10式戦車 単語


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ヒトマルシキセンシャ

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10式戦車(TK-X)とは、日本国の最新主力戦車(MBT)である。

読み方は「ひとまるしきせんしゃ」であり、「じゅうしきせんしゃ」ではないので注意。 
2010年6月、正式採用が決定。報道機関に公開された。

2012年には富士総合火力演習でもお目見えし、走りながら射撃し命中させる「エクストリーム流鏑馬」の術を披露して見事「変態戦車」の異名を頂戴することになった。

※(2010年4月に政府資料に10式戦車の表記が使われたことを受け、本記事名および記事内での呼称もTK-Xから10式戦車に変更。掲示板での呼び方も順次替わっております。ご注意ください。ソースは文中の橋通行率について記述しているリンク先の文章です)

10式戦車とは?

  • 74式戦車の後継として平成22年度より配備される新型戦車です。ゲリコマ対策も考えられています。
  • 世界を見渡しても屈指の性能を有していると思われます。また日本の国情にあわせたサイズと重量です。
  • 調達価格は9.7億円。ただし導入当初価格ですので今後安くなる(7億程度)と考えられています。

より詳しい説明をお望みの方は以下の文章をお読みください。

より詳しい説明

数の上では90式戦車よりも多い74式戦車の後継として90年代よりTK-X(次世代戦車)開発が行われることになった。

現状で漏れ伝わる内容から、現行の90式戦車と同等レベル以上の戦闘能力を持ちつつ、東西冷戦、および湾岸戦争以後の新しい役割をもとめられている戦車として開発されていると考えられる。

2008年3月に初めて公開された10式戦車(TK-X)の特徴は以下の通りである。

国産120mm滑腔砲を装備しつつ重量を現行の74式戦車と同じ40t台。サイズも90式戦車より若干小さい

各国の戦車が50t~60tオーバーの重厚長大なものになっていくのに対して、現行の90式戦車以上のサイズ、重量の車輌では国内の運用が難しい点と、北海道以外は74式戦車を主に運用している都合上、戦車輸送時に使用するトランスポーターの73式特大型セミトレーラーなどの既存装備を極力生かす形でなおかつ運用に支障が生じない形として求められたと思われる。

外装式モジュラー装甲をはずしたTK-Xは40tという重さで、74式戦車と同様に73式特大型セミトレーラーにそのまま乗せることが出来る。これは90式戦車が73式特大型セミトレーラーで輸送させる場合は車体と砲塔を取り外さなければ移動できなかったことを鑑みれば大きな利点である。

ちなみに下記の防衛省の資料によると、全国主要国道にある橋(17,920箇所)のうち10式戦車(TK-X)が通過できる箇所は84%ときわめて高く、90式戦車の65%、アメリカの主力戦車M1など60t級では40%程度という数値に比べるとどれだけ全国での運用に注意を払ったかがうかがい知れる。
参考資料:防衛生産・技術基盤 平成22年4月 防衛庁(PDF)(P9を参照)

国産120mm滑腔砲については長らくTRDI(およびダイキン工業)が研究開発を続けていた火砲研究成果が盛り込まれていると思われ、90式戦車に搭載されたラインメタル社製120mmより軽量・高威力化されていると思われるが内容はまだ明らかになっていない。
予算執行事前審査等調書 (平成22年度第3四半期) P97~98に専用砲弾の記載あり)

装甲の一部を外装式モジュラー装甲としている

90式戦車が複合素材による装甲を内装式モジュラー装甲としていたのと異なり、TK-Xでは外装式モジュラー装甲を選択しているのが特徴である。モジュラー装甲とは入替えが出来る装甲のことで、装甲の入替えにより防御力の強化を図ることが出来る形である。外装式モジュラー装甲を導入することで装甲の取り外し、損害時のすばやい交換が出来るだけでなく、装甲の改良も比較的容易になっている。ちなみに公開されたTK-Xの装甲状態で44t。重装甲化することも出来るといわれ、その場合は48tになるといわれているが定かではない。但し装備年鑑、一般公開などでは一貫して44tと公称されており、防衛省や陸上自衛隊から「48t」と明言したことはない。

