デフレーション(deflation)とは、デフレと略され、インフレーションという対義語を持つ言葉であって、以下の意味を指す。
本記事では1.について解説する。
デフレーションとは、通貨価値の上昇と物価の下落が継続的に発生していることを示す言葉である。
通貨価値の上昇により「同一量商品の価格の下落」かまたは「同一価格商品の内容量の増加」が発生する。ゆえに「デフレーションとは、同一量商品の価格の下落かまたは同一価格商品の内容量の増加のことを示す言葉である」と定義してもよい。
デフレの度合いを示すものはインフレ率であり、「デフレ率」のような数値を作るわけではない。
インフレ率は、ある日の物価水準を分子にして、1年前の同じ日の物価水準を分母にして、百分率で表し、年率の物価上昇比率として表現するのが一般的である。
インフレ率を計算するに当たって、ある日の物価水準を示す数値と、1年前の同じ日の物価水準を示す数値の両方が必要となる。
物価水準を示す数値の代表例は消費者物価指数(CPI)とGDPデフレーターの2つである。なかでも消費者物価指数は物価水準の尺度として最もよく使用される[1]。
デフレの影響は様々なものが挙げられる。本記事において以下の項目で詳しく解説する。
デフレの原因についての考え方には主に2種類あり、「デフレは需給のバランスが崩れて需要過少・供給過多になったときに発生する」という考え方と、「デフレは国内に出回る通貨の量が過小になったときに発生する」という考え方がある。
前者の考え方は、タテ軸物価・ヨコ軸実質GDPの総需要-総供給モデルを使って細かく説明することができる。すなわち、「負の需要ショックの影響を受けて総需要曲線が左に平行移動したり、有利な供給ショックの影響を受けて短期総供給曲線が右に平行移動したりして、総需要曲線と短期総供給曲線の交点が下方に移動するときに物価が下落してデフレになる」と説明できる。
後者の考え方は貨幣数量説と呼ばれ、その支持者をマネタリストという。貨幣数量説は長期の経済における貨幣の影響を説明する際に最もよく使われる[2]。ただし貨幣数量説は説明が大雑把になりがちである。
デフレは原因で分類することができる。
本記事において『デフレを原因で分類』の項目で詳しく解説する。
経済学者は経済のパフォーマンスを測定するのにいろいろな種類のデータを用いるが、なかでも、実質GDPとインフレ率と失業率の3つを特に重視する[3]。
実質GDPの高さとインフレ率の低さと失業率の低さの中で最も重視されるべきものは実質GDPの高さとされる[4]。とはいえ、インフレ率が経済学にとって重要な数値であることに変わりはない。
デフレーションは、通貨価値の上昇をもたらし、同一量商品の価格の下落をもたらす。
「年間インフレ率○%が10年続いたときに、通貨価値がどれだけ下がり、物価がどれだけ上がるか」というのを示す表を掲載しておく。
インフレ率 | 通貨価値 | 物価 | 備考 |
3% | 0.74倍 | 1.34倍 | クリーピングインフレ |
2% | 0.82倍 | 1.22倍 | クリーピングインフレ |
1% | 0.91倍 | 1.10倍 | |
0% | 1.00倍 | 1.00倍 | |
-1% | 1.11倍 | 0.90倍 | デフレ |
-2% | 1.22倍 | 0.82倍 | デフレ |
-3% | 1.36倍 | 0.74倍 | デフレ |
デフレになると物価が下がるので「不動産(土地・建物)や宝飾品(金塊、宝石)や美術品(絵画)といったモノは放っておくと値段が下がるので、買わないでおこう。じっと通貨を貯蓄すれば必ず得をする」という考えが広まる。
デフレに強いのは現金や銀行預金である。「お金があれば何でも買える」という気分になる。
デフレになると、同じ価格の商品の内容量が増えることがある。
デフレになると通貨価値が上がるので、同一量商品の価格を下げたり、同一価格商品の内容量を増やしたりして、客の誘致を目指すようになる。
無利子でお金を借りた後にデフレになると、お金を借りたときよりお金を返すときの方が通貨の実質的な価値が高くなっているため、返済額が同じであっても実質的には返済額が上がったのと同じことになる。そのためデフレは、無利子の金銭債務のある者にとってはマイナスになり、無利子の金銭債権を持つ者にとってはプラスになる。
