歴史修正主義とは
- 新資料や過去の資料の見直しといった学術的手法によって、歴史研究の成果をより事実に近いであろう内容に更新しようとすること。英語では "Historical revisionism" と呼ばれる。
- 学術的手法によることなく特定の思想によって過去の歴史認識を書きかえようとすること。英語では "Historical negationism" と呼ばれる。
1.は学術的、2.は通俗的な用法である。本記事では主に 2. の Historical negationism を扱う。
2. Historical negationism の概要
2. の用法での歴史修正主義(Historical negationism)とは、信頼された学術的手法によることなく、過去の歴史認識を特定の思想によって書きかえようとすることである。学術的な用法(1.の用法)と区別するため「歴史歪曲主義」「歴史改竄主義」「歴史否認主義」「歴史否定主義」といった用語を使用することもある。例えば日本語版 Wikipedia では『歴史否定主義
』として立項されている。
歴史歪曲主義の形態は、偽造や誤報であったことが知られる史料を「真実」と主張したり、既に否定された過去の学説を否定された経緯を説明することなく「学説」とのみ紹介したり、既に発見されている証拠の存在を否定あるいは合理的な根拠なく「信用しない」と表明したり、外国語や古い言葉の文章を意図的に誤訳したり、事に至る重要な経緯を省略して特定の事実のみを選択的に喧伝したり、と様々である。
また、記念碑等の破壊や碑文の改変、あるいは気に入らない歴史の記述者や証言者を「愛国的でない」等のレッテルを貼って攻撃することも歴史歪曲主義の一形態とされる。
歴史歪曲主義者は、主張の根拠が精査されることを嫌い、しばしば主張の根拠を精査する時間的余裕のない「公開討論」といった形式を好む。
「歴史修正主義」主張の問題点
| この節の主張の妥当性については次の節で詳しく解説されています。 |
多くの学問は最新の研究結果を常識とするが、現在の政治や外交に大きく影響を与える近代史について新たな研究結果を歴史修正主義の言葉を用いて非難する声がある。歴史修正主義という言葉が肯定的に使われる事はあまりなく否定的な意味合いで使われる。
たとえば現時点における歴史学の常識として南京大虐殺や日本軍による慰安婦の強制連行などがあるが、これらについて「疑わしい」と主張することに対し「これは史実であるためそれを否定する行為は歴史修正主義である」というような論法で用いられる。現在の歴史認識を「揺るがない史実である」という思想者が新たな歴史認識について”意図を持って歴史認識の変えようとしている”と糾弾する。
歴史修正主義は上記のように事実上レッテル張りとして使われているため、現在の認識を史実と主張する人間によって新たな歴史認識について正しいかどうかの検証がきちんと行われない状態を引き起こしやすい。現在の認識が正しいからそれを否定する認識は論じるに値しないとする。
これらの問題の最たるものがナチスドイツにより行われたとされるホロコーストの否定、一部否認の禁止である(ホロコースト否定禁止法)。これは戦後のドイツの国内法だけでなく、2007年1月26日の国連総会本会議でもこれらを禁止する採択がとられ可決された。こういった特定の見方以外は主張・検証すら認めないといった行為が近代史研究の停滞を引き起こしている。
上節 ”「歴史修正主義」主張の問題点” の問題点
まず「ホロコースト否定禁止法」への批判の誤りを指摘すると、ホロコースト否定禁止法では、学術的な査読(場合によってはその後の学界論争も含む)を経るホロコースト否認は禁止されていない。
禁止法が対象とするのは、あくまで学問の土俵外で学術的な議論を経ずに根拠もなくホロコーストを否認する主張をすることに限定されており、たとえ結論としてホロコーストを否認するような論文だったとしても、それを学術雑誌へ投稿したり、そういった議論や研究をする行為そのものは禁じられていないのである。
つまり、仮にホロコースト否定禁止法が禁止している行為を「歴史否認主義」であるとするならば、この語が対象とする行為は「専門的事実の正否を判断できない非専門家に対し、学術的な議論を通すこと無く、学術的に検証された通説を否定する言説を流布する行為」にすぎず、学術的な議論によって通説を更新する行為を否定するような意図は含まれていないことがわかる。
ちなみに、2010年時点で否定論の根拠となりうる査読付き論文[1]は1本も存在していない。これも別にホロコースト否定禁止法によってホロコーストを否定する論文の検証が認められていないということではなく、単にホロコーストを否定する側が査読によって手法の妥当性を検証されることを拒んでいるからである。
また「多くの学問は最新の研究結果を常識とする」も、あまり適切な認識とは言い難い。学問における定説は、多数の研究者の目を通して論理面、実証面における問題点を徹底的に洗い出された後に初めて形成されるもので、古くからある学説ほど、それだけ長い批判と検証に耐えてきた学説として重視されるものである。専門家の論文には新規性(いわゆる独自研究)が求められるため、発表される「最新の研究結果」は、その大部分が同僚研究者の検証や反論によって修正あるいは否定されて消えていくのが現実である。
なお、一般的に学者はパラダイムシフトを引き起こす大胆な新説・珍説を歓迎する傾向にある。そういった人々に「歴史歪曲主義」と否定されているのは、その主張が現在の歴史認識と異なっているからではなく、単に研究の手法が学術的レベルに達していないが故なのである。
関連項目
脚注
- *専門性が特に高い一部の学術雑誌には論文には査読(peer review:研究者仲間や同分野の専門家が投稿論文を審査する手続き)が存在する。学術論文はこれを経ることで、根拠となるデータの集め方、及びそこから導き出される論理的な筋道などに問題が無いかどうかが評価される。要するに、論文が学術的に妥当だと認められるためには、基本的にはこうした査読過程を通ることが必要不可欠ということである(査読についてはwikipediaの「査読」の項目も参照)。
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