当初からC4I機能や各種センサを組み込んだ形として設計した

第3.5世代以降の戦車に求められるデータリンクを当初から踏まえた形として作られているとされる(C4I及びデータリンクについては後述)。特徴的なのは砲塔四隅に設置されたセンサ。これはいままでの戦車に見られない取り付け方法で360度全周に対応している。おそらく戦車やミサイルが照準をつける際に発するレーザーを察知するための対レーザーセンサ、対戦車ミサイル、ロケット弾を感知するセンサ、熱源などを感知する複数のセンサが あると思われるが定かではない。また車内にいながらにして全周情報が取得できるという話もある。

パワーパック(エンジン)のトランスミッションに無段階変速機能を取り入れた。
またアクティブ・サスペンションもあわせて搭載

パワーパックが2サイクルV10エンジン+オートマチック変速機から4サイクルV8エンジン+無段変速機にわざわざ変えたのはパワーパックの高効率化によって1馬力あたりの排気量を減らし、排気ガス中の赤外線を減らすことで相手に探知されにくくするため、と推測されている。
また防衛省技術研究本部(TRDI)の発表では、スプロケット出力では現有戦車に比べて格段に向上という文言がある。これは、エンジン出力を効率的に起動輪(スプロケット)に伝達できるという意味で、90式戦車に比べると格段の進歩を遂げたと解釈していいだろう。

同時に120mm滑腔砲を運用するためには、嘗ては50t以上の車体でなければ発射時の反動を抑えられないといわれていたが、TK-Xはアクティブ・サスペンションによって反動を能動的に抑えており、すでに公開された映像ではモジュラー装甲無しの状態(40t?)で、90式戦車による発射時よりも素早く 反動を抑えている。

さらに衝撃を和らげる役割を果たす転輪が90式戦車より一つ少ない5輪にもかかわらず不整地走行では90式戦車と同様あるいはそれ以上に車体の上下動が少ないなど、アクティブ・サスペンションの効果は大きいと思われる。実際、これらの高性能変態駆動系等により、10式戦車は後進機動でも70km/hを発揮可能であり、運動性も前進時同様に高いレベルを維持しながら後退することさえ出来る。

まとめ

以上の点を踏まえると10式戦車(TK-X)は「性能は既存MBTと同等、あるいはそれ以上に。かつ最大20t近く軽量化する」という従来にない野心的かつ欲張りなコンセプトで作られつつある戦車といえるだろう。
しかしTK-Xが世界初の「第四世代(G4)」戦車になるかは諸外国の戦車開発がスローペースであることなどを踏まえるとまだ確かではない。

国産主力戦車の比較

74式戦車 90式戦車 10式戦車
重量 約38 t 約50 t 約44 t(装甲付)
主砲 51口径105mmライフル砲 44口径120mm滑腔砲 44口径120mm滑腔砲
(90式戦車より高威力)
装甲 流線装甲 複合装甲(内装式モジュラー装甲)

複合装甲(外装式モジュラー装甲)

エンジン 空冷エンジン 水冷エンジン 水冷エンジン
最高速度 53 km/h 70 km/h 70 km/h
馬力 720 ps / 2200 rpm 1500 ps / 2400 rpm 1200 ps / 2300 rpm
懸架方式 油気圧式 ハイブリッド式 油気圧式(能動型)
乗員 4名 3名 3名
C4I × ×
コスト 3.5~4億円 8~9億円 7億円(予定)

新規国産MBT開発理由

現在、日本を除く自国で独力で戦車を開発できる9カ国(アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、イスラエル、中国、韓国…インドは除く)においてはMBTの改良、あるいは新規開発が進められている。