A社が無利子で100万円を借り、そのあとにデフレが起こったとする。機械が1台100万円の時に100万円を借りると、その100万円で機械を1つ買える。借金100万円を返すときにデフレになって機械が1台50万円まで値下がりしていたとすれば、金額は同じ100万円でも、実質的な返済負担は2倍にも上昇したことになる。機械1台の借金に対して機械2台の返済をしたことになり、借金したA社にとっては損である。
有利子でお金を借りた後にデフレになると、「借りたときに決めた返済額」の実質的な価値が高くなっているため、「借りたときに決めた返済額」の通りに返済したとしても実質的には返済額が上がったのと同じことになる。そのためデフレは、有利子の金銭債務のある者にとってマイナスになり、有利子の金銭債権を持つ者にとってはプラスになる。
A社が有利子で100万円を借り、そのあとにデフレが起こったとする。機械が1台100万円の時に100万円を借りると、その100万円で機械を1つ買える。利子を付けて借金120万円を返すときにデフレになって機械が1台50万円まで値下がりしていたとすれば、実質的な返済負担は上昇したことになる。A社は金を借りる前に「機械1台の借金に対して機械1.2台の返済をするのか・・・」と思っていたが、実際は機械1台の借金に対して機械2.4台の返済がのしかかった。
インフレになると金銭債務者に損害が生まれつつ金銭債権者に利益がもたらされ、金銭債務者から金銭債権者へ所得が移転する格好になる。このことは「まったく恣意的な富の搾取」といったふうに表現することができる[5]。
デフレにおいては、現金保有者が得をする。
現金保有者が現金を銀行や個人や企業に貸し付けて金銭債権者になったとする。契約を結んだときに予想したインフレ率を下回ってデフレになったら、金銭債権者が利益を得て金銭債務者が損失を受ける。
デフレになると金銭債権者が利益を得て金銭債務者が損失を受けるので、金銭債権者と金銭債務者の経済格差が拡大し、格差社会に近づいていく。
ただし、後述するようにデフレになると労働者と使用者の格差が縮まる。その点でいうとデフレは平等社会の原因になる。
「金銭債務者は金銭債権者よりも支出性向が高い」と仮定するのが妥当とされる。おそらくそうであるからこそ、そもそも金銭債務者は借金をしているのである[6]。
デフレになると支出性向の高い金銭債務者に損失がもたらされ、支出性向の低い金銭債権者に利益がもたらされ、支出性向の高い者から支出性向の低い者へ所得の移転が行われる。このためデフレになると支出が減る。
以上のことは「負債デフレーション理論」という考え方である[7]。
閉鎖経済の国なら、国内消費や国内投資が減って実質GDPが下落する。
固定相場制を採用する小国開放経済の国なら、国内消費や国内投資が減って実質GDPが減りつつ外貨準備高が減るか、もしくは、海外向け投資が減って実質GDPが一定になりつつ外貨準備高が増えるか、のどちらかになる。
変動相場制を採用する小国開放経済の国なら、国内消費や国内投資が減って純輸出が増え実質GDPが一定となるか、もしくは海外向け投資が減って純輸出が減って実質GDPが減るか、のどちらかになる。
デフレになると期待インフレ率が下落する。そして「名目利子率-期待インフレ率=実質利子率」で計算できる実質利子率が増える[8]。
固定相場制を採用する小国開放経済の国なら、国内実質利子率の上昇により外国発のキャリートレードが発生して資本流入が起き、国内実質利子率を「世界共通実質利子率とその国固有のリスクプレミアムの合計値」にまで下落させる。その際に国際的投資家によって自国通貨買い・外国通貨売りが行われる。中央銀行が自国通貨売り・外国通貨買いをして名目為替レートを維持する。以上により実質GDP が一定となり、外貨準備高が増える。
変動相場制を採用する小国開放経済の国なら、国内実質利子率の上昇により外国発のキャリートレードが発生して資本流入が起き、国内実質利子率を「世界共通実質利子率とその国固有のリスクプレミアムの合計値」にまで下落させる。その際に国際的投資家によって自国通貨買い・外国通貨売りが行われ、名目為替レートが下落し、短期で物価が硬直的なので実質為替レートも下落し、純輸出が減り、実質GDPが下落する。
これまでの2項目をもっとも分かりやすく体現するのは閉鎖経済の国である。
閉鎖経済の国を分析するにはタテ軸名目利子率・ヨコ軸実質GDPのIS-LMモデルを使うことが望ましい。
