ブライアンズタイム(Brian's Time)とは、1985年生まれのアメリカの元競走馬・日本の種牡馬である。
日本の血統地図を大きく塗り替えた、*サンデーサイレンス・*トニービンと並び立つ偉大な種牡馬。
父はチャンピオン殺しのRoberto、母はKelley’s Day、母の父Graustarkという血統で、母の全姉の子に*サンシャインフォーエヴァー、半姉の子にDynaformerがいる活躍馬の血統である。
2歳の夏にデビューしたが3戦して1勝という、凡庸としか言えない成績であった。3歳になっても一般競走を勝ったくらいだったが、10頭中8番人気だったフロリダダービーでチャンピオン殺しの血が疼いたか前年の2歳牡馬チャンピオン・*フォーティナイナーを撃破する金星を挙げる。
これでアメリカ三冠路線の中心……かと思われたが本番前に2つポロッと負け、ケンタッキーダービーでは後方2番手で直線を迎えてよく追ったものの牝馬Winning Colors圧巻の逃げ切りの前に6着、プリークネスステークスでは鋭く追い込むがRisen Starに敗れ2着。
最終戦ベルモントステークスでは3着と言うと聞こえはいいが、1着Risen Starとの間には17馬身弱の差があった上6頭立てというレースだったため、あんまり喜んじゃいけない着順である。
その後は夏にGIIを取ったが主要路線ではトラヴァーズステークスで*フォーティナイナーに競り負けるわ古馬混合戦のウッドワードステークスで前年の二冠馬Alyshebaと*フォーティナイナーの接戦の蚊帳の外に置かれ大敗するわで裏路線行きとなり、その裏路線で前年にGIになったばかりのペガサスハンデキャップを勝ったところで3歳終了。
しかし4歳になっても勝ちあぐねていた。そうこうしている内に、日本への売却が決まったため芝で試されたがここでも振るわず。
成績が良ければジャパンカップで顔見世興行プランもあったが結果が出なかったため消え、引退した。通算21戦5勝。
*フォーティナイナーを負かした以外はぱっとしない馬と言われても仕方ない、一発屋もいいところな馬であった。
当時、急激に勢力を増していた早田牧場は、社台グループのエースの*ノーザンテーストや*リアルシャダイに対抗でき、牧場主の早田光一郎氏が見定めた指針「母父ノーザンダンサー系牝馬にノーザンダンサー系の血を含まない種牡馬の配合」に適した、新しい種牡馬選定を急務としていた。
そんな中で輸入されたのが*リヴリア(ナリタタイシン・ワコーチカコの父)なのだが、*リアルシャダイが新時代のステイヤー種牡馬として活躍していたのでRoberto産駒を輸入しようということになり、1988年の全米芝チャンピオンに選ばれた*サンシャインフォーエヴァーに白羽の矢を立てたのだが、価格で折り合わずに交渉決裂。
さてどうしようか……となったのだが、馬主から「*サンシャインフォーエヴァーと血統そっくりなブライアンズタイムって馬なら売ってもいいよ」と言われ散々に逡巡した挙句、友人の牧場主に聞いてその上で購入を決めた。つまり、本命が買えないから代打で呼ばれたのが彼だったということである。
血統は確かにそっくりどころかほぼ同じと断言できるくらい似てはいたが、だからといって現役時代の実績が劣る馬なんて……と思っただろうが、それも仕方ないことである。
まさか、代打で呼んだ馬が大成功するなんてそう予想はできない。日本の生産界はこの少し前、*テスコボーイや*ネヴァービートが成功したからといってPrincely GiftやNever Say Dieの血を引く馬を根こそぎ持ってきてそのかなりを腐らせたり、*パーソロンの兄弟を連れてきてアブクマポーロの母父に残る程度に壊滅させた上にパーソロンの末裔たちをも多少苦しめる結果にしたり、マルゼンスキーに倣ってNijinsky・Caerleon親子フィーバーとばかりに輸入し、その果てに*ラムタラを連れてきて日高が大恥をかいたりなど(金銭的な損自体は抑え込んだらしいが)、血統が似ている、活躍種牡馬と父が同じみたいな理由で連れてきて屍を晒す例が割と多かったのである。*ラッキーソヴリンとか*ラシアンルーブル、*ファバージみたいな活躍した馬もいたが。
ちなみに、早田氏が相談を持ちかけた友人の牧場主とはナリタタイシンなどを生産した川上悦夫氏である。彼の相馬眼の正しさには定評があったのだが、後の成功を考えればその相馬眼に頼ったことは間違いなく正解であった。
種牡馬としては*リアルシャダイの成功が追い風になっていて、*リアルシャダイの代用需要もあったとはいえ、まさに大成功としか言いようのない成績を残し、初年度から三冠馬ナリタブライアン、オークス馬チョウカイキャロルを輩出。
*リアルシャダイの衰えが早かったこともあり、あっという間に日本のロベルト系の代表にのし上がった。いきなりの下剋上である。
その後もマヤノトップガン、サニーブライアン、ファレノプシス、ダンツフレームなど次々に名馬を輩出し、大種牡馬としての地位を確固たるものにした。