アメリカ、ドイツなどでは新規開発ではなく既存車輌の改良という方法が選択されている。これにより湾岸戦争やイラク戦争などの戦訓を踏まえてC4I機能の強化、市街地 戦闘の対応、RPGなど携帯式対戦車兵器対策のための側面への増加装甲など各種の改良計画を行い、第3.5世代ともいえる形へ対応している。(また統一ドイツ誕生により余剰化したレオパルド2を配備した周辺各国も同様に増加装甲などの強化を行っている)
改良を選択した理由の一つに更新対象車輌数が多いことがあり、これを全面的に乗り換えるには予算や規模の面で問題があるためでもある。
これは90式戦車がそうだったように戦車だけではなくそれに 付随するさまざまな装備を置き換える必要で、それらの費用を考えると(新規開発ではなく改良で済ませるデメリットを考えても)既存戦車の改良でとどめておくという理由もある。また欧州では戦争の可能性が少なくなりつつあるなど社会情勢の変化もあることを頭にいれる必要もあるだろう。反対にアジアでは諸外国の軍拡スピードが上がっているという側面もあることを忘れてはいけない。

ただし現用戦車の改良となると、C4I機能を追加するにしても既存の操作+αでは搭乗員の負担が重くなる。あるいは全ての操作系や装甲を更新するには改良費がかさむ原因となるのはいうまでもない。M1戦車がM1A2SEPに改造する際に、部品単位、シャーシまで分解してから再度組み立てるということを行っている映像もあるので、あそこまでやると改造とかそういうレベルではないような気もしないでもない。
また、対戦車ミサイル、ロケット弾に対応するための増加装甲をつけた場合、車重が重くなるためエンジン、トランスミッション・サスペンションに負担がかかって速力が落ちる、燃費が悪くなるケース、はたまた整備に負担がかかり稼働率が落ちるケースもある。

90式戦車の50tのサイズが事実上国内で運用するギリギリのサイズと重さである以上、何かを付け加えるような改良は基本的に難しく、また予算的にも新規開発より経費がかかる。また数の上では一世代前の74式戦車が最も多い日本では74式戦車を改良したところで105mm砲では現有戦車を超えることは難しいし、寿命(耐用年数)も短い。あまり知られていないが74式戦車もわずか数両、74式戦車G型として改造を受けたものの、費用対効果に見合わないとされて元に戻されている事例もある。

またこれとは逆にイスラエル、韓国、中国では新型戦車の導入・開発が行われている(ロシアはつい先頃、開発を中止したが)。この点は国情(国内、周辺各国との問題などなど)があるためでもある。
特に中国は精力的に従来までのロシア系車両技術から旧西側諸国の技術を取り入れ、98式、99(G)式、そして現在0910工程と呼ばれる車両を開発中でもある。

防衛省の判断は、日本国内の地理的条件に踏まえ、なおかつ当初からC4I機能や各種センサを必要十分に組み込んだ新型戦車を開発したほうが、耐用年数も長く運用できるという目算があったためであろう。
また、ほぼ20年おきでも新規車両を開発していかないと、国内の戦車開発能力の人材が維持できないという面もある。これは戦車に限らず兵器開発全てに通じることである。兵器開発は、最早一種の伝統職であるといえる。

ついでに書くと、自衛隊にとって最大の敵対勢力かもしれない財務省などによって日本の戦車数はただでさえ少ない950両からさらに600両に数を減らされた。その上、更なる防衛大綱の変更により400両に削減される。数の少なさを性能によって補わざるをえないという現実も書いておかねばならない。また、“動的防衛”を重視する新防衛大綱によれば、今後さらに削減されていくと思われる。
結局は「数こそが物を言う」ので、削減にも限度がある。ちなみにお隣の韓国は戦車数2300両。台湾でも1830両である。圧倒的ではないか相手の軍は。

予定価格で7億。つい先頃の資料では導入時初期調達価格でおよそ9億となっており、このまま行けば順調に導入価格は落ちていくと思われる。90式戦車の場合は、11億円から現在の9億円に下がっていった。さりながら当初、5年で58台調達を一括契約で行う予定が、「政権交代」で単年度契約とされ、些かコストは上昇気味である。AH-64D導入の二の舞にならなければいいが…

