シリア文字とは、アラム語の一種であるシリア語の表記で使用される音素文字である。
アラビア文字と同様に右から左方向表記する。また、原則として次の文字につながるように書いていく。次の文字につながらないのはܐ、ܕ、ܗ、ܘ、ܙ、ܨ、ܪ、ܬの8字である。また、単語末尾の文字も次の文字には続けない (例1)。母音を表記する文字は無いが、声門閉鎖音を表すܐや半母音を表すܘとܝが長母音の表記に転用されることがある。これは「読みの母Matres Lectionis」と呼ばれる。また母音記号によって母音が示されることもある。
例1.
ܢܛܪ ܗܘܐ ܓܒܪܐ ܬܪܥܐ ܕܡܕܝܢܬܐ
翻字(右から):nṭr hwʔ gbrʔ trʕʔ dmdyntʔ
シリア語文:[nāṭar (h)wā] [gabrā] [tarʕā damdīttā]
逐語訳:[守っていた] [男] [町の門を]
訳:男が町の門を守っていた。
シリア文字には3つの書体が存在する。第一は初期の書体であるエストランゲロ体(Estrangelā)である。書体の名前はエストランゲラーとされることもある。これはより古い時代には長母音āだった音が、後述する西方言でoとなったことに起因する。
第二の書体はセルトー体(Serto)である。これは451年のカルケドン公会議に反対するシリア正教会の中で発達した書体である。特徴としては丸みを帯びた字形が挙げられ、セルトーという名もこのことに由来する。またこのシリア正教会の管轄地域は東ローマ帝国が支配する地域であったため、ギリシア文字に由来する母音記号が使われることもある。なおこの書体はヤコブ/ジャコバイト体(Jacobite)と呼ばれることもあるが、この呼び方はあまり適切ではない。
第三の書体はネストリウス体(Nestorian)である。これは431年のエフェソス公会議で異端とされたネストリオス派の教えに従う、ペルシア帝国領内のキリスト教徒たちによって用いられた書体である。セルトー体とは対照的に角張った形が特徴である。また文字の上下に点を振ることで母音を表記することがある。
Windows XP、Windows Vistaなどに付属しているシリア文字フォントはエストランゲロ体のものである。
| 文字 | 翻字 | 音価 | 名称 | 文字 | 翻字 | 音価 | 名称 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ܐ | ʔ | /ʔ/ | アラプ | ܠ | l | /l/ | ラマッド |
| ܒ | b | /b, v/ | ベート | ܡ | m | /m/ | ミーム |
| ܓ | g | /ɡ, ɣ/ | ガマル | ܢ | n | /n/ | ヌーン |
| ܕ | d | /d, ð/ | ダラット | ܣ | s | /s/ | スィムカト |
| ܗ | h | /h/ | ヘー | ܥ | ʕ | /ʕ/ | アイン |
| ܘ | w | /w/ | ワウ | ܦ | p | /p, f/ | ぺー |
| ܙ | z | /z/ | ザイン | ܨ | ṣ | /sˁ/ | サデ |
| ܚ | ḥ | /ħ/ | ヘット | ܩ | q | /q/ | コプ |
| ܛ | ṭ | /tˁ/ | テット | ܪ | r | /r/ | レシュ |
| ܝ | y | /j/ | ヨッド | ܫ | š | /ʃ/ | シーン |
| ܟ | k | /k, x/ | カプ | ܬ | t | /t, θ/ | タウ |
シリア文字についてより詳しく知りたい人は以下の文献が参考になる。世界の文字研究会 (編, 1993)は世界の文字について実際の用例を示しながら解説している。Muraoka (2005) はシリア語文法の基本がよくまとまっており、便利である。Thackston (1999) は比較的新しいシリア語の入門書で、エステランゲロを基本としつつ、練習問題では他の2書体で書かれた問題も用意されていて、初学者向けと言える。
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最終更新:2025/12/16(火) 08:00
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