実質為替レート 単語

ジッシツカワセレート

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実質為替レート英:real exchange rate)とは、経済学で使われる言葉である。関連性の高い言葉は名目為替レートである。

概要

定義

実質為替レートとは、世界共通品質の財を世界が販売していると仮定し、そうした財の外価格と自価格の率を計算した数値である[1]

表現

の外Aに対する実質為替レートは◇であり、の外Bに対する実質為替レートはである」と表現され、「の」を省略することもある。

ただし、経済学では自以外の全てのを単一の外と見なすことがある。そういう場合は「の実質為替レートは○である」と表現され、「の」を省略することもある。

経済学ではしばしば実質為替レートをεと表記する[2]

日本における数式

日本において実質為替レートは次の数式で表される。

実質為替レート=名目為替レート×「世界共通品質の財1つの外価格を外通貨で表示」÷世界共通品質の財1つの自価格を自通貨で表示」

上記の式を変形すると次のようになる。

実質為替レート=「世界共通品質の財1つの外価格を自通貨で表示」÷世界共通品質の財1つの自価格を自通貨で表示」

実質為替レートに正比例して純輸出需要が変動する

日本において、実質為替レートが高くなると、世界共通品質の財1つの外価格が割高になって世界共通品質の財1つの自価格が割安になる[3]。このため、自財に対する輸出需要が増えたり外財に対する輸入需要が減ったりして、純輸出需要が増える[4]

日本において、実質為替レートが低くなると、世界共通品質の財1つの外価格が割安になって世界共通品質の財1つの自価格が割高になる。このため、自財に対する輸出需要が減ったり外財に対する輸入需要が増えたりして、純輸出需要が減る。

タテ軸実質為替レートε・ヨコ軸純輸出NXモデルがあるとする。純輸出需要曲線は、「実質為替レートεの増加に正例して純輸出NXの需要が増える」という性質を反映し、右肩上がりの曲線になる[5]

実質為替レートに関係なく純輸出供給が決められる

純輸出NXの供給は「内総生産Y(実質GDP)-政府購入G-消費C-投資I=純輸出NX」という恒等式で計算できる[6]

この中で、YもGもCもIも実質為替レートにされず、別の要因で決定される。このため純輸出NXの供給は実質為替レートにされず、別の要因で決定される。

タテ軸実質為替レートε・ヨコ軸純輸出NXモデルがあるとする。純輸出供給曲線は、「実質為替レートεされず純輸出NXの供給が決まる」という性質を反映し、垂直線になる[7]

純輸出需要が一定で純輸出供給が変動すると実質為替レートの均衡値が変動する

内総生産Yが増えたり、政府の財政政策で政府購入Gや消費Cが減ったり、政府の税制変更で投資需要が縮小して投資Iが減ったりすると、純輸出NXの供給が増える。その供給の数値により新たな実質為替レートεの均衡値が決定し、実質為替レートεの均衡値が上昇する[8]

タテ軸実質為替レートε・ヨコ軸純輸出NXモデルがあるとする。内総生産Yが増えたり、政府の財政政策で政府購入Gや消費Cが減ったり、政府の税制変更で投資需要が縮小して投資Iが減ったりすると、純輸出供給曲線は、その全体が右に行移動する。ゆえに純輸出の均衡値が増え、実質為替レートの均衡値が上昇する。


内総生産Yが減ったり、政府の財政政策で政府購入Gや消費Cが増えたり、政府の税制変更で投資需要が拡大して投資Iが増えたりすると、純輸出NXの供給が減る。その供給の数値により新たな実質為替レートεの均衡値が決定し、実質為替レートεの均衡値が下落する。

タテ軸実質為替レートε・ヨコ軸純輸出NXモデルがあるとする。内総生産Yが減ったり、政府の財政政策で政府購入Gや消費Cが増えたり、政府の税制変更で投資需要が拡大して投資Iが増えたりすると、純輸出供給曲線は、その全体が左に行移動する。ゆえに純輸出の均衡値が減り、実質為替レートの均衡値が下落する。

純輸出供給が一定で純輸出需要が変動すると実質為替レートの均衡値が変動する

関税を高くすると、外財に対する輸入需要が減り、自財に対する輸出需要が一定であるので、全く同じ実質為替レートであっても純輸出需要が増える。

タテ軸実質為替レートε・ヨコ軸純輸出NXモデルがあるとする。関税を高くすると、純輸出需要曲線は、その全体が右に行移動する。純輸出供給曲線は、その全体がまったく行移動せず、位置を保ち続ける[9]。ゆえに純輸出の均衡値が一定を保ち、実質為替レートの均衡値が下落する。

