字は略字のようなものであり、水神・淤加美神(おかみのかみ)のことを示す。古事記の国産みの際にも言及される、罔象女神(みづはのめのかみ)と共に歴史の長い水神である。
概要
画数33画というだけで心を震わせるものがあるが、雨雪を降らせる神という意味があるのも魅惑的である。また龍を構成要素にふくみ、上部に雨があって中央は𠱠。音は無難なレイ、リョウ。意味・画数・字形・音、どれをとっても中二病にうってつけの漢字といえよう。
元はこれが正式な「龍」の字であり、これが日本に伝わった際に水神・蛇神・蛟信仰と合わさって上記の意味が形成され、そしてこれ自身が神の名でもあるがゆえに真の字形を避けたのが今に伝わる「龍」の字だと今考えたがどうか。
ちなみにより具体的な神の名前として「高龗神(たかおかみのかみ、山頂に座す龗)」や「闇龗神(くらおかみのかみ、谷間や山裏に座す龗)」などが伝わり、おかみのかみとは両者を合わせた総称というのが通説になっている。
前述のとおり古事記では「闇淤加美神」、日本書紀では「高龗神」と表記されている。
神話では、火の神カグツチを産んだイザナミが陰部を火傷して死んでしまい、激怒したイザナギがカグツチを切り捨てた剣の柄から滴った血から生じた神である。
同じく水神の罔象女神は、そのとき死んだイザナミの尿から生じた神である。
御祭神として祀られている神社は京都の貴船神社が有名であるが、総本社は大和(おおやまと)神社の摂社高龗神社である。
治水を祈願することから九頭龍信仰と同一見されることがあり、「九頭神社」「戸隠神社」の御祭神であることが多い。
神仏習合で真言密教と結びついたことで、善女龍王と紐づけられて「善女龍王社」「龍王社」といった扁額が掲げられている神社もある。
ちなみに善女龍王は8歳(ロリ)で権現し、獣身の姿かつ幼齢でありながら”男の子”の姿に成ることで成仏したという、なかなかハイスキルな設定がある。さすが俺らの御先祖様である。
※出典:法華経(提婆達多品第十二) 龍女成仏:当時成仏できないとされていた女人の成仏を説く。
※女性が男化して成仏することを変成男子[へんじょうなんし]という。
漢字として
- 意味
- 〔説文解字〕では「龍なり」とある。日本では水神である於箇美(をかみ)の字として宛てられることもある。
- 字形
- 形声で声符は霝。霝は雨乞いのお祈りの意味がある。
- 音訓
- 音読みはレイ、リョウ、訓読みは、おかみ(または、うかみ)。
- 規格・区分
- もちろん常用漢字ではない。JIS X 0213第3水準。
ホスト系では富士通のJEFコードで以前より使用することができた。
実際に神社や地名に使われており、パソコンで歴史資料を編纂するうえで、Unicodeが普及するまで使いたくても使えない漢字の一つであった。
ゼンリン地図(GoogleMap)では「高龍神社」と充てている場合がある。
異体字
靇は、〔玉篇〕にある異体字。〔集韻〕にはロウと読んで雷の音とある。
𩆇、𪚙、𩆈は、〔集韻〕にある靇の古文。
補記
昔の人々にとって、特に稲の出来が村の生死を分かつ古い時代にあっては、風雨の神はとても強く敬われていた。
明日には雨が降るそうすれば稲も伸び妻も娘も生き永らえる、そういう希望を持って龍神に願を掛ける時代もあった。
この字の雨に品に龍とは、そういう意味をも籠めて書かれている、いや描かれているのである。
ゆえに、これが由緒ある地域の末社などに記されていた場合、敬いこそすれ決してそれを無碍に扱ってはいけない。
その字の裏に、かつての悲惨な旱魃・飢饉の記憶とそれを救うための龍神が宿っていた時代もあったのかもしれない。
この字があるということは、そこでは明日は雨が降り稲も伸び妻も娘も永らえる、そう願を掛けて成就せず餓死した者がいないともいえず、あるいは単に地域一帯で風雨の恵みを期待して畏れ敬われ信仰していたのかもしれないからだ。
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