ブラックキャビア(Black Caviar)とは、2006年生まれのオーストラリアの競走馬・繁殖牝馬である。
短距離戦線で無双しまくり、25戦無敗というとんでもない記録を打ち立てたモノスゲーイ名牝。
なお、南半球の豪州では年間開催が日本より8か月遅れの8月~翌年7月で1周し、年齢も8月に更新される。したがってシーズン表記は08/09シーズンというような形になる。
概要
血統背景
父Bel Esprit、母Helsinge、母父Desert Sunという血統。地元豪州産馬である。
父は短距離G12勝を挙げた豪州馬。その父はシャトル種牡馬として成功した*ロイヤルアカデミーである。母は不出走馬だが祖母Scandinaviaは重賞馬で、繁殖牝馬としても多くの重賞馬を産んだ活躍馬。また、4代母Love Songは競馬界ではマイナーなデンマーク産馬で、3代母から母までの馬名も北欧由来である。そしてブラックキャビアの馬名もそこからで、馬主グループ(友人同士で購入したらしい)が「北欧=サーモン」とイメージしていたところ、グループ内の夫妻の娘が鮭の体にある黒い斑点を「キャビアのようだ」と言ったことでブラックキャビアに決まったそうな。
母父Desert SunはGreen Desert産駒で、競走馬としてはうだつが上がらなかったが父としてG113勝の名マイラーSunlineを出した。
なお、3歳年下の半弟All Too Hardも姉の引退と同時期にG14勝を挙げたが、豪州史上最高額で取引されたさらに2歳下の半弟は毒グモに噛まれたことが元で早世している。
08/09シーズン~09/10シーズン
本馬を代理人としてセリで買ってきたピーター・ムーディー調教師に預けられ、2009年4月にデビュー。日本で考えると2歳9月くらいに初出走といったところか。デビュー戦は1000mを5馬身差で圧勝。続くリステッド競走も1200mながら6馬身差で圧勝。2歳シーズンはこの2戦で終える。つええ。
3歳シーズンとなる09/10シーズンは8月の初戦を3馬身3/4差で楽勝。初重賞となった4戦目のデインヒルS(G2)は出遅れながらなんとか勝ち、筋肉痛による休養を挟んだ翌2010年1月のオーストラリアS(G2)も快勝するが右脚の靭帯を損傷。長期休養に入る。後の活躍からすれば意外だが、3歳までは5戦5勝止まりでG1勝利もなかったのである。まあ、勝ちっぷりからして既にとんでもない馬だということは想像がつくけど……。
翌シーズン以降、ブラックキャビアはその想像を超える勢いで驀進する。
10/11シーズン
4歳となった2010年10月に復帰し、瞬く間にG2を連勝。意気揚々と初G1となるパティナックファームクラシックに出走。ここには1歳年上で14戦12勝のHay Listという強豪が出てきていたのだが、歯牙にもかけず4馬身差で圧勝。G1初勝利を実にあっさりと挙げる。そしてこのレースで6着に凹まされたHay Listの受難の日々が始まる。……まあ、お察しの通りである。
ちなみにこのレースの勝ち方を見て、かつて短距離でG15勝を挙げ年度代表馬を受賞したこともある女傑Miss Andrettiを管理したリー・フリードマン師は「自分が今まで見た中で最高のスプリンターだ」と言ったという。
翌2011年2月のG1ライトニングSでは最後流す余裕で3馬身1/4差の勝利。Hay List2着。涙目。
その後ニューマーケットH、ウィリアム・リードSとG1を連勝。この頃になると実力が世界にも認められ、当時のレーティングではあのFrankel(136ポンド)に次ぐ世界第2位の132ポンドを与えられた。ちなみにこのレーティングは現在の牝馬史上最高である。
続くG1T.J.スミスSではHay Listと再戦するが、まるで相手にしない強さで2馬身3/4差圧勝。逃げたHay List2着。涙目。
翌5月のG1BTCカップでは中間にG1を勝ってきたHay Listと再戦するがやっぱりまるで相手にならず2馬身差で勝利。逃げたHay List2着。涙目。
その後のG1は自重したが、8戦全勝(G15勝)の圧倒的な成績。この年には豪州でG14勝を挙げ、アイルランドに移籍しG12勝を加えた怪物So You Thinkがいたのだが、投票の結果僅差でブラックキャビアが豪州年度代表馬の座を手にした。最優秀短距離馬は当然受賞。
