ベイカーベイカーパラドクス(baker-baker paradox)とは、
「なんだっけ、あのドラマにも出てた俳優のあの人、ほら、ナントカっていうグループに所属してて、最近結婚した人なんだけど、あぁここまで出てるんだけど名前だけどうしても思い出せない〜…」
である。
概要
「人や物事の周辺情報については記憶しているものの、肝心の名前だけ思い出せない」といったことは頻繁に起きるが、これを「人間の記憶機能の特徴」として捉えて表現した言葉。
つまり、「人間は、ある人の「職業」を覚えるよりも、その人の「名前」を覚える方が不得意なのだ」と示した心理学用語である。「パン屋(英語で「baker」)で働くベイカー(「Baker」)さんの事を思い出そうとしても、ベイカーさんがパン屋であることは覚えているがベイカーという名前が思い出せない」という内容が元ネタ。
このことについて言及した古い例としては、1987年に心理学の学術雑誌『British Journal of Psychology』に掲載されたキャスリン・H・マクウィーニーら(Kathryn H. McWeeny, et al.)による論文がある。
この論文では人間の記憶の特徴を探る研究の一環として、被験者に「16人の人間の職業と苗字を覚える」ことを依頼した。その結果、職業を覚えることよりも苗字を覚えることの方が難しかったのだという。このことは論文の要約(アブストラクト)にも
It is much harder to recall that a person's surname is Baker than to recall that a person is a baker.
(和訳「ある人物の苗字がベイカー(Baker)であることを思い出すのは、その人物がパン屋(baker)であることを思い出すよりも困難である」)
こういった事象について、同じ雑誌『British Journal of Psychology』に1990年に掲載されたジリアン・コーエン(Gillian Cohen)による論文において「ベイカーベイカーパラドックス」と言及され、この呼び方が広まったのだという。ジリアン・コーエンによる心理学関連の一般書籍は和訳版も販売されており、その中でも言及されているらしい。
なぜベイカーベイカーパラドクスに陥るのかというと、人間の記憶の仕組みが関係する。人間の脳は何かに関連付けて物事を覚えることは優れているが、何も関連付けせずに覚えることは難しいとされている。先述のパン屋のベイカーさんの例を取ると、ベイカーさんの顔を見て「制服を着てパン屋で働いているベイカーさんの姿」は覚えているが、「ベイカー」という名前は常に表示されているわけでもない。つまりベイカーさんの顔と「パン屋」という職業の事柄を関連付けて覚えるのは簡単だが、ベイカーさんの顔と「ベイカー」という名前を関連付けて覚えるのは難しい、ということになる。
顔と名前を覚えるのが難しい人も中にはいると思われるが、顔と名前を関連付けて覚える事は実はかなり高度な記憶術が必要であるとも言えるかもしれない。
身近な例を挙げると、学校の授業で歴史の年号や元素記号などを語呂合わせで覚える、という経験をした人も多いだろう。歴史の年号という「数字」と「出来事」という一見して関連付いていない物事を「語呂合わせ」で関連付けることで覚えやすくすることかできる、ということである。逆に語呂合わせだけ覚えて肝心の歴史上の出来事を忘れてしまう、というベイカーベイカーパラドクスに陥る可能性もなくはないです。
なお、ベイカーベイカーパラドクスは成立しない、という研究論文も存在するが、そこまでガチガチの研究がなされているわけでもなく、いわゆる「マーフィーの法則」のようなあるあるネタとしてゆるく捉えたほうがいいのかもしれない。
関連動画
関連項目
脚注
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