デデキントカットとは、数学の実数論において用いられる考え方である。
デデキント切断、あるいは切断とも呼ばれる。 この記事ではデデキントカットで統一する。
また、厳密な定義やこれを用いたさらなる計算等は棚上げし、「数学が苦手な人」「イマイチ理解できない人」向けに書いてる事をまず了承してほしい。
要素が小さい順番にならんだ集合Rがあるとする。
これを「集合A」と集合Aの全ての要素より大きい要素で構成された「集合B」に分ける(大きい方と小さい方の2群に分けるということ)。
この様な(A,B)をRのデデキントカットと呼ぶ。
R = A∪B, A≠∅,B≠∅ ; a∈A, b∈B ⇒ a<b
そして、Rがすべての実数の集合の時、以下のどちらかが成り立つ。これをデデキントの公理(定理)と呼ぶ。 (元とは、要素と同じ意味である。)
①Aに最大元がなく、Bに最小元がある。
②Aに最大元があり、Bに最小元がない。
別の表現をするなら数直線を2つに切ると、境目の一方は開区間、もう一方は閉区間になるということである。また別の表現をするなら数直線をx = aで切ると、 x < a, a ≤ xかx ≤ a, a < xに分かれるということである。
↑という文面について、分かりづらい人もいるかもしれないので、少し詳しく見てみよう。
集合Aに関する言説だけを見ると、Aとして「1と2とπと、4〜5の間全部と……」という具合に、好き勝手な実数の集合を選べそうに見える。しかしながら、実際にはAは「あるところから、それより小さいもの全部」と選ばないと駄目である。なぜならば、Aの選び方に隙間があると、そこの部分は必ずB に属さなければならず、「Bの元はAのすべての元より大きい」という条件に反するからである。
例えば無限に長いロープを考えよう。このロープの全体が、実数の全体である。
Aさんには-∞側を、Bさんには+∞側を持ってもらうとして、このロープを「デデキントカット」するためには、どこか一箇所だけを切断して「Aさん側にあるものは集合A、Bさん側にあるものは集合B」という具合にするしかない。
なぜこの分割をデデキント「カット」と呼ぶかは、この例えでおおよそ理解して頂けると思う。
となると唯一議論の余地があるのが、カットしたまさにその点がどこに行くか、である。そこでロープにとても小さい点を書いて、そこを目印にロープを切るとする。点はとても小さいので、点が左右に真っ二つになる事はない。
デデキントの公理(定理)によれば、この時、以下のどちらかが成り立つ。
①点がA側になく、B側にある。
②点がA側にあり、B側にない。
先程、①か②のどちらかになる。といったが、以下の様に分かれる可能性があるのではないだろうか?
③A側に最大元があり、B側にも最小元がある。
④A側に最大元がなく、B側にも最小元がない。
まず前提より、「集合A」と集合Aの全ての要素より大きい要素で構成された「集合B」とあるので、最大元=最小元となる事はない。最大元αは集合Aに属しており、最小元βは集合Bに属しているので、α<βという事がわかる。
ところで、「有理数は稠密である」と言われる。稠密とは「密集している」「ぎっしり詰まっている」という意味合いがあるのだが、これはどういう意味だろうか?
