境界標(きょうかいひょう)とは、土地の境界の位置を示すために設置される、石杭・コンクリート杭・プラスチック杭・金属鋲・金属標・木杭などの総称である。
概要
あなたの土地の境界付近に、十字や矢印が刻まれた四角い物体が埋まってたりしないだろうか?それが境界標である。
土地の権利を管理する法務局には、各土地の地積などを記録した登記記録と、その算定の根拠となる土地の境界を描いた公図や地積測量図が備え付けられており、境界標はこれらの記録と合致するように設置されている。大切な財産である土地を守るため、境界標には以下のような条件が求められる。
- 不動性(容易に動いたりしない)
- 永続性(容易に壊れたりしない)
- 視認性(境界であることがひと目でわかるように設置されている)
- 特定性(位置を特定できる)
- 証拠性(設置した事実や経緯が記録されている)
- 管理性(土地の登記記録と現況を一致させ、整合性を保たせる)
また境界標は、登記の内容通りの位置に正確に設置されていることも求められ、そのため設置は専門の知識と機材を持つ測量士や土地家屋調査士などの有資格者により行われるのが普通である。
民法の規定では、境界標の設置及び管理は関係土地の所有者が共同で負担するものとされている[1][2]が、境界標を共同で設置するとなると管理上不都合であることから、民法の規定に関わらず境界標を実際に設置する者が単独で負担・管理するケースが多くみられる。
また、境界標を正当な理由なく移動や損壊した場合は刑法の規定により処罰される[3]。時々、隣地所有者と境界に関する合意が得られたからと言って境界標を勝手に動かしてしまう人がいるが、境界標はあくまでも「登記に基づいた」境界に設置されるもので当事者間の合意は無関係であるため、合意に至った内容を登記に反映させずに動かすと上記の処罰の対象になってしまう。
境界標の種類
素材・形状による分類
- 石杭
- 御影石や花崗岩などで作られた四角柱状の杭。非常に丈夫で永続性は申し分ないが、設置が大変である。古いものには所有者の名が刻まれていることがある。
- コンクリート杭
- コンクリート製の四角柱状の杭。上下の面に十字や矢印などの表示がそれぞれ刻まれ、設置場所に応じて使い分けができるものもある。
地面に穴を掘って杭を入れ、場合により根元を石やモルタルなどで補強した後土を埋め戻して設置する。永続性があり最も広く使われているが、地面がコンクリートやアスファルトの場所には設置できない。
- プラスチック杭
- プラスチック製の杭。先端が尖っており、地面が硬くなければハンマー等で直接打ち込んで簡単に設置できる。硬い地面に設置できないのは石杭・コンクリート杭と同様で、紫外線により劣化するため永続性は石杭・コンクリート杭ほど高くはない。
- 金属杭
- プラスチック杭の頭部、もしくは全体が金属に置き換わったもの。プラスチック杭のような劣化は起こらないが、そもそも見かけることが少ない。
- 金属鋲
- 釘やビスに似た見た目の、金属製の境界標。境界の位置に直接金槌等で打ち込むか、ドリルであけた穴に差し込んでモルタル等で補強して設置する。コンクリート杭などが設置できない場所に使用されることが多いが、金属鋲は境界以外にも測量用のトラバー点等に使用されることも多いので、混同のないように注意。
他の境界標と比べて小型で目立ちにくい上に、時間経過により錆びついてくると背景と同化して更に目立たなくなってしまう。そのため、視認性を少しでも向上させるために笠をつけることも多い。
- 金属標
- 金属製の平たいプレート。ボンドで貼り付けて設置するタイプと、アンカーピンをつけて金属鋲と同じように設置するタイプがある。特にボンドで設置するタイプは手軽で、平坦かつ硬い面であれば大抵の場所には設置できるが、人や車が行き交う場所では簡単に剥がれてしまう。
- 木杭
- 木製の杭。プラスチック杭と同様に設置した後、頭部に釘や金属鋲を打ち込んで使用する。時間経過により腐食するため永続性に難があり、基本的に境界立会実施前に設置する仮設杭として使われる。境界立会により関係土地所有者の同意が得られ次第、コンクリート杭などの永続性のある境界標に打ち換えるのが望ましい。
- 刻印
- コンクリートや金属の地面にカッターで十字の傷をつけたもの。境界そのものというよりも、その引照点(境界標が破損・亡失した際の復元用の点)として設置されることが多い。
- マーカー
- 蛍光ペンなどを使って描いた印。消えたり滲んだりするため永続性ははっきり言って皆無。木杭と同じく、基本的に仮設の境界標である。
表示による分類
- 十字

