指名打者(Designated Hitter、略称:DH)とは、野球の試合において投手に代わり打席に立つ、打撃専門の選手のこと。
野球は1チーム9人で行われるスポーツであり、攻撃の際には9人が打順表に書かれた順番通りに打席に立ち、守備の際には9人各々が打順表に書かれた守備位置に立つ。そのうち他の8つと比べて負担が大きく特殊な守備位置といえるのが投手であり、打撃力に関しては期待されないことが多いばかりか、負担軽減のためにわざと打撃の気力を見せない戦略すら当然のようにみられる。
このように、投手が打席に立つとアウトになることが多い状態であったことから、1928年に「投手を打席に立たせず、その代わりに10人目の選手を打席に立たせる」というDH制のルールが提唱された。当時は却下されたものの、その45年後、極端に投高打低状態だったアメリカンリーグが1973年から採用。これを参考に、日本では1975年からパ・リーグが採用し、その他日本の大学野球や社会人野球、各国の野球リーグや国際大会でもDH制が採用されるケースが増えている。長らくDH制を採用していなかったナショナルリーグも2022年から採用した。
DH制を導入していないプロ野球リーグは日本のセ・リーグが挙げられる。日本では少年野球や高校野球もDH制を採用していない。大学野球ではリーグ戦では東京六大学野球連盟と関西学生野球連盟、全国大会では明治神宮野球大会でDH制を採用していない。
DHは一切守備につくことがないという特性から、守備が拙いが打力に秀でた選手が主に起用される。例えば、打撃のみの助っ人外国人や、加齢や故障によって守備能力が衰えたベテラン選手の起用が多いほか、普段は守備についている選手が軽度の負傷により負担軽減としてDHで起用されるケースもある。
このように、DH制がなければ出場することが出来なかった選手が、その恩恵を受けて負担を抑えて出場することができるのはDH制の利点であると言える。その一方、「守備に就かないとリズムが作れない」とDH起用を嫌がる選手もいる。
なお、DH制は野球にあまり興味がない人から見ると戸惑いやすいルールと言われている。これには、以下のような理由があると思われる。
つまるにDH制のメディア露出が少ないことや、打つだけや投げるだけの選手の存在に馴染めないことなどが、指名打者に対する戸惑いを生んでいるのだろう。
DHの有り無しでの最大の違いは投手の打席があるかないかである。プロレベルの場合、通常投手の打撃は野手に比べ格段に落ちるもので、打率は1割台で普通、2割も行けば文句なしというレベルである。それにかわってDHとして出る打者は前述のように打撃に秀でた選手が出ることが多いので、打率にして3割前後、また長打力に関しては投手とは比べ物にならないだろう。
そのためDHのあるパ・リーグの投手(特に先発投手)の投球成績は、セ・リーグの投球成績に比べて幾分プラスして考えると言うのは野球ファンにとって暗黙の了解となっている。……のだが、近年は球界を代表するエース格の投手がパ・リーグに集まっているため、投手タイトルはパ・リーグの方がハイレベルな争いになることが多い(リーグ全体を平均するとやはりパ・リーグの方が防御率が悪いのだが)。
投手の投球内容にもDH制がかかわってくると言われている。DHが無い場合は、投手が好投していたとしても試合の内容によっては代打を使わなければいけないのは良くあることである。しかしDHがあれば投手の代え時は、その投手の投球内容だけで判断することが出来る。
このことからセ・リーグでは中継ぎ投手がより育ちやすく、パ・リーグでは先発投手が育ちやすい土壌であると俗に言われている。
つまりDH無しであれば、どこで投手に代打を出すのか、さらにそれに絡んでくる投手の継投のタイミングが最大の悩みどころであり、監督の采配の見せ所である。一方DH制での野球はより分業が成された形から、より個々の選手の優れた部分のパフォーマンスを見ることが出来るスタイルであると言える。
先発出場した指名打者は原則として、最低でも1打席を完了しなければならない(ただし、相手投手が指名打者の第1打席より先に降板した場合、および怪我でプレーの続行が不可能になった場合を除く)。
このルールが設けられた1982年、阪急ブレーブスの上田利治監督が、5番DHに偵察メンバーとして投手の山沖之彦を入れてしまい、代打を出せず山沖が打席に立つ羽目になる、という珍事があった(結果は三振)。
またオリックス・ブルーウェーブに所属していたトロイ・ニールは、1998年5月15日のダイエー戦で4番DHとして出場したが、試合開始前からひどい下痢に見舞われ、交替を申し出たものの上記のルールで交替できず、腹痛をこらえながら打席に立ってホームランを打ち、全速力でベースを一周してそのままトイレに駆け込んだ。
最近では2011年5月20日、交流戦で広島東洋カープの野村謙二郎監督が7番DHに投手の今村猛を入れてしまうという事件が起きた(関連動画参照。結果は犠打)。
