叡王戦(えいおうせん)とは、将棋のタイトル戦である。不二家・日本将棋連盟主催。
2015年よりドワンゴ主催の一般棋戦として始まり、2017年の第3期よりタイトル戦となった。タイトル戦の中での序列は2022年6月現在第4位。
概要
叡王と挑戦者による五番勝負が開催される。持ち時間はチェスクロックの4時間、切れたら1手1分。
予選は段位別に行なわれ、本選トーナメント出場者12名を決定する。持ち時間はチェスクロックの1時間、切れたら1手1分。
予選通過者と、前期ベスト4以上のシード棋士4名による本戦が行なわれる。持ち時間はチェスクロックの3時間、切れたら1手1分。
本戦トーナメントと番勝負では、「見届け人」が募集され、対局開始に立ち会うほか、棋士・女流棋士による案内、将棋めし、揮毫色紙のプレゼント、対局に使用した駒のプレゼント(番勝負のみ)など、対局を楽しめるシステムが採用されている。
開催〜第1期・第2期
様々な物議と論争を巻き起こした電王戦FINALの終了より2ヵ月後、2015年6月に「電王戦に関する新展開」が発表された。
その内容は、
- 現役プロ棋士よりエントリーを募り、段位ごとに棋士を分けて予選を実施。予選トーナメントを勝ち抜いた棋士が本戦トーナメントに出場し、その優勝者に“タイトル”を与える新棋戦を行なう。
- 新棋戦優勝者は、コンピュータプログラムのチャンピオンを決める“電王トーナメント”の優勝プログラム、“電王”との第1期電王戦二番勝負に挑む。
- 新棋戦の名称は、一般公募とする。
というものであった。かつて取り沙汰されていた“電王戦タッグマッチ”の公式戦化ではなく、プロ棋士がタイトルを懸けて戦う新棋戦という形になり、併せて谷川浩司・森内俊之の両永世名人、佐藤康光永世棋聖、現役タイトルホルダーとして糸谷哲郎竜王のエントリーなども発表された。
その後、6月18日に新棋戦名として“叡王戦”が棋戦候補名から投票にて選ばれた。
これに勝ったものは電王と戦うのだから、人間の王と意味にしたい。ならば、人間しか持たない、知恵や叡智を競う将棋の頂点に相応しい称号を考えた。「叡」という字には、明らか、聡明、物の道理に通じた、という意味(ニコニコ大百科による)がある。将棋の道理を人間とコンピュータがどちらが理解しているか、という意味もこめて。(埼玉県 32歳 男性)
優勝者は“叡王”を冠し、翌年の春頃に開催される電王戦の人類代表としてコンピュータ・プログラムの代表、“電王”との二番勝負に臨む。予選枠は九段が4名、八〜五段が各2名、四段が1名を基本枠とし、タイトル保持者数を勘案して決められた。第1期は九段6名、八段3名、七段・六段・五段2名、四段1名。本戦トーナメントも決勝以外の持ち時間は予選と同じで、決勝は持ち時間5時間(昼・夕休憩あり)の三番勝負。
第1期には159名のプロ棋士中154名が参加。この棋戦のみ、称号ではなく段位で呼称された(例:郷田真隆王将ではなく郷田真隆九段)。
優勝賞金などは非公表だったが、日本将棋連盟の棋戦情報ページでは一般棋戦の中で一番上に記載されており、優勝賞金1000万円(当時)の朝日杯将棋オープン戦よりも高額であることが示唆されていた。
第3期以降:公式タイトル戦へ
2017年5月20日に行なわれた第2期電王戦第2局終了後の記者会見において、叡王戦が全棋士参加の公式タイトル戦に昇格することが発表された。タイトル戦の誕生は1983年に昇格した王座戦以来34年ぶりであり、新聞社以外が主催するタイトル戦は史上初めてである。
叡王と挑戦者による七番勝負が4月〜6月に開催される[1]。持ち時間は1時間、3時間、5時間が各2局ずつ、6時間が1局で、順番は対局者によって決められる。詳しいルールは公式サイトを参照のこと。
予選は段位ごとに棋士を分けて行なうトーナメント方式で実施され、本選トーナメント出場者16名を決定する。予選枠は九段4名、八段・七段・六段3名、五段2名、四段1名の計16名。持ち時間はチェスクロックの1時間、切れたら1手1分。1日に2〜3局の対局が行なわれる。女流棋士1名、アマチュア棋士1名も四段予選に参加する。