![]()
- 境界標に十字が刻まれている場合、多くの場合十字の交点が境界の折点・交点を表す。ただし極稀に下記の「矢印ではない直線」タイプと同様に使われている場合があり、この曖昧さが境界紛争の一因となることもある。
このタイプは関係土地の境界を跨いで設置する形となるため、民法の規定により共同負担で設置する場合や、同じ所有者の土地同士を地目により分割する場合に使用されることが多い。
- 矢印
![]()
- 境界標に矢印が刻まれている場合、矢印が向いている方向の境界標の端・角が境界の折点・交点を表す(矢印の先端そのものは境界を表さないので注意)。
斜め矢印の場合は境界を跨がずに設置することが可能であるため、土地売買などで境界標を設置する側が費用を単独負担する場合はこのタイプがよく使われる。
- T字
- T字が刻まれている場合、T字の交点がある側の境界標の辺中点が境界の交点を表す。折点に設置されることは少ない。
- 矢印ではない直線
- 矢印ではない直線が刻まれている場合は、単にその線上を境界が走っていることを表し、境界の折点・交点を表さない。いわゆる方向杭。折点・交点のある場所が境界標の設置できない場所であるときに、その関係する線分の線上に設置する。
コンクリート杭の場合、俗に「マイナス杭」とも呼ばれる。
- 点
- 点が刻まれている場合は、見たまんま点の中心が境界の折点・交点である。十字タイプと同じように使われる。
- その他
- 道路や河川などの官有地の境界標には、それを管理する都道府県や市区町村の紋章などが刻まれている場合がある。どの位置が境界を示すのかは都道府県市区町村による。
境界標を設置する場所
基本的に、境界標は境界の折点・交点すべてに設置されていることが望ましい。境界の折点・交点がすべて明らかになっていれば、土地の形状が特定できるからだ。
しかし現実には、境界の折点・交点が狭い隙間にあったり、木の幹などの障害物にダダ被りしたりして、境界標の設置が不可能、もしくは著しく困難な場合もあり得る。そのような点(以下、本点とする)に関しては、上でも少し触れたが引照点を2か所以上設置したうえで本点からの距離を記録し計算で特定できるようにしたり、本点からのびる境界線2本以上の線上に方向杭を設置したり、などの手段が採られる。
| 設置例
|
|
境界標がないとどうなる?
いかにモルタルで補強した堅固なコンクリート杭といえど、杭の周囲は所詮普通の土なので、天災や工事、あるいは木の根っこの成長などで移動したり亡失したりする可能性がある。そうなってしまった場合、どのような影響があるだろうか。
たとえば土地を売却する時、境界標がない・あっても位置がおかしい土地は訳あり物件として扱われ、安く買い叩かれてしまう。分譲や相続のために分筆しようとしても、分筆は土地の境界に関して争いがないことが暗黙の要件になっているため、境界が明らかでない土地の分筆は申請を受理してもらえない可能性が高くなってしまう。そのため、これらの行為をするにあたっては境界標の有無や位置を検証し、問題がある場合は正しい位置に復元する作業を実施するのが通例となっているが、その過程で構造物の越境などの問題が発覚してトラブルになることもままある。
なお、自分に土地の売却・分筆等の予定がなくても、隣接地の所有者が売却・分筆をしようとして同様の問題に遭遇する可能性があることは留意するべきであろう。
「杭を残して悔いを残さず」とは土地家屋調査士業界でよく言われる言葉だが、正しく境界標を管理して、いざというときに後悔することのないようにしたいものである。
関連動画
関連リンク
関連項目
脚注
- *(民法第二百二十三条)

- *(民法第二百二十四条)

- *(刑法第二百六十二条の二)
