日本国憲法第9条とは、日本国憲法における条文の一つで、憲法三大原則である「平和主義」に関して規定したものである。第9条はそれ一つで憲法の第2章(戦争の放棄)を構成している。
日本国憲法第9条は、第1項で「戦争の放棄」、第2項で「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を定めている。[1]
- 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
- 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第二次世界大戦の戦禍は日本を含め世界の人々に大きな悲しみをもたらした。その悲惨な体験と深い反省に基づき、日本は平和主義を基本原理として採用した。それまで世界でも戦争廃絶の動きはあり[2][3]、第二次世界大戦後、侵略戦争を制限・放棄する憲法は他国でも見られた[4]。しかし、日本国憲法は、侵略戦争を含めた一切の戦争と武力の行使及び威嚇を放棄し、戦力の不所持を宣言し、国の交戦権を否認している。これら3点の徹底された戦争否定は、世界的に珍しい。
第9条第1項は、国際平和の希求のため、「国権の発動たる戦争」「武力による威嚇」「武力の行使」を国際紛争を解決する手段として放棄している。これの解釈について以下の2つの説で争われている。
2つの説で争われてる原因の1つとして、「国際紛争を解決する手段としては」という文面の解釈が挙げられる。限定放棄説では「武力による威嚇又は武力の行使は」のみにかかると解釈しているのに対し、全面放棄説では「国権の発動たる戦争と」にもかかっていると解釈している。ちなみに、この文面には大きな穴があるとする別の解釈があるが、それは後述。
第9条第2項は、陸海空軍その他の戦力の不所持を規定している。この戦力とは何なのか、自衛隊の合憲性と関係して最も争われてきた。
戦力の解釈について、通説では、軍隊と有事の際にそれに転化しうる実力部隊を戦力としている。軍隊とは、外敵からの攻撃に対し実力を以てこれに対抗し、国土を防衛するための組織である。この解釈を一貫させると、現在の自衛隊は戦力に該当すると言わざるを得なくなる。
しかし、現在の政府見解において、「自衛隊」はこの戦力にはあたらない組織だと解釈されている。それは自衛権の概念があるためであり、自衛隊の合憲性の解釈は以下の通り。
第9条第2項はさらに、国の交戦権は認めないと規定している。
交戦権は、交戦状態に入った場合に交戦国に国際法上認められる権利(相手国の兵の殺傷、軍事施設の破壊、領土の占領、船舶の拿捕などを行う権利)と解されるのが妥当とされている。
日本が相手国の兵の殺傷や兵器の破壊を行う場合、それは交戦権ではなく、自衛権に基づくものである。ただし、相手国の領土の占領などは、必要最小限度の実力の行使を超えるものと考えられるため、認められない。[6]
あまり表に出ることはないが、「国際紛争を解決する手段としては」という文面に穴があるとする解釈もある。簡単にいえば、「国際紛争を解決する手段」でなければ戦争してもいいし、戦力を保持してもよいとする解釈である。
まず、第1項に「国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と書かれているが、これは裏を返せば『「国際紛争を解決する手段」でなければ、「国権の発動たる戦争」「武力による威嚇又は武力の行使」は放棄していない』とも言えてしまう。また、第2項に「前項の目的を達するため」とあることから、「国際紛争を解決する手段」でなければ戦力を保持してもいいとも言える。限定放棄説なら無理やり自衛戦争のことと解釈できなくもないが、全面放棄説の場合、この部分の解釈が不可解なことになる。これは、全面放棄説が「全ての戦争は国際紛争を解決する手段である」という大原則がなければ成立しないためである。
そもそも「国際紛争を解決する手段」ではない戦争は何かという話だが、なんとなくで国際間で戦争をする場合や国際紛争を解決する気がない(≒国際紛争を起こす)国際間の戦争が該当するのだろう。つまり、(あり得ない話であるが)政府がこの穴を突いて、戦争をした上で、総理大臣が合憲であると言ってしまえば、いくらでも戦争できてしまうのである。
しかし、最初に書いた通り、この解釈自体が表に出ることがないため、「国際紛争を解決する手段」以外の戦争が発生すること自体あり得ないというのが一般論となっている。また、国内での戦争にあたるものはそもそも憲法第9条の管轄外であるため(国際間の戦争は禁止であると言いたい条文でしかないため)、それに関しては事実上日本の法律でカバーしてるという状態である。
現在、憲法を改正しようという動きが活発化しており、日本国憲法第9条が争点となっている。主な主張は以下の通り。
改憲に対しては護憲派から以下のような批判や懸念が出ている。またそれに対する反論も同時に記載する。
1.アメリカの戦争に巻き込まれる!
