ウメノファイバー(Umeno Fiber)とは、1996年生まれの日本の競走馬。鹿毛の牝馬。
名牝トキツカゼの牝系子孫で、蛯名正義に初のクラシックタイトルを贈った「ピンクのサウスポー」。
主な勝ち鞍
1998年:京王杯3歳ステークス(GⅡ)
1999年:優駿牝馬(GⅠ)、クイーンカップ(GⅢ)
父サクラユタカオー、母ウメノローザ、母父*ノーザンディクテイターという血統。
父は1986年の天皇賞(秋)を日本レコードで制した快足中距離馬。種牡馬としても史上最強短距離馬サクラバクシンオーや黄金世代のマイル王エアジハードを輩出し、*テスコボーイ系を現代に繋げた。ウメノファイバーは9年目の産駒。
母は大井で35戦6勝、1991年の重賞グランドチャンピオン2000を勝った馬。半弟に1995年のセントライト記念を勝ったサンデーウェルがいる。ウメノファイバーは第4仔。
母父はアメリカのNorthern Dancer産駒で10戦3勝、重賞には出走したことすらないが、種牡馬として日本に輸入され、リキアイノーザンやタニノブーケなどを輩出した。
5代母トキツカゼは1947年の農林省賞典(現:皐月賞)と優駿牝馬を制し、繁殖牝馬としてもダービー馬オートキツと春天・有馬記念を勝ったオンワードゼアという2頭の年度代表馬を産み、JRA顕彰馬にも選出された戦後の名牝。
ほか、いとこにウインラディウス、近親にミスパンテールがいる。
1996年5月5日、新冠町のYSスタッドという家族経営の小さな牧場で誕生(生産者名義は代表の斉藤安行)。オーナーは母と同じく、「ウメノ」冠名を用いた梅崎敏則(東京の不動産会社、興和物産の代表。ちなみにシンザンとクラシック戦線で競ったウメノチカラの馬主とは別人)。
※この記事では馬齢表記は当時のもの(数え年、現表記+1歳)を使用します。
開業初年度の美浦・相沢郁厩舎に入厩。仕上がりは早めで、1998年7月12日、夏の函館・芝1200mの新馬戦にて山本康志を鞍上にデビューしたが、馬体重410kg台の小柄な馬体もあってか、当初の彼女は決して注目された存在ではなかった。デビュー戦は特に見せ場もなく10頭立ての5番人気7着。中1週で向かった折り返しの新馬戦(芝1000m)でも8頭立ての5番人気だったが、上がり最速で2馬身差の快勝で勝ち上がる。
函館3歳ステークス(GⅢ)では単勝90.7倍の16頭立て15番人気という全くの人気薄だったが、最後方から上がり最速で4着に好走。続く札幌3歳ステークス(GⅢ)では44.3倍の8番人気と少し評価を上げたが、今度は直線で伸びを欠き7着に終わる。
続いて向かったのは府中1400の京王杯3歳ステークス(GⅡ)。函館3歳Sで見せた末脚から、もう少し距離があって直線が長いのがいい、とここを選択したらしい。ここでも18.5倍の9頭立て6番人気と大して注目されていなかったウメノファイバーだったが、ここで彼女は運命の相棒と出会う。蛯名正義である。
そして陣営の見立ては見事的中、中団後方から進めたウメノファイバーは府中の長い直線で大外から上がり最速の末脚を繰り出し、新潟3歳S勝ち馬ロサードを3/4馬身かわして勝利。見事、相沢師、梅崎オーナー、YSスタッドに中央重賞初制覇を贈った。以後、蛯名が彼女の主戦となる。
晴れて重賞馬となったウメノファイバーは、そのまま阪神3歳牝馬ステークス(GⅠ)に参戦。しかし蛯名正義は騎乗停止になってしまっていたため、柴田善臣が代打騎乗となった。エイシンルーデンスとコウエイロマンがハイペースで大逃げするのを中団から進めたが、直線入口で前が壁になってしまい、内ラチ沿いに切れ込んだものの全く伸びず6着敗退。
明けて4歳、桜花賞を目指してクイーンカップ(GⅢ)から始動。このとき断然の1番人気は3連勝中のレッドチリペッパー。鞍上に蛯名が戻ったウメノファイバーはそれに次ぐ7.7倍の2番人気に支持される。
