ニコニコ大百科 : 医学記事 ※感染した可能性がある方で発熱や咳の症状があるかたは、直接医療機関を受診しないでください。まず、各保健所等に設置された発熱相談センター[1]、もしくは帰国者・接触者相談センター[2]にご相談ください。 |
新型インフルエンザ[3]とは、インフルエンザのうち、もともとは人以外の動物(鳥、豚、馬など)にのみ感染する型であったはずのものが、変異によってヒトからヒトへの感染能力を持ったもののことである。
現在では主に、1997年に香港で死者を出して以来、東南アジアを中心に拡大しているH5N1型鳥インフルエンザと、2009年4月にメキシコで確認され、北米を中心に拡大しているH1N1型豚インフルエンザ(インフルエンザA型(H1N1))、そして2013年3月に中国で確認されたH7N9型インフルエンザの3つが危険視されている。
概要
そもそもインフルエンザウイルスは、非常に変異性が強いため、例えば日本脳炎やおたふく風邪のように、一度作られた免疫が長期間抗力を持つウイルスではない。
簡単に言ってしまえば、変異を重ねた結果非常に多くの型に分かれてしまっており、毎回違う型が(しかも度々姿を変えて)流行するのである。
そのため、毎年、もとい流行の都度、予防接種を受けることが推奨される。保健機関はときに世界規模で連携をとり、毎年、流行しそうな型を見極めてワクチンを生産し、人々に提供しているわけである。
しかし、インフルエンザウイルスの変異性の強さは、ヒトに感染するはずのなかった型が突然感染力を得る、という事態をときに引き起こしうる。
この場合、ワクチンが全く用意されておらず、その生成にも少なくとも数ヶ月の期間を要するため、人々はほぼ無抵抗のまま、ウイルスに晒されることになる。
結果、感染の世界的かつ急速な拡大、いわゆるパンデミックにまで至る可能性があるわけである。
特徴
新型インフルエンザは、ほとんどの人が免疫を持たないため、危険性が高いのが特徴(稀に、新型かと思っていたら何人かの患者に抗体が見つかり、かつて流行したことがあったと判明することがある)。
症状自体は従来のヒトインフルエンザと大きな違いはない。ただし、従来のウイルスに比べて毒性が強くなっている恐れもある。
どの道インフルエンザは、健康な成人でも治療を怠ると命にかかわる症状を引き起こす可能性がある、注意すべき病気である。
- サイトカイン・ストーム
- 新型インフルエンザの症状で最も恐ろしいのがサイトカイン・ストームである。サイトカインとは主に人体が病気やけがなど何らかのダメージを受けた際に産生される物質群で、ウイルスを攻撃したり、免疫系を活性化させたり、再生能力を促進させたりするが、副作用として高熱(熱でウイルスを抑制する)や炎症を引き起こす。ところが、人体にとって未知の病原体が侵入すると、免疫系が過剰反応を起こしサイトカインが大量に分泌される。すると全身の毛細血管に穴が空き、血液が体内に大量に漏れだして最悪の場合死に至る。この症状は一般に感染症に弱いとされる年寄りや子供よりも免疫力が活発な若い成人にかかりやすい傾向がある。H5N1型鳥インフルエンザの場合、死因の多くがこのサイトカイン・ストームであった。2009年から翌年にかけて流行したインフルエンザA型(H1N1)は呼吸器のみに感染するため、サイトカイン・ストームは起こさないとされる。
過去の新型インフルエンザ
1918~19年に発生した「スペインかぜ」は当時の世界人口18億人のうち、およそ6億人が感染し、全世界で4000万人、日本でも40万人の死者を出し、多くの著名人も犠牲となった。
当時は第一次世界大戦の最中であったが、米軍死者の8割がスペインかぜによる病死とされているなど各国軍は大打撃を受け、休戦を早めたといわれる。
90年代になって、鳥由来のH1N1型インフルエンザだったことがわかっている。大流行の原因は、ウイルスが、増殖効率が異常に高いという性質を持っていたことであった。
ちなみに、発生源はスペインではなく、実はアメリカであった。当時アメリカを始め多くの国が検閲を行っていた中で、スペインだけは中立であり、この流行に関する情報の共有・発信が国内外に向けて盛んに行われたため、あたかもスペインが最初の発生地であったかのようにこう呼ばれるようになっただけである。
1957年の「アジアかぜ」は鳥由来のH2N2型で、「スペインかぜ」以来H1N1型だけが広まっていたために免疫を持つ人が少なく、アジア全域で200万人が死亡した。日本でも300万人が感染し、6~8000人が死亡した。
1968~69年には「香港かぜ」とよばれる豚由来のH3N2型が流行。発生地の香港では50万人が亡くなった。この型は「香港型」とよばれ、1977~78年にソ連で流行したH1N1型「ソ連型」とあわせて、現在も毎年冬の流行を起こしている型の一つである。
2009年には、豚を経由して変異を起こしたH1N1亜型インフルエンザがメキシコで発生し世界規模で流行。日本でもいわゆる「豚インフルエンザ」の名前で恐れられ、政府や保健機関が注意を促した。このウイルスは感染力は高いものの、感染した場合の死亡率はそこまで高くなかったことが後の研究で判明しているが、世界130カ国以上で感染が確認され、少なくとも2010年時点で15000人が死亡しているなど、21世紀最大のパンデミックであった。
2013年3月には、H7N9亜型インフルエンザウイルスのヒトへの感染が中国で初めて確認された。明確なヒト-ヒト感染は確認されず、5月以降中国は感染の収束を宣言している。しかし、通常よりも潜伏期間が長いウイルスであることが判明したり、地方政府が中央政府に向けて感染者数を過少に報告している恐れがあったりと、ウイルスの性質もあることながら、その流行への対応の拙さから中国政府などに批判の声が上がっており、現在も予断を許さない状態にある。
対策
インフルエンザウイルスは呼吸器で増殖するので、感染した鳥・豚の食用部分がウイルスに汚染されることはほとんどない。
また、屠殺する前の段階で検査が行われ、感染した個体の排除が行われている。
インフルエンザウイルスは熱に弱いので、万が一汚染された鶏肉・豚肉を食べてもきちんと火が通っていれば感染することはないとされている。
外から帰ったらうがい手洗いを忘れずに。人の多い場所に行くときはマスクを着用。
基本的かつ地味だが、最も重要な予防策である。
自分自身にインフルエンザに酷似した症状が出た場合、できれば直接病院に行ったりせず、厚生労働省の相談窓口(本記事の脚注を参照)や最寄りの保健所に電話して指示を仰ぐこと(院内感染を防ぐため)。
疑いありと判断された場合は、各都道府県が設置している発熱外来で診察を受けることになる。
関連動画
関連項目
- ニコニコ大百科:医学記事一覧
- インフルエンザA型(H1N1)(豚インフルエンザ)
- ウイルス
- パンデミック
- 緊急事態宣言
関連リンク
Wikipediaにおける該当項目
脚注
- *厚生労働省:相談対応窓口の設置状況 (都道府県) (サイト内PDFへの直リンク・2021年2月15日現在)
- *厚生労働省:新型インフルエンザ発生時の相談先と医療機関 (2021年2月15日現在)
- *厚生労働省:インフルエンザ(総合ページ) - 新型インフルエンザ - 疾患Q&A、通知、対策行動計画。
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