サイレントウィットネス

サイレントウィットネス(中：精英大師、英：Silent Witness）とは、オーストラリア生まれ、香港調教の元競走馬である。
短距離王国と言われた2000年代中盤の香港において、最強最速のスプリンターとして名を馳せた。
現在でも1200mでは全盛期の彼が最強なのではないかという声もあったりなかったり。

精英大師、世にはばかる

父はConquistador Cieloの血を引くEl Moxie、母はオーストラリア血統を色濃く持つJade Tiaraという血統。一度オーストラリアでEltiraの名前で登録されるが、結局一走もせずに香港のクルーズ厩舎に移籍。
香港馬として、競走馬生をスタートさせる。初戦は2002年の秋。ここを苦も無く圧勝すると破竹の快進撃がスタート。 
条件戦をちょちょいと3つぶっこ抜き、その勢いのまま香港の1200mのGⅡシャティンヴァーズに挑戦。圧勝して重賞初制覇を飾り、2002/03シーズンの最優秀新馬に選ばれるという幸先の良いスタートを切る。

03/04シーズンはGⅢから始動しここも快勝。続くGⅡも快勝。馬体も元から500キロを超える巨体であったが、更に筋骨逞しい馬体に成長。
香港競馬カレンダーで言うとシーズンスタートから半年で迎えるビッグイベント・香港国際競走デーのGⅠ香港スプリントに挑戦することになったのである。

初の国際舞台・連勝記録挑戦

好内容で連勝を積み重ねていたとはいえ、短距離王国香港で当時の彼くらいの成績はそう珍しいものでもなく、さらに南アフリカから、南アフリカ競馬史上最速と言われた韋駄天・National Currency（中：貨幣名駒）が名を上げるべく出走。
さらに地元勢も前年の覇者All Thrills Too（中：更歓笑）、前シーズンの年度代表馬Grand Delight（中：喜頸賽）、前年香港スプリント2着のFirebolt（中：勇捷神駒）らメンツが揃っており、連勝中の彼も厳しいかに思われたが
National Currencyが抜け出して押し切るところを差し切り見事に無敗のままGⅠ初制覇を飾る。これで彼の名前は世界に知れ渡った。 

香港スプリント後は香港短距離三冠を目指し始動。最初の二冠を難なく制し10連勝を達成。香港記録タイに並ぶと三冠目のチェアマンズスプリントで短距離三冠と香港の連勝記録更新の両方を賭けて出走することとなった。
香港勢が彼以外のオールスターで迎え撃つ中、そんな包囲網も物ともせず快勝し連勝記録を更新し短距離三冠馬に輝いた。これで03/04年の年度代表馬など主要タイトルを総なめにし、世界中に彼の強さが響き渡ったのである。
これには伏線もあり、彼があんまりにも強すぎたがために勝ちきれず活路を求めてイギリス・日本に遠征したケープオブグッドホープ（中：好望角）が遠征先でもそれなりに好走したのである。
そのケープオブグッドホープを問題にしないサイレントウィットネスとは一体…と、俄然世界がさらに彼に注目することになった。

04/05シーズンは前年と同じくインターナショナルスプリントトライアルから始動し難なく12連勝。香港スプリント連覇を目指し出走。
カルストンライトオ（中：金鎮之光）、サニングデール（中：萬事旺）といった当年の日本のスプリントGⅠ勝ち馬が揃って遠征、マカオのサイレントウィットネスことNatural Blitz（中：電光火力）が出走するなど日本の競馬ファンも注目したのだが、
彼らを歯牙にも掛けない圧倒的スピードで駆け抜け連覇達成。これで13連勝となり、シガーの樹立した当時の連勝記録・16の更新が視野に入ってきた。
05年は連勝世界記録の更新・そして当時のアメリカ最強馬であるGhostzapperとのマイルでのマッチレースを大目標と公言し、距離延長も視野に入れつつローテーションを組むことになる。
まずは連勝記録更新に挑戦。スプリント三冠をあっさり獲得し16連勝。シガーに並びかけると、アジアマイルチャレンジ創設で国際GⅠとなったチャンピオンズマイル目指して距離延長。手始めに1400mのGⅡに挑戦する。
ここは力が違いすぎ他馬を蹴散らし圧勝。17戦無敗としまず世界記録（当時）は更新。この頃には一般の新聞のネタになるほどに、香港では注目や人気を一身に集める存在となった。
そんな中、次の大目標・Ghostzapperとの対決を目指すべく、さらなる距離延長となるマイルGⅠ・チャンピオンズマイルへ。
英国の韋駄天少女Attraction、公営の星コスモバルクらを香港の総大将として迎え撃つ格好となった。
…のだが、この頃から連勝狙いの連戦、距離延長による弊害が噴出し折り合いが難しくなっていたのが響き、不本意気味にハナを切ってしまう。
それでも直線ゴール寸前まで先頭だったのだが、同じ厩舎の晩成マイラー・ブリッシュラック（中：牛精福星）に差され2着に敗れ、18戦目にして初の敗北を喫してしまう。 
一度は休養も公言したが、掲げた大目標を取り下げるにはまだまだ諦めきれぬ僅差の負けであり、アジアマイルチャレンジ第二戦の安田記念へ向かう。 

