商標トロール単語

トレードマークトロール

4.6千文字の記事
  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • LINE

商標トロール、あるいはトレードマーク・トロール(英:Trademark Troll)とは、商標を自身で使う意図がないにも関わらず取得し、その商標を実際に使いたいと考える人に対して売りつけたり、使用料や賠償を請する行為。「商標ゴロ」や「商標マフィア」と呼ぶこともある。

概要

トロール(トロル)とは、毛むくじゃらの人怪物で、ノルウェーの童話『三びきのやぎのがらがらどん (De tre bukkene Bruse)』に登場するトロールを渡ろうとするものを脅していた。もちろん、そのトロールがかけたものなんかではない。

ここから類推する形で、「何かを使いたいと考える人に対してそれを先回りして取得し、けようとする行為」をしてトロールと呼ぶようになった。一番古典的な用法は「パテントトロール特許トロール)」であり、インテル社の副会長兼副顧問(当時)だったピーター・デトキンが、自身のが好きだった先述の絵本『三びきのやぎのがらがらどん』に因んでトロール人形を彼の机においたのを見て、この用法を産み出したという[1]。他にも、「コピーライトトロール著作権トロール)」の用法が知られている。

商標トロールも同様で、流行り言葉や一般的な名称に近い言葉を商標出願し、その商標を使いたいと考える人に対してライセンス料を請したり、売りつける行為である。このような行為は当然、その商標を使いたいと考える人からすると実際に商売していないにも関わらず支払いを強制されることになるので、その商売を諦める要因にもなりうる(その支払をしてもなお十分に利益が出るかを考えなくてはいけないため損益分岐点が上がる)。また、商標権などの知的財産権は、価値を創出した者に独占的な権利を認めることで、「よーし、もっといいものを作るぞ」と新たな価値創造インセンティブを与えるためにあるので、商標トロールの存在はこの意図に反する。

使いたい商標が他人に登録されたらどうするの?

注意 ニコニコ大百科は、法律の専門サイトではありません。
商標トラブルが生じた際は、弁護士にご相談下さい。

一応、商標トロールに先んじて商標を取られた場合でも、まったく打つ手がない訳ではい。そもそも商標法は著名な他社の商標と類似する、あるいは他社の業務と混同を招くような商標の登録を禁じているし、明らかに使わないであろう商標の登録も認められていない。

また、仮にそれが通ってしまったとしても、もともとその商標を使っていることが明らかな場合は「先使用権」といってその後も商標を使用することが認められるケースも有る。また、商標使用実態がない場合には商標登録取消審判を請することも出来る。

ただそうはいってもこの取消審判、かなり多額のカネがかかる。また、「先使用権」も実際にその役務が先に行われていて、それが立できないといけないうえ、商標をもつ実体でないため製品に関しては仕様変更を行えない(あるいは行った場合は商標を使用できなくなる)などので実は意外と落とし穴がある。また商標出願中も警告が出来るので、はなから通らないのを知っていて、それでも係争を避けたがるような相手に「商標で騒ぎを起こしたくないなら買えよ」と圧をかけることも可[2]

むしろこういう点で面倒だから支払ってしまう事例があり、商標トロールは美味しい商売として成立するともいえよう。

抑えておきたい商標トロール事件

ベストライセンス社による商標大量出願

日本において最も知名度のある商標トロールといえば、ベストライセンス社であろう。同社は上田育弘氏によって2014年に設立された企業で、2022年現在まで絶えず大量の商標出願を行っている。2017年話題になった「PPAP」の出願をはじめ、「じぇじぇ」「民進党」などとにかくその年に流行った言葉はだいたい出願しており、また登録が認められなかった場合でも同じ商標をもう一度出願することは止められていないため出願を繰り返す。これにより、使いたいサイドが時間と費用対効果からベストライセンス社から商標を買い受けているケースもあるらしく、結果として現在に至るまでベストライセンス社は存続している。知財を扱う法律事務所ではベストライセンス社の名を知らぬものはモグリ扱いされるほど知名度の高い企業であるらしく、特許庁からも「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)exit」とのアナウンスが行われている。なお、ベストライセンス社による出願の一覧は、Twitter商標速報bot@trademark_botexit)から暖簾分けされた大量出願者専用アカウント@trademark_bot4Sexit)にて確認することができる。

「阪神優勝」

2002年2月に、千葉県男性が「阪神優勝」という商標を登録していたことが2003年明らかになり、話題となった。阪神タイガースはこれについて「なんでや!阪神関係ないやろ!」と商標登録効をめた審判を請した。被請人(登録者)サイドは「阪神大阪神戸略称であり、阪神タイガースとは関係がない(すっとぼけ)」と回答したものの、「本邦で野球に関心を持つ者が多いのは周知の事実であり、阪神プロ野球球団として人気のある球団である」として商標取り消しが行われた。

