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高師直（？～1351）とは、鎌倉時代末期から南北朝時代にかけて活躍した武将である。
概要
よくも悪くも中世からずっと南北朝時代の有名人な、いわゆる戦う執事。とはいえ、最近はようやく伝承のくびきから解かれつつある。
ここまでのあらすじ
高一族は長屋王の子孫の賜姓貴族、高階氏の一分流である。そのため「高」は苗字ではなく「高階」を省略した氏姓であり、この時代には珍しく、苗字を持たず「こうのもろなお」と氏姓を表す「の」が挿入される。
系図上は高階惟孝（高階惟章）の代に源頼義の妹を母として、清和源氏のうち河内源氏と姻戚関係が生じており、彼の息子である高惟頼は源義家の子とさえする系図も残っている。その後惟頼と源頼義の娘との間に生まれた高惟貞（高惟実）が、母親の乳母子である源義国に仕え、義国の子孫である足利氏の家臣となったと伝わる。
高惟貞は藤姓足利氏との戦いで戦死したものの、彼の孫である高惟長、高惟重、高惟信らが治承・寿永の乱で主君・足利氏とともに活躍し、惟重の子孫が嫡流に、惟長の子孫が大平氏や彦部氏になった。
足利家の執事としてようやく活動がみられるのが高惟重の息子・高重氏で、その息子の高師氏は足利家時が自害した際の置文を預かるほど足利氏の被官としては最上位の立場にあり、その息子である高師重を経て、ついに高師直へと至る。
幕府の執事へ
高師直がいつ生まれたかもわからない。それは彼の兄弟である高師泰との長幼の順すらわからないことが何よりの証拠である。
彼が最初に登場するのは足利高氏が鎌倉幕府を離反し宮方についた時で、この時点ですでに高一族は主君の足利一門を上回る勢力となっていた。建武政権では依然として足利氏の執事として活動しつつも、雑訴決断所、窪所、武者所に属するなど文武両面で政権の仕事を任せられていた。
官位も初めは三河権守、続いて武蔵権守と足利家が担当する国をある程度任されるなど、足利氏家臣筆頭として十分その責務を果たしていた。
高一族はここまで見てきたように本来文筆官僚なのだが、すでに武断的な側面も見せており、中先代の乱以降の足利尊氏の建武政権からの離反の際には、矢作川の戦いで高師泰が一軍を率いるなど、軍事面でも重要な役割を担っていた。その後も一度目の京都占領、九州落ち、そしてそこからの二度目の京都占領で高師直をはじめとした高一族は師直の弟で猶子・高師久を失いつつも室町幕府の成立に貢献したのであった。
こうして室町幕府が誕生し、足利尊氏と足利直義の二頭体制で運営が進められる中、高師直は足利尊氏の執事として活躍するのである。師直は中央では執事奉書を発行して引付頭人など各内政機構の役職を歴任しつつ、まず上総の、続いて武蔵の守護となった。官職も建武政権で足利尊氏がついていた武蔵守に任じられるなど上昇していき、その権勢は増す一方だったのである。
南朝との戦いの末に…
彼の最初の相手は陸奥将軍府の北畠顕家であった。青野原の戦いの敗戦で京都に迫りつつある顕家を、まず高師泰が、続いて高師直が出陣し、追撃したのである。そして般若坂の戦い、続いて石津の戦いで顕家を撃破し討ち取ることができた。そして顕家の弟の春日顕国を攻め石清水八幡宮を焼き払った。
さらにこのタイミングで出雲・隠岐守護の塩冶高貞の裏切りが起きるが、『太平記』や『仮名手本忠臣蔵』で描かれる高貞の妻への高師直の横恋慕はあくまでも文学的表現らしく、師直どころか高一族はこの事件に関与した気配はないようだ。
しかしこのころから足利直義との対立が始まった。南朝への優位性によって戦時体制から平時体制に移行しようとしたのがその始まりのようだ。師直の発給する執事施行状が足利直義の権限とバッティングしてしまい、何とか制限させて平時体制に持ち込みたい直義と、依然文書を発給し続ける師直の政争が少しづつ始まったのである。しかしこの時点ではまだ決定的なものではなく、表面上は平和な状態が続いていった。
しかし楠木正行の挙兵と四条畷の戦いでの高師直らの勝利が、高一族の勢力拡大を起こした。これに対し直義派である上杉重能、畠山直宗、僧妙吉の讒言によって、ついに足利直義は対立を表面化させた、表立った行動に移すのである。
観応の擾乱と高師直の最期
足利直義派による高師直暗殺計画があったかどうかはともかく、ついに高師直と足利直義の対立が激化した。まず先手を打ったのは直義である。彼は高師直を執事から罷免し、高師泰を執事につけようとしたのである。しかし師泰はこれにのらず、代わりに師泰の息子である高師世が執事となった。
しかしこれに対する高師直の反撃も早かった。師直はクーデターを起こし、後々恒例となる御所巻を実行。師直は執事に返り咲き、上杉重能と畠山直宗を処刑し、足利直冬を九州に没落させる。そして関東を任せていた足利義詮を上洛させ、代わって足利基氏が関東に下向していった。以降師直は足利義詮への後継者としての権威付けを基本路線にしていく。
しかし九州落ちした足利直冬が猛威を振るい、まずは高師泰が、続いて足利尊氏が直々に出陣してこれを抑える計画が立てられた。そして実際に出陣すると出家したはずの足利直義が脱出。高師直は師直派の諸将の忠告を聞かず、彼を放置した。これが彼を破滅へと導く。なんと直義は南朝に降伏し、畠山国清、細川顕氏、石塔頼房、桃井直常といった直義派の諸将を率いて京都に攻めてきたのである。
これに驚いた足利尊氏、高師直は直ちに引き返し京都争奪戦を行う。この戦いには尊氏側が勝利したものの、尊氏派、師直派の武将たちも続々と直義に投降していったのである。さらに関東執事であった高師冬が戦死したとの悲報が入った。この報を受けてか師直は石見に出陣していた高師泰と合流する。そしてついに彼らの運命を決める打出浜の戦いが起き、足利尊氏軍は敗北してしまう。
この敗戦の結果交渉が進み、高師直、高師泰兄弟の出家で本来は手打ちとなるはずだった…。
ところが運命の瞬間が訪れる。師直ら高一族が武庫川辺鷲林寺を通りかかったその時、待ち伏せしていた上杉重季の軍が襲い掛かる。こうして高師直、高師泰、高師直の嫡子・高師夏、高師泰の嫡子・高師世、甥の高師景、従兄弟の高師兼、高師幸ら高一族の主要メンバーは討ち取られてしまった。
その後の高一族
観応の擾乱は最終的には足利尊氏が勝利し、新しい執事には仁木頼章が選ばれる。高重茂など生き残った高一族はこれまでと変わらず幕府に仕え続けた。しかし、高師直のもう一人の息子・高師詮が丹波・丹後・但馬の守護に任じられ対山名氏に送られた結果敗死し、高師直系の高一族はこうして消えていったのである。
その後の高一族は、直義派についた高師秋の息子・高師有の関東執事就任や、孫・高師英の山城・佐渡などの就任を最後に幕府重職から名前は消える。この師秋系に加え高師泰の養子・高師秀の系統、そして庶流の彦部氏が幕府の奉公衆としてかろうじて残っていったのだ。
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