2014年11月24日に行われたオリックス・バファローズのファン感謝イベントにおいて、選手が本来のポジション以外で守備をする「リアル野球対抗戦」が行われた。先発ピッチャーは安達了一とT-岡田であった。もちろん、互いのチームのDHは投手である。2回裏(イベントの都合上2イニングまでとなった)、安達了一から齋藤俊雄にピッチャー交代となった。犠牲フライでサヨナラの場面、監督岸田護はDHに入っていた投手に代わり、先発ピッチャーであるT-岡田を代打起用した。結果としてT-岡田は犠牲フライを放ち、チームに勝ちをもたらした。負けたチームの監督である平野佳寿はこの選手交代が成立するのか審判に確認したが、審判は上記のように先発投手がすでに交代完了している場合はDHに1打席義務はないことから、代打T-岡田は成立するとした。
なお、1打席を完了したあとはDHも自由に交代することができる。ただし、DHは打順が固定されており、多様な交代によってDHの打順を変更することはできない。
つまり、DHと野手の守備位置を交換することはできない。また、DHの選手に出した代打や代走は、そのままDHに入ることになり、守備に就くことはできない(下記のようにDHを解除した場合を除く)。
DH制で行われている試合でも、DHを使うか使わないかは各チームの自由である。ただし、一度DHを放棄した試合で試合途中からDHを使用することはできない。そのため、使わなければ自チームが一方的に不利になるだけであり、通常は両チームともDHを使用する。
プロ野球の2軍や社会人野球などの場合、怪我人が続出した場合に選手が足りなくなり、やむを得ずDHを最初から使用しなかったり、途中で放棄するということもある。
日本プロ野球の公式戦において、例外的にDHを最初から放棄したケースは以下の2つが挙げられる。
また、オープン戦においてセ・リーグ(DHなし)とパ・リーグ(DHあり)の球団が試合をする場合、シーズンに備えてセ・リーグの球団がDHを使わずに投手を打席に立たせることがある。
DHは試合途中で解除することもできる。このとき、選手がひとりベンチに退き、以降は9人で試合を戦うことになる。
これはそれほど珍しいものではなく、延長が進みDHを解除してももう投手まで打順がめぐって来ないときなどにDH解除の措置がとられることがある。また、交流戦が近かったりシーズン終盤だったりしたときに大差がついた場合、交流戦や日本シリーズに備えてDHを解除して守備につかせてみることもある。
試合途中でDH解除となるのは以下の4つのケースである。上述の通り一度DHが解除されると、再びDHを使用することはできない。
非公式な練習試合では両監督の申し合わせの上、一度放棄したDHの復活や、DHの打順変更などが発生することもある。
一例として、2020年6月9日に行われたDeNA対巨人の練習試合にて、試合開始時にDHを放棄していたDeNA・ラミレス監督が、投手に代わって起用した代打をDHに入れるという戦術をとった。この守備変更を受け、Yahoo!が運営する「スポナビ野球速報」アプリでは「想定外の事象が発生したため速報を中止しました」と表示。アプリ内の試合日程カレンダーからは試合情報自体が削除され、外部サイト(日刊スポーツの野球速報サイト)へのリンクが貼られるという異例の対応がとられた(スポナビWebサイトの魚拓。「DeNAvs.巨人」のみリンク先が異なっていることが確認できる)。
普段なら速報対象とならない練習試合が新型コロナウイルスの影響でスポナビ野球速報の対象となったがために、ルール上不可能なDH復活にシステムが対応できなかったためとみられ、翌日以降は急遽システム改修が行われたようでDH復活やDHの打順変更に対応している。
投手が打順に入る場合はDH放棄の扱いとなるため、降板後はベンチに退いて後の打席に立たないか、野手として守備について後の打席に立つかの2択となる。だが、MLBでは2022年から、日本でも2023年から先発投手がDHを兼務できるルールが採用された。このルールでは投手としての降板後も打席に立ち続けたり、打者として代打を出された後もマウンドに立ち続けることが可能となる。
2021年7月13日に行われたMLBオールスターゲームにて投手と指名打者の両方で選出された大谷翔平を投手降板後も打席に立たせるために設けられた特殊ルールで、このルールが正式に導入された翌年の開幕戦から実際に大谷翔平がDH&先発投手として出場している。このルールを活用するのは現時点で大谷翔平だけと考えられることから、現地のマスメディアからは「Ohtani Rule」と報じられた。
前述の「放棄したDHの復活」と似たような効力を有するが、投手が打順に入るわけではなく、あくまで投手とDHの2人に分身するという扱いになる。そのため、DHのルールにおける制約(1打席を完了するまで交代不可、DHと野手の守備位置交換は不可)はそのまま適用される。また、救援投手を分身させることはできず、投手交代時はDHを解除するか、別の選手をDHとして新たに出場させる必要がある。
ただし、前述のスポナビアプリでは大谷の分身が不可能だったようで、「1番投手として先発→降板後にDH復活」という扱いとなっている。
