牛をつないだ椿の木 単語

ウシヲツナイダツバキノキ

1.7千文字の記事

牛をつないだ椿の木』とは、新美南吉の児童文学作品である。

概要

初出は1943年刊行の雑誌。新美の死後、同名の童話集が刊行されている。

あらすじ

きの利助さんと人力きのさんはのどが渇いたので、端にある椿の木につなぎ人力を近くにおいて山の中へ湧きを飲みに行った。から場までが遠いのを二人してぼやきながら椿の木まで戻ると、そこにはかんかんに怒った地が立っていた。

は二人を怒鳴りつけた。つないでいたが、椿の葉をすべて食べて木を丸裸にしてしまったのだ。
二人は「場がもっとに近ければいいのに」ということを改めて思った。それは、ここでを飲む人はでも思うことであった。

蔵さんが人力きのたまり場である駄菓子屋へ戻ると、そこには井戸掘りの新五郎さんがいた。そこで蔵さんは、井戸を掘るのに三十円ぐらいのお金が必要だということを新五郎さんに聞いた。

蔵さんはへ帰り、同居しているに「しんたのむね(椿の木があるところ)に井戸があればいいだろう」ということを話すと、は「そうすれば皆が助かるだろう」と言った。あのはたくさんの人が通るだった。その後蔵さんは利助さんが山で財を成したことを思い出し、資金協力を仰ぐために利助さんのところへ出かけた。

もうも遅いのに、利助さんは仕事をしていた。蔵さんは、利助さんに井戸を掘るための資金提供をしてくれないかと持ちかけたが、利助さんは協力しようとはしなかった。

蔵さんは、利助さんが遅くまで働くのは他でもない利助さん自身のためだということを悟り、これは自分の力でやるしかないと思い立った。

蔵さんが最初にしたのは、しんたのむねの椿の木にをつるし、行く人から寄付を募るというやり方だった。しかし、しばらく見ていても人々が寄付をしてくれる様子はない。

結局、人々も頼りにならないとわかり、本当に自分ひとりの力でやり遂げようと決心した。

蔵さんはいつもの人きの仕事を終えると、たまり場である駄菓子屋に入った。しかし蔵さんがいつものようにお菓子を食べることはなかった。
蔵さんは、これまでお菓子に使っていたお金をためて、人々のためにしんたのむねに井戸を掘ろうと考えていた。

もちろんお菓子のどから手が出るほど食べたかったが、井戸のためにこれまでの習慣を断ち切ることにした。

二年が経ち、井戸掘りに必要なお金もだいたい集まった。しかし今度は地井戸を掘ることを承知してくれない。その地は、二年前に利助さんを叱りつけたあの地であった。
は体が弱って床にせっており、蔵さんはお見舞いに行ったが、そこでも地は頑なに井戸掘りを拒んだ。

帰り際、地息子蔵さんに「私の代になったら井戸掘りを承知する」という旨のことを話した。地はあの様子ではあと数日で死ぬだろうから、これはうまいと蔵さんは喜んだ。

に帰ってにそのことを話すと、は「自分の仕事のことばかり考えて、人が死ぬのを待ち望むことは悪いことだ」と蔵さんを叱った。蔵さんははっとした。

次の日、蔵さんは、人の死を待ち望むという自分の誤りを地に謝った。それに地は感心し、井戸を掘ることをようやく許してくれた。

の末に、しんたのむねから花火が上がり、のほうから軍服を着た兵士を先頭にした行列が下りてきた。その兵士こそが蔵さんだった。

行列は、椿の木の近くにある井戸のところで止まった。子供たちが井戸を飲んでいたからだった。蔵さんも子供たちの後に続いてを飲み、人のためになる仕事を残すことができた喜びをかみしめ、もう思い残すことはないとさえ思った。

の向こうでは日露戦争が始まっており、蔵さんはそれに出征して行くのだった。

そのあと、蔵さんが帰ってくることはなかった。彼は日露戦争と散ったのである。

しかし蔵さんの井戸は今でも残っており、行く人々の渇きをうるおし続けている。

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