クラウディングアウト 単語


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クラウディングアウト

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クラウディングアウトとは、経済学の言葉である。

概要

定義

政府購入や消費を増やす財政政策を行うことで実質利子率を上昇させて投資を減少させることをクラウディングアウトという。

完全な閉鎖経済の国で顕著に発生する

クラウディングアウトは全な閉鎖経済において顕著に発生する。全な閉鎖経済とは、輸出輸入が全く起こらず純輸出ゼロであり資本流出資本流入が全く起こらず純資本流出ゼロであるのことである。

クラウディングアウトをモデルによって説明するときは、そのモデル全な閉鎖経済を表すことを前提にすることが定番である。

大国開放経済の国で部分的に発生する

クラウディングアウトは大国開放経済で部分的に発生する。

大国開放経済政府購入や消費を増やすと、実質利子率が上昇して投資純資本流出が減る。政府購入の増加額と消費の増加額を足した数値は、投資の減少額と純資本流出の減少額を足した数値と一致する[1]

小国開放経済の国で発生しない

クラウディングアウトは小国開放経済で発生しない。

小国開放経済政府購入や消費を増やすと、それまで世界共通実質利子率と同一だった実質利子率がいったん上昇する。しかし、海外発のキャリートレードが起こって自通貨買い・外通貨売りが起きる。

固定相場制を採用しているのなら中央銀行名目為替レートを維持するために自通貨売り・外通貨買いを行い、自通貨売りによってマネーサプライMが増えて名目利子率が下落し、期待インフレ率が硬直的な短期において実質利子率も下落し、実質利子率世界共通実質利子率準に戻る。変動相場制を採用しているのなら自通貨高・外通貨安になり、純輸出が減って実質GDPが減り、実質貨幣残高M/Pへの需要が減るために名目利子率が下落し、期待インフレ率が硬直的な短期において実質利子率も下落し、実質利子率世界共通実質利子率準に戻る。

こうして実質利子率が維持され、投資が維持される。政府購入の増加額と消費の増加額を足した数値は、純資本流出の減少額と一致し、純輸出の減少額とも一致する[2]

クラウディングアウトの説明

投資資金モデルでの説明

全な閉鎖経済におけるクラウディングアウトは、タテ軸実質利子率r・ヨコ軸投資資金Iの投資資金モデルで説明できる。

投資資金需要曲線は右肩下がりである。実質利子率rが高くなって利子の支払いという費用が増えると、「収益-費用-法人税など=税引後当期純利益=利益剰余金追加金」で計算できる利益剰余金追加金が減り、利益剰余金追加金を使って元本の返済の資金を積み立てることが難しくなり、元本の金額を小さくする必要に迫られ、投資資金Iを少なく借り入れるようになる。実質利子率rが低くなって利子の支払いという費用が減ると、「収益-費用-法人税など=税引後当期純利益=利益剰余金追加金」で計算できる利益剰余金追加金が増え、利益剰余金追加金を使って元本の返済の資金を積み立てることが易しくなり、元本の金額を大きくすることができ、投資資金Iを多く借り入れるようになる。

投資資金供給曲線は、どれだけ実質利子率rが上昇しても限界貯蓄性向MPSや限界消費性向MPCが一定のままの民ばかりのなら垂直線になり[3]実質利子率rが上昇すると限界貯蓄性向MPSが増えて限界消費性向MPCが減る民が多いなら右肩上がりになる[4]入門者向けの経済学教科書では話を単純化させるために前者の状態で描かれる。

国家全体の資金(総所得Y、実質GDP)」から「政府購入Gに向けられる資金」と「消費Cに向けられる資金」と「純資本流出CFに向けられる資金」を引くと、「投資Iへ向けられる資金」を得られる。つまりY-G-C-CF=Iである。

そして全な閉鎖経済純資本流出CFゼロなので、「投資Iへ向けられる資金」はY-G-C=Iと計算することができる。

政府購入Gや消費Cが増えると、「政府購入Gに向けられる資金」や「消費Cに向けられる資金」が増えるので、その煽りを食って「投資Iへ向けられる資金」が減り、投資資金供給曲線が左に行移動し、均衡点が右肩下がりの投資資金需要曲線に沿って左上に移動し、実質利子率rが上昇して投資資金Iが減る。

