、8月19日。舞い込んだのは信じがたい悲報だった。
ラインクラフト、放牧先で急性心不全により急死。
最大のライバルを失ったデアリングハートは、後藤浩輝とのコンビで府中牝馬S(GⅢ)に参戦した。重賞3戦連続3着中の同期ディアデラノビアに次ぐ2番人気に支持されたデアリングハートは、得意の好位先行から、4番人気サンレイジャスパー、そしてディアデラノビアとの追い比べをクビ差制し、鮮やかに重賞連勝。亡きライバルに弔いの勝利を捧げた。
さて、鞍上も藤田に戻って重賞連勝で乗りこんだマイルCS(GⅠ)だったが、見せ場なく13着。良馬場発表だったが小雨でやや緩んだ馬場に手こずったようだった。先述した通りデアリングハートは420kg前後の小柄な牝馬。どうしてもパワーでは牡馬に敵わず、道悪は不得手であった。
5ヶ月休み、明けて5歳はダービー卿CT(GⅢ)で復帰し6着。そしてヴィクトリアマイル(JpnⅠ)に乗りこんだ。このときの人気馬は昨年の二冠牝馬カワカミプリンセスに、GⅠ3勝のスイープトウショウ、そして昨年の牝馬三冠全て1番人気だったアドマイヤキッスといった面々。デアリングハートは32.6倍の8番人気といういつも通りの人気薄だった。
しかしレースは逃げたアサヒライジングの緩みのないペースによって後方の人気勢が伸びあぐねる前残りの展開。大外枠から6番手でレースを進めたデアリングハートは、直線で内目に潜り込むようにして逃げ粘るアサヒライジングを追いかける。しかしさらに内のギリギリを攻めた12番人気コイウタに振り切られ、アサヒライジングも追い込み切れず惜しくも3着。12番人気→9番人気→8番人気での決着となり、3連単は228万3960円の大荒れ決着となった。
続くエプソムC(GⅢ)は他馬にぶつけられる不利を受けて9着。連覇を目指したクイーンS(GⅢ)も伸びあぐねて7着に敗れ、さすがにそろそろ厳しいか……と思われたが、府中牝馬S(GⅢ)では4番手の好位先行から、残り300mで前を行くアサヒライジングをあっさりとかわし、1と3/4馬身差をつける完勝で見事に連覇達成。藤田騎手も「今まで一番強い競馬ができたからね」と讃える好内容で重賞3勝目を挙げる。
そして秋の大目標として今度はエリザベス女王杯(GⅠ)に挑んだが、二冠牝馬ダイワスカーレットの後ろでブービー12着撃沈。やっぱり2200mは長すぎたようである。
さて、社台RHの馬なので6歳3月で引退となるデアリングハートは、来年のヴィクトリアマイルにはもう挑めない。となるともう目標レースがないので、あとは愛知杯か京都牝馬Sあたり使って引退か……と思いきや、なんと陣営はここで思わぬ道を示した。2月のフェブラリーSをラストランとするダート挑戦である。いやいやいや、小柄でパワーに劣るデアリングハートにダートはいくらなんでも……。
ところがどっこい、初ダートのクイーン賞(JpnⅢ)でデアリングハートは52kgの3歳馬ホワイトメロディーに4馬身半突き放されたものの、古豪メイショウバトラーに次ぐ3着に好走するのである。
明けて6歳、トップハンデ57kgを背負ったTCK女王盃(JpnⅢ)でも54kgの大井・ラピッドオレンジに1馬身差の2着に好走。そして引退レースのフェブラリーS(GⅠ)では好スタートから果敢に2番手で先行、直線で一度は逃げるヴィクトリーをかわして先頭に躍り出る。残り300mでヴァーミリアンらに捕まったものの、7着に粘り込み、ダートでも重賞勝てたんじゃないの?という謎の二刀流ぶりを見せて現役を引退した。
通算26戦4勝 [4-4-4-14]。同期のラインクラフトは天国のターフへ駆けていき、シーザリオとエアメサイアも故障で早期引退となってしまう中、ディアデラノビアとともにクラブの引退期限いっぱいまで活躍を続けた。ディアデラノビアともどもGⅠには届かなかったが、この世代の牝馬戦線を語る上では決して外すことのできない名バイプレイヤーであった。
引退後は故郷の社台ファームで繁殖入り。8頭の仔を産んだが、残念ながら今のところ直仔から目立った産駒は出ておらず、2022年限りで繁殖を引退。引退後もどうやら引き続き社台ファームで繋養されているようだ。
しかし、デアリングハートの物語はまだそれだけでは終わらない。
1戦0勝で引退した初仔のデアリングバードは、引退後故郷の社台ファームではなく、繁殖牝馬セールに出されて、日高の長谷川牧場という家族経営の小さな牧場に買われていった。
日高の小さな牧場らしく初年度はサウスヴィグラスをつけられていたそのデアリングバードが、2年目のお相手として2016年につけられたのが、シーザリオを母に持つ新種牡馬のエピファネイアであった。
この2頭の間に産まれた牝馬は、2020年、世界がコロナ禍に揺れる中、史上初の無敗牝馬三冠という偉業を為し遂げ、競馬史にその名を刻み込んだ。そう、デアリングタクトである。
現役中に夭折し、仔を残せなかったラインクラフト。彼女と鎬を削ったシーザリオは歴史的名繁殖牝馬として3頭のGⅠ馬を送り出し、その仔がライバルのデアリングハートの仔と配合されて無敗三冠牝馬を産む。これもまた、競馬という血統の織りなすひとつのドラマであろう。
2005年の競馬をリアルタイムで見ていた競馬ファンなら、シーザリオとデアリングハートの孫ということからデアリングタクトを応援していた人も多かったのではないだろうか。
2023年にデアリングタクトは引退、繁殖入り。シーザリオの3頭の息子たちもまだまだ種牡馬としてバリバリであり、2005年クラシック世代の牝馬たちの物語は、まだまだこれからも、血統という形で続いていく。
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo 1969 黒鹿毛 |
Hail to Reason | Turn-to |
Nothirdchance | |||
Cosmah | Cosmic Bomb | ||
Almahmoud | |||
Wishing Well 1975 鹿毛 |
Understanding | Promised Land | |
Pretty Ways | |||
Mountain Flower | Montparnasse | ||
Edelweiss | |||
*デアリングダンジグ 1990 鹿毛 FNo.1-l |
Danzig 1977 鹿毛 |
Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | |||
Pas de Nom | Admiral's Voyage | ||
Petitioner | |||
Impetuous Gal 1975 鹿毛 |
Briartic | Nearctic | |
Sweet Lady Briar | |||
Impetuous Lady | Hasty Road | ||
Escocesa |
クロス:Nearctic 4×4(12.50%)、Almahmoud 4×5(9.38%)
掲示板
提供: nightknight
提供: ACL
提供: ゲスト
提供: JJ
提供: 草アイドル大好き
急上昇ワード改
最終更新:2025/03/30(日) 20:00
最終更新:2025/03/30(日) 20:00
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