限界貯蓄性向(marginal propensity to save)とは経済学の言葉である。MPSと略される。
関連する言葉は限界消費性向である。
可処分所得Y-Tが1増えたときの貯蓄Sの増加量のことを限界貯蓄性向MPSという。
限界貯蓄性向MPSは「貯蓄Sの増加量÷可処分所得Y-Tの増加量」で計算され、0以上1以下の数字をとり、0≦MPS≦1である。
現実の人間は大抵の場合においてMPSを0や1にしない。ゆえに現実の限界貯蓄性向MPSは0を超えて1よりも小さい数字をとり、0<MPS<1になる。
タテ軸貯蓄S・ヨコ軸可処分所得Y-Tの貯蓄関数モデルを書くとする。貯蓄関数の線は右肩上がりの直線になり、傾きが限界貯蓄性向MPSになる。貯蓄関数の線がY軸と交わるY切片は基礎貯蓄といい、0にならないとされ、0よりも大きい数字になる。
可処分所得Y-Tが増えたとき、人は消費Cか貯蓄Sのどちらかに可処分所得Y-Tを振り分け、それ以外に可処分所得Y-Tを振り分けない。
可処分所得Y-Tが1増えたときの消費Cの増加量のことを限界消費性向MPCという。限界貯蓄性向MPSと限界消費性向MPCの合計は常に1となり、MPS+MPC=1となる。
国家は投資Iか純資本流出CFのどちらかに貯蓄Sを振り分け、それ以外に貯蓄Sを振り分けない。ここでの投資Iは国内投資のことで、純資本流出CFは海外投資のことである。
可処分所得Y-Tが1増えたときの投資Iの増加量のことを限界投資性向MPIという。可処分所得Y-Tが1増えたときの純資本流出CFの増加量のことを特別に名付ける文献はなかなか見当たらないが、あえて命名するのなら限界純資本流出性向MPCFとなるだろう。
限界投資性向MPIと限界純資本流出性向MPCFの合計は常に限界貯蓄性向MPSとなり、MPI+MPCF=MPSとなる。
限界投資性向MPIと限界純資本流出性向MPCFと限界消費性向MPCの合計は常に1となり、MPI+MPCF+MPC=1となる。
限界貯蓄性向MPSは、基本的に、国家の性質を示すマクロ的数値として使われる。
しかし、個人の性質を示すときに限界貯蓄性向MPSを使うことがある。「高所得層に属する個人は限界貯蓄性向MPSが大きく、低所得層に属する個人は限界貯蓄性向MPSが小さい」とか「大金持ちのウォーレン・バフェットは質素な生活をしつつ国内投資や海外投資を大きな金額で行っており限界貯蓄性向MPSが非常に大きい」とか「宵越しの金を持たない江戸っ子や浪費癖のある人は限界貯蓄性向MPSが非常に低くて0に近い」と表現することがある。
人々が不安になって将来に対して悲観的になると、限界貯蓄性向MPSが上昇する。
景気が悪くなると人々が不安になって将来に対して悲観的になり、予備的貯蓄をしようとして、限界貯蓄性向MPSが上昇する。
政府が「我々には政府購入をする意思もないし能力もない」「我々は財政破綻寸前である」と派手に宣伝しつつ政府購入を縮小すると、人々が「困ったときも政府が助けてくれず、親方日の丸・親方星条旗で生きていけない」と思うようになり、人々が不安になって将来に対して悲観的になり、限界貯蓄性向MPSが上昇する。
限界貯蓄性向MPSが上昇すると、可処分所得Y-Tが同一であっても国民貯蓄Sが増えるので、閉鎖経済の国や大国開放経済の国なら「クラウディングアウトの逆」が発生し、実質利子率が下落して投資が増える。実質利子率が下落すると、企業の借り入れ費用が減り、企業が税引後当期純利益を増やしやすくなり、株主に支払う配当金が増えやすくなり、株主資本主義にとって理想の状態に近づく。
日本の限界貯蓄性向MPSは0.3程度で、アメリカ合衆国の限界貯蓄性向MPSは日本よりも低くて0.2~0.1程度とされている。
この原因を簡単に分析すると次のようになる。日本は株主資本主義者が多く、国債恐怖症が広がっていて、財政破綻論が幅をきかせている。そのため人々が「困ったときも政府が助けてくれず、親方日の丸で生きていけない」と信じ込んでおり、人々が不安になっていて将来に対して悲観的であり、人々の限界貯蓄性向MPSが高くなっている。
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最終更新:2025/12/06(土) 04:00
最終更新:2025/12/06(土) 03:00
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