チーム・バチスタの栄光とは、2006年に宝島社から発刊された海堂尊の小説である。「田口・白鳥シリーズ」一作目。
概要
第四回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞(受賞した時のタイトルは『チーム・バチスタの崩壊』 )した、海堂尊のデビュー作品。個性的な登場人物、現役の医師が描くリアルな院内情勢、周到に張り巡らされたミステリーなどが高評価を受け、300万部以上を売り上げるベストセラーとなった。舞台は東海地方の小都市「桜宮(さくらのみや)市」にそびえる「東城大学医学部付属病院」。そこに勤務する医師『田口公平』と、厚生労働省のモンスター官僚『白鳥圭輔』が、コンビを組み、手術室内での怪事件に挑む。
あらすじ
「拡張型心筋症」に有効な、心筋を切り取り、小さく作り直す手術術式「バチスタ手術」。成功率60%の、この難易度の高い手術を次々と成功させてきた奇跡の七人「チーム・バチスタ」。しかし、突然患者が相次いで死亡するという、原因不明の事態が発生する。高階病院長は、神経内科の万年講師・田口公平に、チーム・バチスタの特命調査を命じる。しかし、なんと田口の目の前で、患者がまたも謎の死を遂げる。そこへ厚生労働省官僚・白鳥圭輔がやってくる。二人は真実を求め、調査を続ける。はたしてこれは不幸な偶然か、医療ミスか、それとも、連続殺人か…
登場人物
主人公
- 田口公平(たぐち・こうへい)
- 東城大学医学部付属病院神経内科学教室講師・不定愁訴外来(通称『愚痴外来』。たとえ本人の耳に入っても、『田口外来』と言い直せる)責任者。権力欲が全くなく、論文すら一本も書いたことがない。病院内では、『グッチー』と呼ばれている(彼がグッチとシャネルを間違えたことに由来。しかし、本当はエルメスと間違えた)。血を見るのが苦手という理由で、神経内科を選択した。患者の愚痴を徹底的に聞くことを仕事としており、患者からの人気は高い。また、初対面の相手に名前の由来を聞くことにしている。高階病院長から、チーム・バチスタの調査を命じられる。
- 白鳥圭輔(しらとり・けいすけ)
- 厚生労働省大臣官房秘書課付技官・医療過誤死関連中立的第三者機関設置推進準備室室長。その整然とした論理から、「ロジカル・モンスター」と呼ばれ、また、彼が通った後はペンペン草も生えないことから「火喰い鳥」とも呼ばれる。調査に行き詰った田口のサポートのために、病院長に呼び寄せられた。名門・帝華(ていか)大学出身。小太りの中年男で、アルマーニ(のような)高級な服にゴテゴテと身を包んだ悪趣味なセンスと、触覚のような二本のアホ毛から、見る者にGを連想させる。医師免許のほか、様々な医療関係の資格・知識を持つ。相手の心を傷つけることもいとわない強引な聞き取り調査を用いる。しかし、それは純粋に真実を追求するためのこと。
東城大学医学部付属病院
- 高階権太(たかしな・ごんた)
- 東城大学医学部付属病院病院長。小柄なロマンスグレー。田口にチーム・バチスタの調査を命じる。桐生を招聘した張本人でもある。田口の調査が難航した時、旧友の坂田(さかた)に頼んで、白鳥を呼び寄せる。帝華大学出身で、白鳥の先輩でもある(ただし、同時期に在学していた訳ではない)。現場のことを熟知しており、必要な時には権限を即座に現場に委譲することもいとわない決断力を持つ。田口の面接試験を担当したこともあり、その時、彼に「ルールは破られるためにあるのです。そして、それが許されるのは、未来に対して、よりよい状態をお返しできるという確信を、個人の責任で引き受けるときなのです」という言葉を伝えた。
- 藤原真琴(ふじわら・まこと)
- 不定愁訴外来専任看護師。すでに定年を迎えているが、看護師再任用制度の適用で、不定愁訴外来の看護師になる。60代だが、年齢を感じさせない。院内政治力が高く、その気になれば教授の首も飛ばせるらしい(注:ソースは兵藤)。田口の知恵袋的存在で、コーヒー淹れから書類整理まで、様々なサポートをしてくれる。かなりのベテラン看護師で、大友を始めとする看護師たちからも慕われている。
- 兵藤勉(ひょうどう・つとむ)