公式に比較としてあげられている比較として、米M1A2(C4I導入改修型):10~12億程度(非公開のため予想価格)、仏ルクレール:10億と言われている。

特にルクレールは装甲の構造など、共通点が多いため、よく引き合いに出される。

C4I

指揮(Command)、統制(Control)、通信(Communications)、コンピュータ(Computers)、情報(Intelligence)の頭文字を取ったもので、部隊間の連携をより高め指揮をより高次元で行うためのシステムの総称である。最近ではInteroperability(相互運用性)がついてC4I2、あるいは監視(Surveillance)と偵察(Reconnaissance)が追加されてC4ISRとも呼ばれることがある。

C4Iのネットワーク機能を組み込んだ戦車の筆頭にM1A2SEPがあげられる。従来のM1A2に拡張パッケージを追加する形でC4Iを実現している。とはいえ従来の操縦+電子機器の操作は搭乗員や兵装に負担をかける場合がある。望ましいのは設計当初からC4Iネットワークに組み込むことだが、これを行っているのはフランスのルクレールしかない。これに続くのが10式戦車(TK-X)で、これによるメリットははかりしれない。
従来までの戦車の意思伝達方法としては基本的には音声通信、あるいは簡単な敵味方識別情報等の信号等であったものが、相互にネットワーク化され様々な情報が自動的にやり取りされることになる。

例えば山の稜線を超えた先にいる敵勢力の情報を上空を飛ぶスカウトヘリやUAVが察知するとその情報が自動的に手元のモニタに表示(データ・リンク)されることで戦場の把握を簡単にしたり、複数戦車が情報を連携することで戦闘機動をたくみに行ったり射撃を容易にする。といったことも可能になる。
それまで一両単位で戦ってきた戦車が、いきなりチームプレイが可能になるのだ。この恩恵は計り知れないものになるだろう。

ただ、こういったシステムは戦車間だけで成立するわけではなく、部隊レベル、連隊レベル、師団レベル、と規模を大きくさせたC4Iネットワークの構築が必要となる。
陸上自衛隊においては、基幹連隊指揮統制システム(ReCs)が前線部隊のネットワーク・指揮統制を行い、その上位システムとして師団通信システム(DICS)、方面隊規模として方面隊電子交換システム(AESS)が存在する。最終的には特科部隊向けのネットワークもこれに組み込まれていく形とされている。またDICS、AESSの次世代通信システムの開発を進められている。
現在、陸上自衛隊北部方面隊第2師団(旭川)がこのReCsを導入しC4Iネットワークのテスト中とのこと。

FAQ(良くある質問) 

「重量が軽くなったってことは、装甲とか薄くなったから防御力は落ちてるんじゃないの?」

90式戦車に使用されている複合装甲で使われる複合素材(鋼・セラミックなどの異なる素材を組み合わせたもの)に関する技術は長足の進歩を遂げており、同一の防御力を満たす装甲を作るのに、当時と同じ材質を使っても70%。新型理論と素材を使えば30%(!)までの軽量化を果たせるという説もあります。

昔と違って、重い=装甲が厚いという図式は成り立たちません。軍事評論家でさえも、これを理解できていないのが多いです。

またエンジン・燃料タンクなどの小型化により、車両サイズそのものの縮小も進んでいます。
すなわち、車輌表面積が少なくなるということなので、守らなくてはならない箇所が減り、少ない装甲でも効率的に防御が可能になっているということです。

さらに、防衛省の公式見解では「砲塔上面の軽量装甲ですら自己鍛造弾に耐えうる」といいます。最近流行の携行型トップアタック兵器にもある程度以上耐えられるということを示唆しているといえるでしょう。

ちなみに、公開された10式戦車の上面のハッチの厚みが薄いことから「装甲が薄い」と書いた軍事評論家もいますが、公開車輌はあくまで試作車輌ですので、長短所に関わらず、公開映像だけで判断するのは妥当ではありません。
二重ハッチ型の「空間装甲」という可能性もあります。

90式戦車が今でもTVで公開されてもハッチの厚みをモザイクなどでぼかしているのにTK-Xはあっさりと公開している理由とか考えると、何かウラがあるようにも見えます。

「韓国で新しく開発されたK-2(XK-2)はERA(爆発反応装甲)とか、対戦車ロケット弾防衛システムがあるけど、TK-Xはどうしてないの?」

ERAも対戦車ロケット弾防衛システムも破片を周囲に撒き散らす物騒なシロモノなので、戦車の近くに非装甲車輌や歩兵を置く事ができません。
ちゃんとした複合素材による装甲やセンサを開発できれば、そもそも必要ないともいえます。

