個室ビデオまたは個室ビデオ店とは、性風俗店舗の一形態である。
「ビデオボックス」「ビデオ試写室」「DVD試写室」などといった別呼称で呼ばれることもある。
概要
店内に沢山の映像作品ソフトを取り揃えており、またそれらの映像ソフトを視聴するための個室が複数用意されている。各々の客は個室でそれらの映像ソフトを楽しむことができる。
上記のサービス内容だけ読めば「ネットカフェ」などとの違いがあいまいに感じるかもしれない。
しかしネットカフェとの大きな違いとしては「取り揃えてある映像作品において、アダルトビデオが占める割合がかなり高い」こと、そして「個室において自慰行為(オナニー)をすることが想定されており、個室が外から見えないようになっている」ことである。このために性風俗店舗[1]という扱いになっている。
アダルトビデオの多くが男性向けであることも関係して、利用客のほとんどは男性である。女性客の利用を断っている店舗もあるという。
オンラインの映像配信サービスによって自宅でアダルトビデオをいくらでも閲覧できる現代でこういった店舗サービスの需要がよくわからない人も居るかもしれない。しかし、同居家族が居るために自宅ではアダルトビデオを楽しみにくい/自慰行為を行いにくい、という男性は少なくないため、彼らからの需要があるようだ。
ブランケットのレンタル、シャワールーム、飲料や食事の提供、コインランドリー、コミックの提供、映像作品の販売などの付帯施設・サービスを行っている店舗・チェーンもある。睡眠・シャワー・飲食を済ませることができることから、簡易的な休憩所・宿泊所として利用する者もいる。
しかしあくまで「性風俗店舗」であり「宿泊所」として営業許可を取っているわけではないため、非常時に備えた安全設備や避難誘導経路の整備がなおざりになっていることもありうる。2008年に発生した「大阪個室ビデオ店放火事件」では、実際にそういった問題点から避難に遅れが生じ、16人という多数の死者を出す結果につながったという。
歴史
いつ頃からある業態であるのかは判然としない。
だが、昭和59年(1984年)7月31日の第101回国会において、当時新宿区新宿保健所の衛生課長だった人物が参考人として参議院の地方行政委員会に出席し、以下のように発言している。
特別区長会では五十八年七月にも再び風俗営業に関する法令改正を国に要望しておりますが、私どもはさらに実態を踏まえた、より具体的な法令整備の要請をすると同時に、区としても可能な方策を検討するための実態調査をことし一月二十四、二十六の両日、区内三保健所の職員を動員して実施いたしました。その結果、のぞき部屋二十六、個室マッサージ三十八、個室ヌード三十三、個室ビデオ七、ノーパン喫茶十という実態が明らかになりました。[2]
そのため、少なくとも1980年代中盤には複数の店舗が営業を行っており、ある程度確立された業態となっていたらしいことがわかる。
規制と判例
上記のように個室ビデオ店は制度上では性風俗業として扱われており、店舗を開設することができる場所に制限がかかる。
この制限に対して、性風俗店が開設することが規制された地区にて個室ビデオ店を経営したかった人物が、規制要件のハードルをくぐるかたちで「制度上で性風俗業の枠組みに当てはまらない個室ビデオ店」を開設しようと試みた事例がある。
しかし結論から言うと、この試みは失敗して結局摘発された。規制から逃れるための対策が「アダルトビデオではない一般ビデオの陳列比率を増やした」だけであり、営業内容の実態としては結局アダルトビデオを見せることがメインであったことに変わりが無かったからだ。
その刑事裁判において控訴も棄却されたようだが、その判例は裁判所公式サイトにて判決文が公開されており、読んでみると当時の個室ビデオ店における営業実態が垣間見えてなかなか面白い。興味がある方は以下のリンクから読んでみてはいかがだろう。
被告人及び本件個室ビデオ店の従業員であるAは,同店の営業実態等について,次のように供述している。すなわち,
(1) 店内には,客の性的な興奮を煽るために,女性の裸や性交場面が映ったプロモーションビデオを流し,アダルトビデオ出演女優のポスターを多数貼っており,アダルトビデオ等を借りて個室で視聴している客に気持ちよく自慰行為や射精をしてもらうために,自慰用グッズやローションを販売したり,コンドーム1個を無料サービスで渡したりしているので,店では,一般ビデオや一般DVD(以下「一般ビデオ等」という。)を個室で視聴する客は念頭になく,アダルトビデオ等の本数の比率に関係なく,アダルトビデオ等を個室で見せる営業で店が成り立っている。
(3) 店の客層は,20歳から60歳までくらいの男性であり,自宅では家庭環境等によりアダルトビデオ等を視聴できないことなどから,店の個室でアダルトビデオ等を視聴することが来店の目的である。
(5) 店の外観や内装から考えれば,一般ビデオ等だけを借りる客は,まずいないし,実際にも9割以上の客が,個室でアダルトビデオ等を視聴していることは間違いない。
(6) アダルトビデオと一般ビデオを混合させて借りる客がたまにはいるが,そのような客も,一般ビデオはまず見ていない。なぜならば,ビデオは,巻き戻さなくてもよいと店内に掲示してあり,アダルトビデオは巻き戻っていないのに,一般ビデオは巻き戻ったままの状態であることがほとんどだからである。
関連動画
関連項目
脚注
- *警視庁の「風俗営業等業種一覧」のページによれば、個室ビデオ店は「店舗型性風俗特殊営業」の「3号営業 ヌードスタジオ・個室ビデオ・のぞき部屋・ストリップ劇場等」に分類され、「専ら、性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態を見せる興行その他の善良の風俗又は少年の健全な育成に与える影響が著しい興行の用に供する興行場として政令で定めるものを経営する営業」と定義されている。
- *第101回国会 参議院 地方行政委員会 第21号 昭和59年7月31日 | 国会会議録検索システムより引用
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