ヒステリシス(英:hysteresis)とは、履歴現象とか履歴効果と和訳される言葉で、以下の意味を持つ。
本記事では1.について解説する。2.についてはヒステリシス(経済学)の記事を参照のこと。
1.の概要
たとえば磁石になっていない鉄の塊に磁石を近づけるとその鉄の塊も磁石のようになるが、磁石を離すと元のただの鉄の塊に戻ってしまう。しかし、鉄の塊にある一定以上の強い磁場に曝すとその鉄の塊は磁石となり、他の磁石を近づけても簡単には磁力を失わない。これを磁化という。仮にS極とN極を入れ換えるなら、始めより大きな磁場に曝す必要がある。
このように、過去に受けた外部の影響を保持する性質をヒステリシスと呼ぶ。そのため、履歴現象ということもある。強磁性体の磁力が特に有名で、他には強誘電体の分極やゴムの弾性、金属の塑性変型などが挙げられる。
物理現象の多くは線形に応答するため、ある状態Aが決まればある状態Xが分かる、と言うことが多い。しかし、Xがヒステリシスを持つ場合は状態Aをどのように変化させたか、という情報が無いと状態Xが決まらないということが起こる。逆にいえば、状態Xにヒステリシスがあるかどうか不明である場合、状態Aをある方向に変化させて状態Xを測定したならば、状態Aを逆の方向に変化させて測定する必要がある。たとえば低温から高温に上げて測定した後は高温から低温に下げてもう一度測定したほうが良い。
ヒステリシスを持つものを上記のサイクルで測定した場合、行きの曲線と帰りの曲線で囲まれる部分があらわれる。多くの場合、この曲線で囲まれる面積の分だけ熱などの何らかの形でエネルギー的損失となる。つまり、ヒステリシスがあると、無い場合と比べて変化させるのに余計なエネルギーが必要となってしまう。
ヒステリシスの応用例
IHヒーターは磁場を高速で変化させ、鍋やフライパンの中に誘導電流を流すことで発熱させている。熱の発生源は鍋の電気抵抗だけでなく、磁化ヒステリシスによる発熱が重要になる。通常発熱はエネルギーのムダになるが、IHの場合は磁化ヒステリシスによる損失が大きいほど効率がいいということになる。
また、モーターの鉄芯は回転に合わせて磁場が激しく変化するため、磁化ヒステリシスによる損失が発生する。モーターのエネルギー変換効率が落ちるだけでなくモーターが熱を持つ原因ともなるため、ヒステリシス損の少ない材料の鉄芯にすることが望ましい。
磁化ヒステリシスによる損失(ヒステリシス損)と誘導電流の電気抵抗による損失(渦電流損)を合わせて鉄損という。
命名者
この性質に「ヒステリシス」の名を付けたのは、イギリス人工学者・物理学者のジェームス・アルフレッド・ユーイングであるとされる。
彼が東京大学の教授だった頃、1881年に提出し1882年に出版された論文内で
the author now gives the name Hystēresis (ὑστέρησις, from ὑστερέω, to be behind).
と記している[1]。
なお、ユーイングはこの引用部分では「Hystēresis」と表記しているが、次の行では「hysteresis」と表記している。
ニコニコにおけるヒステリシスの例
- ゆっくりボイスが聞き取りにくくあまりゆっくり動画を見ていなかったが、とあるゆっくり動画シリーズにハマった結果ゆっくりボイスに慣れてしまい、むしろ肉声の実況動画を敬遠するようになった。
- 初音ミクの声が聞き取りにくく、歌ってみた系だけ視聴してあまりミク原曲を聞いていなかったが、とある曲にハマって以来(以下同上)。
- ホモに嫌悪感を持っていたが、とある動画を見て以来ホモに寛容になった。
- 特に嗜好は無かったが、ゆるゆりを見て以来百合しか受け付けなくなった。しかし、ゾンビランドサガを見て以来男の娘しか受け付けなくなった。
関連項目
脚注
- *Ewing, J. On the Production of Transient Electric Currents in Iron and Steel Conductors by Twisting Them When Magnetised or by Magnetising Them When Twisted. Proceedings of the Royal Society of London (1854-1905). 1882. 33:21–23
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