また、ERAが有効なのは主にHEAT(化学エネルギー系)が被弾した場合、あるいは対戦車ロケット弾が被弾した場合で、戦車用徹甲弾APFSDSのような運動エネルギー系の弾にあまり有効的ではありません(二層式にするなどの方法はある)。
もっぱら最近の対戦車ロケット弾はこういうケースに対応するため、タンデム弾頭(炸薬を二重化してERAを無効化する)などの方法が取られているので、防御する上でERAは確実的な方法ではなくなっています。

防衛システムのアクティブ型センサは電波を放射してロケット弾の接近を察知しますが、言い換えれば電波を垂れ流すということであり、これを陸軍関係者はあまり好まないケースもあるようです。

今後の技術発展でピンポイントで防衛できるシステムが開発できればベストではありますが、一長一短の様相が強すぎて、現時点では10式戦車には必要ないと判断されたということでしょう。時期尚早と考えている旧西側諸国の判断も、ここに立脚しています。

「K-2(XK-2)もレオパルド2A6も55口径120mmなのに10式戦車はどうして従来通り44口径120mmなの?」

大砲の威力を増加させる方法は、
口径(砲弾の直径)を大きくする >> 口径長を長くする >> 砲弾そのものを重くする、装薬を改良する
の順に効果的です。

最初の『口径(砲弾の直径)を大きくする』という方法については現行の120mmという砲弾サイズが人力で装填するぎりぎりのサイズとも言われ、これ以上の口径増加は自動装填装置を組み込まないかぎり分割装薬とか発射速度の低下など色々と面倒を引き起こします。一時期ロシアの新型戦車(T-95・オブィエークト195)が一説には口径が152mm、135mmあるいは125mmとも言われているが計画中止により結局実用化には至りませんでした。

次の『口径長を長くする』という方法は砲身の長さを伸ばすという意味で、たとえば55口径(L55)の場合、120mm×55=6600mmとなり、44口径の5280mmよりも1m30cm長くなります。砲弾がより砲身を長く通過するため砲弾の速度、つまり砲弾の運動エネルギーが増加し、射程距離の延長、装甲貫徹力の増加などのメリットが生じます。しかし砲身が長くなると、砲弾そのものが砲身内部で振動するバロッティングと呼ばれる現象が発生しがちで、これが発生すると命中率の低下などを起こすだけではなくAPFSDSだと着弾時に弾芯破壊が起きて装甲貫徹能力の低下を及ぼすなどのケースもあるようです。

ちなみにアメリカの実射実験ではあまり射程距離も伸びず、中距離では一般に命中精度も落ちるという報告もあるとか。また砲身が長くなると車両部分より砲身が長くなるため移動時など色々と運用が取り回ししずらくなることや、砲身そのものが熱などで歪んだり(90式戦車などはその歪みを検知するセンサもあります)、砲身寿命が短いといったデメリットもあります。ルクレール(ルクレルク)が52口径という間をとったような口径長なのも色々理由がありそうです。

最後の『砲弾そのものを重くする、装薬を改良する』という方法は地味で効果も限定的なものですが、デメリットも少ない方法と言えます。砲弾を重くするのは劣化ウラン弾が使われる理由の一つなので、ここではもう一つの装薬を改良することについて簡単に。

装薬とは薬莢内にある火薬で、これが燃焼して発生するガスの圧力が、砲弾が飛びだすためのエネルギーとなります。当然発生したガスの圧力が強ければ強いほどいいし、装薬が燃焼する場所だけではなくエネルギーを効果的に砲弾に伝える薬室と呼ばれる場所の設計を見直したりする必要があるほど。10式戦車で自衛隊が選択したのはこの方法で、90式戦車の主砲がラインメタル社製ライセンス生産だったのが今回一部ライセンス部品を使いながらも国内生産に踏み切ったのはこのせいなのでしょう。

