全密閉モーターとは、主に最近の交流モーターにおいて、内部を外気から遮断する密閉構造を採用したものである。
一般に電車のモーターでは、モーター回転軸に装着されるファンや、専用の送風機によって外気を取り込み、内部の冷却を行う。そのため、通風口を通して、モーターの回転騒音が外部へ漏れるという問題があった。
そこで、内部の発熱を減らして通風口を無くし、内部を外気から遮断することで回転騒音を抑える構造を採用したのが、「全密閉モーター」や「全閉モーター」などと呼ばれるものである。騒音の緩和だけでなく、埃が入らないため内部の清掃が不要になる、回転軸のファンを小型化したり廃止できるなど、整備面や運用効率などの利点も有する構造だ。
最初に全密閉モーターの導入を進めたのは小田急電鉄で、現在ではJR・私鉄を問わず採用が増えている。
小田急4000形や阪急1300系、南海8300系などに対してよく言われる「全密閉モーターの音」は、実際には、モーターの電磁石の極数が4極から6極に変わったことで磁励音が変化したものである。全密閉モーターだから"あのような音"になったわけではない。
| 所属 | 車両形式 |
|---|---|
| 小田急電鉄 | VSE・MSE・3000形(一部)・8000形(一部)・4000形 |
| 阪急電鉄 | 1300系・7300系VVVF制御車・8300系VVVF更新車 |
| 新京成電鉄 | 8000形VVVF制御車 |
| 京王電鉄 | 1000系更新車 |
| 名古屋鉄道 | 4000系・100系VVVF制御車 |
| 南海電鉄 | 8300系 |
| 相模鉄道 | 20000系 |
| 東急電鉄 | ※5050系5177F・5178F |
| 広島電鉄 | 5000形 |
| JR東海 | N700S系(新幹線車両) |
| JR北海道 | 733系1000/3000番台 |
| JR四国 | 8600系・7200系(旧121系) |
※東急5050系5177Fの制御装置は、同4000番台のものと同型である。したがって、モーター音が変わったのは6極の誘導モーターに因ると考えるのが妥当だ。
正確には、交流モーターの「電磁石」とは固定子コイルが発生する回転磁束のことで、その極数・回転数(同期速度)と周波数は、以下のような関係を持つ。
極数が4極から6極に増えると、同じ回転数では周波数が1.5倍増えることが判る。磁励音の高さは周波数に比例するから、同じ回転数ならこれも1.5倍高い音となる(周波数が2倍なら音は1オクターブ高くなる)。そのため、モーターの極数を4極から6極に変えると、同じギア比・加速度でも磁励音の上がっていく速さが変化するのだ。
逆に、全密閉モーターであっても極数が4極であれば、磁励音が変化しないので概ね従来と同じような走行音になる(E235系、東武60000系、京王5000系など)。最近では、4極の全密閉モーターの方が多いようである。
| 車両 | 極数計算(回転数÷周波数) | 電動機 |
|---|---|---|
| E235系 | 2380÷80=29.75≒30 | 4極IM |
| 東武60000系 | 2066÷70=29.5≒30 | 4極IM |
| ※西武6000系 | 2400÷81=29.62≒30 | 4極IM |
| 小田急4000形 | 1980÷100=19.8≒20 | 6極IM |
| 阪急1300系 | 1955÷99=19.8≒20 | 6極IM |
| 相鉄20000系 | 1840÷93=19.75≒20 | 6極IM |
| 東京メトロ16000系 | 2460÷123=20 | 6極PMSM |
| E331系 | 360÷30=12 | 10極PMSM |
交流モーターは、極数を増やすことでより小型化が図れる。そのため、電気機関車では6極の誘導モーターが標準的に使用されており、最近では新幹線車両のN700Sでも6極モーターが採用された。一般に全密閉モーターは重量・体積が増加する傾向があり、その抑制を狙った設計だったと考えられる。
ただし、極数を増やすと高回転になるほど周波数が上がってインバータの損失が大きくなるほか、モーターの構造(固定子コイル巻線)が複雑になるなどの難点もある。そのため、最近では別な設計手法(インバータにおけるSiC素子の採用など)でモーターの小型化が図られているようだ。
▼4極の全密閉モーター
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最終更新:2025/12/18(木) 12:00
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