テーザー銃(Taser)とはスタンガンの一種で、有線の電極が空気圧で射出されるもの。商品名。非致死性武器の一つ。アメリカで開発され、各国の警察や刑務所で使用されている。
概要
法執行機関向けの電子機器やソフトウェアを開発するTaser International(現・AXON)が開発したスタンガンの一つ。外観は拳銃の様だが、スタンガンなので実弾を発射する機能はない。通常のスタンガンと異なるのは、電極が射出されて相手に刺さること。電極と本体とは数メートルのワイヤーで繋がっており、本体で発生させた電流はそのワイヤーを伝って電極に流れる。よって数メートル離れたところから電撃を加えられるので、通常のスタンガンのように相手の体に直接接触させる必要はなく、安全に制圧しやすいのが特徴。法執行官にとっては、銃と素手の間を埋める装備と言えるだろう。
従来であればこのような場合は警棒が使われていたが、1991年のロドニー・キング事件(ロス市警の警察官が、ロドニー・キングを殴打した事件)で打撃武器の加害性が問題となり、より加害性の低いテーザー銃も使われるようになった。
警察官が任務においてテーザーを携帯・使用するにあたっては、各州が定める術科講習を修了しなければならない[1]。他の武器もそうであるが、修了無しに任務で携帯・使用を行うことは、各機関規則や法令で禁止されている。
機能・構造
構造は大きく分けると、前端部の電極カートリッジと、電流を発生させる本体部からなる。カートリッジが通常の拳銃における実包に相当し、使用後は使用済みカートリッジを外し新しいものを付ける。普通の拳銃の様にグリップとトリガーがついており、トリガーを引くことで電極が射出され、電流が流れる。トリガーを離すと電流は止まる。射程は約10m。カートリッジを装着しない場合は、通常のスタンガンとしても使用できる。
効果
強い電流が流れることで、一時的に筋肉が硬直したようになり行動不能になる。電流を止めると、直ぐに回復する。非致死性武器であるので、一般的には死亡することはない。ただし稀にだが、電流に起因すると思われる死亡事案が発生している。
テーザー銃使用訓練の様子
上記の動画ではテーザーの効果も確認できる。電極を通じて体に電流が流れると、全身の筋肉が硬直したようになって身動きが取れなくなる。電流を止めると直ぐに動けるようになる。これがテーザー銃の特徴と言えるだろう。
使用
最も知られているのは、アメリカの警察官など法執行官によって使用されるもの。
法執行官は拳銃の使用に関しては厳しい規定があり、致死性武器を携えていたり、警察官や他者を殺傷する恐れが高い場合を除き銃で制圧することはできない。敵対的態度をとる者が警察官の言葉による制止を聞き入れない場合は、有形力をもって制止する必要性が生じるが、こういったことから相手が素手では拳銃は使えない。しかし素手であるように見えてもナイフや銃を隠し持っている場合もあり、格闘で対応するのが危険な状況もある。よって、なるべく安全な距離を保った状態で拳銃などを使わずに、相手の行動を制止するのが望ましい。また警察官が相手を押さえつけたとしても、手錠をかけさせないように抵抗する事例は多々見られる。
そのような場合に用いられるのがテーザー銃となる。
実際の使用例:職務執行中に脅威と捉えられる行動をする素手の者
動画に登場する運転手の男は警察官に停車を命じられ、これには従った。だが警察官がパトカーの方へ戻ろうとすると、勝手に降車して警察官に詰め寄る態度を見せた。これは警察官に対する敵対的態度と捉えられる。警察官は"Put your hands behind your back"(手を後ろに回せ)と指示し、テーザー銃を構えた。指示は安全を確保する目的で一時的に男に手錠をかけるために行われており、「指示に従わなければテーザー銃で撃つぞ」という警告も兼ねる。指示に素直に従う場合はテーザー銃を使用してはならない。手錠をかけるのは安全のためであり、逮捕ではない。調べの後、逮捕すべき違法行為がなければ解放される性質のものである。
男はこの指示には従わず、そのまま車へ戻ろうとした。車には銃器が隠されている場合もあり、また上記のような敵対的行動を既に取っていることから、警察官は指示を無視したことを確認してテーザー銃を使用している。これは適切な使用例であり、違法性は認められない。
上記のような状況で相手の行動を制止できなかった場合、以下のような事案が起きる恐れがある。