話によると10式戦車用に開発された120mm主砲弾は90式戦車では使えないそうです。恐らくは装薬燃焼速度の向上、装薬充填量の増大など、既存のラインメタル120mm滑腔砲の薬室や砲身では、耐え切れない可能性があるのでしょう。なお、試作徹甲弾Ⅲ型を原型とした「10式120ミリ装弾筒付翼安定徹甲弾」は、一説によれば90式が用いてきたドイツのライセンス品。JM33を基準として3割以上の貫通力増大が見込めるとか。

そもそもサイズと重さを74式戦車程度に抑えたいのにそんなの使えません。ただし10式戦車は発展余力を残して一応は55口径も必要になれば乗せられる作りにはしているようです。

「なんで今更戦車の新規開発? 戦車が必要になる状況なんてオシマイじゃないか? それなら装輪装甲車でも作っていたほうがいいんじゃない?」

戦車の必要意義(抑止効果)は90式戦車の項目でも触れています、ここでは違う観点から説明します。

戦車が必要な状況とは何も対戦車戦闘というだけではありません。イラク戦争でもあったように、従来不適とされていた市街地戦闘でもその装甲とセンサー類、強力な火器で歩兵の壁になったり、支援を行ったりと様々な場面で使用することが出来ることが知られています。アメリカがM1TUSKを準備しているのは実績と必要性のあってのこと。

このような場合でも無論対戦車ロケットなどの歩兵携行火器による攻撃に晒される可能性はありますが、10式戦車は最初からその状況に対応するべく外装式モジュラー装甲、全周警戒用のセンサーを備えているので撃破は容易ではありません。つまりは戦車+随伴歩兵の組み合わせなど兵器と兵器は組み合わせることでより強力な存在となります。要するに何事もバランスと組み合わせが肝心ということです。

昨今はやりの装輪装甲車も使えないわけではありません。しかし対戦車ロケットに耐えうる装甲ではないのも事実です。イラク戦争に参加したストライカー装甲車がRPG-7対策などで周囲を金網で囲うという、まるでベトナムの河川舟艇で行われたかごとくの涙ぐましい努力対策をしている実例を見れば、戦車を撤廃して装輪装甲車で済むわけではないのはわかるはずです。

現にカナダ軍は戦車撤廃・装輪装甲車配備という方針を撤回。アフガニスタンでの戦闘のためにレオパルド2を持ち込んだのを考えると、戦車の用途は変化したとはいえ不要ではないということも理解できるのではないでしょうか。各国が戦車を数を減らしつつも維持しているのは、そういった理由に基づいています。

有事の際、真っ先に矢面に立たされるのは、やはり航空自衛隊や海上自衛隊であり、それらを突破した敵航空兵力の前に、陸上兵器である戦車が無力である事に変わりはない。しかし、航空及び海上兵力は、固定された港や空港、防空レーダー施設がなければ何の役にも立たない、という事を忘れてはならない。近年、暴力団事務所から対装甲火器であるRPG-7が押収された事件が報道されている。これらの重火器は当然、国外の犯罪組織や、某国の工作員によって持ち込まれたとしか考えられない。つまり、既に国内に展開しているであろう敵性工作員は、同様の対装甲火器や、携帯型対空ミサイル、軽迫撃砲などの重火器を持ち込んでいると予想すべきである。これらの火器で武装したゲリラコマンドは、有事の際密かに展開し、航空及び海上自衛隊の基地に対し、施設の外から嫌がらせのように迫撃砲弾を打ち込むであろうし、離着陸中低空を飛行する航空自衛隊の航空機が対空ミサイルで狙われる危険性もある。海上自衛隊の基地が最悪、ゲリラコマンドによって制圧される事にでもなれば、いかに高性能な護衛艦とて補給を得られずに、単なる巨大なヨットと化してしまうだろう。敵性ゲリラコマンドに対し、海上及び航空自衛隊の施設を防衛するのは、他でもない陸上自衛隊であり、その陸上自衛隊の装備に、効果的な火力と強固な装甲を有す戦車がない、という事になれば、即ち防衛体制における致命的な欠陥としか考えられない。強力な防空能力を有する支援攻撃機は当然必要だ。だが航空兵器によって、自国の人口密集地に展開したゲリラコマンドに対し、最終的決着をつける事ができるだろうか?強力な防空監視レーダーと高精度の迎撃ミサイルを搭載したイージス艦は、海上防衛の要となるだろう。だが海上に展開した護衛艦が、日本国内に侵入した敵性ゲリラを無力化できるだろうか?敵性地上兵力を完全に制圧し、無力化する為には、(核兵器でも使わない限り)最終的歩兵戦は不可避であり、その陸上兵力にとって戦車がいかに重要であるかは、既に歴史が証明している。