息の長い確かな末脚と、多少の荒れ馬場や重い馬場を物ともしないパワー、頑健さが売りで、仕上がりが割合早い傾向にあるため、活躍馬にはクラシック戦線での活躍馬が多い。1997年のクラシック戦線はサンデーの活躍馬がくせ者ばかりで出世が遅かったこともあったがサニーブライアン、シルクジャスティス、エリモダンディー、シルクライトニングなどブライアンズタイム産駒ばかりが中心だったなんてこともあった。
ただ、活力が落ちたか芝でのGI獲得はヴィクトリー(競走馬)の2007年皐月賞以来しばらくご無沙汰で、2012年のエリザベス女王杯で、レインボーダリアがヴィルシーナを破りGI制覇を果たすまで5年の空白があった。
彼女はこの年5歳なのでちょうどヴィクトリー(競走馬)がGIを勝った年に生まれた仔である。タフだなあ。
ちなみに、そんなに差のないとはいえ7番人気馬が1倍台の大本命を倒すという展開であり、祖父から父に引き継がれたチャンピオン殺しの資質は受け継がれているようである。
とはいえ後期はフリオーソやバーディバーディに代表されるダートでの活躍が顕著だったが、元からダートが得意な傾向はあり、交流重賞初期の中央のエース・エムアイブラン、北関東の名馬カルラネイチャー、栃木の怪物ブライアンズロマン、メイセイオペラの後継者トーホウエンペラーら地方で活躍する名馬を多数輩出している。
むしろダートのほうが戦後最多勝記録となる43勝を挙げたブライアンズロマンがいたり、フリオーソがかなり高齢になりながら中央の強豪と互角に戦い続けたりなど息が長い馬が多かったので、本質的にはダートが得意なパワータイプなのであろう。極限の軽さが求められる近年の芝だとイマイチだったのも合点がいくというものである。
母の父としてもブルーコンコルドやビートブラック、サンライズペガサスを輩出したが、*トニービンや*サンデーサイレンスと比べるとかなりおとなしめな活躍である。
主戦場が日高だったからか、牝系の質がトニービンやサンデーより良くないところはありそうだが、現役時代活躍した牝馬の産駒がことごとくダメだったり、どうも競走馬として活躍するが繁殖牝馬としては二流という傾向はあるようである。 ただ、2010年代頃からはキングカメハメハやサンデー2世種牡馬との相性の良さがあるのか母の父としても成績は上昇傾向にある。
クラシックの有力馬にも母の父ブライアンズタイムは増えており、これからはより存在感を増していくと思われる。
後継種牡馬は代表産駒ナリタブライアンが夭折差し引いてもちょっと失敗としか言えない成績しか残せず、マヤノトップガンも散発的に活躍馬を残した程度であり、社台で種牡馬入りし、ウオッカを輩出したタニノギムレットに命運がかかっていた。ヴィクトリー(競走馬)も社台で種牡馬入りしたが種付け数はギムレットに及ばず、うだつが上がらないないまま死亡したためやっぱりタニノギムレット次第であろう。それでも、後事を託せる種牡馬がいるだけ*リアルシャダイより良いのかもしれない。
ただタニノギムレットも結局ウオッカ級の大物は出せずに引退したため、入れ替わるようにダートで活躍し始めたフリオーソの方が有力かもしれない。
馬体から資質が見切りにくいことに定評があり、父に似てやや小柄だけど腹袋がボテッとした、見た目より重量感を感じさせる馬、つまり普通走るとされている素軽そうな馬の逆に出たほうが走る傾向があった。
さらにシルクジャスティスのような牛かお前はと言われるくらい馬体に走る気配がない馬が走ったり、タニノギムレットのように筋肉ムキムキで短距離馬みたいな身体してるのに2400mこなしたりと、馬体と血統しか判断できない当歳セリで買う馬主や、パドックで馬体を見る派の馬券師・予想家にとっては天敵とも言える存在であった。
余談だが、*サンシャインフォーエヴァーも本国での失敗やブライアンズタイムの大成功で結局日本にやって来たのだが目も当てられない失敗に終わり、後で日本に輸入された理由も含め、代替種牡馬が本命を完膚なきまでに負かした数少ない例となった。
その他、ブライアンズタイムの種牡馬としての特筆すべき点として、意外な母父から活躍馬が出るというものがある。
初年度産駒のナリタブライアン(母父Northern Dancer)、チョウカイキャロル(母父Mr. Prospector)などはともかく、タニノギムレット(母父*クリスタルパレス)、トーホウエンペラー(母父*ノーリュート)、ダンツフレーム(母父*サンキリコ)と、血統マニアでない限り名前が知られてないような母父からGI馬が誕生することも珍しくないのである。
特に1994年度産駒はサニーブライアン(母父*スイフトスワロー)、シルクジャスティス(母父*サティンゴ)、エリモダンディー・シルクライトニング(母父*イルドブルボン)と、クラシック戦線を賑わせた馬たちがことごとくマイナー血統から生まれているのである。
