ウンベルト・エーコ(1932~2016)とは、イタリアの記号論哲学者、小説家である。
アレッサンドリアに生まれ、当初は法学をおさめるためにトリノ大学に入ったが、研究対象を中世哲学・文学に転向した。ラジオ放送局のプロデューサーを経た後、トリノ大学、ミラノ大学、フィレンツェ大学などで教鞭をとり、最終的にはサンマリノ共和国大学コミュニケーション学科創立者、ボローニャ大学大学院人文学研究科長、アカデミア・デイ・リンチェイ会員、オックスフォード大学ケロッグ・カレッジ名誉フェローを務めた。
世間的には『薔薇の名前』の作者としての方がおそらく名前が通るだろう。
エーコの理論はこの世界には「開かれた」テクストと「閉じられた」テクストの二つがあるということである。「開かれた」、というのは多様な解釈を許すあいまいなもの、ということではない。両者の違いは、読解はコンテクスト依存的であるという前提から、いかなるコード体系の下に読解されることを想定しているか、しないか、というものなのだ。
ここまでは例えばロラン・バルトといった受容美学・読者反応論者とさほど違いはない。しかしエーコオリジナルの思考としては記号論的アプローチがあげられる。例えばポピュラー・カルチャーと高級文化は同一の記号にまで還元でき、両者の垣根を無化することができる、というものである。そのために彼は現代的なヒーローものを原型的な物語に還元したり、逆に記号論をベストセラー小説に仕立て上げたりするのである。
エーコはあらゆる文化現象を「記号」として扱うことで「ポピュラー」と「高級」の間にある区別を掘り崩す、あるいは具体的な文脈において情報発信者による情報のコード化と、情報受信者による情報の脱コード化=読解の過程に関心を寄せる。彼は、このようにロラン・バルトの思想、あるいはカルチュラル・スタディーズと極めて関係が深い存在なのだ。
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最終更新:2024/05/14(火) 03:00
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