閉鎖経済の国で物価が下落すると、まずLM曲線が下に平行移動して、均衡点が右下に移動して、名目利子率が下落して実質GDPが上昇する。しかしそれだけではなく、支出性向の低い金銭債権者に金銭が行きわたって投資や消費が減り、もしくは期待インフレ率が下落して実質利子率が上昇して投資が減り、IS曲線が左に平行移動して、均衡点が左下に移動して、名目利子率が下落して実質GDPが下落する。以上のことをまとめると、物価が下落すると名目利子率が必ず下落し、実質GDPが必ず上昇するとは言い切れず一定になったり下落したりする可能性がある。
1929年の世界恐慌ではデフレになって実質GDPも下がり、上記の分析と同じような状態になった。
1929年の世界恐慌のときは、ピグー効果を重視する経済学者がおり、前項目とは異なる分析をしていた。
ピグー効果とは「物価が下がってデフレになると消費者が豊かさを感じるようになって消費や投資を増やしてIS曲線を右に平行移動させる」という考え方で、1877年生まれの経済学者であるアーサー・ピグーが提唱した[9]。
閉鎖経済の国で物価が下落すると、まずLM曲線が下に平行移動して、均衡点が右下に移動して、名目利子率が下落して実質GDPが上昇する。そして、物価が下がってデフレになって豊かさを感じた消費者が消費や投資を盛んに行って、IS曲線を右に平行移動させ、均衡点が右上に移動して、名目利子率が上昇して実質GDPが上昇する。以上のことをまとめると、物価が下落すると実質GDPが必ず上昇し、名目利子率が必ず下落するとは言い切れず一定になったり上昇したりする可能性がある。
1929年の世界恐慌ではデフレになって実質GDPも下がり、ピグー効果重視派の分析とは異なる様相を呈した。
労働者と使用者(企業経営者や株主)は、労働契約法第6条に定められる労働契約を結んでいる。それにより、労働者は金銭債権者でありつつ労務債務者となるし、一方で使用者は金銭債務者でありつつ労務債権者となる。そしてデフレは金銭債権者に利益を与えて金銭債務者に損失を与えるので、デフレになると労働者が得をして使用者が損をする。
以上のことを具体的に言うと次のようになる。デフレになると物価の下落に伴い名目賃金も下落するが、物価よりも名目賃金のほうが高い硬直性を持っているので、物価の下落に比べると名目賃金の下落は時期が遅れて下落幅が少ないものとなる。このため労働者の実質賃金が上昇し、労働者は得をして使用者は損をする。
一般的に、労働者の方が経済的に弱い立場に置かれていて、使用者の方が経済的に強い立場に恵まれていて、労働者と使用者の間に経済的格差がある。それだからこそ、日本国憲法第28条で労働者に労働三権を認めているのである。
デフレになると労働者と使用者の経済格差が縮まる。その点でいうとデフレは平等社会の原因になる。
デフレになると実質賃金が上昇するので、企業における実質賃金最低額が上昇して使用者が人を雇いにくくなって構造的失業が増加し、労働者が「この職場で幸福になれる」と考えるようになって離職しなくなって摩擦的失業が減少する。
構造的失業の増加幅が摩擦的失業の減少幅よりも小さいのなら、失業率が減少する。
構造的失業の増加幅が摩擦的失業の減少幅よりも大きいのなら、失業率が増加する。
負の需要ショックが発生して総需要曲線が左に平行移動して物価が下落して発生するデフレを「デマンド・プル・インフレーションの逆」という。
分かりやすくいうと、一定の供給に対して需要が減少して供給が需要を追い越すために生じるデフレを「デマンド・プル・インフレーションの逆」という。
負の需要ショックは政府・国会・中央銀行の政策で発生させることができる。
負の需要ショックを引き起こして無理矢理にインフレ率を下げる政策をディスインフレーションという。1980年代のアメリカ合衆国においてポール・ボルカーFRB議長が主導したものが有名である。
「デマンド・プル・インフレーションの逆」のときは、それと同時に実質GDPが下落する。タテ軸物価・ヨコ軸実質GDPの総需要-総供給モデルにおいて、総需要曲線が左に平行移動し、均衡点が右肩上がりの短期総供給曲線に沿って左下に移動する。
有利な供給ショックが発生して短期総供給曲線が右に平行移動して物価が下落して発生するデフレを「コスト・プッシュ・インフレーションの逆」という。
分かりやすくいうと、一定の需要に対して供給が増加して供給が需要を追い越すために生じるデフレを「コスト・プッシュ・インフレーションの逆」という。