簡単に言うと次のようになる。内の資金には限りがある(Yが一定である)。政府が財政政策で政府購入や消費を増やすと(GやCを増やすと)、内の資金は政府購入や消費に向かうことが増えるので投資に向かうほどの余裕を失い、投資資金の量が少なくなる(Iが減る)。投資資金供給曲線が左に行移動し、均衡点が右肩下がりの投資資金需要曲線に沿って左上に移動し、実質利子率rが上昇して投資資金Iが減る。

投資財モデルでの説明

全な閉鎖経済におけるクラウディングアウトは、タテ軸実質利子率r・ヨコ軸投資財Iの投資モデルで説明できる。

投資財とは、1年をえる長い時間を掛けて消耗する財のなかで一般的に高額であることを理由として政府に選ばれたものである。政府GDPを算出するときは住宅や工場投資財に入れて自動車テレビを消費財に入れるのだが[5]、その理由は住宅や工場が一般的に高額で自動車テレビが一般的に低額であるからである。

投資財需要曲線は右肩下がりである。実質利子率rが高くなって利子の支払いという費用が増えると、「収益-費用-法人税など=税引後当期純利益=利益剰余金追加金」で計算できる利益剰余金追加金が減り、利益剰余金追加金を使って元本の返済の資金を積み立てることが難しくなり、元本の金額を小さくする必要に迫られ、投資資金Iを少なく借り入れるようになり、投資財Iを少なく購入するようになる。実質利子率rが低くなって利子の支払いという費用が減ると、「収益-費用-法人税など=税引後当期純利益=利益剰余金追加金」で計算できる利益剰余金追加金が増え、利益剰余金追加金を使って元本の返済の資金を積み立てることが易しくなり、元本の金額を大きくすることができ、投資資金Iを多く借り入れるようになり、投資財Iを多く購入するようになる。

投資財供給曲線は、垂直線になったり右肩上がりになったりする。入門者向けの経済学教科書では話を単純化させるために前者の状態で描かれる。

国家全体の供給力(総生産Y、実質GDP)」から「政府購入Gに向けられる供給力」と「消費Cに向けられる供給力」と「純輸出NXに向けられる供給力」を引くと、「投資財Iへ向けられる供給力」を得られる。つまりY-G-C-NX=Iである。

そして全な閉鎖経済純輸出NXゼロなので、「投資財Iへ向けられる供給力」はY-G-C=Iと計算することができる。

政府購入Gや消費Cが増えると、「政府購入Gに向けられる供給力」や「消費Cに向けられる供給力」が増えるので、その煽りを食って「投資財Iへ向けられる供給力」が減り、投資財供給曲線が左に行移動し、均衡点が右肩下がりの投資財需要曲線に沿って左上に移動し、実質利子率rが上昇して投資財Iが減る。

簡単に言うと次のようになる。内の企業の生産力には限りがある(Yが一定である)。政府が財政政策で政府購入や消費を増やすと(GやCを増やすと)、内の企業政府購入や消費に対応することが増えるので投資財を作るほどの余裕を失い、投資財の生産量が少なくなる(Iが減る)。投資財供給曲線が左に行移動し、均衡点が右肩下がりの投資財需要曲線に沿って左上に移動し、実質利子率rが上昇して投資財Iが減る。

財政政策の4形態の比較

財政政策の4形態

国会の決議を得て政府が行う財政政策のなかで行われる可性が高い形態は、おおむね4つの形態に分けられる。それを列挙すると次のようになる。

  1. 国債を発行して金融市場から資金を借り入れてその資金の金額だけ政府購入を増やす
  2. 国債を発行して金融市場から資金を借り入れてその資金の金額だけ減税する
  3. 増税して計から資金を徴発してその資金の金額だけ政府購入を増やす
  4. 増税して計から資金を徴発してその資金の金額だけ減税する

政府の財は2種類ある。1つは計から資金を徴発する租税であり、もう1つは計が資金を貸し出すことで成り立つ金融市場から資金を借り入れる国債借り入れである[6]