野球ゲームなどではDH放棄・解除のルールが採用されていなかったり、実際には不可能な選手交代(DHと野手の守備位置交換など)が可能だったりする場合もある。
実況パワフルプロ野球シリーズでは、2016年度版の途中まではDH放棄が不可能だったが、リアルイベントにゲストとして呼ばれた大谷翔平から指摘され、後日のアップデートによりDH放棄が可能となった。2018年度版以降もDH放棄は可能な様子である[1]。
ソフトボールでもかつてDHが存在したが、野球と違い投手に限らず任意の野手の代わりとして打席に立つことができた。また、完全に打撃専門で、リエントリー(スタメンは一度交代でベンチに退いても再出場できるというソフトボールのルール)が不可能であった。
2002年にルール改正され、これによく似た指名選手(DP)制に変更となった。打撃専門の選手をDP(Designated Player)、守備専門の選手をFP(Flex Player)と呼ぶ。
FPがDPの代わりに打席に立つことができる、DPが守備につくことができるという点ではDHとよく似ているのだが、最大の違いはDPがFP以外のプレイヤーの守備位置につくことができるという点である。具体例で説明すると、DPが二塁手の守備につくことができ、もともとの二塁手は打撃専門として引き続き出場することとなる。なお、こうなった場合でもDPが他の選手に交代したというわけではなく、代わりに打撃専門となった選手は打撃専門選手(OPO: Offensive Player Only)と呼ばれる。また、DPはリエントリーが可能である。
また、DPはFPの守備を兼任することができる。この場合FPは試合から退き、9人で試合を続行することになる。同様にFPがDPの打撃を兼任することもできる。この場合DPは試合から退き、DPのいた打順を引き継いてFPが打撃を行うことになる。OPOの打順を引き継ぐことは認められない。
FPは他の野手と守備位置を交代することもできる。この場合DH制と異なり、DP/FPを解除する義務はない。
ア行 | カ行 | サ行 |
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タ行 | ナ行 | ハ行 |
マ行 | ヤ行 | ラ行 |
ワ行 | ||
ア行 | カ行 | サ行 |
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タ行 | ナ行 | ハ行 |
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マ行 | ヤ行 | ラ行 |
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ワ行 | ||
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投手 | 先発投手 / 中継ぎ投手 / 抑え投手 |
捕手 | バッテリー |
内野手 | 一塁手 / 二塁手 / 三塁手 / 遊撃手 |
外野手 | 左翼手 / 中堅手 / 右翼手 |
その他 | 指名打者 / 監督 |
掲示板
88 ななしのよっしん
2023/10/16(月) 04:02:01 ID: 5G2PRFc2X3
バウアーがDH制のあるパ・リーグに行きたいって話でまたセ・リーグのDH制論争が加熱しそう
この第一報でキレてるのDeファンじゃなくて巨人ファンが殆どなのは笑う
色々分かるけどね
89 ななしのよっしん
2025/01/09(木) 00:24:24 ID: H9Jix6BryQ
榊原コミッショナー「セ、パでルールが違うのはノーマルな状態ではない」セのDH制導入に私見
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90 ななしのよっしん
2025/01/30(木) 11:11:41 ID: SeNcfHTtyF
セ・リーグDH制どうするかのニュースとかへの反応を見てると
「DH制導入したらDHの利用が義務になる」と思い込んでる人がけっこういて驚く
記事中にも「試合開始時からDHを放棄する場合」のセクションがあるように利用は任意
そこに載ってない実例だと、カープは二軍のホームゲームでDHをほとんど使ってない
(おそらく一軍での試合の流れに慣れさせる目的)
まぁ実際導入された場合はDH不使用を選択したら明らかに勝ちから遠ざかるから
DH利用しろという圧が働いて結局利用することにはなるんだろうけど
あとは「二刀流が育つ土壌が廃れる」というのも完全な誤解というか正反対で
打てる投手は打席に立てばいいだけし大谷ルールならむしろプラスになる
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最終更新:2025/03/30(日) 18:00
最終更新:2025/03/30(日) 18:00
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