クリストフ・フォン・バーゼルとは、「銀河英雄伝説」の登場人物である。
外伝「汚名」に登場するゴールデンバウム朝銀河帝国の軍人・企業経営者。階級は退役中将。妻としてヨハンナがいる。帝国暦486年当時に60歳前後。両眼と皮膚に英気と活力を充溢させた、軍人としても企業人としても有能で行動的な人物。
帝国軍の高級士官として務めるいっぽう、ひそかに帝国軍内におけるサイオキシン麻薬流通組織の頭目として活動し、多くの兵士たちを犠牲として私利を得ていた。しかしついには、旧友ミヒャエル・ジギスムント・フォン・カイザーリングの手により摘発されることとなった。
帝国暦446年、士官学校を卒業したばかりの若きクリストフ・フォン・バーゼルは、同期のミヒャエル・ジギスムント・フォン・カイザーリングとともに訪れた歓楽衛星クロイツナハⅢの地で、ヨハンナという美しい女性と出会う。やがてカイザーリングはヨハンナに求婚したが、ヨハンナはそれを断ってバーゼルの妻となった。
その後のバーゼルは帝国軍で閲歴を重ねたが、そのあいだに彼は帝国軍内におけるサイオキシン麻薬の密造密売に手を染め、兵士たちを麻薬中毒におとしいれて莫大な利益を得る、大規模な非合法組織の長となりおおせた。いっぽうで公的にも50代後半までに少将へと昇進し、同様に中将となったカイザーリングが率いる艦隊で後方主任参謀を務めることとなる。
この後方主任参謀在任時、彼はサイオキシン麻薬保持の疑いで参考人として憲兵隊に召喚され、カイザーリングの証言によって放免された。そして一ヶ月の後、引き続きカイザーリング艦隊補給部門の責任者として臨んだ483年のアルレスハイム会戦で、カイザーリング艦隊は一部の艦が命令に従わずに暴走したあげく潰乱するという悲惨な大敗を喫する。艦隊内でサイオキシン麻薬が気化して流れだし、兵士たちが急性の中毒状態におちいったことが、暴走と惨事の原因であった。
しかし、結局バーゼルの麻薬犯罪が露見することはなかった。ヨハンナをいまだ愛するカイザーリングが、愛したひとの名誉を護るために軍事裁判の場で沈黙を守り通したのである。カイザーリングは少将に降等のうえ早期退役となった。そしてバーゼルも486年末までに中将に昇進して退役し、退役後にはある星間輸送会社の経営陣に名前をつらねるようになる。
486年末、バーゼルは久方ぶりに懐かしのクロイツナハⅢでカイザーリングと旧交を温めることとなった。だがその直前、悪事を知る者がいる、今のうちに手を引けば司直には知らせない、という匿名のメッセージを受け取ったバーゼルは、これを旧友カイザーリングからの脅迫とみなす。そしてクロイツナハⅢを舞台に麻薬中毒者の兵士たちを手足として用い、カイザーリングや休暇中に偶然介入したジークフリード・キルヒアイス中佐への襲撃を繰り広げることとなるのである。
バーゼルはすべての経緯を知ったキルヒアイスに糾弾されても悪びれもしなかったが、襲撃犯から自供をえた現地の治安責任者ホフマン警視が殺人教唆の容疑で検束に現れると観念した姿勢をみせた。そして最後にと妻ヨハンナへの通話をもとめ、証拠書類の焼却処分を指示する。だが、彼の最後の企みは失敗に終わった。ヨハンナは夫への問罪に協力する権利は自分にはないと指示を実行しようとしたが、そこにカイザーリングが現れ、ヨハンナを射殺して証拠書類を救ったのだった。
年若いキルヒアイスに対しては、その主ラインハルトをさりげなく冷笑し、声に優越感をにじませるような高慢なところがあった。しかし、糾弾に訪れたキルヒアイスを重厚沈着な態度ででむかえた姿には、悪徳にみちたバーゼルとは正反対の人物であるキルヒアイスでさえも、虚勢であったとしても相応の器量と貫禄が感じられることを認めざるをえなかった。
そのキルヒアイスに対してもまず買収を試み、私利のために兵士を犠牲にしたという糾弾に対し悠然と「豚は人間に食われるために存在するのであって、人間を食うために生きてはいない」と豪語してみせ、匿名のメッセージが実は妻ヨハンナからだったと知っても「かつてカイザーリングをふった負い目」と解してキルヒアイスを憤激させている。かくのごとく自己の行為を完全に正当化し、弁明や自己保身の言も悪びれるようすすらもなく、終始冷然と自らの悪徳を誇る姿は、悪人や陰謀家にはことかかない「銀河英雄伝説」全体を見据えてなお、その「大悪党ぶり」にかけては屈指といえる。
カイザーリングに対する友情がいかなるものだったかは定かではないが、頼んでもいないのに敗戦の大罪を引き受けてバーゼルに大恩を着せたアルレスハイム会戦の件を「よけいなお世話」と語り、その時代錯誤的ですらある高潔さを古くからうっとうしく思っていたかのようなそぶりだった。しかし最後には、そうした自らの高潔さが度しがたいナルシシズムとなって多くの人々を犠牲にしたことに気づいたカイザーリング自身の手によって、バーゼルの悪事は抹消されることをまぬがれたのである。
掲示板
7 ななしのよっしん
2021/05/30(日) 16:32:03 ID: a4GrI4YgjQ
>>4
OVA版の悪人としてのカッコよさにイメージが影響されてるところも強いけど、
そうした尊厳とか美意識で自分の行為を糊塗しようとしない、というある意味での潔さはすごい感じる
ヤンだったかの「主義主張で人を殺すより金目当てで殺すほうが目的の価値が万人に共通してるだけまだまし」的な言葉に通じるものがある(と言うと怒られそうだが)
8 ななしのよっしん
2024/03/24(日) 11:19:26 ID: w7nyO38467
キルヒアイス相手に格闘で勝った稀有な人物
シェーンコップは引き分けでアンスバッハは組み伏せられたわけだからおじいちゃんの中では最強の格闘センスの持ち主かも
9 ななしのよっしん
2024/04/18(木) 10:21:40 ID: aWZOjCKVJj
中の人の大切さが理解できる好例
開き直った悪党ってだけのキャラにも関わらず作中屈指の偉人であるキルヒを圧倒する雰囲気を発揮したのは、その迷いの無さと中の人である中田さんの重厚な演技と声色があったからこそ。
彼の悪人としての魅力は中田さんがセットだからこそ完成する。
ヨハンナが善良なだけのカイザーリングよりバーゼルを選んだのことについて理性では理解はできないが、やはりなんとなく納得はできるのよね、二人を並べると
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最終更新:2024/05/15(水) 14:00
最終更新:2024/05/15(水) 14:00
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