争議行為とは、労働運動に関する言葉である。
概要
定義
争議行為とは、労働組合が使用者に対して要求を突きつける目的で行う「業務の正常な運営を阻害する手段」であり、使用者がそうした手段に対抗する目的で行う「業務の正常な運営を阻害する手段」であって、前者はストライキ(同盟罷業)や怠業や生産管理闘争を典型例として、後者はロックアウト(作業所閉鎖)を典型例とする。
定義する法律
労働関係調整法第7条では争議行為を次のように定義している。
労働関係調整法第7条 この法律において争議行為とは、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行ふ行為及びこれに対抗する行為であつて、業務の正常な運営を阻害するものをいふ。
この中の「同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他」は、「労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行ふ行為及びこれに対抗する行為」の例示である。「その他」には、生産管理闘争や、リボン闘争の一部や、ビラ貼り闘争の一部が含まれる。
様々な争議行為
ニコニコ大百科に記事がある争議行為は、ストライキ(同盟罷業)、怠業、ロックアウト(作業所閉鎖)、生産管理闘争、リボン闘争、ビラ貼り闘争、時間外労働拒否闘争、一斉休暇闘争である。
業務の正常な運営を阻害するかどうかで分別できる
また、「業務の正常な運営を阻害するのが争議行為で、そうでないものは組合活動である」という分別をすることができる。組合活動というのは、労働組合が行う行動のなかで争議行為以外のものをすべて含む概念である。
顧客に外見を見られるホテル従業員がリボン闘争を行ったり、顧客に外見を見られる鉄道車両でビラ貼り闘争をしたりしたら、業務の正常な運営を阻害する水準であると判断されて争議行為になる可能性がある。
顧客に外見を見られないことがほとんどの工場従業員がリボン闘争を行ったり、顧客に外見を見られないことがほとんどの工作機械でビラ貼り闘争をしたりしたら、業務の正常な運営を阻害する水準ではないと判断されて組合活動になる可能性がある。
労働者と使用者の両方が収入を失って痛み分けになる
争議行為は、いずれも、労働者と使用者の両方が収入を失って痛み分けになるものである。
労働組合がストライキをするとき、労働者はストライキに参加した時間に相当する給与を受け取れない。民法第624条に由来するノーワーク・ノーペイ(no work,no pay 労働が無ければ賃金支払いも無い)の原則があるからである。
一方で使用者は、労働組合のストライキによって収益を失うことが多い。ストライキのときの使用者は、派遣労働者や子会社社員を呼び寄せて工場における生産や販売店における販売を継続することができるが、自社で雇用した労働者よりも熟練度が低いことが多く、いつもよりも生産や販売の水準が低くなることが多い。
使用者がロックアウトをしたら労働者はその期間において給与を受け取れなくなる。一方で使用者もロックアウトによって収益を失うことが多い。
正当な争議行為に対する保護
争議行為は「正当な争議行為」と「不当な争議行為」に分けられる
争議行為は「正当な争議行為」と「不当な争議行為」に分けられる。
正当な争議行為は、日本国憲法第28条によって保護され、刑事免責・民事免責され、そうした行為を禁じる法律行為(就業規則や労働契約など)が無効になる。このため「合法な争議行為」とも表現される。
一方、不当な争議行為は、日本国憲法第28条によって保護されず、刑事免責・民事免責されず、そうした行為を禁じる法律行為(就業規則や労働契約など)が有効になる。このため「違法な争議行為」とも表現される。
争議行為の正当性は4つの基準で決まる
争議行為が正当かどうかは、①主体の正当性、②目的の正当性、③開始時期・手続の正当性、④態様の正当性、という4つの基準で決まる。
争議行為を起こした者(争議行為の主体)が団体交渉の主体になりうるのなら①主体の正当性が確保される。山猫ストは①主体の正当性が確保されない。山猫ストについてはストライキの記事を参照のこと。
Aの行動を要求する目的でAに対して争議行為を行うのなら②目的の正当性が確保される。政治ストや同情スト(支援スト)はAの行動を要求する目的でBに対して争議行為を行うのだから②目的の正当性が確保されない。政治ストや同情スト(支援スト)についてはストライキの記事を参照のこと。
