写植(しゃしょく)とは、写真植字(しゃしんしょくじ)の略称であり、写真の原理を用いて文字を感光材料(印画紙やフィルム)に焼き付け、印刷用の版下を作成する技術、またはその作業自体を指す。
同技術の説明については「写真植字」項に任せるとして、本項では、特に日本の出版文化、とりわけマンガ制作における「写植」の役割、技法、そしてその変遷について詳述する。
写植は、20世紀半ばからDTP(Desktop Publishing)が普及する1990年代後半頃まで、日本の出版物、特にマンガ、雑誌、書籍などの文字組版において不可欠な技術であった。
マンガ制作においては、キャラクターのセリフ、モノローグ、ナレーションなどをフキダシ内に配置する作業が主に「写植」と呼ばれ、作品の雰囲気作りやキャラクターの感情表現を担う重要な工程の一つであった。書体の選択や文字の大きさ、配置の仕方ひとつで読者の受ける印象が大きく変わるため、高度な技術とセンスが求められた。セリフにメインで用いられる書体の、ゴシック体にアンチック体を組み合わせた「アンチゴチ」も写植の影響が大きい。
写植時代の漫画家やアシスタントは、完成した原稿のフキダシや余白に、トレーシングペーパーを重ねるなどして、使用する書体名(しばしばメーカー独自の書体番号や略称で)、文字の級数、字間、行間、配置の仕方(センター揃え、左揃えなど)、文字の変形(長体、平体、斜体など)といった情報を細かく書き込む。これを「写植指定」と呼び、この指示書に基づいて専門の写植オペレーターが作業を行った。例えば記号の「BA-90」も、この指定記号の一つである。
そして、印字されたセリフを切り出したあと、ゴム糊や専用の接着剤で実際に原稿に貼り込んでいき、「版下」を作成していた。
DTP化が主流となった現代においても、写植の技術思想やそこで培われた書体、表現手法の多くはデジタル環境に引き継がれ、形を変えてマンガ制作を支え続けており、「写植」という言葉もデジタル環境でフォントを用いて文字を配置する作業を指す語として受け継がれている。かつてのアナログ写植の書体の一部はデジタルフォントとして復刻・販売されており、往年の雰囲気を再現することもある程度は可能である。
マンガにおける写植は、単に文字を配置するだけでなく、作品の表現力を高める多様な役割を担ってきた。特に、キャラクターや場面に合わせて多種多様な書体を使い分けることで、視覚的な演出を加えることができる点が重宝された。
漫画家のあらゐけいいちは、元写植オペレーターであり、作中に写植書体の名前を登場させることがある。
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最終更新:2025/12/20(土) 11:00
最終更新:2025/12/20(土) 10:00
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