政府計に給付金を与えることは経済学において減税の一種と見なされる[7]給付金政府から計への送金であり、税金計から政府への送金なので、給付金税金の正反対であり、減税に等しい。

財政政策の4形態を国民貯蓄の減少の強弱で比較する

代表的な財政政策には前項の1.から4.までの4形態がある。1.は最も民貯蓄を減らす効果が強く、2.は1.の次に民貯蓄を減らす効果が強く、3.は2.の次に民貯蓄を減らす効果が強く、4.は最も民貯蓄を減らす効果が弱い。

閉鎖経済大国開放経済では次のように表現できる。1.は最もクラウディングアウトの効果が強く、2.は1.の次にクラウディングアウトの効果が強く、3.は2.の次にクラウディングアウトの効果が強く、4.は最もクラウディングアウトの効果が弱い。

国家があり、自然率仮説のとおりに長期において実質GDP(Y)が一定であるとする。政府が1.の財政政策を実行し、国債を発行して金融市場から1兆円を借り入れつつ1兆円の政府購入をしたとする。政府が金融市場から1兆円を借り入れたので民貯蓄が1兆円減る。そのあとに政府政府購入を1兆円増やす。すべて通じて見渡すと、政府購入が1兆円増え、民貯蓄が1兆円減り、実質GDP(Y)が一定である。閉鎖経済なら投資が1兆円減り、大国開放経済なら「投資純輸出の合計額」が1兆円減り、小国開放経済なら純輸出が1兆円減る。

国家があり、自然率仮説のとおりに長期において実質GDP(Y)が一定であり、限界消費性向MPCが0.7で限界貯蓄性向MPSが0.3だとする。政府が2.の財政政策を実行し、国債を発行して金融市場から1兆円を借り入れつつ1兆円の減税をしたとする。政府が金融市場から1兆円を借り入れたので民貯蓄が1兆円減る。そして1兆円の減税をするので可処分所得Y-Tが1兆円増え、消費が7000億円増えて、民貯蓄が3000億円増える。すべて通じて見渡すと、消費が7000億円増え、民貯蓄が7000億円減り、実質GDP(Y)が一定である。閉鎖経済なら投資が7000億円減り、大国開放経済なら「投資純輸出の合計額」が7000億円減り、小国開放経済なら純輸出が7000億円減る。

国家があり、自然率仮説のとおりに長期において実質GDP(Y)が一定であり、限界消費性向MPCが0.7で限界貯蓄性向MPSが0.3だとする。政府が3.の財政政策を実行し、増税をして計から1兆円を追加で徴税し、その1兆円で政府購入をしたとする。政府計から1兆円を徴収したので可処分所得Y-Tが1兆円減り、消費が7000億円減って、民貯蓄が3000億円減る。そして政府購入を1兆円増やす。すべて通じて見渡すと、政府購入と消費の合計額が3000億円増え、民貯蓄が3000億円減り、実質GDP(Y)が一定である。閉鎖経済なら投資3000億円減り、大国開放経済なら「投資純輸出の合計額」が3000億円減り、小国開放経済なら純輸出3000億円減る。

国家があり、自然率仮説のとおりに長期において実質GDP(Y)が一定であり、限界消費性向MPCが0.7で限界貯蓄性向MPSが0.3だとする。政府が4.の財政政策を実行し、増税をして計から1兆円を追加で徴税し、その1兆円で減税をしたとする。政府計から1兆円を徴収したので可処分所得Y-Tが1兆円減り、政府計に1兆円を給付したので可処分所得Y-Tが1兆円増え、可処分所得Y-Tが一定を保ち、消費と民貯蓄が一定を保つ。政府購入は一定である。すべて通じて見渡すと、政府購入と消費の合計額が一定で、民貯蓄が一定で、実質GDP(Y)が一定である。閉鎖経済なら投資が一定で、大国開放経済なら「投資純輸出の合計額」が一定で、小国開放経済なら純輸出が一定である。