⇒参戦可能であることと、実際に行うかどうかは別問題。日本にとって不要であれば拒否すればいいだけ。それに有事の際アメリカはじめ他国からの救援を望むのなら、こちらも「相応の」貢献が求められる。つまり日本のために血を流してほしいのなら、こちらも「血を流す」貢献をしなければならないのだ。もちろん血を流す貢献をしたからと言って絶対に、確実に救援してもらえるとは言い切れないだろうが、平和憲法言い訳に危険地域へ人も出さないのではなおさら見捨てられる要因にもなり、「こっちは国際社会のために血を流さないが国際社会には日本のために体を張ってもらう」という身勝手が通用するはずもない。せいぜい武器援助で終わり軍を出してはくれないだろう。ちょうどウクライナと同じ状況になりうるのだ。
2.日本が主体となって侵略戦争をするようになる!
⇒今の日本に、他国を侵略する動機や理由も、そしておそらく能力もない。逆に他国を侵略しなければならないどんな理由があるというのか教えてほしいところである。はっきり言って護憲派の「加害者妄想」と言える。なお現在議論されてる「敵地攻撃・反撃能力」とは、敵国の攻撃を防ぐために他に方法がない場合に、やむを得ず取られる「最終手段」であり、その目的はあくまでも相手の攻撃能力を奪うことであり敵国の破滅や占領ではないので一般的に自衛権の範疇と扱われる。9条の存在について狂人が権力を握った際戦争を始めるのを防ぐため、という意見もあるが、そもそもそんな狂人だったら憲法を完全無視または好き勝手に書き換えてしまうはずであり、何ら抑止力にならない。なにしろ憲法自体に「物理的に」狂人を食い止める力はなく、例えばナチスヒトラーも当時の制度を巧みに利用して権力を掌握し、その後は憲法を無視したり都合よく書き換えていったのと同じである。ちなみにかつて麻生太郎が発して物議を醸した「ナチスの手口を学べ」とは、ナチスが権力を握った具体的手法を研究し同様のことが起きぬよう対策をとれという意味であり、この真意を読み取れなかったリテラシーが低い人間が表面の文面だけで騒いだだけである。やっぱリテラシー教育って大事なんだね^^
3.現状でも自衛はできる!
⇒現在の「専守防衛」では、明らかに害意を持った敵が侵入しても、相手からの攻撃がない限り警告しかできず、その敵による「第一撃」が、首相以下閣僚を全滅させ国家機能がマヒし防衛出動すら発令できなくなる事態も理論的にはありうる。通常明確な敵が侵入しこちらの警告に応じない場合、実力排除されるのが「国際標準」だが、今の日本では敵による「第一撃」を待たねばならい。自国の被害を極力生じさせないのが国防なのに、わざわざ敵が侵入しなおかつ先制攻撃してくるのを待つという、本末転倒な「本土決戦」的思想となっている。
4.そもそも日本に攻め込む国などあるわけがない!
⇒これは日本には奪うべき資源もなく、「奴隷確保」の戦争も到底元が取れないので行われるはずがない、と言いたいのだろうが、戦争の目的は単なる領土の拡張や資源・労働力の確保だけではない。今日本に攻め込む可能性が最も高いのは中国だが、中国は日本の周辺に「列島線」と呼ばれる対米防衛ラインを設定している。中国は究極的には日本全体を「軍事要塞」とすることでアジアからアメリカの影響力を排除し、東アジアを実質的支配下に置きたいと言われている。沖縄を中心に日本にこれだけの米軍基地がおかれているのも、昔はソ連を、今は中国を封じる為であり中国としても日本を占領することでアメリカに対し同様のことができるわけだ。また資源に関しても近年日本の周辺海域で様々な資源が発見されており、日本を手中の納めれば当然そういう資源も手に入ることになる。ロシアがウクライナに侵攻した理由の一つが、ウクライナを支配下に置きNATOへの防衛ラインにすることだと言われてるのと同じであり、「実例」が現在進行中である以上もはや絵空ごとではないと言っていい。
5.国力差から言って日本が軍事で中国に対抗できるはずがない!
⇒何も中国に対抗するために、中国と同等以上の軍備を持つ必要はない。なぜなら全軍を対日侵攻に投入できるわけではないからだ。というのも、日本以外にも対立国が複数あり、それに対しても戦力を張り付かせ抑止や恫喝をしなければならないため。そうしないと対日侵攻のすきをついて自分が攻め込まれかねないからだ。ロシアだってウクライナに全戦力を投じてるわけではなく、国力軍事力とも大幅にロシアに劣るウクライナは、国際社会の援助があるとはいえ互角以上に渡り合えている。そして日本と中国の国力・軍事力の差は少なくともロシア・ウクライナよりは小さく(ただし人口は除く)、対日侵攻が割に合わない(成功しない)と思わせる戦力とそれを十分に活用できる法体制を構築することで十分抑止できる。その一環が9条の改正と言える。
6.たとえ攻めこまれても、降伏したほうが被害が少なくて済む!
