出荷調整とは (シュッカチョウセイとは) [単語記事]

出荷調整（しゅっかちょうせい）とは、医薬品や農作物などの出荷量の調整である。

概要

出荷調整は、消費者の需要と生産者の供給のバランスが崩れ、需要過多または供給過多となった場合に実施される。需要が増大した場合、生産者は生産能力を上げて対応しようとするが、余剰生産能力がなく十分に対応できない場合がある。農作物は逆に、需要に対して生産が過多となってしまう場合もある。そのような場合に、納期の延長や分納といった方法や、取引先ごと・品目ごとに出荷量を調整する方法が採られる。ただし、農作物の場合は「生産調整」あるいは「需給調整」と呼ばれることも多いようだ。

農作物や医薬品以外にはプラモデル・おもちゃでも、一括納入を分納に変更したり需要の多い都市圏と少ない地方とで出荷数を調整したりすることで、十分な在庫を確保する方法が採られているとのこと。

医薬品の出荷調整

近年、医薬品業界では出荷調整が相次いでいる。日本製薬団体連合会（日薬連）が実施したアンケート調査によれば、2021年 9月時点で医薬品15,444品目のうち、3,143品目（約20.4%）に欠品または出荷調整が発生している^[1]。その背景には、以下の要因がある。

医療費削減のための度重なる薬価改定（医薬品の値下げ）
COVID-19やウクライナ危機の影響を受けた原料費・輸送費の高騰
上記1および2による製薬企業の収益力低下
小林化工や日医工など一部の製薬企業のガバナンス不全・法令違反
上記4の製薬企業に対する業務停止命令
残った製薬企業への医薬品需要の集中
補償生産による余剰生産能力の喪失（増産体制の限界）
十分な在庫を確保しておきたいがゆえの過剰な発注

この問題は医療用医薬品だけでなく、薬局やドラッグストアで販売される一般用医薬品にも波及しており、医薬品をすぐには必要としない消費者による買い占めも発生している。

このような経緯から、現在、医療において必要不可欠な医薬品が十分に供給できない事態となっている。そのため、医薬品の製造販売元は限られた生産能力のなかで品目ごとに生産量を調整し、これまでの販売実績をもとにして取引先ごとに出荷量を調整して対応している。製薬企業間で連携して生産量を調整できれば事態は多少改善するかもしれないが、それは「公正かつ自由な競争原理」に反するため、各製薬企業は自社の情報を公開するに留まらざるをえない。現在は、有志による「医療用医薬品供給状況データベース」の運用も試みられている。

原因が特殊なものであった事例

出荷調整の原因が、世間でも話題となった特定の出来事であった、例外的ともいえるケースを例示する。

テノゼット錠（B型肝炎治療薬）: 2015年 8月、中国の天津で大規模な爆発事故（2015年天津浜海新区倉庫爆発事故）が発生し、製造工場が被災したことにより出荷調整となった。
セララ錠（高血圧症・慢性心不全治療薬）
ザイボックス錠（抗菌薬）
ジスロマック SR成人用ドライシロップ（抗菌薬）: 2017年、プエルトリコを襲った大型のハリケーン（ハリケーン・マリア）での製造施設の被災により出荷調整となった。
ライゾデグ配合注フレックスタッチ（インスリン製剤）: 2022年 2月、ロシアがウクライナに侵攻した影響でデンマークの工場から日本へ空輸するための航路が制限されたため、2022年 4月に出荷調整となった。
カロナール錠（解熱鎮痛薬）: 2022年 7月、SARS-CoV-2 感染症の流行（第7波）による解熱鎮痛薬の急激な需要増により出荷調整となった。
オゼンピック皮下注（2型糖尿病治療薬）: 2023年 8月、国内外において美容やダイエットを目的とする適応外使用が拡大し、出荷調整となった。2022年にも出荷調整が生じており、厚生労働省や製造販売元は糖尿病患者の治療のため適正使用に努めるよう呼びかけている。