「愛国心はならず者の最後の逃げ場」(Patriotism is the last refuge of a scoundrel.)とは、サミュエル・ジョンソンが言ったとされる格言である。
イングランドの文学者「サミュエル・ジョンソン」(Samuel Johnson)による言葉とされる。利己心の隠れ蓑や単なる口実として「愛国心」を便利に振りかざす者たちを批判する言葉だと解されることが多い。
こういった格言は出典があやふやで「本当にその人の言葉なのか」についても怪しまれるものも多いが、この言葉は割と出典がはっきりしている方で、ジョンソンの年の離れた友人であり弟子のような存在であったジェイムズ・ボズウェル(James Boswell)によるジョンソンの伝記『The Life of Samuel Johnson』(『サミュエル・ジョンソン伝』)中に登場する。
「伝記に書いてあるだけならその作者のボズウェルの創作かもしれないじゃん」とか思ったあなた。あなたはちゃんと疑えていて偉いぞ。でもボズウェルはジョンソンが生きているうちから親しく付き合ってジョンソンの言葉をメモしては記録に残していた人物であり、そんなボズウェルが書いただけあってこの伝記はかなり詳細であり、この発言がなされた日付や曜日まで記録に残っている(1775年4月7日金曜日)。よって、ジョンソンが実際にこの言葉を言ったという信憑性は割と高いと思うよ。
その伝記の中の記載にはこうある。酒場でジョンソンやボズウェルが友人らと夕食を食べながら歓談していた時の記述である。
Patriotism having become one of our topicks, Johnson suddenly uttered, in a strong determined tone, an apothegm, at which many will start: “Patriotism is the last refuge of a scoundrel.” But let it be considered, that he did not mean a real and generous love of our country, but that pretended patriotism which so many, in all ages and countries, have made a cloak for self-interest.
(和訳例:
愛国心が我々の話題の一つとなったとき、ジョンソンは突然、強く断固とした口調で、多くの人がギョッとするような格言を口にした:「愛国心はならず者の最後の逃げ場だ」と。しかし考慮していただきたいが、彼は真なるそして惜しみない祖国愛について述べたわけではなく、あらゆる時代と国々において多くの者たちが利己心の隠れ蓑としてきたものについて述べたのである。
)
ジョンソンは「愛国心」を標榜しての党派対立に批判的であったと言われ、この格言は彼のそんな姿勢を示したものと言えるかもしれない。
また「in all ages and countries(あらゆる時代と国々において)」とあるように、純粋でない愛国心を振りかざす者たちの存在については、当時のイングランドに限った話ではなく人類の歴史上で普遍的なことだとボズウェルは考えていたようだ。
なお、その後には以下のように記述が続いた。
I maintained, that certainly all patriots were not scoundrels. Being urged (not by Johnson,) to name one exception, I mentioned an eminent person, whom we all greatly admired. JOHNSON. “Sir, I do not say that he is not honest; but we have no reason to conclude from his political conduct that he is honest. Were he to accept of a place from this ministry, he would lose that character of firmness which he has, and might be turned out of his place in a year. This ministry is neither stable, nor grateful to their friends, as Sir Robert Walpole was, so that he may think it more for his interest to take his chance of his party coming in.”
(和訳例:
余さず全ての「愛国者」たちがならず者だ、というわけではないと私は擁護した。(ジョンソン以外の者から)一人でもその例外の者の名を挙げてみるように求められたので、我々全員が非常に尊敬している著名な人物の名を挙げた。ジョンソンは「あなた、私は「彼が正直でない」とは言わないが、彼の政治行動を理由として「彼は正直だ」と結論付ける理由もない。彼が現政権からの地位を受け入れれば、彼はその毅然とした性質を失って一年以内にその地位を追われることになるかもしれない。現政権は安定していないし、ロバート・ウォルポール卿がそうしたように同輩たちへ謝意を示すこともしていないから、彼は「自分の党が入閣するチャンスを狙う方がより彼の利益になる」と考えたのかもしれない。」と言った。
)
後半はボズウェルが「愛国心があり、ならず者でもない」例として挙げたという氏名不詳の「有名で尊敬されている人物」についての記述のようだが、これはエドマンド・バーク(Edmund Burke)のことではないかと推定されている。ジョンソンはこのボズウェルによって推挙された人物について「彼が政権から提示された地位に就かないことが、彼の正直さを示すものだとは言い切れないがね」と言った感じの、やや冷笑的ともとれるコメントをしているようだ。
ボズウェルが記録した、ジョンソンが言った原文とされるものは上記の通り「Patriotism is the last refuge of a scoundrel.」である。このうち「scoundrel」は「ならず者」「悪党」「悪者」「ろくでなし」といった意味があり、また「refuge」は「避難所、隠れ家、拠り所、頼みになるもの、よすが、逃げ口上、口実」といった意味がある。
このうちどの訳語を採用するかによって翻訳にバリエーションが出てくる。本記事のタイトルとした「愛国心はならず者の最後の逃げ場」の他にも、「愛国心は、ならず者の最後のかくれみの」「愛国心は悪者の最後の隠れ家」「愛国心はろくでなしの最後の砦」「国のためというのは悪党の最後の言い逃れ」「愛国主義は不埒なやつらの最後の隠れ家」など、非常に多彩な訳され方をしている。
また、上記引用文のようにボズウェルは「ジョンソンは真の愛国心について言ったわけではない」と注釈しているため、ジョンソンの真意(だとボズウェルが想定したもの)を反映するために「愛国心」の前に「偽の」と付けて意訳されることもある。



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最終更新:2025/12/09(火) 13:00
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