「コスト・プッシュ・インフレーションの逆」のときは、それと同時に実質GDPが下落する。タテ軸物価・ヨコ軸実質GDPの総需要-総供給モデルにおいて、短期総供給曲線が右に平行移動し、均衡点が右肩下がりの総需要曲線に沿って右下に移動する。
政府が公務員を解雇したり、残った公務員に少なめの賃金を支払うとする。政府が人を雇うのは政府購入の一部分なので[10]、政府が公務員を解雇するのは政府購入の削減となり、閉鎖経済の国や大国開放経済の国や固定相場制を採用する小国開放経済の国なら負の需要ショックとなる。そして政府が労働市場に参加して低めの賃金を提示するので、企業もそれに対抗して低めの賃金を提示するようになり、世の中の賃金の水準が下落する。そうなると労働量が増える有利な供給ショックとなる。
1929年に世界恐慌が発生し、1929年から1932年にかけて物価水準が25%下落した。
2008年のリーマンショックでもデフレとなり、2009年は-0.32%にまで年間インフレ率が落ち込んでいる(資料)。このときはベン・バーナンキFRB議長が大規模な金融緩和を行い、そのかいあって2010年には年間インフレ率が1.64%になっている。アメリカ合衆国は世界最大の軍隊を抱えており、政府購入を拡大させることが政治的に容易な国である。このため、金融緩和を行って投資を増やすと同時に積極財政を行って政府購入を増やすことができ、あっさりデフレを収束させることができた。
1929年にアメリカ合衆国で世界恐慌が発生し、それが日本にも押し寄せ、1930年(昭和5年)からの昭和恐慌となった。1930年の年間インフレ率は-9.7%、1931年の年間インフレ率は-11.0%である(資料)。当時の高橋是清大蔵大臣(現代の財務大臣に相当)は「日銀による自国通貨建て国債の直接引き受け(中央銀行の国債直接引き受け)」を大規模に行い、世界で最も早期に日本をデフレから脱却させた。このときの日本は世界有数の軍事大国であり、政府購入を拡大させることが政治的に容易な国だった。このため、金融緩和を行って投資を増やすと同時に積極財政を行って政府購入を増やすことができ、あっさりデフレを収束させることができた。
昭和末のバブル景気が終了し、1990年代から15年近くデフレが続き、2008年ごろに資源価格高騰による物価高が収まった後は再びデフレとなった(資料)。
掲示板
197 ななしのよっしん
2024/01/07(日) 11:28:56 ID: td1M8uRoY/
今年の春闘は去年以上になる見通しが多い。最初はコストプッシュ型だろうと、とにかくまずインフレを起こして、日銀が言うところの「ノルム」を変えて企業の行動を変えるリフレ理論はもしかしたら一定の正当性はあったのかもしれないと財政出動派の自分は思ってるが。
段々と過剰なインフレは沈静化してきたし、年内半ばには実質賃金がプラスになるだろう。日銀は利上げに向かい遂に長いデフレ時代が完全に終わる。
198 ななしのよっしん
2024/01/20(土) 23:01:49 ID: 3Z/UwVHqET
デフレ脱却は首都圏とかならできるでしょ
中小や地方を切り捨てればできると思うよ
デフレ脱却と人々の幸せは無関係だし。
格差は拡大が加速するだろうね。
みんなで賃上げは最初から無理だと分かってるし。
資源が高止まりしてる以上仕方ないけどねぇ
199 ななしのよっしん
2024/02/19(月) 11:43:20 ID: J+vm7E31R3
>>197
まあインフレにならないと名目の売上高が上がらず賃上げの原資が生まれないからな
>>198
連邦国家みたいに地方の独自性が強い国ならまだしも日本のような国で首都圏だけインフレ、地方はデフレみたいな現象はありえないから。もう少し深く考えてから書いたほうが良いよ。
>デフレ脱却と人々の幸せは無関係だし。
デフレ脱却しないと賃金は上がらない。それが現実。未だにデフレを問題視しない国民が少なくないのを見ると日本人に民主主義は向いてるのか甚だ疑問に思う。
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最終更新:2024/04/29(月) 02:00
最終更新:2024/04/29(月) 02:00
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