以上のことを表にまとめると次のようになる。

1.の財政政策 2.の財政政策 3.の財政政策 4.の財政政策
代表例 1兆円の国債借り入れをして1兆円の政府購入をする 1兆円の国債借り入れをして1兆円の減税をする 1兆円の増税をして1兆円の政府購入をする 1兆円の増税をして1兆円の減税をする
限界消費性向MPCが0.7のにおける民貯蓄を減らす効果 民貯蓄を1兆円減らす 民貯蓄を7000億円減らす 民貯蓄を3000億円減らす 民貯蓄を一定に保つ
その閉鎖経済である場合 投資を1兆円減らす 投資を7000億円減らす 投資3000億円減らす 投資を一定に保つ
その大国開放経済である場合 投資純輸出の合計額を1兆円減らす 投資純輸出の合計額を7000億円減らす 投資純輸出の合計額を3000億円減らす 投資純輸出の合計額を一定に保つ
その小国開放経済である場合 純輸出を1兆円減らす 純輸出を7000億円減らす 純輸出3000億円減らす 純輸出を一定に保つ

ちなみに、こうしたことは数式で確認することができる。

実質GDPをY、租税をT、可処分所得をY-T、消費をC、限界消費性向MPC、政府購入をG、民貯蓄をSとする。S=Y-C-Gであり、-S=C+G-Yである。-Sというのは民貯蓄の減少分である。

-S=C+G-Yという式は、-S=(Y-T)×MPC+G-Yであり、-S=Y×MPC-T×MPC+G-Yであり、-S=Y×MPC-Y+G-T×MPCである。

財政政策にかかわらずMPCが0.7で一定であると仮定するとき、-S=Y×MPC-Y+G-T×MPCの数式は-S=Y×0.7-Y+G-T×0.7となる。

そしてさらに、自然率仮説のとおりに「長期において実質GDP(Y)が一定である」と仮定するとき、-S=Y×0.7-Y+G-T×0.7の数式の中の「Y×0.7」と「-Y」は長期において一定になる。ゆえに、-Sの変化は、G-T×0.7の変化と同じ数値になる。

政府が1.の財政政策を実行し、国債を発行して金融市場から1兆円を借り入れつつ1兆円の政府購入をしたとする。G-T×0.7のGに1兆円を代入し、Tは一定であるのでゼロを代入して計算すると、民貯蓄の減少を示す-Sの変化は1兆円となる。

政府が2.の財政政策を実行し、国債を発行して金融市場から1兆円を借り入れつつ1兆円の減税をしたとする。G-T×0.7のTにマイナス1兆円を代入し、Gは一定であるのでゼロを代入して計算すると、民貯蓄の減少を示す-Sの変化は7000億円となる。

政府が3.の財政政策を実行し、増税をして計から1兆円を追加で徴税し、その1兆円で政府購入をしたとする。G-T×0.7のGに1兆円を代入し、Tに1兆円を代入して計算すると、民貯蓄の減少を示す-Sの変化は3000億円となる。

政府が4.の財政政策を実行し、増税をして計から1兆円を追加で徴税し、その1兆円で減税をしたとする。G-T×0.7のTにマイナス1兆円とプラス1兆円を合計したゼロを代入し、Gは一定であるのでゼロを代入して計算すると、民貯蓄の減少を示す-Sの変化はゼロとなる。

国債償還の2形態の比較

国債償還の2形態

国会の決議を得て政府が行う国債償還のなかで行われる可性がある形態は、2つの形態に分けられる。それを列挙すると次のようになる。

  1. 国債を発行して金融市場から資金を借り入れてその資金で過去国債を償還する
  2. 増税して計から資金を徴発してその資金で過去国債を償還する

1.の国債償還のことを借り換えという。

政府の財は2種類ある。1つは計から資金を徴発する租税であり、もう1つは計が資金を貸し出すことで成り立つ金融市場から資金を借り入れる国債借り入れである。

国債償還の2形態を「クラウディングアウトの逆」の強弱で比較する

代表的な国債償還には前項の1.と2.の2形態がある。1.は民貯蓄の減少も民貯蓄の増加も発生させないが、2.は民貯蓄の増加を発生させる。

閉鎖経済大国開放経済では次のように表現できる。1.はクラウディングアウトも「クラウディングアウトの逆」も発生させないが、2.は「クラウディングアウトの逆」を発生させる。