- 神経内科学教室助手・医局長。最高学府・帝華大学での出世争いに敗れ、東城医大にやってきた。その経験を生かして、手始めに当時の田口を医局長の座から引きずりおろし、取って代わろうと企むが、田口の出世欲のなさを見抜けず、計画は失敗。しかし、田口が医局長の地位を譲ったことで、良好な関係を築くことになる。院内の様々な情報を収集・発信する「廊下トンビ」であり、田口に様々なウワサ(「噂」でも「うわさ」でもなく「ウワサ」)を提供している。しかし、その信憑性は大抵の場合は微妙。
- 黒崎誠一郎(くろさき・せいいちろう)
- 臓器統御外科教授・リスクマネジメント委員会副委員長。病院の実質的なナンバー2で、高階病院長のライバル。表向きには桐生を招聘したことになっているが、本当は反対していた。威張り屋で怒りん坊、その上目立ちたがり屋。
- 曳地均(ひきち・ひとし)
- 吸器内科学教室助教授・リスクマネジメント委員会委員長・電子カルテ導入委員会委員長。二重否定に三重否定、挙句の果てには四重否定も朝飯前の回りくどい言い回しで、周囲を煙に巻くのが得意。電子カルテ導入委員会には田口も所属しているが、彼の酷い舵取りには、さすがの田口もうんざりしている。
チーム・バチスタ
リーダーの桐生と、彼が選んだメンバーの合計七人で構成された、バチスタ手術のための精鋭チーム。100%という驚異の成功率を誇り、「グロリアス・セブン(栄光の七人)」と評される。
- 桐生恭一(きりゅう・きょういち)
- 臓器統御外科助教授。チームのリーダーであり、バチスタ手術の執刀医を務める。人呼んで「ミスター・パーフェクト」。フロリダ・サザンクロス心臓疾患専門病院から招聘されており、英語も堪能。自分の手技にはそれなりの自信があり、手術に失敗した場合でも、その原因を自覚する程度の能力は持っている。しかし、彼にも原因の分からない術死が相次ぎ、その調査を高階病院長に自ら依頼した。その予備調査に取り掛かる田口にも全面協力し、原因究明を強く望む。チームメンバーや患者と誠実に向き合う優秀な医師で、彼らから全幅の信頼を受けている。
- 鳴海涼(なるみ・りょう)
- 基礎病理学教室助教授。チームでは病理医を務める。桐生の義弟で、彼とは本当の兄弟以上に似た考えを持つ一方「診断と治療は分けるべき」という、彼とは相容れない考えも持つ。心筋の切除範囲は彼と桐生が相談して決めており、チームに無くてはならない存在。
- 垣谷雄次(かきたに・ゆうじ)
- 臓器統御外科講師・医局長。チームでは第一助手を務める。本当は彼が助教授に昇格するはずだったのだが、桐生の招聘によりお流れになる。外科医としてはベテランだが、手際の悪さを酒井や氷室に指摘されており、本人も自覚しているほどだが、どんな状況でも冷静に振る舞うずぶとさを桐生に評価されている。
- 酒井利樹(さかい・としき)
- 臓器統御外科助手。チームでは第二助手を務める。チームに自ら志願した熱血漢。以前、受け持ち患者の久倉を愚痴外来に送ることになったことで、田口とは確執がある。桐生を尊敬しているが、一方で手技の低い垣谷に反感を持っている。
- 大友直美(おおとも・なおみ)
- 手術室看護師主任。チームでは機械出しを務める。寿退職した前任の星野響子(ほしの・きょうこ)の後任としてチームに加入したが、そのことで謂れのないウワサを流された上、彼女に機械出しが替った途端に謎の術死が始まったことで、精神的にかなり参っている。
- 氷室貢一郎(ひむろ・こういちろう)
- 麻酔科講師。チームでは麻酔を担当。物静かで感情の起伏が少ない。喘息持ちで、薬を白いタブレットケースに入れて携帯している。手術に時間を問わず何度も駆り出され、オペ室の奴隷と化している。
- 羽場貴之(はば・たかゆき)
- 臨床工学技士・手術室リスクマネジャー。人工心肺の操作を担当。コ・メディカル(医師・看護師以外の医療従事者のこと)だけあって、時間にはうるさい(医師や看護師は時間なんか気にしちゃいられないほど忙しい)。自分の息子に「雪之丞(ゆきのじょう)」なんて名前をつけちゃったりしている。
用語
- 桜宮市(さくらのみやし)
- 海堂尊作品「桜宮サーガ」のほとんどの舞台になっている架空の都市。首都圏の端の沿岸に位置し、富士山とも近い。病院と寺院・ホスピスが一体化した「碧翠院桜宮病院(へきすいいんさくらのみやびょういん)」、昼と夜で様子の変わる繁華街の「蓮っ葉通り」、深海生物を展示した「桜宮水族館」などがある。主要メディアは「サクラテレビ」と「ユウヒテレビ」。
- 東城大学医学部付属病院
