聖書アラム語とは、アフロ・アジア語族のセム語に属するアラム語のうち、聖書でヘブライ語などに交じって出てくるものである。
概要
アラム語とはセム語に属する言語であり、話者が古代オリエントで陸上交易に携わっていたために、広大な範囲で広まっていた。そのためイエス・キリストなどもこの言語の話者であり、彼の最後の言葉とされる「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」もアラム語である。なお現在のシリア語がその直接の子孫にあたる。
本来のアラム語は独自の文字を持っていたが、聖書アラム語は聖書に出てくる関係からヘブライ文字を用いて学習される。聖書研究を行う上では欠かせない言語であり、アラム語自身ヘブライ語の同族であることから古典ヘブライ語のついでに学習されることも多い。
なおあくまでも聖書に出てくるアラム語であり、本来のアラム語に関してはその他の古文書で補う必要がある(後述するように聖書では完全に欠如している変化形も存在するため)
音韻体系
母音
前舌 | 後舌 | |
---|---|---|
狭 | i | u |
半狭 | e | o |
半広 | ɛ | (ɔ) |
広 | a | (ɑ) |
子音
両唇音 | 歯間音 | 歯茎音 | 硬口蓋音 | 軟口蓋音 | 口蓋垂音 | 咽頭音 | 声門音 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
通常 | 強勢 | |||||||||
鼻音 | m | n | ||||||||
破裂音 | 無声 | p | t | tˤ | k | q | ʔ | |||
有声 | b | d | ɡ | |||||||
摩擦音 | 無声 | f | θ | s | sˤ | ʃ | x | ħ | h | |
有声 | v | ð | z | ɣ | ʕ | |||||
接近音 | l | j | w | |||||||
ふるえ音 | r |
文法
名詞
性数はヘブライ語と同じく単複双・男女である。人称代名詞で例を見てみよう。
単数 | 複数 | |
---|---|---|
1人称 | אֲנָה | אֲסַחְנָה |
2人称男性 | אַנְתְה | אַנְתִון |
2人称女性 | אַנְתׅי | אַנְתׅין |
3人称男性 | הוא | אׅנון |
3人称女性 | הִיא | אׅנׅין |
ヘブライ語のページを見ると少し違っていることがわかるだろう。
なお名詞や前置詞の曲用は人称語尾を使う点は同じである。
名詞には強調形(emphatic)、合成形(construct)、独立形(absolute)の3種類の語形(state)が存在する。アラム語に特徴的なのは強調形では語尾にאを用いるもので定冠詞として機能している。合成形はコンストラクト・チェインなどと呼ばれる「AのB」のような名詞句で、被修飾語となるBが取る語形である。なおその際の語順は「B-A」となる。
動詞
ヘブライ語では動詞の語幹は7種類だったが、アラム語は8種類である。
- ペアル:ヘブライ語のパアル動詞で基本的なもの
- ヒトペアル:ヘブライ語のニフアル動詞で再帰・受動表現に用いる
- パイル:ヘブライ語のピエル動詞で強意や使役を表す
- ヒトパアル:ヘブライ語のプアル動詞でパイルの再帰・受動表現に用いる
- ハフエル:ヘブライ語のヒフィル動詞で使役や作為表現に用いる
- ホフアル:ヘブライ語のフファル動詞でハフエルの受動表現に用いる
- シャフイル:使役に用いる
- ヒシュタフアル:シャフイルの受動形
- 完了、未完了、命令、不定詞、分詞に変化する
- 完了と未完了では2人称女性が欠如している
- 命令形は能動語幹のみで2人称女性複数は確認されていない
- 不定詞は1種類のみ
- 分詞は能動語幹には能動と受動分詞があるが、再帰語幹では1種類しかない
なお当然だが語幹にどのような文字が来るかで活用の仕方が大きく変わるのはヘブライ語と同様である。
関連商品
和書では以下の本に唯一聖書アラム語の解説があったのだが、改訂の際にその部分は丸ごと削除されてしまった。
一応和書では辞書だけは存在する。
関連項目
- 2
- 0pt