本題に入る前に、少しだけシェアード・ワールド『SCP Foundation』について振り返っておこう。
SCPバースは今や数千のアノマリーと数多の登場人物たち、登場超常団体により、多彩で深みのある世界が作られている。あるときは神々が争い、あるときは妖精とその創造物が人類と対峙し、あるときは現実が歪曲し、またあるときは寿司が回る。
しかしそんなSCPバースは、SCP-076-2 ("アベル")やSCP-343 ("神")、SCP-239 (ちいさな魔女)をはじめあまたの人型アノマリーがうじゃうじゃいる世界であり、そんな世界に多くの新規人型アノマリーが「No X-MEN」の号令の前に消え去っていった。自分の能力を自在に使える異能力者など、オブジェクトとしてなんら面白みがない、というのがSCP Foundation現著者達の結論である。ヒーローにしろヴィランにしろ、オブジェクトである限り「優れた異能力者」は好まれていないのだ。
――何故こんな話をいまさらするのか?それは、この項目で話すオブジェクトが、まさに『自分の能力を自分で自在に使える』ヒーローだからである。
SCP-2800とは、シェアード・ワールド『SCP Foundation』に登場するオブジェクト(SCiP)である。
スコットランド生まれの男性、本名ダニエル・マッキンタイア。しかし本人は自身をこう呼ぶ。『カクタスマン、釘刺す脅威 (Cactusman, the Spiked Menace)』と。茶色の髪に緑の目、187cm、76kgのカクタスマンは、まさにSCPバースでは逆に貴重となった異能力者である。
彼はある日目が覚めたら、サボテンパワーに目覚めた。財団の調査では、彼はサワグロサボテンのDNAを含むゲノムを有していることがわかってる。このため、サワグロサボテンに由来する数々のパワーを行使できる、というわけだ。
主だった能力は以下のようなものだ――まずは、体表全体から素早く2-3cmの棘を生やす能力。この棘は自然に抜けるほか、自身の意志で自発的に分離することもできる。
CAM型の光合成を行う能力も有する。これは夜に二酸化炭素を吸収し、昼に酸素を放出するというタイプの光合成である。この能力を行使するために体表に気孔に類似した孔を開けることができる。
サボテンなので、常人よりも少ない水で生活でき、一般男性の1/3の水で生活され、1/5の尿素しか産生しない。このため、カクタスマンはアンモニアといった排泄物を他の植物同様に体内に貯蔵できると考えられている。体表の孔から排泄物を放出することもできる (カクタスマン本人にとっては不快らしいが)。
サボテンなので、高温や乾燥もへっちゃら。他の非異常のサボテンとの会話もできるらしく、それによって代謝率が大幅に増加するようだ。
彼はもともと学校でいじめられっ子であり、かつX-MENに憧れるアメコミナードであった。彼は、このサボテンパワーを活かし、弱い立場にいる人を助けるヒーローになることを誓ったのだ。
……先述の通り、与えられたスーパーパワーを理解し使いこなしているカクタスマン。普通なら、ディスカッションの段階で「書き直したほうがいいよ」とアドバイスされ、投稿すればDownVote (低評価)の嵐であろう。そんなカクタスマンがSCPバースに認められ、あまつさえ、意思を持つ人型アノマリーであるのにも関わらず、Safeクラスとなっている。
通例、意思を持つアノマリーはEuclidやKeterになることはあっても、Safeになることはない。これは、意思を持つ限り、魔が差したり、あるいは財団を欺いたりできるからである。今でこそ収容を受け入れているカクタスマンだが、自身を閉じ込める財団を悪とみなし反旗を翻したり、あるいはそもそも正義の心が演技であり、自身の力で世界を壊そうとしているかもしれない。
しかしながら、カクタスマンのオブジェクトクラスはSafeなのである。これは何故か。……簡単な話である。
カクタスマンの異常性がどれもこれもしょぼいからである。
常人よりも少ない水分で生活でき、高温多湿下でもへっちゃら、そして手からはサボテンの棘を生やせる能力。その棘の生えた手で相手を殴れば、確かに相手は痛がるだろう。だがその後は?カクタスマンが全身にサボテンの棘をはやしたところで、気にしない人は気にせず殴るだろうし、そもそも素手で殴らなくても近場に落ちている箒や棒きれで応戦すればいいだけのことだ。まして財団にはいくらでも軍事力なら用意がある。戦車や爆弾、鉄砲、時には巨大ロボットや魔法、ミームエージェント、並行宇宙につながるポータルまで持ち出してくる財団相手に、サボテンの棘が有効である道理がない。
サボテンと会話できる能力も、サボテンの話すことは「ここすごく寒い」「のどかわいた」「わたしサボテンです」などの内容であり、カクタスマンにとって助言になりうるようなものはない。彼は軍師一人 (この場合は一仙人掌) さえ獲得できる見込みさえないのだ。これでサボテンのほうが異常なサボテンであればまだどうにかなるのだが、どうにも彼の獲得した能力は非異常のサワグロサボテンの範疇を超えないらしい。そして彼は腕っぷし一つ強いわけでもない。元いじめられっ子のアメコミナードに与えられた武器はサボテンの棘だけだ。完全武装したムキムキマッチョ相手にカクタスマンが何ができようか?
さて、カクタスマンは財団にとっておよそ脅威になりえない、ということを説明したが、問題は当人にとってはどうなのかという話である。彼は、英雄症候群を患っており、自身に何ができるというわけでない状況でも、困っている人がいれば行って助け出そうとする。このため、彼は敵、この場合はそのへんの犯罪者や不良共と戦うことがしばしばある。何度でも言おう、彼は元いじめられっ子のアメコミナードに過ぎない。そんなカクタスマンが彼らに勝てる道理もない。
しかし彼は携行武器を持つことをしない。「ヒーローはナイフなどを使わない。ヒーローは子供のお手本でなきゃいけない」と。ヒーローとして子供たちの規範たらんと、彼はサボテンの棘ひとつで、悪に挑み、返り討ちに遭う。
財団がはじめてカクタスマンに会った日もそうだった。カクタスマンは、財団が取り逃がした現実歪曲型のSCPを相手に、サボテンの棘ひとつで立ち向かっていた。無論、そのときも彼はそのオブジェクトに何のダメージも与えられず、財団が当該オブジェクトを再収容した際に一緒に『保護』されたのだ。
こうして彼は、己の無力さを知り、苛まされる。他者を助けることができない自身にいらだちを覚え、慢性鬱病をはじめとした複数の精神疾患を患い、自傷行為を試みている。財団は、彼を保護するための特別収容プロトコルを制定しており、可能である限り、他者を助けるための仕事を与え、彼の意欲と精神状態の改善を試みている。慢性鬱病等の改善と、それら精神状態による自傷行為の防止を目的に心理検査が行われ、自殺に対する限界監視下に彼は置かれている。
財団は、カクタスマンがかつて戦った地下鉄駅の監視カメラ映像を回収した。彼は、女性と子供を襲うナイフを持った不良に、やはり棘で立ち向かい、そして相手が怯んだ隙に縛り上げた。女性が警察を呼ぶなかカクタスマンはその場を立ち去ろうとする。しかし子供がカクタスマンを呼び止めて紙を手渡す。カクタスマンはその紙にサインをして子供に手渡した。
彼は確かに弱い。だが少なくとも、彼がヒーローであることには疑いは持ちようがない。
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最終更新:2024/05/19(日) 17:00
最終更新:2024/05/19(日) 17:00
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