以下、簡単に説明する。

日本に戦車がない

国内に展開した敵性ゲリラコマンド(既に侵入しているのは公然の事実である)を制圧できない

航空自衛隊や海上自衛隊の施設が、ゲリラコマンドの破壊工作によって、十分に機能しない

敵勢力の上陸を許す、また、最悪自衛隊のこれらの施設が敵に奪取されかねない

つまり、海上、航空兵力だけあれば島国を防衛できる、という考えは、ゲームの中でしか通用しないのである。

余談であるが、陸上自衛隊の拠点である「駐屯地」という言葉は、英語で「Camp」と言う意味であり、「基地」を意味する「base」とは、その目的に差異がある。陸上兵力は固定された「基地」を持たず、あらゆる状況に対応すべく移動可能な「駐屯地」を拠点としている。全ての陸上兵力は「滑走路」も「港」も必要としない「自己完結能力」を有している。例えば戦車部隊であれば、最悪整備工場が制圧されてしまっても、街中のガソリンスタンドで給油可能だし、町工場でも整備、展開可能である。これは航空戦力や海上戦力には到底真似できない柔軟性である。

「FAQ読んでると10式戦車がまるでチート戦車みたい。大体記述が日本より過ぎじゃないの?」

ですよねー。ま、日本で使う兵器を日本が開発するんですから日本に都合が良くないとおかしいのですが。
いや、冗談はさておき現時点ではチート級な能力だと考えてもいいでしょう。

理由はいろいろあるのですが、ここ20年来、戦車を開発していた列強各国(アメリカ、ロシア(ソ連)、ドイツ、イギリス、フランス)の国々の新規戦車開発が中断されたり停止していたり、既存戦車の改良で茶を濁しているんですよ。何しろ冷戦時代に製造した台数も多いですしね。

10式戦車は90年代から2000年代の戦車戦訓を取り入れた上に、日本国内での運用を考え最適化をおこない、それまでの戦車が装甲強化、攻撃力強化で重厚長大化する中、新素材・新技術を持ち込み真逆に軽量化への道を選択しました。これが成功するのか否か、非常に興味深いといえましょう。
(一方で、この判断を受けたせいかはわかりませんが、中国が現在開発中という最新式車両0910工程は従来の重厚長大な路線を転換、軽量化へ舵を向けた…という話もあるぐらいです)
また、アメリカ軍もM1A2の当初重量から現行の60tオーバーではイラク、アフガニスタンでの運用面に支障をきたしつつある状況を危惧しており、2017年あたりをメドに軽量化対策を行ったM1A3を導入することを検討しつつあるニュースも流れています(とはいえフレームの見直しなどをしないことには抜本的な解決には程遠いと思われるが…)。
その理由が国内事情から端を発してるとはいうものの、10式戦車は興味深い事例となりつつあるようです。

実用化して色々と問題点は出るかもしれませんが、今のところは期待していいと思いますよ。導入については、2010年度、2011年度と13両ずつの導入が決定しています。今後、部隊運用が進むうちに評価も定まってくるでしょうね。

10式戦車の一般への公開
  • 試作車体が平成20年、三菱重工業相模原工場で公開
  • 平成22年度の富士学校祭で一般公開、同年土浦武器学校、中央観閲式でも公開
  • 平成23年度の富士学校記念式典、機動及び射撃を披露
  • 平成24年度富士総合火力演習に参加

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  • 軍事
  • 自衛隊 / 陸上自衛隊
  • AFV / 戦車 / 90式戦車 / 74式戦車 / 61式戦車
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