V型エンジン(MotoGP)とは、エンジンの形式の1つである。
Vの字を描くようにシリンダー(気筒)を並べたエンジンをV型エンジンと言う。
この動画で、V型エンジンの様子を見ることができる。3番手以降に出てくるホンダとドゥカティとアプリリアとKTMのマシンが、V型エンジンである。横から見ると、シリンダーがVの字やLの字を描いているように見える。
シリンダーとは、内部に燃焼室がある部品のことである。シリンダーの燃焼室でガソリンと空気を混ぜ合わせた混合気が爆発してピストンを押し、ピストンの往復運動をコンロッド(コネクティングロッド)とクランクシャフトで回転運動に変換している。
V型4気筒エンジンのシリンダーを左から順に1番、2番、3番、4番と名付けるとすると、「1番を前に置いて、2番を後ろに置いて、3番を前に置いて、4番を後ろに置く」といったことになる。この動画は、V型4気筒エンジンを描いている。
前に置いたシリンダーと後ろに置いたシリンダーが作り出す角度をVバンク角、シリンダーバンク角、シリンダー挟み角、などという。この動画に出てくるドゥカティは、L型と自称するとおり、Vバンク角90度ぐらいに見える。また、ホンダとアプリリアとKTMは、Vバンク角60度ぐらいに見える。
Vバンク角がちょっと変わるだけでエンジン特性が大きく変わるので、Vバンク角は高度な企業秘密である。正確なVバンク角は、各社とも公表していない。
ドゥカティワークスの名物技術者フィリッポ・プレツィオージは、「デスモセディチのVバンク角を90度よりも小さくしたのですか」と訊かれたとき、「その質問は、ホンダの中本修平HRC副社長がRC212VのVバンク角を公表したときに、お答えしましょう」と上手にはぐらかしていた。こんな調子で、技術者は、Vバンク角を秘密にするのが常である。
ドゥカティは、V型エンジンという呼称に代えて、L型エンジンという呼称を好んで使っている。どちらもほぼ同じ意味と考えておいてよい。
V型エンジンの4気筒なら「V型4気筒(ぶいがたよんきとう)」「V4(ぶいよん)」と呼ぶ。
V型エンジンの英語名は、ヴィーエンジン(V engine)という。4気筒ならヴィーフォー(V4)と呼ぶ。
MotoGP最大排気量クラスは2001年まで「2ストでも4ストでもよいが、いずれも排気量500ccまで」という規則で、実際には2スト500ccのマシンばかりが参戦していた。2001年は、ホンダとヤマハとスズキとプロトンKRがV型エンジンで参戦していた。
2002年の最大排気量クラスは「2ストは排気量500ccまで、4ストは990ccまで」という規則に変わり、4スト990ccのマシンが圧倒的優位になって、4スト時代の幕開けとなった。この年に、ホンダが4ストのV型エンジンを導入し、2020年現在も使用を続けている。またドゥカティは2003年からV型エンジンのデスモセディチで参戦し始め、2020年現在も使用を続けている。スズキは2002年から2011年までV型エンジンのGSV-Rで参戦した。
アプリリアが2015年から参戦を開始し、KTMが2017年から参戦を開始したが、いずれもV型エンジンを採用している(RS-GP、RC16)。
改めてまとめると、2020年現在は、ホンダとドゥカティとアプリリアとKTMがV型エンジンで最大排気量クラスに参戦している。
MotoGP中量級クラスは2009年まで「2ストでも4ストでもよいが、いずれも排気量250ccまで」という規則で、実際には2スト250ccのマシンばかりが参戦していた。2009年は、ホンダとアプリリアとヤマハがV型エンジンで参戦していた。
直列型エンジンとV型エンジンの違いをまとめると、次のようになる。
直列型エンジン | V型エンジン | |
最大排気量クラスの採用者 | ヤマハ、スズキ | ホンダ、ドゥカティ、KTM、アプリリア |
クランクシャフト | 長い | 短い |
エンジンの横幅 | 広い | 狭い |
凹凸路面での安定性 | 良好 | イマイチ |
コーナーリングでの安定性 | 良好 | イマイチ |
S字切り返し | 重たくて大変 | 軽やかでラク |
直線での加速力 | イマイチ | 良好 |
直線で風の抵抗を減らすほっそりとした車体形状 | イマイチ | 良好 |
バルブを動かす部品の数 | 少なくて低コスト | 多くて高コスト |
バルブを動かすための摩擦損失 | 少ない | 多い |
排気部品の数 | 少なくて低コスト | 多くて高コスト |
エンジン前後長 | 短くてコンパクト | 長くてデカい |
ホイールベース一定時のスイングアーム | 長くてマシンが安定する | 短くてマシンが不安定 |
スイングアーム一定時のホイールベース | 短くてマシン操作性が良い | 長くてマシン操作性が悪い |
この中で最も重要な違いは、クランクシャフトの長さの違いである。直列型エンジンはクランクシャフトが長くてどっしり安定し、V型エンジンはクランクシャフトが短くてグラグラ不安定、ということを頭に入れておくと、理解しやすい。
直列型エンジンはどっしり安定の相撲取り、V型エンジンはグラグラ不安定のからかさ小僧、とイメージしておくと良い。
V型エンジンは、コーナーリングでの安定性が低い。コーナーリングでタイヤをガッチリと路面に食い込ませてグリップを稼ぎ、リアタイヤをあまり滑らせず、毎周同じ走行ラインを正確になぞっていくグリップ走法は、少し苦手とされる。
