逆回転クランクシャフト(MotoGP)とは、タイヤの動きと反対方向の回転をするクランクシャフトのことである。
2020年現在、MotoGP最大排気量クラスの全メーカーが、逆回転クランクシャフトのエンジンを採用している。
エンジンというものは、気筒(シリンダー)の燃焼室にガソリンと空気を混ぜ合わせた混合気を送り込み、点火プラグ(スパークプラグ)で点火して混合気を爆発させ、ピストンを直線方向に押し、ピストンの直線運動をコンロッド(コネクティングロッド)とクランクシャフトで回転運動に変換し、回転運動のエネルギーを得る装置である。
クランクシャフト
は、エンジンの主軸である。クランクシャフトの中央にギアを取り付けて、プライマリーシャフトのギアと合わせる。プライマリーシャフトのギアとメインシャフトのギアを合わせる。メインシャフトのギアとドライブシャフトのギアを合わせる。ドライブシャフトからチェーンが伸びて、リアタイヤを回す。
クランクシャフトが逆回転の場合、各シャフトとリアタイヤは次のようになる。ちなみにこういう構成を4軸のエンジンという。
| クランクシャフト | 逆回転 |
| プライマリーシャフト | 正回転 |
| メインシャフト | 逆回転 |
| ドライブシャフト | 正回転 |
| リアタイヤ | 正回転 |
クランクシャフトが正回転の場合、プライマリーシャフトは必要なくなり、各シャフトとリアタイヤは次のようになる。ちなみにこういう構成を3軸のエンジンという。
| クランクシャフト | 正回転 |
| メインシャフト | 逆回転 |
| ドライブシャフト | 正回転 |
| リアタイヤ | 正回転 |
クランクシャフトというものは、鋼でできている。鋼というのは大部分が鉄で、炭素などがわずかに混じっている。
MotoGP最大排気量クラスのクランクシャフトは10kgほどの重量がある。10kgというのは、2リットルペットボトル5本分で、かなり重い。
そのクランクシャフトは、エンジン回転数と同じ回転数で回っている。エンジンの回転が10000rpm(1分間10000回転、1秒間166回転)ならクランクシャフトも10000rpmで回っている。
MotoGP最大排気量クラスのエンジンは最大で18000rpmほど回っているとされる。18000rpmは、1秒間に300回転である。
10kgの重量物がもの凄い速度で回っているので、ジャイロ効果が強烈に働いている。
正回転クランクシャフトのエンジンはジャイロ効果が働き、方向転換・切り返しが重くなる。また、マシンを寝かしにくくなり、コーナーリングしにくいマシンとなる。
逆回転クランクシャフトはまったくの反対となり、エンジン内部のジャイロ効果が正回転クランクシャフトに比べて比較的に薄く、方向転換・切り返しが軽くなる。また、マシンを寝かしやすくなり、コーナーリングしやすいマシンとなる。
正回転クランクシャフトは、ウィリーしやすい。ウィリーしてしまうとタイムを損することになるので、ウィリーはできるだけ防ぎたい現象である。
逆回転クランクシャフトは、ウィリーを押さえ込む効果がある。
正回転クランクシャフトだとオーバーステア気味になる。直線を走ってちいさくクルッと回ってまた直線を走る、といった走り方になる。コーナーリング速度が低めで、直線番長となる。
逆回転クランクシャフトだとアンダーステア気味になり、大きな半径の円弧を描いてコーナーを走ることになる。コーナーリング速度が速くなる。
逆回転クランクシャフトには様々な利点があるが、デメリットもある。
逆回転クランクシャフトは、正回転クランクシャフトに比べて軸を1つ増やす必要がある。先ほども述べたように、プライマリーシャフトを追加しなければならない。そのため、部品点数が増えて高コストとなる。また、ギアとギアの噛み合いで、わずかながら力を失ってしまう現象、つまりフリクションロス(摩擦損失)が発生して、エンジンパワーが弱くなってしまう。
また、軸が1つ増えるのでエンジンの部品点数が増えると同時にエンジンの前後長も長くなり、これが望ましくない影響となる。ホイールベース(フロントタイヤとリアタイヤの距離)を一定に保ちたいのならスイングアーム(リアタイヤを支えている部品で、シャーシから伸びている板)を短くする必要があり、それは安定性が少し落ちてしまう。スイングアームを一定にするのならホイールベースが長くなり、マシンの操作性が悪くなる。
逆回転クランクシャフトの利点と、正回転クランクシャフトの利点をまとめると、次のようになる。
| 逆回転クランクシャフト | 正回転クランクシャフト | |
| 方向転換・切り返し | 軽やかになる | 重い |
| マシンの寝かせやすさ | 寝かせやすい | 寝かせにくい |
| コーナーリングのしやすさ | コーナーリングしやすい | コーナーリングしにくい |
| ウィリー防止 | ウィリーしにくい | ウィリーしやすい |
| コーナーリング | アンダーステア、大きな円弧を描く。コーナーリング速度が高い | オーバーステア、小さくクルッと回って直線を突っ走る。コーナーリング速度は低い |
| 部品点数 | 多く、高コスト | 少なく、低コスト |
| 軸の多さと摩擦損耗 | 軸が多くて摩擦損耗が大きい | 軸が少なくて摩擦損耗が少ない |
| エンジンパワー | 弱い、直線で遅い | 強い、直線で速い |
| エンジンの前後長 | 長くて大型サイズ | 短くてコンパクト |
| ホイールベース一定時のスイングアーム | 短く、マシンが不安定 | 長く、マシンが安定 |
| スイングアーム一定時のホイールベース | 長く、操作性が悪い | 短く、操作性が良い |
マット・オクスリーのMotorsportmagazine.com記事
、RACERSホンダ三冠特集号64~65ページ、71~72ページ
2020年現在において、最大排気量クラスの6メーカーのすべてが、逆回転クランクシャフトを採用している。
1984年にNSR500をデビューさせたとき、4軸エンジンでの逆回転クランクシャフトだった。1985年~1986年には3軸エンジンの正回転クランクシャフトになり、1987年からは4軸エンジンの逆回転クランクシャフトとなり、2002年のNSR500最終年まで続いた。
2002年の4ストエンジン元年にRC211Vを登場させたが、当初からの正回転クランクシャフトだった。それが2015年まで続いたが、2016年になって逆回転クランクシャフトとなり、2020年現在まで続いている。
※この項の資料・・・RACERS vol.27 77~79ページ 85ページ
、バイクブロス記事
、RACERS vol.36
、RACERS vol.13 51ページ
、RACERSホンダ三冠特集号64~65ページ
2014年まで正回転クランクシャフトだったが、ジジ・ダッリーニャが逆回転クランクシャフトのエンジンを設計して2015年に投入した(記事
)。
2015年に正回転クランクシャフトのエンジンで最大排気量クラスにデビューしたが、その2015年シーズン途中で逆回転クランクシャフトを開発し始め、2016年から逆回転クランクシャフトのエンジンにしている(記事
)。
2017年に正回転クランクシャフトのエンジンで最大排気量クラスにデビューした。2018年中頃に逆回転クランクシャフトを開発し始め(記事1
、記事2
)、2019年から逆回転クランクシャフトのエンジンにしている。
ずっと逆回転クランクシャフトを採用してきた、と報じられている(記事
)。
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最終更新:2025/12/21(日) 07:00
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