この事例では、車から降りた男は当初は武器の携帯を確認できていない。警察官は右手を拳銃にかけてはいるが、手ぶらで踊っているだけなので銃は使用できない。警察官の指示に従わず"Fuck you !"など攻撃的言動を行ったり、詰め寄ろうとするなど、敵対的態度をとる点では先述の事例と類似している。安全な距離を置いて男の行動を制御し、安全を確保しようと試みているが、男は全く指示に従わない。
先述の事例と決定的に違う点は、男が車に戻って銃を取り出し、警察官へ向けて発砲したところ。このように拳銃が使えない状況から銃撃に急転するのは、十分に想定されることである。状況の急転を防ぎ、安全を確保することが可能なのは、被疑者の行動を安全に制止できる非致死性武器となるだろう。
不適切な使用例
テーザー銃を使用する場合は、基本的に警告をすることが定められている。警告なしに使用するのは規則違反、又は違法となる州が多い。実際に警告なしでテーザー銃を使用したために、警察官が懲戒免職となった事例もある。
新型のテーザー銃
時代を経てテーザー銃も進化し、最近では改良されたものも登場している。
TASER XREP
ショットガンから発射できる弾丸状に改良したもの。通常のショットシェルやスラグ弾と同様に、ショットガンに装てんして使う。先端に電極がある弾丸状で、それに電流発生装置や電池、スイッチなどが全て纏められている。ショットガンから発射するため射程は一気に30mまで伸びた。
人権侵害の指摘
テーザーは非致死性武器ではあるが、効果の項目で示したとおり絶対に死なないとは言い切れない。また銃と素手との間を埋める器具であることから、かえって警察官がテーザー銃を安易に使用しているのではないかという懸念も示されている。これらのことは人権侵害であるとして、人権団体などから度々指摘されている。
一方の法執行機関側としては、銃を使用できない状況における執行官の安全確保と確実な制圧のために、テーザー銃は必要であるとしている。安全性をアピールする狙いから、警察官が実験台となり電流を受けるデモンストレーションも過去に何度か行われた。
テーザーが効かない?
テーザーは必ずしも効果が得られるわけではない。むしろ少なくない確率で、その効果が得られないという報告もある。
Tasers fail Fort Collins police in 30% of uses (Pacific Daily News)
この記事はコロラド州のフォートコリンズ市警察の発表に基づいて書かれた新聞記事。記事によれば、同市警のテーザー使用件数のうち、約30%で効果が無かったと言う。記事では、酔ってナイフを振りかざす男に対してテーザーを使用したものの効果が得られず、3人の警官が計9発の実弾射撃を行った事例も紹介されている。またフォートコリンズ以外でも同様の話がでている[2]。今日ではありふれた装備であり多くの警察で使用されているが、過信は禁物ということだろう。
尚、先の記事にはフォートコリンズ市警のボディカムの動画があるが、これに映っている警官らの執行は模範的とも言うべきもの。警官は「停まれ、ナイフを捨てるんだ」と数度呼びかけ、被疑者が指示に従わないことを確認してテーザーを使用。残念ながら効果は無かったわけだが、それからも呼びかけを続け、被疑者が指示に従わず接近してきてから射撃を行っている。被疑者が倒れた後は再び動き出す可能性を考慮し、銃を構え密集隊形で接近、武器を取り上げ手錠をかけ、安全を確保した後で速やかに救命処置を行っている[3]。訓練が行き届いており士気も高そうなので、きっと予算のある警察なんだろう。
日本での扱い
テーザー銃が発売された頃は、コンバットマガジンなどにテーザー銃の広告が掲載された。「エアテーザー」として紹介され、全く新しいタイプのスタンガンであると宣伝された。しかしその後、電極の発射機構が銃刀法で規定された空気銃に該当するとし、規制対象となる。以後、日本での販売は行われていない。
関連動画
関連商品
外部リンク
関連項目
脚注
- *ELECTRONIC WEAPONS UPDATE - 23093 左記はカリフォルニア州が定めた電気武器(≒テーザー)術科講習の日程一覧。警察官は講習を行う機関に受講を申し込み、その修了証明の発行ををもって携帯・使用資格を得られる。その上で、各警察機関の運用方針に基づいて、技能従事者として任務の割り当てを受ける。
- *TOP NEWS Tasers often don’t work, review of LAPD incidents finds こちらはロサンゼルス市警察の報告に基づくもの。
- *死亡宣告ができるのは医師、又は医師からテレメトリー(遠隔監督)で死亡宣告を許可された救急救命士である。警察官はどちらの資格もないので、死亡宣告が出るまでは生存している前提で対処する。
- 16
- 0pt