1と1.1は共に有理数であるが、その間に有理数はあるだろうか?1<δ<1.1である有理数δを考えればよい。例えばδ=1.01、1.012等…
さらに間を狭めよう。1と1.000000001も共に有理数であり、間に有理数がある。同様にもっともっと間を狭めても、その間に有理数があるという事が分かる。
この様に考える事で、「有理数と有理数の間にはまだまだ無限に有理数がある」という事が分かるだろう。
これが有理数がびっしり敷き詰まってる様を表し、有理数は稠密であると言わしめる所以である。
以上の事を踏まえて最大元αと最小元βが共に存在する、となると「その間にある有理数」が実数の全順序集合Rに含まれていない事に気付く。ロープに例えると、点αと点βの2ヶ所でロープを切ると「その間のロープはどこに行ったの?」という話である。
という事で③の「A側に最大元があり、B側にも最小元がある。」は成り立たない事が分かった。
先にロープの例を出すと、点をまず1つ打ってそこでロープ切断した結果、「点がA側にもB側にも無く、どこかへ行ってしまった」という事になるのだが、それはまず考えにくいという事を私達は知っている。
そして、数学的にこれを考えるのには少し頭をひねる必要がある。
例えば有理数の全順序集合Qを先程と同様にデデキントカットしよう。実は有理数におけるデデキントカットでは、「最大元と最小元がどちらも存在しない」は成立する。
例えば、次のようなAとBを考えてみよう。
A: 2乗すると2未満になる正の有理数、および0と負の有理数
B: 2乗すると2以上になる正の有理数
これはデデキントカットの条件を満たす取り方になっている。にもかかわらず、最大元αと最小元βは存在しない。なぜならば「2乗してちょうど2になる有理数」は存在せず、A側としては1.4,1.41,1.414,...、B側としては1.5, 1,42, 1.415...のように、その2乗が2に近付くような列をいくらでも取る事ができるからである。
しかしながら、私達は2乗するとちょうど2になる数が√2であり、それが無理数である事を知っている。そして実数全順序集合Rはその様な数も含まれている事を知っている。よって切断による数が不特定になる様な事は決してない。よって④の「A側に最大元がなく、B側にも最小元がない。」が実数の全順序集合Rのデデキントカットでは起こり得ない事が分かった。
以上から、デデキントカット(A,B)において「Aに最大限があり、Bに最小限がない」または「Aに最大限がなく、Bに最小限がある」のどちらかしか成り立たない事を改めて確認した。
さらに、「デデキントカットをすると、最大元か最小元のどちらか一方が存在する」という事は「実数を切断する上で、1つの数が確定する」を表してる。
例えば「2でデデキントカットする」という事は「Aの全ての要素≦2,2<Bの全ての要素」か「Aの全ての要素<2,2≦Bの全ての要素」のどちらかが成立するという事であり、これは2が実数の数直線の中にただ1つの点として含まれているという事を示してる。これは他のあらゆる実数でも適用でき、同様に1つの実数が数直線上で1つの点と1:1で対応している。
つまり、全ての実数が僅かな隙間なく並んでおり、数直線をどこかで切れば「何かの実数」に触れてしまう。
それは実数の連続性を示してる事に他ならない。それがデデキントカットの考え方だ。
蛇足になるかもしれないが、先程までのロープは細かい所まで見ると例えとして不適切かもしれない。
何故ならロープは分子や原子レベルまで見ると、確かに原子と原子の間に「隙間」があり、連続とは言えないのである。
最も相応しい例として、「日の変わり目」がある。例えば時間を(A,B)とデデキントカットした様に(31日,1日)と切断したとしよう。とすれば、切断面は時間はその日の変わり目なのだが、0:00と捉えるか24:00と捉えるかでその瞬間がどちらの日に含まれるかが変わってくる。
①日の変わる瞬間が0:00ならば … 31日が終わる時間はなく、1日の始まりは0:00である。
②日の変わる瞬間が24:00ならば… 31日が終わる時間は24:00であり、1日の始まる時間はない。
という発想ができる。同様の事がどの瞬間どの時間でも出来るので、時間というのは連続であり、あらゆる瞬間で前と後に分ける事ができる。この考え方はまさにデデキントカットだ。
また、デデキントカットで更なる問題を追及するのにε-δ論法は欠かせない。是非参考にしてほしい。
「実数は連続である」という今となっては当たり前の事実を、リヒャルド・デデキントやゲオルク・カントールは当時「無理数って何だよ…」と数学者が頭を抱えてる時代に「無理数論」としてまとめた。筆者はこの「今」を作る多くの偉人に感服している。
掲示板
23 ななしのよっしん
2020/09/06(日) 22:54:58 ID: ad6wy4rt8Q
対角線の長さが2である正方形は実在するし、その一辺の長さが無理数である証明も可能だったはず。
24 ななしのよっしん
2021/12/10(金) 00:47:32 ID: IdFBSwuT/G
25 ななしのよっしん
2022/12/20(火) 20:18:42 ID: kHNT6drW+k
>>23
それは要するに、ルート2なる数が有理数ではない(有理数の中では説明できない)ことの証明にすぎないよ
デデキント切断は要するに有理数しか知らない世界で無理数なるものを厳密に定義するにはどうすればいいか?ということなので…
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最終更新:2024/12/21(土) 02:00
最終更新:2024/12/21(土) 02:00
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