予選通過棋士16名と予選免除棋士8名の計24名による本戦トーナメントは10月~翌2月にかけて開催される。持ち時間はチェスクロックの3時間、切れたら1手1分。挑戦者決定戦となる決勝のみ三番勝負となる。なお、予選免除棋士は前期ベスト4、タイトル保持者などから決められる。こちらも詳しい条件は公式サイトを参照のこと。
予選トーナメントの注目局と準決勝以上の対局、そして本戦トーナメントと七番勝負はニコニコ生放送で生中継される。
第3期は、第2期までの形式を引き継いだ形で段位別予選と本戦が行なわれたが、この期より女流棋士、アマチュア棋士が四段予選に参加することになった。
クラウドファンディングの開始
第4期では見届け人制度が採用されたが、第5期では「叡王戦を応援するプロジェクト」としてクラウドファンディングが行なわれた。募集サイトは「CAMPFIRE」で、目標金額は200万円。2000円~100万円までと幅広い支援内容となっている。
2019年5月15日~2019年6月14日までの1ヵ月間行なわれ、途中でTシャツや叡王戦テレビちゃんぬいぐるみ等のリターンも追加された。
結果は、目標金額の7倍を超える1406万2100円、パトロン数785人となり、初めての試みとしては大成功の結果となった。
詳細はプロジェクトページを参照のこと。
ギフトシステムの導入
2019年9月23日の「ニコニコ将棋の日」(ニコ生初の公式将棋番組が初めて放送された日)を記念してユーザーからの意見を募集したところ、盤外企画のためのクラウドファンディング開催や、ギフトによる支援の提案があった。
それらをに対してアンケートを行った結果、以下の結果となった。
①盤外企画にクラウドファンディングの利用
②盤外企画にギフトの利用
上記を参考に、『第5期叡王戦 本戦トーナメント抽選会』の生放送からギフトが実施された。これは将棋関係の公式生放送では初の試みである。特に何のリターンも提示しなかったにも関わらず、109,100ptと10万超えの成果となった。
第二弾として、『第5期叡王戦クラウドファンディング「叡王戦テレビちゃん」の発送作業を見守る番組』でもギフトが実施された。抽選会の時とは異なり、今度は具体的な使いみちが告知された。直後に開催する『【叡王戦本戦トーナメント開幕記念】峰王戦@筑波山』の内容をパワーアップさせるためのものとして、盤外企画に対してのギフトとなった。
- 20,000pt 差し入れにタピオカミルクティー追加
- 30,000pt 棋士のお弁当が豪華に
- 50,000pt 打ち上げ風景を公開
- 100,000pt カメラが一台追加
- 200,000pt ユーザーからの案を追加
- 300,000pt ユーザーからの案を追加
- 500,000pt 盤外企画:叡王戦クイズ王の制作が決定
結果、326,800ptと30万超えとなった。そのうちの136,000ptは一人のギフトではあったが、それを差し引いても20万近くとかなりの成果となった。放送内容が梱包作業で棋士も出場しないという内容を考えると、驚きの結果であった。
第6期以降:主催者交代
2020年10月20日に開催された「第5期 叡王就位式」にて、ドワンゴが叡王戦の主催者から降板することが発表された。
同月29日に記者会見を行い、不二家が主催(将棋連盟と共同)、ひふみ(レオス・キャピタルワークス)とSBI証券が特別協賛となること、あわせて序列の降格(第3位→第6位)を発表した。これによりタイトルの序列は第1位から順に「竜王→名人→王位→王座→棋王→叡王→王将→棋聖」となる。
- 出場資格は現役の全棋士。
- 予選免除者は前期の七番勝負敗者と本戦ベスト4以上の計4名。
- 予選は段位別に実施し、12名が本戦に進出する。持ち時間はチェスクロック1時間、切れたら1手60秒未満。
- 本戦トーナメントは16名(予選免除者4名+予選通過者12名)で実施する。本戦決勝=挑戦者決定戦は一番勝負。持ち時間はチェスクロック3時間、切れたら1手60秒未満。
- 挑戦手合は五番勝負。対局は1日制で、持ち時間はチェスクロック4時間で固定、切れたら1手60秒未満。
第7期(2021年)から中部電力・豊田自動織機・豊田通商の3社が協賛に名を連ねる。第8期(2022年)から序列が第4位に昇格した。これによりタイトルの序列は第1位から順に「竜王→名人→王位→叡王→王座→棋王→王将→棋聖」となる。2023年に永世位に関する規定が追加され、通算5期以上保持により「永世叡王」の資格を得られることとなった。
