ニコニコ大百科

――貴方に全てを捧げます。よく聞く言葉だ。
自らの思いの丈をぶつけるために、自らの想いの重さを知ってもらうために。

それがどういう意味なのか。何を指して『全て』なのか……それはわからない。
しかし……心積もりだけであったとしても、全てとまで言うのだ。
相当な覚悟、愛がなければ、到底口に出せない言葉だろう。

事実として、それを成し得るかどうかは、別として。

……少女の話をしよう。愛に殉じ、『全て』を捧げようとした想いの話を。

……少女は、恋をしていた。

その相手は、彼女の幼馴染。ずっと昔から彼のことを想っていたらしい。
どこへ行くにも一緒だった。いつだって少女は彼についていった。
やんちゃで少々無茶をするところがある彼を、世話焼きで要領の良い彼女がすかさず助けてやる。
実際相性は良かったようで、二人の仲は悪くなかったようだ。
だからだろう、彼が現在の仕事場へ入った時も、彼女はついていった。
生憎と向き不向きの関係から、全く別の部署へ割り当てられてしまったが…
それでも、自分の仕事が彼の役に立てばいいという想いから、彼女は仕事に満足していた。

……少女は、強かであった。

独占欲が強い、というか…自分一人だけが、彼のことを見ていたいという感情があった。
だからこそずっと彼についていたのであり、だからこそずっと彼を見ていたのだった。
それでも告白をしなかったのは、彼から告白をして欲しい…という、ちょっとした乙女心からだった。
…加えて言えば、邪魔な虫は彼に近づく前に全て彼女が追い払っていたから、というのもある。
新しい仕事場に入り、付きっきりで世話ができなくなってからも、彼女は手を抜かなかった。
彼が所属する部署は勿論、あらゆる部署に友人を作り、その友人を通して監視・妨害をするという徹底ぶりであった。
幼馴染という強力な立場にふんぞり返って油断はしない、とは彼女の弁であったらしい。
実際彼女の努力の成果もあってか、彼は彼女に気があるふうな素振りを見せていたようだ。

……少女は、察しが良かった。

そのため、すぐに異変に気がついた。
彼が長期の出張から戻った時の変化にも。彼が突然部署を移動させられたことにも。
彼から、嗅いだことのないヒトの臭いがしているのも。
流石に詳しく『何が起こったのか』は把握できていなかったが…
本人曰く『乙女の勘』で、自分の恋路にとって非常にマズいことが起きているのは把握できていた。

今まで全く見えなかった、見える前に潰してきた『彼を取られる』という可能性の問題。
これを重く見た少女は、ついに彼に告白することを決意する。
まだ、まだ確定ではない。しかし焦らねばやっていられなかった。
事態を把握していて、取り返しの付かない状況になってしまっていては元も子もない。
それに……彼女には勝算があった。
長期と言っても、たったの一年。
これまでずっと、ずっと彼のそばについていた私が、そんな短い期間の想いに負けて良いはずがない。
今までの想いを全てぶつければ、きっと彼は応えてくれる…そう信じていた。

だが、無情なことに。
先ほど言ったように……彼は、変わってしまっていた。

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