どの道を選ぼうと
間隙を縫うように
外へ持ち出す
あるいは一瞬の判断で
内に潜るそこでギアはトップへ
さらにアクセルを踏み込む
エンジンの爆音が響くそして突き抜ける
どの進路を選ぼうとも
彼は確実に突き抜ける
トロットスター(Trot Star)とは、1996年生まれの日本の競走馬。鹿毛の牡馬。
サクラバクシンオーのレコードを破った、2代目春秋スプリント王。
非常によく誤解・混同されるが、「雷帝」トロットサンダーとは特に何の関係もない。
主な勝ち鞍
2000年:CBC賞(GⅡ)
2001年:高松宮記念(GⅠ)、スプリンターズS(GⅠ)、シルクロードS(GⅢ)
父*ダミスター、母カルメンシータ、母父*ワイズカウンセラーという血統。
……はい、「なんか聞き覚えのない血統だなあ」と思ったそこの貴方、そう思うのも仕方ない。
何しろ父*ダミスターの血は日本ではもう途絶え、母父*ワイズカウンセラーの血も2024年現在、辛うじて現役の繁殖牝馬が1頭だけ残ってるらしいとかそういうレベルなので……。
父*ダミスターはイギリスで重賞3勝を挙げたアメリカ生まれのMr. Prospector産駒。1985年の英愛ダービーでともに3着などGⅠでは好走するが勝ちきれなかった。種牡馬入り後は欧州2歳王者にしてフランスダービー馬Celtic Swing(テイクオーバーターゲットの父)を輩出したが、1994年に日本に輸入され1995年から供用された。トロットスターはその輸入初年度の産駒。しかしトロットスター以外にはほとんど全く活躍馬は出ず、ユニコーンSを勝ったヒミツヘイキがいるぐらいである。
母は芝の短距離を走って13戦3勝。牝系は小岩井牧場が1907年に輸入した繁殖牝馬の1頭、*アストニシメントに始まる日本の基礎牝系である。トロットスターが属する第三アストニシメント牝系にはキシュウローレルやゴーイングスズカなどがいる。
母父*ワイズカウンセラーは凱旋門賞連覇の名馬Alleged産駒で、自身はGⅢを1勝したのみ。日本で種牡馬入りしたが全盛期のナリタブライアンに勝ったことで知られるスターマンを輩出した程度に終わった。現在その血はスターマンの代表産駒ナゾ(牝馬)の牝系が1頭だけ現役の繁殖で残っているようだ。
1996年5月11日、浦河町の荻伏三好ファームで誕生。もともとは母カルメンシータには皇帝シンボリルドルフをつける予定だったのだが、カルメンシータが種付けの際に暴れてしまいお流れに。そこで種付け上手と評判だった*ダミスターを代わりにつけて生まれたのが本馬だったという。
前述の通り、名前も適正距離も似ていて活躍年代もわりと近い「雷帝」トロットサンダーとよく混同され、「トロット」が冠名の同馬主とか、あるいはトロットサンダー産駒とか誤解されたりしがちだが、馬主も生産牧場も血統も、特に全く何の関係もない(大事なことなので2回言いました)。ファストフレンドとファストタテヤマとファストフォースぐらい無関係だし、ファインモーションとファイングレインとファインニードルぐらい無関係である。おかげで何かとトロットサンダーの陰に隠れがち。ちなみに馬主の名義貸し問題で引退するハメになったのはトロットサンダーの方なので誤解なきよう。
オーナーの高野稔の他の所有馬には、GⅠを期待させる素質を見せながらデビュー2戦目で予後不良になり、名伯楽・藤沢和雄調教師に「一勝より一生」「馬優先主義」のポリシーを確立させた悲運の大器ヤマトダマシイがいる。
※本馬の現役期間は2001年の馬齢表記変更を挟みますが、本記事では一部レース名を除いて馬齢は現表記に統一します。
アイネスフウジンの騎手として知られる、美浦の中野栄治調教師に預けられたトロットスター。デビューはやや遅く3歳1月の末だったが、ダート短距離でデビューすると2戦目で勝ち上がり、4月の5戦目で2勝目を挙げる。
