法科大学院とは、弁護士や検察官などの法曹の養成を目的とした専門職大学院である。
概要
アメリカ合衆国のロースクールをモデルにして、2004年に導入された。
これに基づいて行われる司法試験を一般的に「新司法試験」と呼ぶ。新司法試験を受けるためには、
- 予備試験に合格する。
- 法科大学院を修了する。
のどちらかが必要になる。この為一応法科大学院を修了せずに受けることも可能ではある。
主に非法学部出身者を対象とした3年制の未修コースと、法学部出身者を対象とした2年制の既習コースがある。
導入の契機
いわゆる法曹の養成においては、司法試験予備校などの存在感が強く、これによる知識偏重による形式的な意見を出す人物が多いという批判が出ており、また、裁判の長期化といった問題に対し、法曹を多く世に送り出す必要性が出てきたことから、論理的思考に基づいた法律人の育成を試みようと、新たに設置されたのが法科大学院である。
しかしながら、これら導入については疑問や批判も多く見られた。
法科大学院の問題点
1.費用と時間がかかる
法科大学院へ行くためには、当然学費もかかるし、既習であっても2年という月日がかかることになる。学費は、国立大学院の既習コースであっても約200万円ほどかかる。大学進学時点で奨学金を借りている人もいるわけで、このような学費と月日の問題で司法試験の受験を断念してしまう人もいる。裕福な家庭でなければ挑戦することが難しいのは制度としてどうなのか、という批判がある。
また、コスパという観点で見たときに、よりコスパのいい公務員試験などに切り替える人もおり、優秀な人材が法曹に行かなくなってしまうのではないか、という指摘もある。
2.司法試験合格率が想定したよりも伸びなかった 多くの大学院が募集停止になった
合格率が58%程度あるような有力法科大学院がある一方で、合格率1ケタだとか、酷いと0%というような法科大学院も多数存在してしまっており、法科大学院全体で見ると導入時想定したよりも低い合格率になってしまっている。特に、未修コースが低く、当初言っていた様々なバックグラウンドを持つ人材を法曹界に送るという理念は達成されたとは言い難い現状がある。
そして、多くの法科大学院が募集停止に追い込まれていった。これは、大学受験における序列の低い大学の大学院だけの問題ではなく、募集停止になった大学院の中には静岡大学などの地方国立大学や、名門私立とされる青山学院大学や立教大学などの大学も含まれている。
また、文部科学省から学位授与機関として不適合であるという評価を受ける法科大学院も出てきた。2023年には、大学受験では難関校とされている上智大学の法科大学院ですら、不適合とされてしまった。
3.地理的な問題、社会人が通うことができない
上記の問題に関連して、地方の法科大学院が募集停止に追い込まれていき、法科大学院の立地が首都圏と関西地方に偏ってしまっているという問題がある。現状、法科大学院は首都圏と関西地方に偏っており、その他の地方は0~3校程度しか法科大学院がないという地方もある。
また、夜間や土日開講などの夜間大学院はほとんどなく、通信制の法科大学院もないため、地方で働く社会人が通うには、仕事を辞めるかしなければならないという問題もある。
4.合格できなかった時のリスクが大きい
仮にトップクラスの有力法科大学院を修了したとしても、4割程度の人は合格できずに終わることになる。合格できなかった場合は再挑戦するか諦めて就職を目指すことになるが、20代後半~30代の文系院卒で、職歴もない人が仕事を探すというのは非常に大変なことである。日本の企業は学位を重視しない上、若い人材を欲しがる傾向があるため、このような人の就職は困難になってしまうという問題がある。
三振博士
三振博士とは、法科大学院を修了し、法務博士の学位を得た後司法試験に3回挑戦し、3回不合格になった人のこと。法科大学院修了後に司法試験を受ける権利には、5年以内に3回までという制限がついていた。もし3回不合格になってしまったら
のどちらかを選ぶことになる。しかし、もう一度法科大学院へ行くのは、労力や費用の観点からあまり現実的ではなく、大抵の人は就職を目指すことになるが、前述のとおり三振博士の就職はとても苦労することになる。他の法律資格を受けるという道もあるが、行政書士や管理業務主任者などの法科大学院生の滑り止め資格も近年では就職が厳しいこともあって、やはりイバラの道であることに変わりはない。
なお、2015年からは3回の制限はなくなり5年以内という制限が残った為、現在では五振することができるようになった。このため、五振博士と言われることもある。
このような問題から、法科大学院へは行かず、いったん就職し、働きながら予備試験合格ルートで司法試験合格を目指すというのもポピュラーな選択である。むしろ予備試験ルートの弁護士の方が優秀な傾向があるなんて言われていることもある。
このため、今からでも遅くないから旧司法試験に戻すべきではないか、法科大学院は司法試験の受験資格とは切り離し、弁護士や行政書士などの法律資格で働く人たちのリカレント教育の機関とするのが良いのではないか、などという意見も出ている。
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関連項目
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