⇒では仮に降伏したとして、その後どんな扱いを受けるか考えているのだろうか?今時他国を侵略するような国が、占領民の人権や生命をちゃんと守ると思っているのか?例えば中国としては日本列島を軍事要塞にしたいのであり、基本的に住民は邪魔な存在であり、じわじわと真綿で首を絞めるように「民族浄化」が行われるだろう。そうなれば長期的な犠牲は防衛のための戦闘をはるかに上回るかもしれない。ウクライナがこれだけ激しく抵抗してるのも、降伏すれば更なる地獄が待っていることを理解してるからであり、現にロシアによる占領地ではその一環として様々な圧政が敷かれ始めてるのは日々のニュースを見ればわかるはずである。目先の戦争さえ回避できればいいという「短絡的視点」しかない人間が、ウクライナに降伏を求めてるのであり、第一次大戦後にナチスの増長を許した愚を繰り返そうとしているといっていい。もしナチスを早い段階で叩き潰していれば、そのために多少の犠牲が伴ったとしてもその後の第二次大戦やホロコーストの惨劇よりは遥かにマシだったはずである。第一、日本が平和憲法を至極大事に抱えていられるのも「主権」があるからであり、もし他国に支配されれば当然憲法も見るも無残に踏みにじられ、そして国民は侵略者のさらなる戦争に強制動員されるかもしれない。現にウクライナでもこうしたことが起きつつあるという。理不尽な侵略に安易に降伏するのは、そういう蛮行を容認することとなり、追随者や模倣者を生みそれこそ憲法の掲げる「武力による恫喝がない世界の構築」という理念理想に反することではないだろうか?
7.武力に頼らない9条を生かした平和外交を構築するのが政治の役目だ!
⇒ぶっちゃけ相手にとって日本が9条を持ってるなどどうでもいい無関係なこと。もし武力衝突となれば痛い目を見るぞ!と相手に思わせるだけの力があって初めて対等な交渉ができるわけだ。ロシアがウクライナに攻め込んだのも、自国よりはるかに弱く簡単に制圧できると(誤った分析に基づき)判断したためであり、相手から十分に弱いと思われれば攻め込まれる要因にもなる。残念ながらこの世には話し合いが通じない異常者や極悪人が少なくない。妄想で戦争を始めたプーチンがその代表例であり、身の回りにも狂気にかられ電車内で暴れだしたり、アニメ会社を放火したり、演説中の国会議員をいきなり殴ったりする事件が起こっている。そしてそういう異常者や暴漢を話し合いでもって退散させた例は皆無であり、物理的な力で排除するしかないといえる。もし改憲を阻止したいのであれば、まず9条を持ってプーチンやプーさんや黒電話を説得し日本への敵意を捨てさせるべきだろう。それが成功すれば周辺国の脅威を理由にした改憲論は根拠を失うはずだが、なぜか護憲派は誰もこれを実践に移さない。せめてプーチンのウクライナ侵攻を9条の思想でもって説き伏せて停止できれば、それだけでもノーベル平和賞は確実だし改憲勢力への大きなダメージになり、政権交代さえも現実できるはずなのに、これも未だに実行されない。左派が非難する安倍政権によるロシアとの経済協力という「融和政策」も、まさに憲法に基づく平和外交そのものと言えるが、もしそれが失敗で誤りだというのなら、すなわち平和外交の敗北ということになる。
日本の市民団体がこの日本国憲法第9条を根拠として日本国民をノーベル平和賞に推そうと活動、賛同者を得てノルウェー・ノーベル委員会(ノーベル平和賞を選考する機関)に推薦した。そして2014年4月、ノルウェー・ノーベル委員会はこれを受理、日本国民はノーベル平和賞候補となった。
推した理由についての取材に対し、市民団体の女性は「憲法第9条を保持、70年近くにわたって戦争をしなかった日本国民の受賞に意味がある。」と述べている[7]が、インターネット上などでは物議を醸していた。
2014年10月、ノルウェー・ノーベル委員会は、生命の危険を賭して女性の権利を訴えてきたパキスタンのマララ・ユサフザイさんと、児童労働問題について長年活動してきたインドのカイラシュ・サティアルティさんの2人に、ノーベル平和賞を授与すると発表した。[8]
「日本国憲法第9条を保持する日本国民」は受賞を逃したが、市民団体は今後も署名活動などを続けていく方針。[9]
| 日本国憲法 | |
|---|---|
| 第1章 天皇 | 1 2 3 4 5 6 7 8 |
| 第2章 戦争の放棄 | 9 |
| 第3章 国民の権利及び義務 | 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 |
| 第4章 国会 | 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 |
| 第5章 内閣 | 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 |
| 第6章 司法 | 76 77 78 79 80 81 82 |
| 第7章 財政 | 83 84 85 86 87 88 89 90 91 |
| 第8章 地方自治 | 92 93 94 95 |
| 第9章 改正 | 96 |
| 第10章 最高法規 | 97 98 99 |
| 第11章 補則 | 100 101 102 103 |
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最終更新:2025/12/15(月) 15:00
最終更新:2025/12/15(月) 15:00
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