分かりやすくいうと次のようになる。関税を高くすると、輸入が減るが実質為替レートの下落により輸出が減るので、純輸出が一定を保つ。


関税を低くすると、外財に対する輸入需要が増え、自財に対する輸出需要が一定であるので、全く同じ実質為替レートであっても純輸出需要が減る。

タテ軸実質為替レートε・ヨコ軸純輸出NXモデルがあるとする。関税を高くすると、純輸出需要曲線は、その全体が右に行移動する。純輸出供給曲線は、その全体がまったく行移動せず、位置を保ち続ける。ゆえに純輸出の均衡値が一定を保ち、実質為替レートの均衡値が上昇する。

分かりやすくいうと次のようになる。関税を低くすると、輸入が増えるが実質為替レートの上昇により輸出が増えるので、純輸出が一定を保つ。

短期と長期の違い

短期においては物価が硬直的であり、実質GDP(Y)が伸縮的である。このため何らかの要因で名目為替レートが決定すると、実質為替レートが決定し、それに褄を合わせるかのように実質GDP(Y)が変動しつつ純輸出が変動する。

長期においては自然率仮説が提唱されるほどに実質GDP(Y)が硬直的であり、物価が伸縮的である。「何らかの要因で名目為替レートが決定すると、実質為替レートが決定し、それに褄を合わせるかのように実質GDP(Y)が変動しつつ純輸出が変動する」という現象がなかなか起こらない。

短期の日本において名目為替レートと実質為替レートと純輸出の変動が一致する

短期の日本において、名目為替レートが高くなると、実質為替レートが高くなり、輸出が増えたり輸入が減ったりして純輸出が増える。

短期の日本において、名目為替レートが低くなると、実質為替レートが低くなり、輸出が減ったり輸入が増えたりして純輸出が減る。

短期の日本において、名目為替レートの増減がそのまま実質為替レートや純輸出の増減になる。

長期の日本において名目為替レートと実質為替レートと純輸出の変動が一致しない

長期の日本において、名目為替レートが高くなったとしても、実質為替レートが高くなるとは限らず、輸出が増えたり輸入が減ったりして純輸出が増えるとは限らない。

長期の日本において、名目為替レートが低くなったとしても、実質為替レートが低くなるとは限らず、輸出が減ったり輸入が増えたりして純輸出が減るとは限らない。

長期の日本において、名目為替レートの増減がそのまま実質為替レートや純輸出の増減になるとは限らない。

価格が変動する長期における考察に向く

短期において価格は硬直的であり変動しないが、長期において価格は伸縮的であり変動する。

短期の経済を考えるときは、「どこのも価格が硬直的で変動しない」という仮定を置くことができ、「名目為替レートの変動がそのまま実質為替レートの変動になる」という仮定を置くことができる。小国開放経済の短期的経済をマンデル=フレミングモデル考察するときは、タテ軸名目為替レート・ヨコ軸実質GDPで考えてよい[10]

一方で長期の経済を考えるときは、「どこのも価格が伸縮的で変動する」という仮定になり、「名目為替レートの変動がそのまま実質為替レートの変動になる」という仮定を置くことができない。小国開放経済の長期的経済をマンデル=フレミングモデル考察するときは、タテ軸名目為替レート・ヨコ軸実質GDPで考えるわけにはいかず、タテ軸実質為替レート・ヨコ軸実質GDPで考える必要がある[11]

日本とアメリカ合衆国の数式の違い

日本における実質為替レートの数式と、アメリカ合衆国における実質為替レートの数式は、分と分子が正反対である。

このため日本の文献における「実質為替レートの上昇」と、アメリカ合衆国の文献における「実質為替レートの上昇」は、意味が正反対になる。

日本における実質為替レート

数式

日本において実質為替レートは次の数式で表される。

実質為替レート=「世界共通品質の財1つの外価格を通貨で表示」÷世界共通品質の財1つの自価格を自通貨で表示」

価格は外通貨で表示するのが常である。日本における名目為替レート数式を変形すると「等価交換するときの自通貨の量=名目為替レート×等価交換するときの外通貨の量」という数式を得られる。この数式の右辺を先の数式の「通貨」に代入すると次のようになる。