日本来襲

かくして迎えた安田記念。香港では570キロ以上の巨体を誇った彼だったが、一時は休養も公言したほどの不調が響いたか、550キロとかなり細くなった体での挑戦となった。
前走引っかかり気味に突っ込んでいって2着に敗れたことや、本質的にスプリンターと見做されたからか確固たる軸もいないのに五番人気とやや軽く見られたが
逃げるローエングリンを見ながら2番手で進め、直線ローエングリンがバテた所で抜け出して押し切る勢いを見せたがさすがに府中の長い直線は応えたか
アサクサデンエンとスイープトウショウに差され3着に敗れる。連敗となったが凄まじい力を持つことは見せつけ、香港の年度表彰は前シーズンに続き総なめにした。 
しかし、さすがにマイル挑戦は諦め、スプリント界に戻ると決断。翌シーズン以降は再びスプリントを主戦場とすることになった。 この時期にはもうGhostzapperも引退してしまったというのもあったのであろう。

翌05/06シーズンは、日本のスプリンターズステークスから始動。デュランダルら日本勢、05年の初めにオーストラリアで香港勢初の海外国際GⅠ勝利を達成後、ロイヤルアスコット開催のゴールデンジュビリーステークスを勝ちすっかり国際派となっていたケープオブグッドホープとの戦いに挑んだ。
スプリントでは図抜けた存在と見られ、一番人気に推される。香港からやってきた大応援団が見守る中、3番手から力強く抜け出し、上がり32.7という超常の末脚で迫る日本の総大将デュランダルを完封。
サクラバクシンオー…じゃない、トロットスターの樹立したレコード更新こそならなかったが、圧倒的な強さを見せつけ日本制圧を果たした。
全盛期はやや過ぎていたと後に評される状態ではあったが、圧倒的な力量を見せつけた格好となった。
…まさか、これが最後の勝利になるとは誰も思わなかったであろう。 

挑戦の果て

スプリンターズステークスの勝利後、ファンへのお披露目会を開く。香港のスターとしての半ば義務めいたイベントであったが、チャンピオンズマイル以来の無理を続けた彼の身には応えたのか、体調を崩し結局05年中は全休となった。
これで香港スプリント三連覇への道は絶たれた。その後、センテナリースプリントで復帰したがもう全盛期の輝きは見られず。以降も精彩を欠く連敗を続ける。
連覇を賭けたスプリンターズステークスでは前年と同じように進めるがテイクオーバーターゲットに簡単に突き放され、前年より薄くなった日本勢にも差され4着に敗れ去った。
その後、香港スプリントで2着に入り復活したかに見えたが、激戦で脚が悲鳴を上げてしまいその後2戦して2敗し引退。
盛大にセレモニーが開かれた後香港を旅立った彼は、せん馬故に血を残せないため生まれ故郷であるオーストラリアの功労馬牧場であるリヴィングレジェンドファームで余生を送っている。

あまたの記録を作り上げた香港の絶対王者・サイレントウィットネス。今となっては国内の獲得賞金記録はVengeance of Rainに塗り替えられ、連勝記録はゼニヤッタやその他の馬に破られてしまうなど記録は褪せてしまったが
彼が残した、圧倒的なまでのスピードは色褪せることはない。少なくとも、香港では彼を上回るインパクトを持つ馬は未だに存在していない… 

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関連項目

• デュランダル（競走馬）
• 競走馬の一覧