トカラ語単語

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トカラ語とは、かつて存在した言語である。

概要

8世紀ごろ東トルキスタンあたりで話されていた言語で、トハラ語ともいう。大きく分けてA方言とB方言の2種類が存在し、前者をアグニ語（東トカラ語）、後者をクチャ語（西トカラ語）、とも呼ぶ。

この言語の解読は、おおよそギリシャ語やラテン語の起源をサンスクリットに求めていた19世紀のインド・ヨーロッパ語族の比較言語学一変させるに至った、ヒッタイト語と並ぶ20世紀前半の言語学上の大発見となっている。
インド・ヨーロッパ語族はそれまで百を表す単語がkで始まる西のケントゥム語、sで始まる東のサテム語の二分類が行われていたが……そう、トカラ語はインド・ヨーロッパ語族の中で最も東に位置するのにケントゥム語だったのである

文字体系

ブラーフミー文字に似た独自のトカラ文字を使用していたようだ。

音韻体系

母音

トカラ語A

• 短母音：i,u,'ä/ä,ā
• 二重母音：äy>i,œi>ay>e,äw>u,aw>o,āy>e,āw>o,'ay>'e,'aw>'o

トカラ語B

• 短母音：i,u,'ä/ä,'e/e,o/ā
• 二重母音：äy>i,œi>ey>āy,äw>u,ew>aw,āy>ai,āw>au,'ey>'ai,'ew>'aw

子音

	両唇音	歯茎音	硬口蓋音	軟口蓋音
破裂音	<p> <py>	<t>	<c>	<k> <ky>
鼻音	<m> <my>	<n>	<ñ>	<ṅ>
破擦音		<ts> <tsy>
摩擦音		<s> <ṣ>? <ś>?
流音		<r> (<ry>) <l>	<ly>
接近音	<w>		<y>

文法

名詞

語幹は母音語幹、ラリンジャル語幹、子音語幹、語根名詞の大きく4つに分類され、そこからさらに細分化される。
数は単数、複数の2種類に状況に応じて両数、双数が用いられるようだ。

例としてo-語幹の名詞を見てみよう

トカラ語A(yuk)	単数	複数
主格	yuk	yukañ
斜格	yuk	yukas
属格	yukes	yukaśśi
具格	yukyo	yukasyo
Perlative case[1]	yukā	yukasā
共格	yakaśśäl	yakasaśśäl
向格	yukac	yukasac
奪格	yukäṣ	yukasäṣ
処格	yukaṃ	yukasaṃ

トカラ語B(yakwe)	単数	複数
主格	yakwe	yukwi
斜格	yakwe	yukweṃ
属格	yäkwentse	yäkweṃt
Perlative case	yakwesa	yukwentsa
共格	yakwempa	yakweṃmpa
向格	yukweśc	yukweṃśc
奪格	yukwemeṃ	yukweṃmeṃ
処格	yukwene	yukweṃne

動詞

動詞の現在形は第1類から第12類までの12種類存在する

トカラ語A第1次語尾	能動態	中動態
1人称単数	-m	-mār
2人称単数	-t	-tār
3人称単数	-ṣ	-tär
1人称複数	-mäs	-mtär
2人称複数	-c	-cär
3人称複数	-ñc	-ntär

トカラ語B第1次語尾	能動態	中動態
1人称単数	-u(-m)	-mar
2人称単数	-t(-to)	-tar
3人称単数	-ṃ	-tär
1人称複数	-m(-mo)	-mt(t)är
2人称複数	-cer	-tär
3人称複数	-ṃ	-ntär

また過去形は第1類から第6類までの6種類存在する。

トカラ語A第2次語尾	能動態	中動態
1人称単数	-ā,-wā	-e,-we
2人称単数	-ṣt	-te
3人称単数	-	-t
1人称複数	-mäs	-mät
2人称複数	-s	-c
3人称複数	-r	-nt

トカラ語B第1次語尾	能動態	中動態
1人称単数	-wa	-mai
2人称単数	-sta	-tai
3人称単数	-a,-ā	-te
1人称複数	-m	-mt(t)e
2人称複数	-s	-t
3人称複数	-re,-r	-nte

これだけじゃなく未完了過去だの接続法だの希求法だの命令法だの分詞だの活用がとにかく多く、覚えるのはかなり大変だぞ。

関連動画

関連項目

• 言語の一覧
• インド・ヨーロッパ語族
• 比較言語学

脚注

1. *何かを通り抜けるときに使う、トカラ語や一部アボリジニの言語などにしかないレアな格

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