国家があり、自然率仮説のとおりに長期において実質GDP(Y)が一定であるとする。政府が1.の国債償還を実行し、国債を発行して金融市場から1兆円を借り入れて、その1兆円で国債償還をしたとする。政府が金融市場から1兆円を借り入れたので民貯蓄が1兆円減る。そして1兆円の国債償還をするので民貯蓄が1兆円増える。すべて通じて見渡すと、民貯蓄が一定であり、実質GDP(Y)が一定である。閉鎖経済なら投資が一定で、大国開放経済なら「投資純輸出の合計額」が一定で、小国開放経済なら純輸出が一定である。

国家があり、自然率仮説のとおりに長期において実質GDP(Y)が一定であり、限界消費性向MPCが0.7で限界貯蓄性向MPSが0.3だとする。政府が2.の国債償還を実行し、増税をして計から1兆円を追加で徴税し、その1兆円で国債償還をしたとする。政府計から1兆円を徴収したので可処分所得Y-Tが1兆円減り、消費が7000億円減って、民貯蓄が3000億円減る。そして1兆円の国債償還をするので民貯蓄が1兆円増える。すべて通じて見渡すと、消費が7000億円減り、民貯蓄が7000億円増え、実質GDP(Y)が一定である。閉鎖経済なら投資が7000億円増え、大国開放経済なら「投資純輸出の合計額」が7000億円増え、小国開放経済なら純輸出が7000億円増える。

以上のことを表にまとめると次のようになる。

1.の国債償還 2.の国債償還
代表例 1兆円の国債借り入れをして1兆円の国債償還をする 1兆円の増税をして1兆円の国債償還をする
限界消費性向MPCが0.7のにおける民貯蓄を増やす効果 民貯蓄を一定に保つ 民貯蓄を7000億円増やす
その閉鎖経済である場合 投資を一定に保つ 投資を7000億円増やす
その大国開放経済である場合 投資純輸出の合計額を一定に保つ 投資純輸出の合計額を7000億円増やす
その小国開放経済である場合 純輸出を一定に保つ 純輸出を7000億円増やす

ちなみに、こうしたことは数式で確認することができる。

実質GDPをY、租税をT、可処分所得をY-T、消費をC、限界消費性向MPC、政府購入をG、民貯蓄をSとする。S=Y-C-Gであり、Sというのは民貯蓄の増加分である。

S=Y-C-Gという式は、S=Y-(Y-T)×MPC-Gであり、S=Y-Y×MPC+T×MPC-Gである。

財政政策にかかわらずMPCが0.7で一定であると仮定するとき、S=Y-Y×MPC+T×MPC-Gの数式はS=Y-Y×0.7+T×0.7-Gとなる。

そしてさらに、自然率仮説のとおりに「長期において実質GDP(Y)が一定である」と仮定するとき、S=Y-Y×0.7+T×0.7-Gの数式の中の「Y」と「-Y×0.7」は長期において一定になる。ゆえに、Sの変化はT×0.7-Gの変化と同じ数値になる。

政府が1.の国債償還を実行し、国債を発行して金融市場から1兆円を借り入れつつ1兆円の国債償還をしたとする。T×0.7-GのTにゼロを代入して計算し、Gは一定であるのでゼロを代入して計算すると、民貯蓄の増加を示すSの変化はゼロとなる。

政府が2.の国債償還を実行し、増税をして計から1兆円を追加で徴税し、1兆円の国債償還をしたとする。T×0.7-GのTに1兆円を代入して計算し、Gは一定であるのでゼロを代入して計算すると、民貯蓄の増加を示すSの変化は7000億円となる。

