もし、貴方が誤って世界から外れ落ちてしまえば、湿気を帯びた異臭を放つカーペット、狂気じみたモノイエローの壁紙、そしてハム音のけたたましく鳴り響く、果てしなくどこまでも続く空虚な空間 "バックルーム" に迷い込んでしまうことになる。付近でなにかの気配を感じたならば、それは確実に貴方の声を聞いているだろう。不条理と不合理に呑まれた貴方に、あらん限りの救いを。
The Backrooms JP Wikiより,2022/10/29閲覧
概要
Containment Fictionの発展について詳しく書かれた『Containment Fiction Wiki』において、HarmonyFM (旧称Roget) が記すところによれば2019年の7月30日にLiminal Fictionの最初のコミュニティとも言えるFandom版Backroomsが開設された。その後英語圏ではWikidot版Backrooms、Liminal Archives、Timeless Placesと相次いで様々なLiminal Fiction系創作コミュニティが誕生している。
このThe Backroomsは日本語圏でもKane PixelsによるFound Footage動画が話題となり、ファンも多数産み出された。YouTubeではBackroomsを専門、またはSCPなどの他のContainment Fictionと共に扱う日本語圏のチャンネルが相次いで産まれ、現在でも高再生回数を叩き出し続けている人気のジャンルである。 ニコニコでも流行ってくれ頼むから。 しかし、海外でも「The BackroomsってもうLiminal Spaceじゃないよね」という指摘があるように、国内でも「Found Footageで興味を持ってみたら、数億人が所属するThe Major Explorers Groupとか訳の分からない謎設定[1]が生えてるんですけど」という声もあったようだ。
そういう声の影響なのかはわからないが、結果としてBackrooms Wiki日本語版やThe Backrooms JPは英語版とは違う世界観を構築しようと試みている状況であり、主に「リミナル性」を重視する方向で組み上げている。また、独自に日本語訳を制定している。
しかし前述のYouTubeなどのThe Backrooms解説チャンネルは、一応は日本語訳も一部存在するFandom版解説であっても、日本語訳の無いLevelの解説も多く (また後述の理由から『完全な日本語訳』ではない) 、Wikidot版に至ってはほぼ自力での翻訳を求められる。結果として日本語版wikiなどとは訳語が乖離しているケースが目立っている。なお、ニコ百の記事も日本語訳の存在の有無に関わらず、原語から訳出して作成している。
「リミナル性」とは
上述の通り、日本語圏ではリミナル性というものがまず第一とされており、The Major Explorers Group (M.E.G.) などの巨大組織の様々なメンバーが様々なLevelを探索・調査しているんです、という話はこと日本語圏の翻訳・創作コミュニティでは好まれていない。
Wikidot-JP版の『「リミナル性」のガイド』において、リミナル性を削ぐとして掲げられているのは、以下の3要素である。Wikidot-JP版はWikidot版とFandom版みたいにコミュニティが方針の違いで分かれているというようなわけではないので、Fandom-JPでもかねがね同じことは言えるようである。
- わからないものを解明しようとする
日本語圏のThe Backrooms創作コミュニティではわからないものをわからないままに置いている。というのは、わからないものをわかろうとすることで、わからないからこそ魅力的であるLiminal Spaceの考えを逸脱する、という考えがあるようだ。そういうのはSCP Foundationでやってくれ、というわけである。同じLiminal Fictionでも考え方はむしろTimeless Placesに近いといえよう。
孤独感や不気味さを失わせるため、The Major Explorers Group (M.E.G.) のような設定は導入していない。たまに複数人で行動したり、一部の階層で街や集落こそ形成するが、複数階層を股にかけた国家単位の巨大グループ、とかそういうのは登場しない、させない。
このことから、Wikidot-EN版の記述がM.E.G.の調査ログという体裁をとるのにたいして、Wikidot-JP版の設定は「個々人が自身の体験を共有してサバイバル情報を集めたWikiサイト」という体裁になる。
上記2点より、移動方法についての記載もENほど正確ではない。個々人のN=1の解を集めているに過ぎないからだ。
- キャラクターを登場させ、あからさまに活躍させる