団体交渉を尽くしてから相手に予告して争議行為を行ったり、労働関係調整法第8条の公益事業(運輸、郵便、電気通信、水道、電気、ガス、医療、公衆衛生、その他に国会の承認を得て内閣総理大臣が1年限りで指定した事業)に関わる関係者が団体交渉を尽くしてから相手と労働委員会と厚生労働大臣または都道府県知事に予告して10日以内に争議行為を行ったりすると[1]、③開始時期・手続の正当性が確保される。予告をしない抜き打ちストは③開始時期・手続の正当性が確保されない。
労働組合がストライキを起こし使用者の「労働者に対して労務の提供を求める債権」という財産権を侵害するのなら、④態様の正当性が確保される。一方で労働組合が生産管理闘争を起こし、使用者の自由意志を抑圧しつつ使用者が支配する財産を占拠して、使用者の「土地・建物・設備・現金に対する物権」という財産権を侵害するのなら、④態様の正当性が確保されない。このことについて詳しくは生産管理闘争の記事を参照のこと。
相手を暴力の対象にして身体・自由・生命に危害を加えるとか、相手の家に押しかけて相手を恐怖させるとか、そういう手段を採用したら④態様の正当性が確保されない。
正当な争議行為は刑事制裁されない
争議行為の中で、ストライキと怠業は労働組合が使用者に「我々の要求どおりに行動せよ。さもないと業務の正常な運営をさらに阻害し、君たちが収益(売上)を上げられなくなる状態がさらに続く」と宣告する行為であり、ロックアウトは使用者が「我々の要求どおりに行動せよ。さもないと業務の正常な運営をさらに阻害し、君たちが賃金を受け取れなくなる状態がさらに続く」と宣告する行為である。
いずれの行為も負の外発的動機付けである。そして、刑法第223条の強要罪に問われるかのように見える。
しかし、正当な争議行為は日本国憲法第28条や労働組合法第1条第2項によって「正当な業務」と扱われているので、刑法第35条の「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」という規定が該当する。ゆえに、正当な争議行為をした際に強要罪に問われることはない。
正当な争議行為は民事制裁されない
争議行為の中で、ストライキと怠業は、労働者が使用者に対する「労務を提供する債務」を履行しない行為であるので、民法第415条1項により「債務不履行による損害賠償」を請求されそうな行為であるし、民法第709条により「不法行為による損害賠償」を請求されそうな行為である。
しかし、やはり正当な争議行為は「正当な業務」と扱われているので、争議行為を行った者は民事の責任を問われない。労働組合法第8条にそのことが明示されている。
正当な争議行為を禁じる法律行為は無効になる
正当な争議行為を就業規則や労働契約などの法律行為で禁止するとする。しかしそうした法律行為は、日本国憲法第28条を直接適用されて無効となる。これについては私人間効力論の記事を参照のこと。
正当な争議行為に参加したことを理由に不利益を与えると無効化される
正当な争議行為に参加したという理由で使用者が労働者に対して不利益を与えることがある。そのことを不当労働行為という。不当労働行為の代表例は、正当な争議行為に参加したという理由で労働者に懲戒処分(戒告、譴責、訓告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇、など)を課すことである。
不当労働行為は労働組合法第7条で禁止されている。もし不当労働行為が発生したら、労働者は労働組合法第24条に基づき、労働委員会に対して救済申立てを行うことができる。
労働争議の解決方法
労働組合や使用者が争議行為をしている状態のことを労働争議という(労働関係調整法第6条)。
労働争議において労働組合と使用者の双方が正当な争議行為を行っている場合、労働争議の解決は容易ではない。
労使(労働組合と使用者)が直接交渉を行い、片方が譲歩して労働争議が解決することがある。しかし労使の双方が譲歩しないことがある。その場合は労働委員会による調整(あっせん)を受け、さらには調停や仲裁を受ける。
労働委員会は労働組合法第19条によって設置されている行政委員会で、厚生労働省に中央労働委員会が置かれ、各都道府県に都道府県労働委員会が置かれている。
公務員などの争議行為の禁止
日本において、公務員は法律によって争議行為を禁止されている。このことについては日本国憲法第28条の記事を参照のこと。
関連リンク
関連項目
脚注
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