短期において部分的に発生し長期において完全に発生する

クラウディングアウトは、物価が一定である短期において部分的に発生し、物価が変動する長期において全に発生する。そのことはIS-LMモデルを用いると説明できる。

全な閉鎖経済において、タテ軸名目利子率i・ヨコ軸実質GDPIS-LMモデルを書く。

  1. 令和X年10月1日実質GDP自然準にあるとする。
  2. 令和X年10月2日政府購入を増やすと、IS曲線が右に行移動して均衡点がLM曲線に沿って右上に移動し、名目利子率iが上昇して実質GDPが増える。このとき、短期において物価と期待インフレ率が一定なので名目利子率iが上昇することで実質利子率rも同じように上昇している。実質利子率rが上昇しているので投資を減らすクラウディングアウトが発生しているが、「投資が減ったことに関連して実質GDPが減った量」よりも「政府購入が増えたことに関連して実質GDPが増えた量」の方が大きいので[8]実質GDPが増えている。
  3. 物価が伸縮的で変動する長期になると、物価が上昇する。なぜ物価が上昇するかというと、政府購入が増えたので正の需要ショックが発生し、総需要-総供給モデルにおいて総需要曲線が右に行移動し、均衡点が短期総供給曲線に沿って右上に移動し、物価が上昇しつつ実質GDPが増えたからである[9]。物価の上昇により、IS-LMモデルにおいてLM曲線が上に行移動し[10]名目利子率iがさらに上昇し、投資が減って実質GDPが下落する。自然率仮説を採用するのなら、政府購入を増やした日の前日の準にまで、つまり令和X年10月1日準にまで実質GDPが下落する。

短期の2.において投資を減らすクラウディングアウトが発生し実質GDPの減少圧力を作り出すが、政府購入の増加に伴う実質GDPの増加圧力を全に打ち消すほどではない。

長期の3.において投資を減らすクラウディングアウトがさらに発生し実質GDPの減少圧力を作り出す。

派手な宣伝を伴う財政政策はクラウディングアウトの効果が高い

政府が派手に宣伝しつつ拡張的財政政策をすると限界消費性向が増える

政府手な宣伝をせずにひっそりと拡的な財政政策を実行すると、人々が限界消費性向MPCや限界貯蓄性向MPSを変化させないので、全な閉鎖経済ならクラウディングアウトを較的に小さく発生させて投資較的に小さく減らす。

政府手な宣伝をしつつ拡的な財政政策を実行すると、人々が限界消費性向MPCを増やして限界貯蓄性向MPSを減らすので、全な閉鎖経済ならクラウディングアウトを較的に大きく発生させて投資較的に大きく減らす。

政府手に宣伝しつつ政府購入をA円増やすと、人々の間で「困ったら政府が何とか助けてくれる」とか「困ったら日の丸で生きればいい」という確信が広がることになり、人々が将来不安におびえなくなり、人々が将来の異変に備えての予備的貯蓄をしなくなり、人々が限界消費性向MPCを増やして限界貯蓄性向MPSを減らすようになる。そして人々が消費を拡大し、A円よりも多くの金額だけ民貯蓄Sが減り、全な閉鎖経済ならA円よりも多くの金額だけ投資が減る。

政府が派手に宣伝しつつ縮小的財政政策をすると限界消費性向が減る

政府手な宣伝をせずにひっそりと縮小的な財政政策を実行すると、人々が限界消費性向MPCや限界貯蓄性向MPSを変化させないので、全な閉鎖経済なら「クラウディングアウトの逆」を較的に小さく発生させて投資較的に小さく減らす。

政府手な宣伝をしつつ縮小的な財政政策を実行すると、人々が限界消費性向MPCを減らして限界貯蓄性向MPSを増やすので、全な閉鎖経済なら「クラウディングアウトの逆」を較的に大きく発生させて投資較的に大きく減らす。

政府手に宣伝しつつ政府購入をA円減らすと、人々の間で「困ったら政府が何とか助けてくれる」とか「困ったら日の丸で生きればいい」という確信が広がらなくなり、人々が将来不安におびえるようになり、人々が将来の異変に備えての予備的貯蓄をするようになり、人々が限界消費性向MPCを減らして限界貯蓄性向MPSを増やすようになる。そして人々が消費を縮小し、A円よりも多くの金額だけ民貯蓄Sが増え、全な閉鎖経済ならA円よりも多くの金額だけ投資が増える。

関連項目

脚注

  1. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー212213ページ
  2. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー175~176ページ、190ページ214ページ
  3. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』92ページ
  4. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』99~100ページ
  5. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』40ページ
  6. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』66ページ
  7. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』88~89ページ
  8. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー325ページ
  9. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー339ページ
  10. *『マンキュー マクロ経済学入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー337ページ
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