ラザロ徴候とは、異常肢位の一種である。イエス・キリストによって蘇生の奇跡を受けたと伝えられるキリスト教の聖人ラザロに因む。
概要
脳死とされた患者が、脳死判定時、あるいはその後において手足を動作させる現象である。
最も著名な症例は、脳死判定の最後において人工呼吸器の取り外しを行った際、患者の手足が動き、胸の前で手を合わせるような動作を行う、とされるものである。「祈るような」とも表現されるこの動作は1984年に報告された。
また、窒息を伴うような状況(首吊り自殺等)においても、場合によってはこの肢位となる、という報告もある。
この異常肢位が発生する理由についてはよく分かっていない。人工呼吸器の取り外しによって誘発されることから、低酸素状態における脊髄反射反応の一種であるとするのが現在のところ有力な説であるが、動作は反射と呼ぶにはあまりにもゆったりとしていて生々しい。具体的に低酸素によってどのような神経活動が起こるためにこの肢位になるのかについて合理的な説明がなく、説得力に欠ける、ともされている。
なお、脳死判定の際、最後の人工呼吸器を取り外す段になった際は、家族等に病室から退去して頂くことが推奨されている。ただでさえ呼吸器を外すという死を思わせる状況において、眼前でこの現象が発生した場合の家族心理への影響を配慮してのことである。また、この兆候の存在を以て、脳死は人の死ではない、と主張する意見もある。実際問題としてラザロ徴候発生時には血圧の上昇などもあるとされているが、発生するタイミングがタイミングであるという事情もあり、原因や真相は未だ不明である。
その他の著名な異常肢位
除脳硬直
脳に重大な障害が発生した際に取ることがある異常肢位。大まかに説明すると、背中を弓なりに反らせ、脚を内股気味にしてぴんと張り、肘を伸ばし、手を軽く握って内側に曲げた状態で手首を裏返した状態がこの肢位である。特に手首の形はこの肢位に特徴的であり、一度見たら二度と忘れられないとすら言われている。
中脳の半ば程度から上位の神経組織からの信号入力が無くなっていることを示し、即座に重度の脳障害が発生していると診断される重篤な状況である。発生原因となっている疾患にもよるが、ほとんどの場合において予後は良くない。
除皮質硬直
脳に障害が発生した際に取ることがある異常肢位。上記除脳硬直の肢位から、さらに肘を曲げて体の前に手首を持ってくるような姿勢がこの肢位である。簡易的な見分けとして、肘が伸びているか曲がっているかで区別が可能(であるが、神経障害の状況によっても変化するため絶対とは言えない)。
その名前の通り、大脳皮質由来の信号入力が無くなっているか、大脳皮質や白質が広範に障害されていることを示す。発生原因となっている疾患にもよるが、予後は良くないことが多い。
関連項目
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