歴代結果
期 | 開催年度 | 優勝者 | 三番勝負成績 | 準優勝者 |
---|---|---|---|---|
1 | 2015年 | 山崎隆之 | ○/○ (2-0) | 郷田真隆 |
2 | 2016年 | 佐藤天彦 | ○/○ (2-0) | 千田翔太 |
期 | 開催年度 | 決定戦勝者 | 七番勝負成績 | 決定戦敗者 |
3 | 2017年 | 高見泰地 | ○5/○5/千○3/○3 (4-0) | 金井恒太 |
期 | 開催年度 | 前期叡王 | 七番勝負成績 | 挑戦者 |
4 | 2018年 | 高見泰地 | ●5/●5/●3/●3 (0-4) | 永瀬拓矢 |
5 | 2019年 | 永瀬拓矢 | 千●5/持5/持1/○1/○3/●3/○6/●6/●6 (3-4) | 豊島将之 |
期 | 開催年度 | 前期叡王 | 五番勝負成績 | 挑戦者 |
6 | 2021年 | 豊島将之 | ●/○/●/○/● (2-3) | 藤井聡太 |
7 | 2022年 | 藤井聡太 | ○/千○/○ (3-0) | 出口若武 |
8 | 2023年 | 藤井聡太 | ○/●/○/千千○ (3-1) | 菅井竜也 |
9 | 2024年 | 藤井聡太 | ○/●/●/○/● (2-3) | 伊藤匠 |
※2020年度は番勝負の長期化、主催者交代等の都合、半年程度の日程のズレが生じた。
第5期七番勝負日程
局 | 日程 | 対局会場 | 持ち時間 | 先手 | 結果 |
---|---|---|---|---|---|
2020年 | |||||
1 | 04/12 06/21 |
ほほえみの宿 滝の湯(山形県天童市) 伊豆今井浜温泉 今井荘(静岡県賀茂郡) |
5時間 | 永瀬 | 113手にて千日手指し直し |
残り時間 +1時間 |
豊島 | 115手にて豊島の勝ち | |||
2 | 05/04 07/05 |
亀岳林 万松寺(愛知県名古屋市) 城崎温泉 西村屋本館(兵庫県豊岡市) |
5時間 | 豊島 | 222手にて持将棋・引き分け (指し直し局は実施せず) |
3 | 05/16 07/19 |
越後長野温泉 嵐渓荘(新潟県三条市) 亀岳林 万松寺(愛知県名古屋市) |
1時間 | 永瀬 | 207手にて持将棋・引き分け |
4 | 1時間 | 豊島 | 232手にて永瀬の勝ち | ||
5 | 05/23 07/23 |
としま区民センター(東京都豊島区) 将棋会館(東京・千駄ヶ谷) |
3時間 | 永瀬 | 113手にて永瀬の勝ち |
6 | 06/07 08/01 |
城崎温泉 西村屋本館(兵庫県豊岡市) 関西将棋会館(大阪市福島区) |
3時間 | 豊島 | 139手にて豊島の勝ち |
7 | 06/21 08/10 |
伊豆今井浜温泉 今井荘(静岡県賀茂郡) 将棋会館(東京・千駄ヶ谷) |
6時間 | 永瀬 | 91手にて永瀬の勝ち |
8 | 09/06 | 元湯陣屋(神奈川県秦野市) | 6時間 | 豊島 | 75手にて豊島の勝ち |
9 | 09/21 | 将棋会館(東京・千駄ヶ谷) | 6時間 | 豊島 | 111手にて豊島の勝ち |
結果:豊島竜王が4勝3敗2引分(2持将棋1千日手)にて叡王位奪取、永瀬叡王は防衛失敗 |
- 両者のタイトルは七番勝負開始時点のもの。なお豊島は8月15日に名人位を失冠し、竜王の一冠に後退していた。
- 第7局の先後は当日に振り駒を行い、永瀬叡王が先手番となった。
- 第8局の先手番は第7局から先後入れ替え。
- 第9局の先後は第8局終了時に振り駒を行う。持ち時間は3・5・6時間から後手番が選択する。振り駒の結果、挑戦者の豊島竜王が先手番となり、後手番の永瀬叡王が6時間を選択した。
- 第8・9局に関して、特別ルールとして千日手と持将棋は成立時刻にかかわらず、即日指し直しまたは次局を行う。詳細は日本将棋連盟のお知らせ(リンク)を参照。
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関連項目
脚注
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