歴史修正主義とは
1は学術的、2は通俗的な意味である。ここでは主に2を扱う。
概要
多くの学問は最新の研究結果を常識とするが、現在の政治や外交に大きく影響を与える近代史について新たな研究結果を歴史修正主義の言葉を用いて非難する声がある。歴史修正主義という言葉が肯定的に使われる事はあまりなく否定的な意味合いで使われる。
たとえば南京大虐殺や日本軍による慰安婦の強制連行などがあるが、これらについて「疑わしい」という研究結果に対し「これは史実であるためそれを否定する行為は歴史修正主義である」というような論法で用いられる。現在の歴史認識を「揺るがない史実である」という思想者が新たな歴史認識について”意図を持って歴史認識の変えようとしている”と糾弾する。
「歴史修正主義」主張の問題点
歴史修正主義は上記のように事実上レッテル張りとして使われているため、現在の認識を史実と主張する人間によって新たな歴史認識について正しいかどうかの検証がきちんと行われない状態を引き起こしやすい。現在の認識が正しいからそれを否定する認識は論じるに値しないとする。
これらの問題の最たるものがナチスドイツにより行われたとされるホロコーストの否定、一部否認の禁止である(ホロコースト否定禁止法)。これは戦後のドイツの国内法だけでなく、2007年1月26日の国連総会本会議でもこれらを禁止する採択がとられ可決された。こういった特定の見方以外は主張・検証すら認めないといった行為が近代史研究の停滞を引き起こしている。
「歴史修正主義」主張の問題点の問題点
ホロコースト否認の事例を挙げると、2010年時点で否定論の根拠となりうる査読付き論文[1]は1本も存在していない。しばしば誤解されるが、ホロコースト否定禁止法は学術的な査読(場合によってはその後の学界論争も含む)を経る分にはホロコースト否認を禁止していない。
言い換えれば、仮に結論がホロコーストを一部否認する旨の論文だったとしても、それを学術雑誌へ投稿する行為そのものは禁じられていないのである。禁止法が対象とするのはあくまで(学問の土俵の外で、学術的な議論を経ずに)根拠もなくホロコーストを否認する主張をするということに限定される。
ある歴史的事実についての通説は、多数の研究者の目を通して論理面、実証面における問題点を徹底的に洗い出された後に形成される。仮に、ホロコースト否定禁止法が禁止している行為を「歴史修正主義」であるとするならば、この語が対象とする行為は「専門的事実の正否を判断できない非専門家に対し、学術的な議論を通すこと無く、そうした通説を否定する言説を流布する行為」にすぎないことがわかる。
よって、ホロコースト否認を「歴史修正主義」として批判する行為には、学術的な議論によって通説を更新する行為そのものを否定するような意図は含まれていないことがわかる。
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関連項目
脚注
- *専門性が特に高い一部の学術雑誌には論文には査読(peer review:研究者仲間や同分野の専門家が投稿論文を審査する手続き)が存在する。学術論文はこれを経ることで、根拠となるデータの集め方、及びそこから導き出される論理的な筋道などに問題が無いかどうかが評価される。要するに、論文が学術的に正当だと認められるためには、基本的にはこうした査読過程を通ることが必要不可欠ということである(査読についてはwikipediaの「査読」の項目も参照)。
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