梃子(てこ/Lever)とは、ものを動かす装置の一種である。
概要
小さな力を大きな力に変換したり、その逆を行う装置。
そのような装置はいくつかあるが、てこは主に棒状のものをいう。
1箇所が固定された棒があり、別の部分に動かしたいものを置き、更に別の部分から力を加えて使う。
この時、動かしたいもの、固定された点、力を加える点の位置により、必要な力と距離が決まる。
このとき、固定された部分を支点(してん)、力を加える部分を力点(りきてん)、動かしたいものが置かれる点を作用点(さようてん)と呼ぶが、後述するとおり三者は等価であり、物理的には区別されない(後述)。
力点・支点・作用点のとりかたによって、小さな力を大きな力に変換するか、その逆であるかが決まる。
また、同じく動かす距離も決まる。
使い方によってはいくらでも重いものを動かすことができ、これを発見したアルキメデスは「私に棒と支点を与えよ。さすれば地球を動かしてみせよう」と言ったとも伝えられている。
英語では「レバー」という。現在ではスイッチの意味で使うことが増えたが、もとは「てこ」の意味である。金融で使われる「レバレッジ」ももとは「てこの作用」という意味。
工具
長い棒の先が少し曲がっており、先端がへらのようになった道具。
これを隙間に入れて重いものを動かしたり、何かをこじ開けるのに使われる。
先端がL字になっており、釘抜き機能がついているものは「バール」(clawbar)とも呼ばれる。
てこの原理
力点および作用点に加わっている力と、支点からの距離について、以下の関係が成り立つ[1]。
支点からの距離×力の大きさ が等しい場合、てこは釣り合う(右にも左にも傾かない)。
これをてこの原理という。
力のモーメントの釣り合い
ところで、この場合の「支点からの距離×力の大きさ」のことを、力のモーメント、特に支点が固定されている場合はトルクと呼ぶ。これは、てこという棒状のものに限らず、何らかの物体に回転するような力が加わっている場合はすべて当てはまる。また、てこの原理では支点を中心に考えられているが、力のモーメントはどこを中心に考えても等価である。
すなわち、てこの「力点・支点・作用点」は「棒に回転する力を与える」という意味では全て等価であり、どこを中心にとってもこの原理は成り立つはずである。
例えば、長さ5mの棒があり、支点が左から4mの位置にあり、左端の力点に1N、右端の作用点に4Nの力が加わっていることを考えよう。
支点の周りの力のモーメントを考えれば、作用点は時計回りの方向に1×4Nm、力点は反時計回りの方向に4×1Nmのモーメントを与えており、その和はゼロである。
これを、左から2mの点の周りで考えた場合、作用点は時計回りに3×4=12Nm、力点は反時計回りに1×2=2Nmのモーメントを与えており、釣り合っていないように見える。差し引き反時計回りに10Nmのモーメントは何が与えているのだろうか?
実は支点が与えているのである。支点は上記の点から右に2mの位置にある。この支点が5Nmの力を加えていると考えれば、力のモーメントは反時計回りに10Nmとなり、釣り合う。
以上を左から1mの点の周りで考えれば、作用点は時計回りに16Nm、力点は反時計回りに1Nm、支点は反時計回りに15Nmとなり、やはり釣り合うことが分かる。
以上のように、力点・支点・作用点は物理的には等価であり、あくまでてこを使う人が用途によって区別しているに過ぎない。
仕事の原理
加えている力と動かす距離の積は等しい。これを仕事の原理という。
これはてこでも当てはまり、力を1/nにするてこは、n倍長い距離を動かさなければならない。
1/nの力で動かすてこは支点からの距離がn倍になり、力点が動く距離もn倍になるということである。
これはてこにかぎらず、あらゆる機械において同様である。
てこの種類
第一種てこ
力点と作用点が両端にあり、支点がその間にあるてこ。
一方を下げるともう一方が上がる。ものを持ち上げたい場合、人は体重が利用できるので下げる動きの方が力を加えやすい。そのため最も多く利用される。
竿秤は、てこの原理を利用し、1つのおもりでいろいろな重さを量れるようにしたものである。
例:
第二種てこ
支点が端にあり、作用点が中間、力点がもう一方の端にあるてこ。
こちらは、力点と支点の方向が同じである。また、端に蝶番をつければいいので、てこが板状である時に作りやすい。
例:
第三種てこ
第二種てこと同じく支点が端にあるが、力点が中間、作用点がもう一方の端にあるてこ。
作用点の方が遠くにあるので、必然的に逆てことなる。詳細は下記参照。
例:
逆てこ
小さな力を大きな力に変えるのが通常のてこだが、逆に大きな力を小さな力に変えるてこも存在する。
その代わり、小さな距離を動かすことで大きな距離を動かすことが出来、スピードアップが図れる。
また、そっとつまみたいので意図的に力を小さくしたい場合にも使われる。
例えば、はしご車の昇降機は逆てこであるが、これは素早くはしごを動かすためのものである。
また、ピンセットは、小さくこわれやすいものをつまむのに使われる。
地球を動かしてみよう
それでは、アルキメデスの言である「棒と支点を与えてくれれば地球も動かせる」を考えてみよう。
アルキメデスの時代に「無重力」という概念はないので、地球と同じだけの重力が宇宙空間にもかかっているものとする。地球質量を6.0×1024kgとし、これを人の体重と同程度の6.0×101kgfの力で動かすことを考えよう。このとき、支点から地球までの距離の1024倍長く力点までの距離を取ればよい。アルキメデスの言うとおり、支点と長い棒さえあれば、いくらでも重いものを動かすことができる。
支点から地球までの距離を10mとすれば、1024+10mの棒を用意すればよい[2]。
しかし、このてこで地球を1cm動かすとすると、仕事の原理により力点側が動かす距離は1024cm=1019km≒106万光年となり、天の川銀河の直径の10倍以上の距離を移動しなければならない。
また、支点にかかる力も6.0×1024kgf程度となる。いずれの場合も、てこには最大6.0×1024kgfのせん断力がかかり、最大6.0×1048kgf・mの曲げモーメントがかかることになる[3]。これほどまでの力に耐えられる棒でなければ、曲がったり折れたりしてしまう。
そんなわけで、理論上はてこで地球を動かすことは可能だが、実際にはものすごく長い距離を移動する手段と曲がりも折れもしない棒、そして壊れない支点が必要である。実はアルキメデスが「くれ」と言ったものが最大の難点なのであった。
なお、無重力空間でも、動かした結果が「動かした距離」というより「加速度」として現れることを除けばおおむね同じ議論となる。無重力なのでほんのちょびっとでも力が加われば地球は動くが、一定の加速度で動かすためには上記のような「てこ」を用意しなければならない。
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関連項目
脚注
- *簡単のため、力はてこに対して垂直にかけられているものとする。
- *第一種てこの場合。第二種てこならちょうど10²⁴mでよい。
- *なお、この計算には、力点側の力やモーメントが足されたり引かれたりするが、10¹~10²オーダーであるため無視している。
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