これはENでもあまり多くはみられない。どちらかといえばSCP Foundationにおけるブライト博士みたいな存在を指しているのだろうが、そういった強烈な個性を持つキャラクターを認めていない。放浪者の個々人の個性は希薄に描かれる。
また特徴的なエンティティ (日本語圏では実体と表現される) も登場したりしないし、エンティティやオブジェクト (日本語圏では物品と表現される) を名辞しない。
日本語圏のサイト
Backrooms Wiki (Fandom-JP)
2022年2月23日に開設されたThe BackroomsのFandom版Wikiの日本語版……ということに英語圏からは見られているのだが、その実エンティティの具体的な名称は登場しなかったり、グループ名も深く言及されていないこともしばしば。これは翻訳においてもオリジナル創作同様にリミナル性を重視しているため、具体名を避ける方向に書き換えられているため。例えば、Level 11はFandom版、Wikidot版ともに多数のグループが拠点を置いているのだが、Fandom-JPでは一切言及されていない。他にも異なる特徴を有する階層として定義されており、読み比べてみると面白いだろう。
英語版ではSurvival Difficultyというものが定義されているが、このWikiでは理解度 (百分率) と危険度 (5段階評価) という指標に置き換えられている。
独自創作も行われており、階層の名前には最後に「η (イータ) 」がついている。n (=日本) に似ているからであろうか。管理者いわく「ギリシャ文字から乱数で無作為に選んだ記号である」とのこと。
要は既存のBackroomsの設定を活かしながらも独自世界観を構築する試みであるため、翻訳記事も「完全な日本語訳」ではなく「リメイク」である。更に翻訳記事のアレンジによって記事がフォークしているケースもある。これがYouTubeチャンネルやニコニコ大百科が自力翻訳する動機でもある。
The Backrooms JP (Wikidot-JP)
2022/10/17開設、2022/10/24クローズドβ運用となっている新興のサイト。完全に新規創作のみを行うサイトとして定義されており、Level 0 (Wikidot版ベース) 以外は共通する階層がない。階層の名前の最後には「N」がついている(こちらは「日本 (Nippon) 」から取っている)。
基本用語対照表
基本的にYouTubeのファンコミュニティの訳語は原語をそのままカタカナに落とし込むか、そもそも原語をそのまま使用しているケースが多い。
ちなみにニコニコ大百科では、エンティティとオブジェクトはカタカナで表記 (個別も含め)、Levelとグループは英語表記としている。
原語 (英語) | Fandom-JP/Wikidot-JP | ファンコミュニティ |
The Backrooms | バックルーム、裏部屋 | Backrooms |
Noclip | Noclipする、壁抜けする | |
Level | 階層 | Level、レベル |
Entity | 実体、存在 (Fandom-JP) 実体 (Wikidot-JP) |
エンティティ |
Object | 物品、アイテム (Fandom-JP) 物品 (Wikidot-JP) |
オブジェクト |
Liminality | リミナル性、際性 | リミナル性、リミナリティ |
Normal Levels | 通常階層 | ノーマルレベル |
Sub Levels (Fandom) Sub-Layers (Wikidot) |
亜階層 (Fandom-JP) 副次階層 (Wikidot-JP) |
サブレベル |
Anomalous Levels (Fandom) Enigmatic Levels (Wikidot) |
番外階層 (Fandom-JP) 例外階層 (Wikidot-JP) |
アノマラスレベル、エニグマレベル |
Joke Levels | -[2] | ジョークレベル |
The Void | 虚空 (Fandom-JP) 奈落 (Wikidot-JP) |
虚空、The Void |
脚注
- *これはFandom版のM.E.G.のページにて2月5日~3月25日まで存在していた設定であり、匿名ユーザーにより勝手に追加されたものであるとされる。元記事では差し戻されたが、この期間のリビジョンを読んだアニヲタWikiの編集者や大手解説動画投稿者がそのまま紹介したことで、イメージが独り歩きしたものと思われる。
- *日本語圏ではJoke Levelsに相当する概念が登場していない。当然、Level 114514なんて登場するわけもない。
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