ここで陣営は芝に切り替え、何故か関東馬なのにいわゆる東上最終便・京都4歳特別(GⅢ)に出走。5番手から3コーナーで先頭に立ったが、さすがに2000mは長かったか直線で沈んで10着。
そこで距離短縮して芝1200mの中日スポーツ賞4歳S(GⅢ)に向かうと、惜しくもサイキョウサンデーを追い込みきれずハナ差2着。これで以降は芝の短距離~マイル路線に進むことになった。
休養を挟んで10月の福島・芝1200mのみちのくS(1600万下)を勝ってオープン入りすると、短距離重賞戦線に向かったが、スワンS(GⅡ)6着、富士S(GⅢ)4着、スプリンターズS(GⅠ)7着と、大敗はしないが特に見せ場も作れない感じの地味~な結果で3歳を終える。
明けて4歳初戦のガーネットS(GⅢ)で久々にダート短距離に挑戦したが、何の見せ場もなく11着惨敗。
芝に戻ってシルクロードS(GⅢ)に向かうと、中団から直線で外から脚を伸ばし、まとめて前をかわした――と思った瞬間、さらに大外からカッ飛んできたブロードアピールの末脚に屈して2着。
高松宮記念(GⅠ)ではキングヘイロー悲願のGⅠ制覇の後ろでひっそり9着。やまびこS(OP)では好位先行から抜け出しを図るもダイタクヤマトの逃げに突き放されて2着。
安田記念(GⅠ)では単勝325.4倍というぶっちぎり最低人気だったが、掲示板確保の5着に好走。これで次走の関屋記念(GⅢ)では3.0倍の1番人気に支持されたが、直線で前を締められてしまい、審議になったが着順変わらず5着に敗れる。
……と、この頃はまあ、重賞でもぼちぼち好走するが勝ちきれない感じの、ごくごく地味な短距離馬であった。
秋を迎え、トロットスターは京成杯AH(GⅢ)で好位先行からGⅠ馬シンボリインディに差し切られたがクビ差2着に好走。
そして続く富士S(GⅢ)で、トロットスターは運命の相棒と巡り会う。ここまでいろんな騎手がコロコロと乗り替わってきて主戦のいなかった彼にとって、19戦目にして実に12人目の鞍上。蛯名正義である。
この富士Sは上がり最速の脚で追い込むもダイワカーリアンの逃げを捕らえきれずまた2着に敗れたが、続くオーロカップ(OP)を横山賀一の騎乗で2馬身半差の快勝、ようやくオープン初勝利を挙げると、鞍上が蛯名に戻ったCBC賞(GⅡ)では3.2倍の1番人気に支持され、ここまで手も足も出ないでいたブラックホークを豪快に差し切って1馬身半差で勝利。重賞挑戦13戦目にしてついに重賞初制覇を飾り、中野師も嬉しい重賞初制覇となった。以降は蛯名が主戦となる。
明けて5歳、初戦のシルクロードS(GⅢ)も1.8倍の支持に応え、馬群をこじ開けるように抜け出し2番人気タイキトレジャーとの追い比べをクビ差制して3連勝。前年のスプリンターズSで最低人気ダイタクヤマトが超大穴を開けるなどして混戦ムードになっていた短距離界において、一気に上がり馬として大きな注目を集めることになった。
というわけで迎えた本番・高松宮記念(GⅠ)ではダイタクヤマト(3.9倍)、ブラックホーク(4.0倍)と3強対決というオッズとなったが、トロットスターは馬体重-10kgがやや懸念されつつも堂々2.9倍の1番人気に支持される。
レースは先行集団が固まり、外目の枠から中団に構えたトロットスターは、蛯名騎手曰く道中の手応えがよくなかったそうだが、直線入口で距離ロスを恐れず一気に大外に持ち出すと鋭く反応。同じく中団前目にいたブラックホークが外から前を一気に呑み込もうとするが、そこへさらに大外から猛然と襲いかかるトロットスター! 最後はブラックホークを半馬身かわして栄光のゴール板へと飛び込んだ。
外を通って、ブラックホーク飛んでくる!
ブラックホーク飛んできた! ブラックホーク飛んできた!
ブラックホーク外、さらに外からもう1頭!
来たのは、来たのは、トロットスターだ!
トロットスターとブラックホーク! トロットスターか! ブラックホークか!
トロットスター! トロットスターが抜ける! トロットスター!
やはり恐るべき破壊力! トロットスターです!