フロントタイヤを支点にしつつ、リアタイヤをある程度滑らせて、強引にマシンの向きを変えて、コーナーを過ぎていく走りになる。そういう走りをスライド走行という。また、ドリフトともいう。
スライド走行をすると、フロントタイヤがリアタイヤと別の方向を向くという珍妙な様子になる。これをカウンターステアという。
V型エンジンは、コーナーリングでの安定性が低いので、コーナーリングが苦手となる。コーナーリングの時間を少しでも減らすため、走行ラインを直線と小さなR(半径)の円弧にすることになる。「小さくクルッと回ってドーンと加速」という走りになり、いわゆる直線番長の走りとなる。
この動画の、オレンジ色のマシンの走行ラインが、V型エンジンの走行ラインとなる。
リアタイヤというものは、硬いものと柔らかいものがある。
このうち、硬いリアタイヤの方が、V型エンジンのスライド走行に向く。硬いリアタイヤはタイヤ自身が変形しにくいので、路面との接触面積も小さいままであり、滑らせやすい。
ライダーの肉体への負担という点でも、V型エンジンと直列型エンジンは大きく異なる。
V型エンジンは、体力を消耗するバイクになることが多い。マシンの安定性が乏しく、色んなところで暴れるので、全身の筋肉を使ってマシンを押さえつけねばならず、クタクタに疲れるという。しかしながら、必死に暴れるマシンを押さえつけて体力を消耗すると、その分タイムもちゃんと伸びる。体力を使うとそれに応えてくれるバイク、と評されることが多い。また、体力を目一杯使うのでマシン操縦も非常に難しく感じられる。「操縦するのが難しいバイク」という評価がV型エンジンのマシンに与えられることが多い。
また、「攻めるライディング」「ハードにプッシュするライディング」が必要であると解説されることも多い。
V型エンジンのマシンを評価する記事を列挙すると、以下のようになる。
一方で、直列型エンジンのマシンは体力を消耗しないことで有名である。マシンの安定性が高く、マシンが暴れず綺麗に走ってくれるので、肉体でマシンを押さえつける必要が無い。体力をあまり使わないので、簡単に走らせることができる。
カル・クラッチローはこの記事で「ヤマハを乗りこなすことが最も簡単だ。ホンダを乗りこなすことに比べると、ヤマハに乗るというのはタバコをふかすぐらいに簡単だ」と語っている。
ヴァレンティーノ・ロッシは40歳になった2019年も表彰台に上る活躍を見せているが、体力を消費しないヤマハのマシンに乗っているのでそういう活躍ができているのだろう。
直列型エンジンのマシンは「攻めるライディングを避けて、力を抜いて走るべきだ」といわれることが多い。この記事で、ホルヘ・ロレンソが次のように語っている。「ヤマハのマシンでは、プッシュしすぎると遅くなる。ベン・スピーズとポル・エスパルガロはヤマハのマシンに乗りながらアグレッシブに乗っていたが、そのためにあまり速く走れなかった。ヤマハのマシンで速く走るライダーは、コリン・エドワーズやヴァレンティーノ・ロッシや僕のような技巧派のライダーだ。アグレッシブなブレーキや遅いタイミングのブレーキをするのは、ヤマハのマシンに適していない」
これまで述べてきたように、V型エンジンと直列型エンジンは乗り方が大きく異なる。このため、2種類のエンジンを乗り換えるような移籍をするライダーが、移籍初年度に大苦戦することが多い。
直列型エンジンとV型エンジンを乗り換えて成績が急降下したライダーは次の通りである。
2007年の中野真矢 | カワサキ(直列)からホンダ(V型) | 「苦労しました」と語っている |
2011年のヴァレンティーノ・ロッシ | ヤマハ(直列)からドゥカティ(V型) | 2011年と2012年の2年で1勝もできず |
2014年のカル・クラッチロー | ヤマハ(直列)からドゥカティ(V型) | 序盤7戦でノーポイント4回 |
2017年のホルヘ・ロレンソ | ヤマハ(直列)からドゥカティ(V型) | 2017年シーズンは12年振りに優勝無し |
2017年のアンドレア・イアンノーネ | ドゥカティ(V型)からスズキ(直列) | 2017年の前半戦は死んだ魚の目になる |
2019年のヨハン・ザルコ | ヤマハ(直列)からKTM(V型) | 絶不調。第13戦を終えた時点でチームと合意の上で参戦停止となった。 |
2019年のハフィズ・シャリーン | ヤマハ(直列)からKTM(V型) | 絶不調 |
一方で、V型エンジンのメーカーからV型エンジンのメーカーに乗り換えたり、直列型エンジンのメーカーから直列型エンジンのメーカーに乗り換えたライダーで、移籍初年度から大活躍する例がしばしば見られる。エンジンの形式が同じだと乗り味もよく似ているということなのだろう。
同じ形式のエンジンを乗り換えて成功した例は以下の通り。
2007年のケーシー・ストーナー | ホンダ(V型)からドゥカティ(V型) | 移籍初年度に10勝 |
2011年のケーシー・ストーナー | ドゥカティ(V型)からホンダ(V型) | 移籍初年度に10勝 |
2017年のマーヴェリック・ヴィニャーレス | スズキ(直列)からヤマハ(直列) | 移籍初年度に3勝 |
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最終更新:2024/05/02(木) 14:00
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