江藤愼一とは (エトウシンイチとは) [単語記事]

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江藤愼一(えとうしんいち、1937年 10月6日～2008年 2月28日)とは、中日・ロッテ・大洋・太平洋など多くの球団を渡り歩いた元プロ野球選手である。旧名は江藤慎一。

常に全力プレーを心掛け、闘志を前面に押し出した姿は「闘将」と呼ばれ、人気を集めた。
また同じく元プロ野球選手の江藤省三は実弟にあたる。

概要

OB
江藤愼一
基本情報
国籍	日本
出身地	熊本県山鹿市
生年月日	1937年 10月6日
没年月日	2008年 2月28日 (満70歳没)
身長体重	178 cm 80kg
選手情報
投球･打撃	右投右打
守備位置	一塁手、外野手、捕手
プロ入り	1959年
引退	1976年
経歴
選手歴熊本県立熊本商業高等学校日鉄二瀬中日ドラゴンズ(1959年-1969年) ロッテオリオンズ(1970年-1971年) 大洋ホエールズ(1972年-1974年) 太平洋クラブライオンズ(1975年) ロッテオリオンズ(1976年) 監督歴太平洋クラブライオンズ(1975年)
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幼少より家計を助けるため働いていた江藤は、高校を卒業するとノンプロの強豪だった日鉄二瀬に入社し、給料のほとんどを実家に仕送りとして送った他、のちに恩師と慕う濃人渉とも出会う。
そしてプロからスカウトが来たときは地元の西鉄ではなくもっともよい条件を出した中日を選び、契約金の大半もこれまた実家に仕送りとして送っている。

59年のプロ入り時、江藤は高校・社会人ともに捕手として活躍していたが、当時の中日には吉沢岳男という正捕手がいたため吉沢からレギュラーを奪うことは難しいと考えた江藤は、前年引退した西沢道夫が守っていた一塁手の座を狙い、監督の杉下茂に「自分は一塁も守ったことがあります。」と直訴（実際は嘘である。）、その結果江藤はプロ一年目ながら全130試合に出場、内125試合は一塁手として出場し、お世辞にも守備はうまくはなかったが、打撃では打率.281、15本塁打84打点と文句なしの成績を残す。ただし新人王はその年に新人記録となる31本塁打を放った桑田武に譲っている。

翌60年には恩師と慕う濃人渉が監督に就任（62年で退任）し全試合に出場、61年には外野手にも挑戦し、全試合に出場して打率こそ.267だが20本塁打77打点で初めての20本塁打を達成しベストナインに選ばれる。余談だがこの年に入団した権藤博とはバッテリーを組んだこともある。
62年からはそれまで４番を務めていた森徹が移籍したため江藤が４番を務めるようになり、63年は打率.290、25本塁打70打点の成績で再びベストナインに選ばれている。

64年、この年は王貞治が本塁打・打点の成績でぶっちぎりでトップを走り、９月初め時点で首位打者にも立っていたため戦後初の三冠王を取るのではないかと大いに騒がれていたが、この状況に江藤は大いに燃え、絶対に首位打者は渡さないとばかりに闘志をむき出しにし、ショートへ深いゴロを打てば決して速くはない足で一塁へ全力疾走してヘッドスライディングで飛び込むなど、とにかく一本でも多くヒットを放って打率を稼ごうとする。
その執念が実を結び、9月9日には打率を逆転、一度は王に逆転を許すものの、9月23日の巨人のシーズン最終戦で、王は江藤の打率を逆転出来なかったため首位打者が確定、江藤は打率.323を記録して初の打撃タイトルを獲得した。

65年は4月に肉離れを起こし、それまで続いていた連続試合出場記録が809試合でストップするが、前年同様本塁打・打点のトップを走っていた王に三冠王は達成させないとばかりに前年よりも打率を上げ、打率.336で再び首位打者に輝くと共に王の三冠王を阻止した。

しかし長打力では王には勝てず、66年には26本塁打を放ちながら王が48本塁打、67年は34本塁打と初めての30本台を記録するが、王は47本塁打と上回り、首位打者以外のタイトルは叶わなかった。