11/12シーズン
5歳となったこのシーズンもG2で4馬身、6馬身と圧倒的な差をつけ、豪州の伝説的名馬Phar Lapが持っていた連勝記録を超える15連勝。G1パティナックファームクラシックも手綱を緩めたまま2馬身あまりの差をつけ楽々と連覇達成。この勝利で連勝を16としCarbineが持っていた連勝の豪州記録を塗り替える。
明けて2012年は初戦のG2オーストラリアSでZedi Knight(ジェダイの騎士?)をさくっと捕まえ4馬身1/4差で勝利。G1C.F.オーアSでは初の1400m戦に挑み、距離不安を打破する3馬身1/4差の圧勝を決める。
続くG1ライトニングSでは久々にHay Listと再戦。今度はブラックキャビアが先手を取り、影も踏ませず逃げ切り勝ち。Hay Listは2番手からよく粘ったが全く追いつけず2着。涙目。
この勝利でニュージーランドのDesert GoldとGloamingが持つ19連勝のオセアニア記録に並んでいたブラックキャビア。こうなるとファンの声も「海外でも勝てる」というより「いい加減海外行けよ」になり、積極的でなかった陣営も折れて海外遠征を決定。イギリス・ロイヤルアスコット開催の短距離G1ダイヤモンドジュビリーSに照準を定める。
遠征に備えてしばらくを休養にあて、4月のG1ロバート・サングスターSで復帰し4馬身半差の圧勝。オセアニア記録を更新する20連勝を達成。続くG1グッドウッドHもほぼ仕掛けずに勝利し、連勝を21に伸ばしてイギリスに飛んだ。
迎えた大一番。相手にも後に2つのレコードを打ち立てる超快速馬Moonlight Cloudなど不足のないメンツが揃うが、ブラックキャビアは単勝1.17倍で堂々1番人気に支持される。
地元メルボルンでもパブリックビューイングされ、世界中が注目する中スタート。ブラックキャビアはいつも通り好スタートから3番手につけ、残り200mで仕掛けると100mあまりで前を捕らえた。これなら楽勝……と思われた刹那、ブラックキャビアは突如減速。鞍上のルーク・ノレン騎手が追うのをやめてしまったのである。突然のことにファンは仰天。しかも後方からMoonlight Cloudなどが突っ込んできたのだから一大事である。ノレン騎手も慌てて追い直すが差は詰められ、並ばれかけたところがゴール板。しかし写真判定の結果頭差残っており、ブラックキャビアはどうにか海外G1勝利を手にした。
レース後、例年通りエリザベス女王がレース後のパレードに臨席し、ブラックキャビアの顔を撫でて祝福。元来大人しい馬だったブラックキャビアも流石に少々緊張したようである。ちなみにブラックキャビアが勝ったダイヤモンドジュビリーSは、前年までゴールデンジュビリーSだった競走を、エリザベス女王の即位60周年を記念して改称したもので、女王にとっても記念すべきロイヤルアスコット開催であった。実況が「豪州競馬史上もっとも偉大な瞬間」と称えたのも納得。
勝ったからよかったようなものの、危うくデザーモの二の舞になるところだったノレン騎手の騎乗は「頭がおかしくなった」とぶっ叩かれるほどのアレっぷり。レースの評価も非常に低かった。ノレン騎手はハロン棒とゴール板を勘違いした……わけではなく、馬の脚に僅かに異常を感じたこと、馬が遠征で疲れていたことなどを理由に挙げた。ただノレン騎手自身も頭が真っ白になってたらしいし、多少は油断もあったようである。
しかしノレン騎手にとっては幸か不幸か、レース後本当に筋肉と股関節を故障していたことが判明。遠征を切り上げ帰国の途につくこととなった。この年は豪州年度代表馬&最優秀短距離馬に加え、欧州カルティエ賞の最優秀短距離馬も受賞。1991年に創設されたカルティエ賞を欧州外の馬が受賞するのは史上初の快挙だった。
12/13シーズン
故障もあったし半年余りゆっくり休養し、2013年2月のG1ブラックキャビアライトニングに出走。前年までライトニングSだったレースが、ブラックキャビアの余りの偉大さに現役中にその名をいただいて改称してしまったのである。レースは当然のように2馬身半差で完勝。勝ちタイムは1000mで55秒42を記録し、コースレコードを25年ぶりに更新。しかも最後は流したのに、である。最後まで追ってたらどうなってたんだ……。このレース後、現役中ながら競馬殿堂入りを果たしている。文句の言いようもない。