後にダートで大活躍するゴールドティアラが逃げるのを、今度は前の3番手で追走したウメノファイバーは、そのまま直線鋭く脚を伸ばし、ゴールドティアラをかわして先頭へ。後ろから断然人気のレッドチリペッパーが追い込んできたが、追撃をクビ差凌いで勝利。重賞2勝目を挙げる。
これで桜花賞(GⅠ)へと直行で乗りこんだが、当時はまだトライアルを叩くのが当然の時代、そもそも重賞2勝はどっちも府中で、阪神3歳牝馬Sでは見せ場なく敗れていることもあり、21.8倍の8番人気という評価に留まる。そしてレースも末脚不発に終わり、プリモディーネ・フサイチエアデール・トゥザヴィクトリーの激闘を見送るばかりの6着に終わった。
続いて向かった優駿牝馬(GⅠ)。1番人気はトゥザヴィクトリー、2番人気は桜花賞12着から4歳牝馬特別(東)を勝って巻き返しを誓うスティンガー。3番人気は桜花賞馬プリモディーネである。ウメノファイバーはというと、得意の府中ではあったが、距離は未知の2400m。いくら末脚自慢かつ父譲りの府中巧者でも、さすがに距離が長いのでは?と、ここでも彼女は16.9倍の7番人気に留まった。
そして距離の不安は、鞍上の蛯名正義も感じていた。この府中2400という距離でウメノファイバーの末脚を活かすにはどうしたらいいか? 蛯名騎手の出した答えは明快であった。
すなわち、最初の800mは後ろでゆったりリズム良く走らせ、残り1600mからマイルの競馬をする――かつて岡部幸雄がクシロキングの1986年天皇賞(春)でやったのと同じ種類の作戦である。
大外の8枠16番からスタートしたウメノファイバーはゆったりと後方に構える。逃げ馬エイシンルーデンスが速めのペースで飛ばし、集団はそれを放ってスローで流れる展開をスティンガーやプリモディーネと見ながら進めたウメノファイバーは、直線で大外に進路を取ると蛯名正義のゴーサインに応えて加速。内では好位から抜け出したトゥザヴィクトリーが悠々と後続を突き放し、これはトゥザヴィクトリーが勝った、とみんな思ったところに、大外から襲いかかるウメノファイバー! 最後は内外離れて横並びのゴール、鞍上もどっちが勝ったかわからないぐらいの接戦になったが、僅かにハナ差、ウメノファイバーが差し切っていた。
相沢師、梅崎オーナー、YSスタッドはもちろん揃って初GⅠ制覇。初のクラシックタイトルを獲得した蛯名正義は後年このレースを振り返って「全てが上手くいった」「もう一回やったら負けるかもね」と語っている。蛯名正義の名騎乗で名牝を打ち破った、文句無しに快心のレースであったと言えるだろう。
そして競馬ファンは、府中で3戦3勝、右回りの重賞では全て馬券外という彼女のことを、京王杯とオークスの8枠ピンク帽からピンク・レディーのヒット曲にちなんで「ピンクのサウスポー」と呼んだ。相棒・蛯名正義もこれを含めたGⅠ3勝が全て府中だったため、人馬ともサウスポーとも言われたのだった。
かくして樫の女王となったウメノファイバーだったが、オークス単冠馬らしく(?)、その後の戦績に語ることは多くない。秋は秋華賞(GⅠ)に直行したが、ここでも4番人気に留まり、ブゼンキャンドルとクロックワークの大波乱に差されて4着。果敢に挑戦したジャパンカップ(GⅠ)は何の見せ場もなく12着に終わる。
明けて5歳は相棒の蛯名正義に去られてしまう。半年の休み明けで新たに佐藤哲三を迎えた京王杯スプリングカップ(GⅡ)で84.8倍の12番人気まで評価を落としながら、後方から上がり2位の末脚で4着と相変わらずの府中巧者ぶりを見せたが、後藤浩輝が騎乗した安田記念(GⅠ)では10.1倍の8番人気と穴人気しながら12着撃沈。
