カリフォルニアクローム(California Chrome)とは、2011年生まれの米国の競走馬である。馬名が長いので日本では「クローム」「カリクロ」と略されることもある。Google Chromeはあんまり関係ないと思う。
概要
父Lucky Pulpit、母Love the Chase、母父Not for Love。父は呼吸器疾患に悩まされたのもあるが22戦3勝で重賞勝利なし。母も戦績に見るべきところはなく、本馬の生産者が繁殖牝馬として購入した時には周囲から「dumb ass」(バカな奴)と後ろ指を指されたそうな。母父も血統は良いが重賞未勝利で、外国馬だということを差し引いてもよくわからない。
それもそのはず、カリフォルニアクロームは馬名の通りカリフォルニア州産。カリフォルニア産馬は日本でいうところの九州産馬みたいなもんで、ケンタッキー州などの大馬産地に比べると圧倒的にレベルが低い。生産したのもペリー・マーティンとスティーヴ・コバーンという2人の個人馬産家で、所有する牝馬もLove the Chase1頭、おまけにクロームが初めて自分たちで生産した馬という、まるで活躍する要素の見当たらない馬だった。ただ、かなりの親バカ(馬主バカ?)だったマーティンとコバーンの両氏が初めての生産馬であるクロームを溺愛して育てたからか、非常に人懐っこくて賢い馬に育ったらしく、カメラを向けられると自分からポーズを取るような性格になったらしい。
だか親バカが高じ過ぎて、マーティン氏は「ケンタッキーダービーを勝てる調教師」にこの馬を預けようとした。なんとマーティン氏、クロームがケンタッキーダービーを勝てると思っていたらしい。それまでケンタッキーダービーを勝ったカリフォルニア州産馬はわずか4頭。1962年を最後に出ていなかった。最早ただの妄言、狂言でしかない。クロームは少頭数を丹精込めて育てる職人気質のアート・シャーマンとアラン・シャーマンの親子調教師に預けられた。
2歳時は7戦3勝。勝ったレースは全てカリフォルニア州産馬限定戦。ものは試しにと出てみたGIは2馬身差の僅差とはいえ6着で、まだクラシックに通用しそうじゃなかった。しかし3歳になり、初戦を強い競馬で5馬身半ちぎり捨て圧勝。カリフォルニア州の同世代最強の地位を確立し、他州産馬と戦うべくGIIサンフェリペSに参戦。とはいえ出走6頭でロクな戦績の馬もいなかったので1番人気になり、7馬身1/4差で圧勝。さらにGIサンタアニタダービーはメンバーが強化されたが意に介さず圧勝。ここに及んで、クロームはクラシック大本命に成り上がる。この時点でクロームに高額の購入オファーが来たらしいが、両氏は「お金ではなく夢を取る」と断った。
そして、その夢の舞台、ケンタッキーダービー。予想家はカリフォルニア州産馬を軽視する向きが強かったが、実績と絶好枠から地元カリフォルニアではクロームの勝利は確実と思われていた。レースはスローで進み、クロームはインの3番手という絶好位につける。鞍上ビクター・エスピノーザはぐっと脚を溜め、4角で仕掛けて先頭に立つ。そのまま一気にリードを広げ、最後は追い込んできたCommanding Curve(17番人気)を1馬身あまり退けて優勝。史上5頭目、52年ぶりのカリフォルニア州産のダービー馬となり、マーティン・コバーン両氏が見た夢は実現した。ただ、勝ち時計がかなり遅く、ずいぶんレベルの低いダービーだと思われたためか、予想家の中にはまだクロームを軽視する人もいたとか。
プリークネスSはかなり面子が格落ちし、クロームは1.5倍の1本被り。レースは完全にダービーの再現で、3番手から4角で抜け出し1馬身半差で勝利。今度は時計も優秀で、前走の低レベル疑惑を一蹴した。ちなみにカリフォルニア州産馬がダービーとプリークネスSを連勝したのはこれが初めてである。
こうなれば目指すは三冠……と思いきや、コバーン氏が「ベルモントSには出ない」と言い出した。クロームは鼻出血防止のため鼻にネーザルストリップというテープを貼っていたのだが、ベルモントSのあるニューヨーク州では使用が禁じられているから、というのが理由だった。二冠馬が来ないとあってはベルモントSの格に傷がつく、ってなことでちょっとした騒動になり、州競馬協会が使用を解禁したことでクロームは三冠挑戦を決めた。が、ベルモントSではスタート直後に他馬に右脚を踏まれ負傷するというアクシデントに見舞われてしまい、直線で伸びきれず4着。三冠の夢はあえなく散った。
休養して秋競馬に挑むが、調子が戻らなかったのか初戦は春に完封していた同期のBayernの6着に惨敗。BCクラシックもBayernの3着と敗れてしまう。日本のチャンピオンズカップに出走するという話がネーザルストリップの使用が認められず(日本でも使用禁止扱い)流れると、陣営は何を思ったか芝のハリウッドダービーに参戦、大逃げにも動じず2番手からきっちりかわして勝利。GI4勝目を挙げる。文句なしでエクリプス賞年度代表馬・最優秀3歳牡馬を獲得、カリフォルニア州議会は全会一致でクロームを表彰した。
しかし翌年、初戦で同期の2歳王者Shared Beliefに負けるとドバイWCも2着敗戦。さらに陣営はイギリス遠征を敢行するが蹄の負傷で出走できず帰国するという迷走劇。あげく砲骨にひびが入り年内全休。この間にAmerican Pharoahが三冠を達成したこともありクロームはすっかり影が薄くなってしまう。春二冠を勝ってそれで終わってしまった馬も多いし、クロームもここまでかなぁ……なんて思っていた時期が私にもありました。
