マジックミラーとは、「ある方向からは窓ガラスのように透明だが、ある方向からは鏡のように反射して向こう側が見えない」ような鏡を指す言葉である。ただし後述するように、これは「特定の状況のみで、そういった性質を発揮できる」と但し書きが付く。
概要
アルファベット表記すれば「magic mirror」で、英語で「魔法」を表す「マジック」(magic)と「鏡」を表す「ミラー」(mirror)を合わせた言葉。要するに「魔法のような鏡」を指す言葉である。
英語での「magic mirror」は「光を反射した像のなかに絵が浮かびあがる」いわゆる「魔鏡」や、手品的な仕掛けによって文字が表示されるような鏡など、「魔法のような」鏡であれば広くそう呼称される。
しかし日本語での「マジックミラー」は専ら、冒頭で記したような「片側からのみ一方通行的に見えるが、もう片方からは鏡に見える」ものを指して言うことが多い。遅くとも1950年代には既に、出版物の中でこの用法で用いられている実例がある。
原理など
一般的な鏡は、ガラスやアクリルなどの透過性の高い素材に、光を反射するための薄い金属の層が平面として貼りついている状態になっている(そして多くの場合、さらにその上から金属層を保護する層が覆っている)。この「薄い金属の層」は、光をある程度透過させるように作ることもできる。「ほとんど光を透過させない」通常の鏡と比較して、こういった「ある程度光を透過させる鏡」は「ハーフミラー」などと呼ばれることもある。
そしてこういった「ある程度光を透過させる鏡」のうち透過率が低めのものを「明るいところ」と「暗いところ」の境に置いた場合を考えてみよう。
この鏡を通して「明るいところ」から「暗いところ」を見た場合、「こちら側に反射される光」が多いために「向こう側からの光」はそれに紛れてしまう。よって向こう側が非常に見えにくくなり、鏡としての反射像ばかりが見える。
一方、逆に「暗いところ」から「明るいところ」を見た場合は、「こちら側から反射される光」は少なく「向こう側からの光」は豊富なので向こう側が見やすくなり、鏡としての反射像は目立たなくなる。
これがいわゆる「マジックミラー」である。
つまり「マジックミラー」とは、「一方通行にだけ光を通す」ものではない。あくまで「暗いところから明るいところは見やすいが、その逆は見えにくい」ものでしかない。「光の通りやすさ」には裏と表で差はない。よって、明暗の差があるところに設置しない限りは、「マジックミラー」としては機能しない。
また明るいところ側からも、例えば「手で光を遮る輪っかを作ってマジックミラーに押し付け、その輪っかに眼を押し付けて覗き見る」ようなことをすればある程度は暗いところ側を見通せることになる。ただし向こう側が暗い以上は「純粋に暗いため、やや見えづらい」ことは変わらないと思われるが。
なお「光の反射しやすさ、鏡としての見やすさ」には裏と表で差が付く。「光を反射する金属の層が表面に近い側」の方が反射はよいため。ガラスやアクリルなど透明な素材でも「100%減衰なく完璧に光を通す」わけではないので、反射光がガラスやアクリルの層を通る距離が長ければその分、反射光は減衰する。
(「この反射がよい方の鏡としての性質」を重視したマジックミラーでは、通常の鏡で行われている「鏡の裏側に貼りついている金属を覆って保護する層」も省略され、金属の層が露出していることがあるという。その場合、金属層が劣化・損傷しやすくなるため、通常の鏡よりもデリケートなものになる。)
透過率をどのように設定するかで、マジックミラーの性質は変わる。「暗いところから明るい向こう側を見た時の見えやすさ」を重視して透過率を高くすると、「明るいところから暗いところを見た時」にもある程度は透けて見えてしまいやすくなる。逆に「明るいところ側から暗いところを見た時の見えにくさ」を重視して透過率を低くすると、「暗いところから明るいところを見た時」にも見えづらくなる。
利用目的
「店舗のバックヤードなど、顧客に積極的に見せるべきではない場所から顧客のいる店内などを観察するため」「観察者のプライバシーを保護して観察するため」「観察・観護の対象(動物や幼い子供など)にストレスを与えないようにするため」「アダルトビデオの撮影」など、様々な用途に使用される。
このうち「マジックミラーを利用したアダルトビデオの撮影」の印象が強い人の中には、「マジックミラー」と言う言葉や存在自体を「なんかエッチなもの」として認識している人もいるようだ。
マジックミラーとほぼ同じ原理のものが、「通常のガラスやアクリルなどより反射率が高い」ことを利用して「斜めに設置し、横にあるものを反射した像を、透過像に重ねて映し出す」といった目的に利用されることもある。一種の広告や、講演などにおける読み原稿表示機器(プロンプター)として用いられるようだ。だが、この場合は「一方からは見えず、一方からだけ見える」という印象が強い「マジックミラー」という呼称では呼ばれないことが多く、また反射率などもその利用法に最適なものへと調整される。
余談
「通常のガラス」でも、マジックミラーほどではないにせよ「ある程度の光は通すが反射する光もある」という点は同じである。よって、ガラス窓を隔てて暗い室内から明るい室外は見やすいが、明るい室外から暗い室内は反射の為に見えにくくなる。
ただし、明るい室外から暗い室内が見えにくい理由には、眼の虹彩やカメラの絞りなどによる光量調節の影響、網膜における明暗順応の影響など他の要素も関係している。逆に言えば「マジックミラーを通して暗いところから明るいところを見たときは見やすいが、その逆は見えにくい」ことにも、純粋にマジックミラーの性質だけではなく、これら光量調節や明暗順応の影響もある程度寄与している。
なお「ガラス」だけではなく「白いレースカーテン」などでも類似のことが起きる。明るい側からは白いレースが反射した光が多くなるので暗い側を見づらくなるが、暗い側からは反射光が少ないので明るい側を見通しやすい。
ちなみに、コンピューターグラフィックで描写された空間では「明暗に関わらず、一方から見た時だけは完全に鏡面だが、もう一方から見た時だけは完全に透過している」という、現実ではありえない「完璧なマジックミラー」を表現することも可能である。
関連項目
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