以降は穴人気こそ集めたものの自慢の末脚は鳴りを潜め、佐藤哲三と向かった府中牝馬ステークス(GⅢ)は11着、オリビエ・ペリエを迎えたエリザベス女王杯(GⅠ)も12着に終わり、また佐藤が騎乗した年末の阪神牝馬特別(GⅡ)を6着としたところで現役引退となった。通算16戦4勝 [4-0-0-12]。
引退後は故郷のYSスタッドで繁殖入り。母は梅崎オーナー所有の預託馬だったが、梅崎オーナーが馬主業を縮小したため、彼女は牧場の所有となった。YSスタッドはそれまで主に地方向けの馬を生産していたが、ウメノファイバーを基幹牝馬として中央向けに生産方針を切り替えることになった。
ウメノファイバーの直仔からは目立った産駒は出なかったものの、5頭の牝馬が繁殖入りすると孫世代が大きく躍進。初仔のレディーダービー(父スペシャルウィーク)が重賞2勝のヴェルデグリーンと2022年の京都2歳Sを勝ち翌年の皐月賞・ダービーにも出走したグリューネグリーンを輩出。第5仔アンフィルージュ(父アグネスタキオン)は2018年の皐月賞2着馬サンリヴァルと、福島記念2着・七夕賞3着などのヴァンケドミンゴを輩出している。
故郷のYSスタッドは斉藤代表が後継者不在のため、2017年に施設と繁殖牝馬をハクレイファームに引き継いだ。ウメノファイバーもハクレイファームの所有となり、2019年にハクレイファームでの産駒を産んだところで繁殖引退となった。
その後もハクレイファームで功労馬として繋養されていたが、2021年9月12日、老衰のため25歳で死亡。現在はハクレイファームに墓碑が建てられている。ウメノファイバーの血統は今後もハクレイファームの中核として続いていくだろう。
| サクラユタカオー 1982 栗毛 |
*テスコボーイ 1963 黒鹿毛 |
Princely Gift | Nasrullah |
| Blue Gem | |||
| Suncourt | Hyperion | ||
| Inquisition | |||
| アンジェリカ 1970 黒鹿毛 |
*ネヴァービート | Never Say Die | |
| Bride Elect | |||
| スターハイネス | *ユアハイネス | ||
| スターロツチ | |||
| ウメノローザ 1986 鹿毛 FNo.1-b |
*ノーザンディクテイター 1974 鹿毛 |
Northern Dancer | Nearctic |
| Natalma | |||
| Dictates | Bold Ruler | ||
| Punctilious | |||
| ウメノシルバー 1979 芦毛 |
*シルバーシャーク | Buisson Ardent | |
| Palsaka | |||
| ストロングベビー | *セダン | ||
| マリアンナ |
クロス:Nasrullah 4×5×5(12.50%)、Nearco 5×5(6.25%)
掲示板
1 ななしのよっしん
2024/12/23(月) 10:32:59 ID: PERqduzaGW
2 ななしのよっしん
2024/12/23(月) 12:16:56 ID: apqb5mDwpL
生産者の斉藤さんが高齢になって経営継続が困難になったところで、牧場と所有の肌馬をまとめて若いブリーダーに買い取ってもらえた
ウメノファイバーが亡くなって墓を建てた時「小さな牧場からGⅠを勝って、今私が老後まで元気でいられるのもウメノファイバーのおかげです。最期まで面倒をみていただき、立派な墓まで立ててもらって感謝しかない」と斉藤さんはコメントを出してる。まさに牧場の竈馬というやつだし、生産牧場がうまく承継された幸せな事例だったと思う
急上昇ワード改
最終更新:2025/12/10(水) 21:00
最終更新:2025/12/10(水) 21:00
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