G1ウィリアム・リードSも4馬身差の圧勝。続くG1TJスミスSではHay Listと生涯6度目の対戦。しかし結局相手にしない強さで3馬身差の楽勝。Hay Listは10着。涙目。
ちなみに、ブラックキャビア相手に6戦全敗に終わったHay Listは、その後3戦して未勝利に終わり引退している。……もう泣いていい。
なお、この勝利でKingston Townの14勝を上回りG115勝の豪州記録を樹立している。
レース後に陣営は引退を発表。「もう十分走らせた」というのが理由であった。確かに既に6歳、国内でもうやることはないし、記録もあらかた手にした。陣営は伸び続ける記録と大きくなる期待に重圧を感じていたようで、記録に傷をつける前に繁殖に上げてあげようと考えたのも無理からぬ話である。「名を惜しむ」とは日本の名馬シンザンの引退発表に際しての発言であるが、力のあるうちに引退させてあげる方がその馬のためにもいい……のかもしれない。
評価
25戦無敗。G115勝。レーティングは古馬牝馬史上最高の136ポンド。最強牝馬と言っても差し支えないほどの名馬である。
馬体がとにかくデカく、馬体重はあのヒシアケボノやZenyattaより重かったそうな。しかもそれが全部筋肉だったというから恐ろしい。馬体がデカいからストライドは大きいのに回転も速かったらしく、もうスピードの絶対値が根本的に違ったのだろう。
ブラックキャビアが打ち立てた記録のうち連勝、G1勝利などは後にWinxに塗り替えられている。しかしWinxはいくつか負けもあるし、生涯スプリンターだったブラックキャビアとマイル~2000mが主戦場のWinxでは一概に比較もできない。どっちもすんごいやんばい馬、としか言いようがないのである。しかし記録を作ったのが両方とも牝馬ってのがすごいなぁ……。
引退後
引退後は地元豪州で繁殖入り。これまで2頭の産駒が勝利を上げているが母ほどの大物感ある産駒はいないようである。現状は豪州の種牡馬と交配されており、引退直後から噂されている欧州の怪物Frankelとの交配は実現されていない模様。しかしFrankelとブラックキャビアの産駒が両方の能力を受け継いだら収拾がつかなくなりそうなので、実現してほしい反面恐ろしくもある。
血統表
Bel Esprit 1999 鹿毛 |
*ロイヤルアカデミーII Royal Academy 1987 鹿毛 |
Nijinsky II | Northern Dancer |
Flaming Page | |||
Crimson Saint | Crimson Satan | ||
Bolero Rose | |||
Bespoken 1990 黒鹿毛 |
Vain | Wilkes | |
Elated | |||
Vin d'Amour | Adios | ||
Gliteren | |||
Helsinge 2001 鹿毛 FNo.1-p |
Desert Sun 1988 鹿毛 |
Green Desert | Danzig |
Foreign Courier | |||
Solar | Hotfoot | ||
L'Anguissola | |||
Scandinavia 1994 栗毛 |
Snippets | Lunchtime | |
Easy Date | |||
Song of Norway | Vain | ||
Love Song | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Vain 3×4(18.75%)、Northern Dancer 4×5(9.38%)、Silly Season 5×5(6.25%)
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関連項目
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