そして69年、この年から指揮を執っていた監督の水原茂と江藤は様々な問題で確執が生まれ、江藤はシーズンこそ打率.280、25本塁打84打点と結果を残すが、水原の翌年の構想から外れ、引退に追い込まれてしまう。
この窮地に恩師であり、当時ロッテの監督に就任していた濃人渉が救いの手を差し伸べ、江藤は70年のシーズン途中に形式上は川畑和人とのトレードで移籍、この年のロッテの優勝に貢献した。

71年、すでに江藤は３３歳と当時の球界ではすでに引退も近くなる年齢にあったものの、持ち前の闘争心で奮起し、打率.337、25本塁打91打点の成績で３度目の首位打者、および史上初のセ・パ両リーグ首位打者を達成、この記録は2011年に内川聖一が達成するまで江藤のみが達成していた記録である。

しかし首位打者を確定させ、３４歳の誕生日でもあった10月6日、江藤は野村収とのトレードで大洋に移籍を告げられる。これは濃人監督がシーズン中に江藤のハーフスイングの判定を巡って審判に執拗に抗議した結果、没収試合にまで発展してしまい、それによって濃人監督は大沢啓二二軍監督と入れ替わりで二軍監督に降格し、また大沢は守備・走塁面で不安が残る江藤を来季の構想から外したためである。
ともあれ江藤はあわただしく大洋に移籍するが、江藤自身満足いくような成績は大洋では残すことが出来なくなっていく。

75年にはまたもや河原明とのトレードで太平洋に移籍、ここでは兼任監督としてプレーすることになる。
江藤は近鉄から土井正博を、日本ハムから白仁天を獲得し、結果として土井が本塁打王・白が首位打者を獲得、自身も指名打者として試合に出場して2000本安打を達成するなどチームを盛り上げ、前期２位・後期４位・通算３位とチームを初のＡクラスに導くが、シーズンオフに球団が大リーグ監督のレオ・ドローチャーを招聘する意向を示したため、江藤は球団を去ることとなる。

76年はロッテの監督を務めていた金田正一が「愼一に花道を飾らせる。」と江藤をロッテに招き、江藤も期待に応えるべく、すでに３８歳になっていたにもかかわらず、凄まじいまでの走り込みで体重を13キロも落とし、シーズンでも５月時点で三割を記録していたほどの好調ぶりを見せ、金田監督を喜ばせたが、右ひじ痛が発症してからは大きく成績を落とし、8月29日には支配下選手登録を抹消され、この年限りで現役を引退した。

引退後は静岡に日本野球体育学校を立ち上げたり、参議院選挙に立候補するなど（結果は落選）様々な活動を行うが、プロ野球のユニホームを着ることは無く、2003年に脳梗塞で倒れると以降は寝たきりの生活となり、2008年に肝臓ガンのため７０歳でこの世を去った。

2010年、野球殿堂入り。

人物・プレースタイル

顎を引き、上体をかぶせ気味に向かう構えから力強いスイングで長打を量産、獲得した打撃タイトルは首位打者のみではあるが、王貞治・長嶋茂雄のONコンビに真っ向から勝負を挑みもぎ取ったそれは非常に価値のあるものだと言える。やはりONコンビのおかげで一般知名度は低いが。
現役時代は王貞治の全盛期と被るため本塁打王は獲得できなかったが、それでも通算で367本塁打を記録しているため、決して長打力はそこらの打者に劣ってはいない。

「闘将」と呼ばれることもあって、短気でカッとしやすいところもあり、審判を殴って退場処分になったこともあるが、それらも全て「勝ちたい」という江藤の強い気持ちの表れであるとも言える。
特に巨人戦には一層気合を入れており、63年8月25日の巨人戦では6-6の同点で巨人の攻撃を迎える7回表に雨が降り始めて試合は中断、巨人・中日双方の選手はあわててベンチに戻るが、江藤はただ一人雨が降りしきる中レフトの守備位置から一歩も動かない。
江藤はこの試合で２本塁打を放っており、試合は５回を過ぎているため成立し、江藤の本塁打も記録されるのだが、江藤は「勝たなければ意味がない」「自分がベンチに戻れば試合は中止になる」と考え、レフトに立ち続けていたのだ。
結局監督の説得で江藤はしぶしぶ引き上げるが、江藤の気持ちの強さを表すエピソードである。