- 桜宮で一番高い場所「桜宮丘陵」にそびえる大学病院。十三階建ての白い病棟「本館」、煉瓦造りの旧病棟「赤煉瓦棟」、ICUと小児科の複合病棟「オレンジ新棟」からなる。四階には病院長室、最上階にはレストラン「満天」がある。ちなみにおススメメニューはレパートリーが豊富でその上安い「満天うどん(三百円)」で、白鳥も絶賛している。
- バチスタ手術
- 正式名称は「左室縮小形成術」だが、術式を考案したRandas Jose Vilela Batistaに由来した通称の方が知名度は高い。難病・拡張型心筋症に有効。心臓移植と違い、ドナーが必要ないというメリットがあるが、成功率60%と、リスクが高い。また、あくまで対症療法であり、根本的な治療にはならない。
- 不定愁訴(ふていしゅうそ)
- いわゆる「気の病」。「なんとなく頭が痛い」「イライラする」「疲れが取れない」など、なんとなく体調が悪く感じる場合(ただし、この時点では重大な疾患の兆候の可能性もあるので、不定愁訴とは呼ばない)で、検査をしても病気が見つからない状態。抗不安剤やカウンセリングによる治療を受けることが一般的。
- 愚痴外来(ぐちがいらい)
- 正式名称は「不定愁訴外来」だが、田口の名前をもじった通称の方が一般的。上記にある本来の不定愁訴に限らず、患者の不平不満や、病気とは関係ない愚痴を聞く部署。一階にある設計時のミスによりできたどん詰まりの小部屋に位置する(田口は学生時代、ここをサボり部屋に使っていた)。他科の医師が問題のある患者をこの外来に送ることも多いが、それは自分の受け持ち患者にきちんと対応できませんでしたと白状することに等しい。
- リスクマネジメント委員会
- 医療現場で起きた様々な問題を検討し、その教訓を現場にフィードバックさせるための組織。医療事故が頻発する昨今、ほとんどの病院に設置されている。委員長は曳地、副委員長は黒崎。委員の人数は十二名。
- 電子カルテ導入委員会
- 電子カルテ導入を検討する委員会で、田口も所属している。しかし、「カルテは患者のものでなく医者のもの」という旧世代医師の根強い感覚と、曳地の酷い舵取りのせいで、議論は進んでおらず、田口はうんざりしている。
- ノルガ共和国
- アフリカ南端部の架空の国。患者の一人、アガピ・アルノイドの出身地で、2003年より内戦状態。
- パッシヴ・フェーズ
- 受動的聞き取り調査。田口が得意とする、心理読影の為の聞き取り手法。相手を自分の繭に取り込み、秘密を暴き出す。
- アクティヴ・フェーズ
- 能動的聞き取り調査。白鳥が得意とする、説得のための聞き取り手法。相手の抱える秘密にメスを突きたて、秘密を暴きだす。
映画
東宝邦画系で、2008年2月9日に公開。主人公が田口公平から、女性の「田口公子」に変更されている。
キャスト
- 田口公子 - 竹内結子
- 白鳥圭輔 - 阿部寛
- 桐生恭一 - 吉川晃司
- 鳴海涼 - 池内博之
- 垣谷雄次 - 佐野史郎
- 酒井利樹 - 玉山鉄二
- 大友直美 - 井川遥
- 氷室貢一朗 - 田中直樹
- 羽場貴之 - 田口浩正
- 藤原真琴 - 野際陽子
- 黒崎誠一郎 - 平泉成
- 高階権太 - 國村隼
主題歌
テレビドラマ
2008年10月14日から12月23日まで毎週火曜日の22:00 - 22:54(以降のシリーズも同じ時間に放送)に、フジテレビ系列で放送。最終話に、原作者の海堂尊がちゃっかり出演している。
キャスト
- 田口公平 - 伊藤淳史
- 白鳥圭輔 - 仲村トオル
- 桐生恭一 - 伊原剛志
- 鳴海 涼 - 宮川大輔
- 垣谷雄次 - 鶴見辰吾
- 酒井利樹 - 鈴木裕樹
- 大友直美 - 釈由美子
- 氷室貢一郎 - 城田優
- 羽場貴之 - 戸田昌宏
- 田口周蔵 - 横山あきお
- 田口翠 - 彩木里紗
- 田口茜 - 石井美絵子
- 岸川保 - 木下ほうか
- 岸川マリ - 奥貫薫
- 黒崎誠一郎 - 榎木孝明
- 藤原真琴 - 名取裕子
- 高階権太 - 林隆三
- ナレーション - 横堀悦夫
主題歌
- 青山テルマ「守りたいもの」
挿入歌
- 永崎翔「答えはそこだ」
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関連項目
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