ところがどっこい。引退を撤回し、勝負服も新たに5歳も現役を続行すると初戦のGIIを快勝。ドバイWCのためUAEに飛び、前哨戦で60kg背負いながら楽勝。ドバイWCではさらに2着との差を広げ3馬身差の完勝。実にあっさり2年ぶりのGI制覇を遂げる。休養後の夏もGIIをあっさり勝つと、最強牝馬Beholder、前年のサンタアニタダービー馬Dortmundとの三強対決となったGIパシフィッククラシックもあっさり逃げ切ってしまった。なんか二冠取った頃より強くなってる気がする。
今やカリフォルニア州産馬史上最強なんじゃないかと思えるカリフォルニアクローム。堂々と大本命としてBCクラシックに挑む。が、クロームに挑戦せんと待っていたのが3歳馬のArrogate。クラシックに間に合わなかったものの、トラヴァーズSを13馬身差のレコードで圧勝してBCクラシックに襲来した超新星である。
クロームは最早定番となった逃げを打ち、Arrogateは中団から外目にジリジリと押し上げ2番手につける。クロームがそのままマイペースに4角を回ったのに対し、Arrogateは空いた内に一旦進路を変えたのち、そのまま再び外に抜けてクロームを追う。そこから2頭が別次元の伸びで後続を置き去りにするが、手応えは同じようなものでクローム逃げ切りかと思われた。しかし、クロームが競り落としたかに見えた残り1ハロンでArrogateが急加速、クロームを半馬身捉えたところがゴール板。遅れてきた怪物の前に連勝はストップ。しかし逃げて2着、しかも3着には10馬身以上の差をつけたのだから負けて強しである。ちなみにその3着馬は前年American Pharoahを破ってから不振が続いていたKeen Iceだった。
翌年の新設GIペガサスワールドカップを目標に現役を続行。はてさてどうしようか、と言っていたところに届いたのが、シャーマン厩舎が拠点とするロスアラミトス競馬場からの出走の依頼だった。実はクロームはロスアラミトスで走ったことがなく、「引退前にカリフォルニアの英雄を地元のファンの前で走らせてほしい」と競馬場側が特別にレースを編成したのである。
陣営もこれを快諾し、クロームは初めて地元ロスアラミトスに凱旋。ウインターチャレンジに出走し、後続に12馬身差をつけトラックレコードで完勝。故郷に錦を飾り、競馬場は「クローム!」の大合唱に包まれた。
翌2017年、引退レースとなるペガサスワールドカップに出走。今度はArrogateに1番人気を奪われながら有終の美を飾るべく2番人気で出走したが、レース中に軽度の故障を発生。力なく9着に敗れ、引退レースを飾ることはできなかった。
通算27戦16勝(GI6勝)。今後はケンタッキー州で種牡馬入り。北半球のオフシーズンはチリにシャトルされることも決定している。血統は正直二流か三流なので、その能力を伝えられるかどうかが成功の分かれ道になりそう……
と思っていたら2020年シーズンから日本のアロースタッドにて繫養されることが決定。ミスタープロスペクターの4×3のクロス(18.75%、俗にいう奇跡の血量)を持っているため、キングカメハメハ系統の肌馬相手だとミスタープロスペクターの5×4×3(21.875%)のクロスとなり、やや濃いめのインブリードになってしまうきらいがあるが、サンデーサイレンスの功績によって日本中に広まったヘイルトゥリーズン系の血は一滴も入っていないため、自身の成績を鑑みても当面の繁殖相手には困らないだろう、彼の能力を引き継ぐ名馬の誕生に期待したい。
ちなみに、目標だったテイエムオペラオーの樹立した獲得賞金世界記録更新はラストランで敗れたこともあり実現しなかったが、ArrogateがドバイWCも勝ってあっさり更新しやがった。たった1年で……。
血統表
Lucky Pulpit 2001 栗毛 |
Pulpit 1994 鹿毛 |
A.P. Indy | Seattle Slew |
Weekend Surprise | |||
Preach | Mr. Prospector | ||
Narrate | |||
Lucky Soph 1992 鹿毛 |
Cozzene | Caro | |
Ride the Trails | |||
Lucky Spell | Lucky Mel | ||
Incantation | |||
Love the Chase 2006 栗毛 FNo.A4 |
Not For Love 1990 鹿毛 |
Mr. Prospector | Raise a Native |
Gold Digger | |||
Dance Number | Northern Dancer | ||
Numbered Account | |||
Chase It Down 1997 栗毛 |
Polish Numbers | Danzig | |
Numbered Account | |||
Chase the Dream | Sir Ivor | ||
La Belle Fleur | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Mr. Prospector 3×4(18.75%)、Numbered Account 4×4(12.50%)、Northern Dancer 4×5(9.38%)
主な産駒
- Chromium (2019年産 牡 母 Alegria Profunda 母父 Election Day)
- Kabirkhan (2020年産 牡 母 Little Emily 母父 Castledale)
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関連項目
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