*イルドブルボンは日本の成績が悪かっただけでイギリスダービー馬も出したことがあるし、母父ハイセイコーのマイネルマックスなんかもいたので、全部が全部そうというわけではないが。
この世代がマイナー血統軍団でも大活躍したのは決して偶然ではなく、1994年産駒の種付けシーズン(1993年の春~夏)はちょうどブライアンズタイムの初年度産駒がデビューする前であり、種付け料が下落していた。そのため普段は高額な一流馬に種付けしてもらうのをためらうようなマイナー血統の母馬でもこの年はブライアンズタイムをつけられた、という事情があったのである。
ちなみにこういったことは別にブライアンズタイムに限ったことではなく、新種牡馬の人気というものは初年度がピークでそれ以降は少しずつ落ちるものである。1993年には初年度産駒がまだ1歳だった*サンデーサイレンスも「*トニービンは予定いっぱいなんで今日暇なこいつでどうですか?」なんて言われてサイレンススズカの父になっているのである。
またサニーブライアンやマイネルマックスは繁殖牝馬の数が一桁というレベルの小さな牧場で生まれており、社台や早田牧場がG1を荒稼ぎしていた時代に彗星の如く現れた中小牧場の星と言える存在となり、馬だけでなく人にも希望を与える存在となった。
ただこの後上記の馬の活躍のおかげで再び種付け価格が上がり、中小牧場には手が出ないような種付け料になってしまったのだが……もし軽種馬協会のような所に買われてたらお助けボーイと呼ばれたトウショウボーイみたいな扱いになってたかもなあ。
ただ、1997年世代がブライアンズタイム大暴れに終わったのは彼らの資質ももちろんだが、サンデーがちょうど種付け数が落ち込む時期であったのも多分に影響があった。
なんせ、クラシックにまともに送り込めた有力馬はオースミサンデーくらいであった。そのオースミサンデーも皐月賞で事故死。素質馬サイレンススズカは誰もまともに制御出来ない状態で、ステイゴールドは……菊花賞にギリギリ間に合っただけ。
後にマイルで覚醒したビッグサンデーを除けばクラシック時点でブライアンズタイム産駒以上の資質はなかった、ということも付け加えておきたい。
高齢となっても種牡馬を続けられたのはこれまでの実績に加えて、どんな血統や環境でもいつ何が起こるかわからないという不確定さも影響していたのかもしれない。種付け料も大分値下がりしたので、中小牧場から父ブライアンズタイムの名馬が生まれることも決して夢物語ではないと思わせていた。
しかし、2013年4月4日に放牧中の事故で右後脚に致命的な骨折を負い安楽死となった。享年28歳。
時代の移ろいを感じずにはいられない出来事であった。
Roberto 1969 鹿毛 |
Hail to Reason 1958 黒鹿毛 |
Turn-to | Royal Charger |
Source Sucree | |||
Nothirdchance | Blue Swords | ||
Galla Colors | |||
Bramalea 1959 黒鹿毛 |
Nashua | Nasrullah | |
Segula | |||
Rarelea | Bull Lea | ||
Bleebok | |||
Kelley's Day 1977 鹿毛 FNo.4-r |
Graustark 1963 栗毛 |
Ribot | Tenerani |
Romanella | |||
Flower Bowl | Alibhai | ||
Flower Bed | |||
Golden Trail 1958 黒鹿毛 |
Hasty Road | Roman | |
Traffic Court | |||
Sunny Vale | Eight Thirty | ||
Sun Mixa |
クロス:Nearco 5×5(6.25%)、Blue Larkspur 5×5(6.25%)、Sir Gallahad III 5×5(6.25%)
*ブライアンズタイム 1985
|ナリタブライアン 1991
|チョウカイキャロル 1991
|マヤノトップガン 1992
|エリモダンディー 1994
|サニーブライアン 1994
|シルクジャスティス 1994
||バシケーン 2005
|ファレノプシス 1995
|トーホウエンペラー 1996
|シルクプリマドンナ 1997
|タイムパラドックス 1998
|ダンツフレーム 1998
|タニノギムレット 1999
||ウオッカ 2004
||シベリアンタイガー 2011
|ノーリーズン 1999
|ヴィクトリー 2004
|フリオーソ 2004
||ファーガス 2019
|レインボーダリア 2007
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最終更新:2025/03/25(火) 12:00
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