「東方プロジェクト」「上海アリス幻樂団」

2011年3月に、カネコトレーディング代表の金子浩二氏により「東方プロジェクト」と「上海アリス幻樂団」の商標が出願されていたことが2011年5月明らかになった。このカネコトレーディングは自身が運営する東京タワー内の売店で、自社製品とともに(何故か)ホワイトキャンバス専売アイテム[3]を販売していたこともあり、かつカネコトレーディングの業務上東方はあまり関係がないため、当時上海アリス幻樂団と揉めていたホワイトキャンバスの代理で出願したのではないかと噂された。なお現在東方Project原作者のZUN氏がこの2つの商標を取得している。

「ゆっくり茶番劇」

2022年5月Youtuber柚葉が「ゆっくり茶番劇」を商標登録したことを発表。あわせてその使用のガイドラインを発表し、使用にあたって毎年10万円を請したことで話題となった。柚葉は「ゆっくり茶番劇」の創始者でもなければ、ゆっくり元ネタにも関与しておらず、音声合成ソフトについてもその開発・販売に関わる者でもないため、あからさまな商標トロール行為である。詳細は『ゆっくり茶番劇商標登録問題』および『柚葉(YouTuber)』を参照のこと。

参考:商標トロールではない事例

以下の事件も商標トロールという内容が出てくると例として挙げられる事が多いためセットでまとめているが、以下のケースに関してはむしろ「使用しようとしていた」ために商標出願したケースであり(論、他社のアイディアで商売しようというのは褒められたものではないが)、商標トロールとは毛色の異なる話であることに留意されたい。とはいえ、本来それを利用したい人間にとっては商標トロールと変わらない。

「ギコ猫」・「のまネコ」

玩具メーカータカラ(現:タカラトミー)が2002年3月2chAAキャラクターギコ猫」を商標出願しようとした。しかし、2ch上で炎上してしまい、ひろゆきタカラに質問状を送ったことで、2002年6月に申請取り下げを行っている。

ギコ猫事件と双璧なすののまネコ事件である。2005年ルーマニアのO-Zoneの楽曲『Dragostea Din Tei (恋のマイアヒ)』がブレイクした。この曲がブレイクした要因のひとつに、本楽曲の空耳を扱ったFlash動画が挙げられる。avexは本Flash作者に了解を取った上でオフシャルPVを作成した。こののち、このFlashに登場するモナー変したキャラクターを「のまネコ」として商用利用したことでやはり2chが反発。最終的にはavex商用利用を放棄する形になった。

ギコ猫のまネコ双方に言えることだが、タカラavexはむしろ商売上逆にパチモノを作られたり、第三者に商標出願されて多額のライセンス料を支払うことを恐れて商標出願をしたものである。とはいえ、タカラavexAA作者当人ではないため、「他者の作ったもので稼ぎをするのか」「他者の使用に制限をかけるのか」という意味合いでの炎上である。

株式会社マリカー(現:MARIモビリティ開発)

株式会社マリカー(現:MARIモビリティ開発)は公道カート運営と小車両用部品の開発を行う企業である。このうち公道カートでは当初マリオシリーズキャラクターコスチュームを貸し出していた。こうなると、株式会社マリカー』のマリカーってマリオカートの略なのではと思うだろうが、なんと株式会社マリカーサイドは自社登録商標としてマリカーを出願しており、その上で公道カート運営していた、つまり誤認させていたということもあり不正競争防止法に引っかかるのではないかとして任天堂より2017年に訴訟を起こされたのである。

マリカー商標もまた、ギコ猫のまネコのように利用を的としていたため商標トロールではない。しかし、下の任天堂法務部を相手に「マリカーマリオカートとは関係です!」なんて理屈が通用するわけもなく、商標取り消し、及び損賠償請が認められた。MARIモビリティ開発は強気を崩さなかった結果ボロボロに敗訴したわけである。なお任天堂はこの時期知財関係でコロプラとの長期の特許訴訟も起きていたが、こちらはコロプラ和解任天堂に支払い、任天堂が訴訟を取り下げている。MARIモビリティ開発も意地をらなければ良かった気がしないでもない[4]

関連リンク

関連項目

脚注

  1. *なお、デトキンはその後、なんの因果インテレクチュアルベンチャーズというパテントトロール企業の起業に関わることになる。
  2. *出願中の商標も他者に譲渡できる。
  3. *ネコトレーディングはホワイトキャンバス関係の企業なので、そこで専売アイテムを販売していたら専売ではなくなる。
  4. *コロプラも時間稼ぎを行っており、2度も任天堂から賠償釣り上げられているが。
この記事を編集する

掲示板

おすすめトレンド

急上昇ワード改

最終更新:2024/03/19(火) 16:00

ほめられた記事

最終更新:2024/03/19(火) 16:00

ウォッチリストに追加しました!

すでにウォッチリストに
入っています。

OK

追加に失敗しました。

OK

追加にはログインが必要です。

           

ほめた!

すでにほめています。

すでにほめています。

ほめるを取消しました。

OK

ほめるに失敗しました。

OK

ほめるの取消しに失敗しました。

OK

ほめるにはログインが必要です。

タグ編集にはログインが必要です。

タグ編集には利用規約の同意が必要です。

TOP