実質為替レート=名目為替レート×「世界共通品質の財1つの外価格を外通貨で表示」÷世界共通品質の財1つの自価格を自通貨で表示」

経済学教科書では、実質為替レートをε名目為替レートをe、世界共通品質の財1つの外価格を外通貨で表示することをP*、世界共通品質の財1つの自価格を自通貨で表示することをPと表示する。それに従うと次のようになる。

ε=e × P*÷P

ε=e × P*/P

実質為替レートの変動と純輸出需要の変動が正比例する

実質為替レートが高くなると、世界共通品質の財1つの外価格が割高になって世界共通品質の財1つの自価格が割安になるから、自財に対する輸出需要が増えたり外財に対する輸入需要が減ったりして純輸出需要が増える。

実質為替レートが低くなると、世界共通品質の財1つの外価格が割安になって世界共通品質の財1つの自価格が割高になるから、財に対する輸出需要が減ったり外財に対する輸入需要が増えたりして純輸出需要が減る。

実質為替レートと純輸出需要は正例の関係にある。

実質為替レート・純輸出モデルにおいて純輸出需要曲線が右肩上がりになる

タテ軸実質為替レート(ε)・ヨコ軸純輸出NX)のモデルにおいて、純輸出需要曲線が右肩上がりになる[12]

長期向けマンデル=フレミングモデルにおいてLM*曲線が右肩上がりになる

タテ軸実質為替レート(ε)・ヨコ軸実質GDP(Y)の長期向けマンデル=フレミングモデルにおいて、LM*曲線が右肩上がりになる[13]

アメリカ合衆国における実質為替レート

数式

アメリカ合衆国において実質為替レートは次の数式で表される。

実質為替レート=「世界共通品質の財1つの自価格を通貨で表示」÷世界共通品質の財1つの外価格を外通貨で表示」

価格は自通貨で表示するのが常である。アメリカ合衆国における名目為替レート数式を変形すると「等価交換するときの外通貨の量=名目為替レート×等価交換するときの自通貨の量」という数式を得られる。この数式の右辺を先の数式の「通貨」に代入すると次のようになる。

実質為替レート=名目為替レート×「世界共通品質の財1つの自価格を自通貨で表示」÷世界共通品質の財1つの外価格を外通貨で表示」

経済学教科書では、実質為替レートをε名目為替レートをe、世界共通品質の財1つの外価格を外通貨で表示することをP*、世界共通品質の財1つの自価格を自通貨で表示することをPと表示する。それに従うと次のようになる。

ε=e × P÷P*

ε=e × P/P*

実質為替レートの変動と純輸出需要の変動が反比例する

実質為替レートが高くなると、世界共通品質の財1つの自価格が割高になって世界共通品質の財1つの外価格が割安になるから、自財に対する輸出需要が減ったり外財に対する輸入需要が増えたりして純輸出需要が減る。

実質為替レートが低くなると、世界共通品質の財1つの自価格が割安になって世界共通品質の財1つの外価格が割高になるから、自財に対する輸出需要が増えたり外財に対する輸入需要が減ったりして純輸出需要が増える。

実質為替レートと純輸出需要は反例の関係にある。

実質為替レート・純輸出モデルにおいて純輸出需要曲線が右肩下がりになる

タテ軸実質為替レート(ε)・ヨコ軸純輸出NX)のモデルにおいて、純輸出需要曲線が右肩下がりになる[14]

長期向けマンデル=フレミングモデルにおいてLM*曲線が右肩下がりになる

タテ軸実質為替レート(ε)・ヨコ軸実質GDP(Y)の長期向けマンデル=フレミングモデルにおいて、LM*曲線が右肩下がりになる[15]

関連項目

脚注

  1. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー185ページ
  2. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー186ページ
  3. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー186ページ
  4. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー187ページ
  5. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー187ページ
  6. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』166ページ
  7. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー188ページ
  8. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー188~191ページ
  9. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』192ページ
  10. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー364ページ
  11. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー396~397ページ
  12. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー187~192ページ
  13. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』397~398ページ
  14. *real exchange rate net exportexit」で画像検索するとそのような図が多く見つかる。
  15. *mundell-fleming modelexit」で画像検索するとそのような図が多く見つかる。
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