高野オーナーも中野師も、生産者の荻伏三好ファームも揃って嬉しいGⅠ初勝利。ついでに関東馬のGⅠ連敗を16連敗でストップし、4連勝で一気に短距離界の頂点へと駆け上がった。
続いて安田記念(GⅠ)に向かったが、ブラックホークの復活勝利の後ろで終始後方のまま14着撃沈。あらら。既にマイルでは距離が長くなってしまっていたのかもしれない。
さて、夏場は休み、トロットスターは前哨戦を挟まずスプリンターズS(GⅠ)へ直行。令和の現在ではGⅠからGⅠへの直行は当たり前となったが、当時はステップレースを一叩きするのが常識の時代。スプリンターズSが秋GⅠの初戦になって2年目のこととはいえ、安田記念からの直行はまだ異例のローテだった。しかも前走は大敗、さらに馬体重+24kgとあってトロットスターは春王者にもかかわらず評価を下げ、8.1倍の4番人気に留まる。
しかしそんな競馬ファンの見方をトロットスターは一蹴する。レースは前走アイビスSDを勝ってきた3番人気メジロダーリングがユーワファルコンとやりあって前半3F32秒5の超ハイペースで飛ばし、トロットスターはインで後方に構えた。そのまま馬群の中で迎えた直線、蛯名正義とトロットスターは馬群を恐れずさらにインに潜り込むと、インに空いた進路をするすると上がっていく。メジロダーリングが逃げ込みを図り、さらに外から2番人気ダイタクヤマトがそれに食らいつく中、最内にいた1番人気ゼンノエルシドを歯牙にもかけず、するりとメジロダーリングの陰から抜け出したのはトロットスターだった。
200の標識を通過している、さあメジロだメジロだ、最内からゼンノエルシド、
外からダイタク! 外からダイタク! 真ん中を突いて、
トロットスター来た! トロットスター来た!! トロットスター来た!!!
3頭並んだ! 最内勢いだ!
トロットスタァァァァアア!!!!!手が挙がった蛯名正義!
時計は、1分、7秒、フラット! レコード!
ついにサクラバクシンオーの記録が0コンマ1破られました!
1994年、短距離王サクラバクシンオーが記録したレコードを7年ぶりについに打ち破る1:07.0の走破タイムで、フラワーパーク以来史上2頭目となる堂々の春秋スプリント連覇達成。このレコードが更新されるのは実に11年後、世界のロードカナロアによってのことになる。
マイルCS(GⅠ)はやっぱり距離が長かったか12着に沈んだ。その後は香港マイル(GI)への出走を予定していたが、直前になって体調を崩してしまい年内は休養となった。もちろんこの年のJRA賞最優秀短距離馬を受賞した。
かくしてスプリント界の統一王者に君臨したトロットスター。このままスプリントの絶対王者として君臨……していれば、レコードと合わせてサクラバクシンオーとロードカナロアの時代を繋ぐ名馬として語り継がれたかもしれなかったが……。
残念ながらこのスプリンターズSのレコード勝ちで燃え尽きてしまったかのように、その後のトロットスターの戦績にはあまり語るべきことがない。6歳も現役続行したものの、高松宮記念の5着が最高という凡走が続き、現役終盤はダートに戻ってMCS南部杯やJBCスプリントに挑んだりもしたが掲示板にも載れず、CBC賞で13着に敗れたのをもって現役引退となった。通算34戦8勝。
中野栄治調教師曰く、「筋肉が本当に柔らかかったんです」「あれほど切れる短距離馬はなかなかお目にかかれませんよ」とのことで、全盛期の輝きは短かったものの、末脚の切れ味と馬群を捌く器用さを武器に差し馬として活躍した名スプリンターであった。
引退後は日高スタリオンステーションで種牡馬入り……したのだが、地味な血統のためか種牡馬としては全くと言っていいほど人気がなく、初年度の種付け数は14頭で生産6頭、2年目でもう種付け数は僅か2頭に落ち込み、その後韓国に買われていった。しかし韓国でも大して人気は集めなかったようで、向こうでもこれといった産駒のないまま、2015年に19歳で死亡した。
*ダミスター 1982 黒鹿毛 |
Mr. Prospector 1970 鹿毛 |
Raise a Native | Native Dancer |
Raise You | |||
Gold Digger | Nashua | ||
Sequence | |||
Batucada 1969 黒鹿毛 |
Roman Line | Roman | |
Lurline B. | |||
Whistle a Tune | Double Jay | ||
Siama | |||
カルメンシータ 1989 栗毛 FNo.7-c |
*ワイズカウンセラー 1983 鹿毛 |
Alleged | Hoist the Flag |
Princess Pout | |||
Quarrel | Raise a Native | ||
Rhubarb | |||
グロウデイク 1982 栗毛 |
*ディクタス | Sanctus | |
Doronic | |||
シンラッキー | シンザン | ||
タジマラッキー |
クロス:Raise a Native 3×4(18.75%)
掲示板
1 ななしのよっしん
2024/02/16(金) 12:19:37 ID: BGXQIlIf/D
活躍期間こそ短かったけど名スプリンターだったね
急上昇ワード改
最終更新:2024/11/26(火) 23:00
最終更新:2024/11/26(火) 23:00
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